現在地 HOME > 戦争67 > 931.html ★阿修羅♪ |
|
レバノン内閣総辞職 シリア軍に撤退圧力 数万人デモ「真の独立獲得を」
【ベイルート=加納洋人】レバノンのカラミ首相が、ハリリ前首相爆殺事件を引き金に数万人規模にまで膨れ上がった連日のデモにより内閣総辞職に追い込まれた。勢いづいたデモ隊は今度は抗議の矛先を、約一万四千人の同国内駐留シリア軍とそのシリアの強い影響下にあるとされるラフード大統領に絞り始めており、シリアのアサド政権がこれに対してどう出るかが今後のレバノン内政ひいては周辺情勢の焦点になってきそうだ。
カラミ首相は二十八日に国会で内閣不信任案を審議中、「暗殺事件の真相解明の妨げとならないよう辞任する」と極めて唐突な形で表明した。
総辞職を受け今後、ラフード大統領が首相を任命し組閣を命じる。五月には総選挙が予定されており、新内閣は選挙管理内閣になる見通しだ。
首都ベイルートの国会周辺は前日から、数万人の群衆が取り囲んでおり、野党の呼びかけでゼネストにも突入、銀行や商店は営業できない状態となっていた。
内閣総辞職の報が流れるや、デモ隊は「ラフード大統領、次はお前の番だ」と気勢を上げ、「レバノンはシリアの影響を排し、真の独立を獲得しなければならない」とシリア軍撤退を求めた。
二月十四日のハリリ前首相爆殺事件が引き起こした抗議行動は、レバノンを象徴し国旗にもあしらわれている「シーダー」(レバノン杉)を冠して、「シーダー革命」と呼ばれるようになり、米国内などでは、ウクライナの体制変革を促した「オレンジ革命」などと重ね合わせてとらえられるようになっている。
実際、マクレラン米大統領報道官は二十八日の記者会見で、「レバノン国民にとり真の国民代表による政府を持つ良い機会となる」と内閣総辞職を歓迎、「いかなる外国の干渉からも自由であるべきだ」との表現でシリアの介入に警告した。
シリアは、米国やフランスが国連安全保障理事会決議一五五九を基に即時撤退を求めるという国際的圧力に加え、今や反シリア感情の高まりというレバノン国内からの撤退圧力にも直面、苦しい状況に立たされている。
だが、シリアにとりレバノン全面撤退は、一九六七年の第三次中東戦争でイスラエルが占領したゴラン高原返還をめぐる対イスラエル和平交渉で「レバノン・カード」を失って、対イスラエル戦略を大幅に立て直すことにもつながりかねない。
シリアは、レバノン南部でイスラム教シーア派民兵組織、「ヒズボラ」(神の党)を対イスラエル抑止力として維持しておきたいと考え、レバノン政治指導部も、単独でイスラエルとの和平に走らないよう、つなぎ止めておく必要があり、全面撤退は容易ではない。
ただ、今のシリアには二重の撤退圧力をかわす有効な選択肢がないのも実情で、「シーダー革命」がシリアによるレバノン支配の終わりの始まりになる可能性はある。
◇
◆「シリアのくびき」から解放求める声強く
レバノンは一九四三年のフランスからの独立に際して「国民協約」を採択し、二十近くに上る多様な宗派間のバランスを考慮した、独特の宗派主義体制を取っている。
大統領はキリスト教マロン派から、首相はイスラム教スンニ派から、国会議長はイスラム教シーア派から、それぞれ選出することになっており、国会議員も宗派別に議席配分が固定されている。
そうした体制成立の背景には、委任統治時代の国勢調査(三二年)に基づく権益配分方式でキリスト教勢力の優位を維持したいという旧宗主国フランスの思惑があった。この体制はしかし、その後、人口増が著しいイスラム教徒を中心に各宗派間の緊張を引き起こす。
七五年、首都ベイルート郊外でキリスト教右派民兵組織がパレスチナ難民のバスを襲撃した事件を引き金に、レバノンは内戦に突入、シリア軍は翌年、レバノンに進駐して、介入が始まった。
シリアとレバノンはもともと「シャーム」とひとくくりにして呼ばれる地域であり、レバノンは第一次大戦後にシリアの一部としてフランスの委任統治下に入った。歴史的経緯もあり、シリアにはレバノンが一体感のある地域という意識が強い。
シリア軍の駐留は最終的に、レバノン内戦終結に向けたアラブ内のタイフ合意で確立し、九〇年代は内戦再燃を恐れるレバノン国民の間には「シリア軍の駐留は必要悪だ」(青山弘之アジア経済研究所研究員)という受け止め方が強かった。
今もなお声なき声としてシリアの重しがなくなった後の国内対立を恐れる国民も少なくないが、最近は急速に「シリアのくびき」からの解放を求める国民感情も強まっている。(佐藤貴生)
http://www.sankei.co.jp/news/morning/02int001.htm