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【第2部 崩れた王国】堤義明前会長逮捕(3)足元からの反乱
「本当のことを書きたい」
昨年四月十四日、西武鉄道本社(埼玉県所沢市)。コクド前会長の堤義明は報道陣の前で頭を下げ、西武鉄道会長職の辞任を発表した。
元専務らが総会屋への利益供与事件で逮捕されたことを受けての引責辞任だが、コクド会長職の進退について問われると、わずかにほおを紅潮させて言い切った。
「それは務めさせていただくつもりだ。グループ全体の経営に関しては、私はまだ必要だと思っている」
グループ全体を統治する「君主」の座を退くことなど、毛頭考えていなかったに違いない。だが、自負とは裏腹に、グループ内で義明の独裁に背く動きは、この時期から始まっていた。
◇
先月自殺した小柳皓正(てるまさ)=当時(64)=が西武鉄道社長に就いたのは、この会見の六日前、引責辞任した元社長、戸田博之の後任だった。小柳に課された使命は、失った世間の信頼を回復すること。そのためにコンプライアンス室を設け、企業倫理の周知徹底に取り組み始めていた。
就任に前後して小柳は、利益供与事件の捜査にあたった警視庁から指摘を受けていた。
「コクドが保有する西武鉄道株の一部に、名義を個人名に偽装した株が存在する」
警視庁の指摘は、小柳からコクド前専務(67)を通じ、義明の耳に入れられた。
五月二十五日に開かれたコクドの決算報告会議。西武鉄道株のペーパーレス化が議題にのぼり、名義偽装の発覚を恐れた前専務が「(偽装株を)すぐ売却する必要がある」と進言した。
義明はこれを退けた。「今は無理して売らなくていい」「参院選(昨年七月投開票)後に値が上がれば…」
名義偽装と虚偽記載の継続は、義明のこの言葉で事実上決まった。
会議の翌日、コクド前専務は小柳を都内のプリンスホテルに呼び出して会食し、義明の意向を伝えた。
小柳は虚偽記載の違法性を指摘し、「本当のことを書きたい。いいのか、いけないのか」と詰め寄った。前専務は「会長からまだ出すなといわれた」と聞き入れなかったという。
◇
足元から始まった造反。義明の側近中の側近だった前専務はこの時期、小柳に対し、「堤会長を西武鉄道顧問にしてほしい」と求めていた。西武鉄道のコントロールを取り戻すのが狙いだったとみられる。
小柳はこの申し出を拒否。六月の株主総会前には、偽装株の名義人となっている約千二百人に総会招集通知を郵送することを画策するなど、抵抗姿勢を打ち出していた。
昨年八月二十日、義明に方針転換を強いる事態が起きた。
西武鉄道本社の会議室で開かれた同社の取締役会。決算が報告され、最後に議長の小柳が「何かありませんか」と問いかけたときだ。
「指摘したい事項がございます」
挙手して立ったのは、利益供与事件後に着任した監査役だった。監査役は、それまで一部役員しか知らなかったコクド保有株の名義偽装の問題を指摘した。
これを受け、西武鉄道はコクドに株保有状況を調査して月内に回答するよう申し入れる。
同月二十三日、役員がコクドに出向き、経理担当幹部に回答期限を守るよう求めた。同席したコクド前専務は「公表するのはやめろ。監査役はクビにしろ。取締役も全員辞めろ」と逆に迫った。
二日後、コクド前専務は小柳に電話した。「回答書はそっちで作ってほしい」
小柳が「回答するのはコクドでしょう」と反論すると、「今すぐ辞任しろ」と怒鳴ったという。
深まる亀裂。株の大量売却をためらっていた義明も、もはや立ち止まるわけにはいかなかった。
前専務は義明に、とりあえず鉄道への回答を一カ月延ばし、その間に株を売却することを具申した。「じゃあオレも売る。何株売りゃいいんだ」。義明がトップセールスを決意したのは同月末だったという。取引先企業の首脳と交渉したのは約十五社で、うち十社が応じていた。
コクド前専務は小柳にも、株売却に協力するよう求めたが、小柳は拒否し、自社株の売買にかかわらないよう役員らに指示した。
◇
株売却を終えた後の十月十三日、新高輪プリンスホテルに設けられた記者会見場に義明と小柳の姿があった。二人は虚偽記載を発表。コクド会長職を辞任した義明は、問題を知った経緯について「一カ月ほど前か、もっと最近だったか、上場基準に抵触する問題があり、すぐに株式を処分してもらいたいという話をコクドから受けた」と話した。
小柳はどんな思いでこの言葉を聞いたのだろう。(敬称、呼称略)
http://www.sankei.co.jp/news/morning/06na1003.htm