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ネオコンの思想 根底に古典の常識 政策動かす新たな哲学 - 岡崎久彦氏 (読売新聞朝刊2003年11月)
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投稿者 乃依 日時 2005 年 3 月 27 日 07:39:20: YTmYN2QYOSlOI

http://www.okazaki-inst.jp/11232003yomiuri.html


ネオコンの思想
根底に古典の常識
政策動かす新たな哲学
(読売新聞朝刊「地球を読む」2003年11月23日)
岡崎久彦


ネオコン(ネオ・コンサーバティブ=米新保守派)とは何であろうか。

この言葉の定義自体、現在のアメリカの論壇で真面目な議論の対象となっている。とくに、ネオコンが現ブッシュ政権に大きな影響力を持っていると考えられ、またそれだけに、現在の囂々たるブッシュのイラク政策批判の中で、誰がネオコンであるかないかという事は、言う方も言われる方にとっても、関心の対象だからである。

現在の定義はさておき、誰も異存がないのはその発生の経緯である。ネオコンが伝統的な保守と違うのはそれがリベラリズムに失望した元民主党リベラルだという事である。七〇年代初頭前後のベトナム反戦、ヒッピーなどのリベラルの風潮、対外政策では、七〇年代前半を中心とする、冷戦の実態を無視したデタント政策に対する疑念、反発がその出発点である。

政治家では、ワシントン州上院議員ヘンリー・ジャクソンが代表的人物であり、学者評論家では、現在のネオコンの代表ビル・クリストル氏の父であり、かつてのトロツキストであったアービング・クリストル氏がネオコンのゴッド・ファーザーと呼ばれている。こういう人達が民主党を離れて八〇年代のレーガン政権を支える有力な勢力となったのである。

そして、思想的には、シカゴ大学の哲学教授レオ・ストラウスの影響が強いという。彼の思想は、ビル・クリストルが、その著作の原文を紹介する形で解説しているが、ストラウスは「専制(ティラニー)についてあたかも医師が癌について語るような自信をもって語れない社会科学は、社会現象を理解し得ない」と書いている。彼にはナチスのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を脱れて米国に帰化したという原点があり、ネオコンの中にユダヤ人の影響が強いという背景もここにある。

ネオコンの思想には、マルクシズムとファシズムに対する絶対的な否定があり、自由と民主主義という天賦の権利(自然権)と、独裁政治とを相対的に考えることなど許さない。それがアメリカ流の単純な民主主義信仰と混同される理由でもある。

またそのアメリカ民主主義賛美は、該博な古典の知識からもくる。プラトンの哲人王の理想は理想として「賢者は統治する事を欲せず、愚者(一般大衆)は統治される事を欲しない」が故に、賢者が法則を作り、愚者が強制でなく、納得してこれを受諾する政治形態を最善と考え、彼の新しい祖国米国の建国の精神に基づく米国憲法体制を賞賛する。

古い保守との差
さてその哲学は実際の政治、とくに外交にどのように反映されるのであろうか。

アービング・クリストルによれば、ネオコンには外交原則というものはなく、ツキジデスなどの歴史から学んだ「物の考え方」があるだけである。―ちなみにツキジデスの「戦史」は、私の若い頃の愛読書であり、外務省の課長の時友人に買って配った事もある―その物の考え方によれば、まず愛国主義というのは健全な態度であり、第二に世界政府というのは専制に導く恐れのある危険な思想であり、第三に政治家は敵と味方を峻別すべきであり、最後に大国にとっては国益はその領域内の問題にとどまらない、という常識的現実的な政治の知恵である。

ネオコンの外交政策がこういう古典的な常識的な考え方から来る以上、まずその時点の世界の流れについての正確な情勢判断がなければならない。そこでロバート・ケイガンなどの情勢分析が重要となって来る。ケイガンによれば、統一ヨーロッパの出現は世界のバランス・オブ・パワーに大きな影響があると期待されたが、戦争の可能性がなくなったため、伝統的なヨーロッパ列強が効果的軍事力を持つ意欲を失って、軍事的役割を放棄し、その結果、アメリカが唯一の軍事大国として残った世界ができてしまった。

ここで、従来の孤立主義などをどう整理してよいのかまだ決めていない伝統的保守主義との違いが出て来る。アービング・クリストルによれば、「望むと望まざるとに関わらず、力と共に責任が生じる。そして自ら見出すか、他が見つけてくれるかに関わらず、新しい機会が生まれて来る」「共和党の古い伝統的な人々は、対外政策において、この新しい現実をどう扱うかに困難を感じている」のである。

たしかにこのネオコンの思想はブッシュ政権の政策に色濃く反映されている。いわゆるユニラテラリズム(一国主義)や先制攻撃論は、大国の国益は領域内に留まらないという理論を想起させるし、イラク戦争直前のブッシュ大統領のアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)での演説は、戦争目的として、フセイン独裁体制の打倒と、パレスチナを含む全中東世界に自由と民主主義の旗を掲げる事を高らかにうたいあげている。十一月六日の「民主主義演説」も同趣旨である。

米の懐の深さ
私は十一月初旬ワシントンで、ビル・クリストル、ロバート・ケイガン、ジョン・ボルトンなどが参加する少人数の会議に出席した。私が感動したのは、ネオコンの人々が真面目であり、哲学的であり、そして文章、発言の表現が簡潔で洗練されていることであった。

その内容については是非の論があろう。すでに述べたように、単純なアメリカ民主主義信仰、行け行けどんどんの帝国主義、大国の一方的な行動、そして親ユダヤ主義と、紙一重の差―哲学的には大きな違いがあるのではあるが―で混同、誤解される恐れもある。

しかし、世界の情勢が大きく変わりつつある時期に際して、新しい哲学と新しいビジョンを持つグループが既に準備され、出番を待っていたというアメリカの懐の深さ、バイタリティーに改めて尊敬の念を深くした。しかも、その哲学が一時の思いつきでなく、古典の教養から来ているのである。

思想混迷の日本
これに対する抵抗は当然あろう。それが民主主義である。そのチェック・アンド・バランスによってアメリカの新しい方向が形成されるのであるが、そのバランスの一つの大きな要素である事は間違いない。

ひるがえって日本はどうだろう。全学連、全共闘世代の人々は、若い人から「どうしてあんな事をしたのですか?」と訊かれて、今となって自信をもって答えられる人は誰もいない。いるとすれば北朝鮮にいる日航ハイジャック犯ぐらいであろう。

たしかに、あの時代への反省は故香山健一、佐藤誠三郎のようなすぐれた思想家を産み出した。しかし、その後の大勢は、むしろ、かつての反安保反米をナショナリスティックな反米にすりかえ、かつての左翼反体制を環境保護運動にすりかえ、思想的継続性、というよりも、過去の非に直面するのを回避しているだけの人々の方が多いのが現実である。こんな所から、何も新しいものは生まれて来ようがない。

もう一度、敗戦と占領以来の思想の混迷と頽廃を断ち切って、新しい日本を創る動きは出て来ないだろうか。やはり、古典と歴史に立ち戻るのが、正攻法のように思う。近代世界を開いたルネッサンスは、古典の復興から始まっている。


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