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(回答先: 日本は変身し始めた (増田俊男の時事直言) 投稿者 外野 日時 2005 年 1 月 01 日 19:26:06)
ブッシュ戦略とNMD構想
──北海道AALA( http://ha6.seikyou.ne.jp/home/AALA-HOKKAIDO/ )2001年度総会のために
http://ha6.seikyou.ne.jp/home/AALA-HOKKAIDO/jousei/2001.htm
早くもタカ派の本質を剥き出しに
今年初め大統領に就任したブッシュは、就任演説で早くもタカ派姿勢を剥き出しにしました。
ブッシュ政権の中枢を構成するのは、チェイニー副大統領・パウエル国務長官・ラムズフェルド国防長官・アーミテージ国務副長官など、すべてペンタゴン・マフィア(国防総省の出身者)です。彼らが、対外政策において軍事力を背景にした「力の外交」、対内的には軍産複合体の利益を優先する「軍拡路線」をとると考えても不思議ありません。
彼らの好戦的な本質は、国際法を無視したイラクへの空爆(2月)や、ミサイル防衛網(NMD)の推進を宣言したことで、早くも示されています。パウエル国務長官とラムズフェルド国防長官の就任宣誓式では、ブッシュが北朝鮮脅威論を展開。パウエル国務長官は北朝鮮問題を「全面的に再検討したい」と発言しました。
就任から1ヶ月、ブッシュは、上下両院合同本会議で施政方針を演説しました。
国内問題では、最重要な課題として「国防再建」を提起。「台頭する脅威に対処できるよう米軍を改革する見直し」を、ラムズフェルド国防長官に要請したとのべました。具体的には、将兵の昇給や住宅改善のため57億ドルの予算増額。また新型兵器などの研究・開発費は「頭金」支出を先行させるとし、「戦略見直し」が軍備増強に他ならないことを明らかにしました。
外交・軍事政策では、「より不確実な21世紀の脅威に対処する明確な戦略」をもつ必要があると演説。「爆弾で威嚇するテロリストから、大量破壊兵器の開発を狙う暴君や、”ならず者国家”に至る」脅威に対処し、「米国民、同盟国、友好国を守るため効果的なミサイル防衛を開発し、配備しなければならない」と強調しました。「ならず者国家」という用語は、昨年6月、クリントンによっていったん破棄された用語ですが、ブッシュはあえてこの言葉を復活させたことになります。
2月末、総額3105億ドル規模の国防予算案が議会に提出されました。これは前年度比4.8%の増額となります。それは北朝鮮やイラクなど、アメリカのいう7つの“ならず者国家”の国防予算総額の22倍に当たります。さらに、その7ヶ国にロシアと中国の軍事予算を加えたものの3倍に相当します。このような超軍事大国アメリカが、ならず者国家の軍事的脅威を煽りたてるのは、どう考えても説得力があるとは思えません。
そして5月1日、ミサイル防衛システムの早期配備を目指すことを、ブッシュは正式に表明したのです。
ブッシュ戦略の焦点となるミサイル防衛構想(NMD構想)
ブッシュ戦略の象徴となるのが、国家ミサイル防衛構想(NMD構想)です。この新構想は、前政権の国家ミサイル防衛構想を拡大し、同盟国との戦域ミサイル防衛(TMD)構想と一体化するシステムです。すでに一部では、クリントンのNMD構想と区別するためにMD構想と呼ぶようになっていますが、本論ではTMDをも含めた概念として、NMDと記載しておきます。
この構想の問題点は、大まかに言って次の三つに要約できるでしょう。ひとつは国際的な軍縮の流れに逆行する軍備拡大という問題です。核拡散などを禁じた各種の国際条約も反古になり、とめどない核軍拡を招きかねません。特に東アジアでは、間違いなくあらたな軍事的緊張を生み出し、平和の流れを押しとどめる危険があります。
第二には、唯一の超大国としての、アメリカの覇権主義と自国優位主義の露骨な押しつけです。国連その他の国際機関で、これまで地道に積み重ねてきた成果を、アメリカの都合で蹴散らそうというものに他なりません。
そして第三には、米国の人々の利益ではなく、産軍複合体の利益のために立てられた計画だということです。大規模減税(ただし金持ちのための)を公約に掲げたブッシュが、一方で歳入をカットし、他方で歳出を途方もなく膨らませば、その結果がどうなるかは目に見えています。それは必然的に社会福祉やインフラ支出の削減に導くことになるでしょう。
今なぜNMD構想か
NMD構想は、決してあらたに登場してきたものではありません。すでに20年も前、レーガンが「スターウォーズ」と称して、大陸間弾道弾を人工衛星やレーザー砲などを使って撃墜する構想を打ち出しました。
この背景にあったのが、1972年にソ連との間に締結された「弾道弾迎撃ミサイル(ABM)削減協定」です。この協定は、両国がABMの基地を1カ所に削減するというものでした。
レーガン政権は、このABM協定を破棄するか、それができなければ骨抜きにして、ソ連に対する核の優位を確立したいと考えました。そこでミサイル防衛構想を持ち出して、ABM協定に風穴をあけようと図ったのです。
しかし、この構想は莫大な開発費と当時の技術の限界により不可能となりました。そして父ブッシュの時代にいったん凍結されたものです。
クリントン前政権は、94年の北朝鮮核兵器疑惑の際、ふたたびこのミサイル防衛構想を持ち出しました。98年の北朝鮮のテポドン打ち上げのあと、日本も巻き込むミサイル防衛構想に発展したことから、一躍東アジアを巻き込む重大問題となりました。世界中の反対があまりにも強かったことから、クリントンは全米ミサイル防衛(NMD構想)の限定的配備を中心的な検討課題としてきました。
使われる言葉が「全米」であろうと「戦域」であろうと、本質的な違いはありません。米国にミサイルを撃ちこむ潜在的能力がある国はロシアと中国のみです。したがって、NMD構想構想が、世界規模で戦略的な優位性を保持し、二つの国を核の脅威にさらす戦略であること、あまりにも明白です。
クリントンはNMDの配備を遅らせ続け、その是非を、@脅威、Aコスト、B技術、C国際社会への影響、の四つの基準に沿って判断すると言ってきました。四つの基準のどれを取っても、NMDの導入などという結論は出てこないのを見通してのことです。
これすらも、諸外国の強い批判にさらされていました。たとえば、昨年4月、国連のアナン事務総長は「NMD構想構想は新たな軍拡競争のきっかけとなる恐れがある。構想が具体化する前に、すべての国がその危険性を認識するように願っている」と警告しています。これに対し米政府側は、「同盟諸国だけでなくロシアや中国とも話し合いを続けている」と弁解を続けてきました。
今回のブッシュ声明は、関係各国に対するこれまでの配慮すらかなぐり捨て、自国優位主義を露骨に押し出した点でも画期的です。さらにブッシュは、米本土どころか「防衛」範囲を同盟国、友好国にまで広げようとしています。まさに地球規模でのミサイル配備に他なりません。
ブッシュは、NMDより一歩進んだミサイル防衛を訴えることで選挙戦をリードしました。ゴア候補も、NMD配備を約束せざるを得ない状況に追い込まれました。こうして大統領選挙という政治的熱狂状態の中でNMD建設のコンセンサスが作り上げられていったのです。
ABM削減条約とNMD構想
ここで、ABM削減条約について少し触れておきます。ABM条約は1972年に調印されました。当時のソ連には、全面的な先制核攻撃で一挙に冷戦に決着をつけるだけの力がありました。そこでニクソン政権は、ミサイル防衛網(ABM)の設置によって、このオプションを無力化させようと考えました。
具体的には全米12の都市をABMで防衛し、ソ連の核攻撃から生き残らせる計画でした。しかし当時は賢明にも、「もしABMを建設すれば、ソ連はこれを突破するミサイルを配備する。そして、さらなる軍拡を招く」という結論に達し、ABM計画を中止したのです。
その間にソ連がモスクワにABMを建設しました。軍拡の怖れは現実のものとなりました。そこで創られたのが現在のABM条約です。
条約では、米ソともABMで防衛する都市もしくは核基地を一カ所だけとしました。迎撃ミサイルは地上配備のみに限定し、宇宙空間や海上などの配備は禁止しました。これまでの核兵器制限交渉と比べても、それは画期的な意味を持つものでした。この協定が特別の重みを持っているのは、国連総会で2年連続で圧倒的多数により支持されているからです。すでにそれは二国間の合意にとどまらず、国際的に効力を発揮しています。
キッシンジャーを先頭とするABM条約廃止論者は、その狙いをあけすけに語っています。要するに、ABM条約は「かつてコーナーに追い詰められた時代のやむを得ない選択」だった。今や米国の安全を守るため(軍事覇権を確立するためと読め!)の足枷となっていることは明らかなのだから、即時廃棄すべきだと言うのです。NMD構想はABM条約を廃止するための方便ということになります。
NMD構想は可能か?
「将来開発されるイラクやイラン、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)などの長距離ミサイルに対して、巨額を投じてミサイル防衛を行うというのでは費用対効果比で割に合わない」(日本外務省高官談:山陰中央日報による)というのが常識です。
1千億ドルといわれる巨大な浪費が及ぼす「負の波及効果」は深刻なものです。アメリカが過去50年間にミサイル開発につぎ込んだ金の総額が1千億ドルといいますから、NMDだけでそれと同じ額を使ってしまう計算です。それは長い不況を抜けて立ち直りを見せているアメリカの経済を、ふたたび債務過多と赤字垂れ流しの状況に引き戻し、ひいては世界経済を昏迷におとしいれることになるでしょう。
それは国土防衛という本来の目的に照らしても、浪費というほかありません。冷戦後の新たな脅威といっても、弾道ミサイルだけが脅威ではありません。むしろテロリストが船やトラックで核兵器を運び込む危険のほうが、はるかに深刻で差し迫った脅威です。もしアメリカを核攻撃しようと考えるなら、貨物船に短距離ミサイルを積んで米国の沿岸に近づき核攻撃を行うほうが、コストも安く攻撃も正確です。
しかし何といっても最大の問題は、それが実現不可能な大ボラに過ぎないということでしょう。2000年7月おこなわれたNMD実験は、迎撃ミサイルの三段目の分離ができず、失敗に終わりました。ウエルチ元空軍参謀総長が議長をつとめる国防総省内の検討委員会は、「NMDの実験計画は急ぎ過ぎであり、2005年の配備は非現実的である」との結論を出しました。この結果、配備目標は大幅にずれ込むことになりました。現実の計画は、依然としてSF小説の世界にとどまっています。
背景に軍産複合体
自らも石油会社の社長経験を持つブッシュは、大企業の利益代表です。軍需企業にとって、ブッシュ政権の登場はレーガン政権以来の最大の機会の到来です。いまや全米の軍需産業、利権政治家たちは、軍事費の分け前をいかに多く取るかに熱中しています。
NMD計画は、前政権においては600億ドルと見積もられていました。しかしブッシュ政権がより大規模な計画にすることは確実です。総予算は一千億ドル(10兆円)を軽く超えることになるでしょう。そもそもNMDはまだ技術的に確立されたシステムではありません。配備と立上げだけでも膨大なコストがかかると予想されます。だいたい新兵器の開発となれば、開発費が当初見積もりの2倍、3倍に膨らむなど、この世界では当たり前のはなしです。NMDは間違いなく、「途方もない金食い虫」です。
1月末のウォール・ストリート・ジャーナルは「ブッシュ大統領は、この数カ月のうちにどの技術、つまりどの会社でNMDを建設するか決めるだろう」と書いています。
同紙によると、NMDには陸上、海上、空中、宇宙という四つの方法が考えられており、六大軍需企業の受注競争が激化しています。NMD建設は、最終的に1、2の企業に委ねられます。受注に成功した企業の利益は巨大となるでしょう。同様に失敗した企業にも「劇的な」運命が待っているといわれます。
計画では、迎撃ミサイル基地を100カ所建設します。ボーイング社が推進ロケット技術で一歩リード。巡航ミサイル「トマホーク」を製造するレイセオン社は弾頭部を開発中、TRW社はソフトウエアを担当します。
海上のイージス艦搭載ミサイルをNMDとして開発する方法も提起されています。ここではロッキード・マーチン社とレイセオン社が組んでいます。
三つ目の案、ジャンボジェット機を改造してレーザー兵器を搭載する計画は、早ければ2007年にも実戦配備が可能だといわれています。この案ではロッキード・マーチン社とボーイング社が組んでいます。
最後の宇宙計画では、人工衛星にレーザー兵器を搭載することになっています。ここではロ社、ボ社などが担当しています。米国だけでなく同盟国もカバーするなら、この案が“有利”だといわれます。ただし欠点として、開発までに時間がかかることがあげられます。
NMDとTMDの結合、もっとも危険な構想
NMD推進派の中でもっとも危険な主張は、元CIA長官ジェームス・ウールジーらのものです。NMDの最大の泣き所はおとりとの識別、弾頭分割型ミサイルへの対処です。多弾頭ミサイルの場合、弾頭が八つに分かれるなら、それに対抗するためには8基の迎撃ミサイルが必要になります。さらにそれが多数のおとり弾頭をばら撒けば、識別能力がない限り、それら一つ一つに1基の迎撃ミサイルが対応しなければなりません。
これらの困難を解決する一番有効な方法は、攻撃ミサイルが発射された直後、未だブースト段階のミサイルを叩くことしかありません。ウールジーは北朝鮮の近くに迎撃ミサイルを配備せよと主張しています。こうなると果たして防衛なのか攻撃なのか分かりません。
深刻なことに、ウールジーの主張はその技術的合理性とコスト上の利点が受けて、アメリカ政界に影響を広げつつあります。例えば、民主党軍縮派の理論家と言われるバイデン上院議員は、「北朝鮮のミサイルは、イージス艦搭載の迎撃ミサイルでブースト段階のあいだに打ち落とすのがいい」と発言しています。そしてまさにウールジーの主張の延長線上に、日本のTMD構想があるのです。
日本が米国と共同研究を進めているのはNTWと言われます。NTWは中・短距離弾道ミサイルを宇宙空間で迎え打つNMDの小型版といえます。ただ現在の設計ではブースト段階のミサイルを追尾できず、対象とする標的の速度もNMDより遅いという欠陥を持っています。ブッシュ=森共同声明で、「引き続き共同で研究に取り組む」としているのは、こうした欠陥を克服するための研究に他なりません。
あいつぐ懸念表明
ブッシュは、「NMD構想計画はあらゆる危険国家に対しての装備であり、決してロシアと中国に向けての装備ではない」と強調しています。そして「現時点の中国が有する微力な核抑止力では、アメリカの初級防御システム1つで威嚇可能である」と述べています。しかし、こうして弁解すればするほど、NMD構想必要論が論理矛盾に陥ってくることも必然です。
国際的な反応はただちに現れました。2月、ジュネーブで開かれた国連軍縮会議は、あたかもブッシュ糾弾大会のおもむきでした。西欧諸国は、NMD立上げがアメリカの絶対優位体制の確立につながるものとして、警戒を強めています。自国の安全が完全に保障されれば、アメリカの強引な軍事外交がさらに強化されるのではないか、と危惧するからです。いわばコソボ型介入の地球的規模での再現です。
ロシアは最近(今年5月)おこなわれた事務レベルの交渉のあとで、次のようなコメントを発表しています。「1972年に弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約が調印されて以来、これを基礎に国際軍縮システムが築かれてきた。いま大量殺害兵器の不拡散システムを放棄すれば、世界の安全保障問題はどうなるのか。この点について、米側から明確な回答が得られなかった」
とりわけ東アジアにとって、ミサイル防衛構想は深刻な意味を持っています。東アジアには朝鮮半島と台湾海峡という二つの火薬庫があること、もうひとつは、日本が米国とのミサイル防衛構想の共同開発に加わることを確認しているからです。
NMD構想計画が強行されれば米ロ、米中関係はこれまでになく冷たいものとなるでしょう。東アジアの緊張はさらに高まるでしょう。日本、中国、朝鮮の三つの民族併せて十億の人間が、ブッシュ坊やの火遊びの道具にされて、果たして良いのでしょうか。とくにNMD構想構想の水先案内人となっている日本政府の役割が、あらためて問われています。
ブッシュ戦略の焦点、中国と東アジア
世界の中で東アジアが占める比重は、これまでとは比較にならないほど高まっています。これに応じアメリカの東アジア戦略もより全面的なものになっています。97年のナイ構想はそのひとつのエポックとなるものでした。これについては98年版「これが世界だ」をご参照ください。
ブッシュ新政権は、日本・韓国との連携を強める一方、中国との「戦略的パートナーシップ」政策を見直す構えです。しかし、東アジア戦略を構築するときに中国を無視・あるいは敵視することはできない相談です。
2000年度の国防白書は、「2015年以降に、米国のライバルとなる潜在的可能性がもっとも大きい国」として、中国とロシアを名指ししています。国防総省の本音は、最先端技術を駆使して「潜在的な競争相手」と実力の差をつけたいということでしょう。東アジアにおける究極的な戦略目的が、対中国にあることは明白です。「ならずもの」国家の脅威を防ぐという理由は、誰が見ても建前上のものに過ぎません。
状況証拠は枚挙にいとまありません。アジアでの勢力範囲を確保しようとする動きは、これまで以上に頻繁になってきました。アジア・太平洋地域で、米軍主導の多国籍軍事演習が相次いでいます。
●コーペラティブ・サンダー、1999年7月、米・豪・日・韓・インドネシア・マレーシア等。
●コープ・タイガー、1999年11月、米・タイ・シンガポール。
●バリカタン、2000年1月、米・フィリピン。
●コブラ・ゴールド、2000年5月、米・タイ・シンガポール。
●リムパック、2000年5月、米・豪・加・日・韓・チリ・英。
これらの多国籍軍事演習を通じて、アメリカは東南アジアでの発言権を強めるだけではなく、海上からの中国包囲網を形成しようとねらっています。アメリカのこうした姿勢は、中国側に強い不安を呼び起こしています。
対中封じ込め戦略の焦点となるのが台湾海峡の緊張です。いまアメリカが、台湾に最新兵器を売却するかどうかでもめています。ひとつの中国原則に立つ限りやってはならないことですが、アメリカには台湾防衛法という「国内法」があり、いまだに有効です。つまりアメリカは二つのあい矛盾する法・政策体系を持っており、状況によってこれらを使い分けているのです。
中国、米国、それに台湾は、これまで「一つの中国」原則では一致してきました。米国は、ひとつの中国原則を認め、中国との正常な国交を維持する一方で、台湾自衛への協力を続けてきました。中・台いずれに軸足をおくかは、その時々の政権により変化してきました。クリントン時代は比較的、中国よりの姿勢を見せましたが、台湾防衛の原則はそのまま残されました。
中国は、アメリカが台湾へ売却する武器はミサイル防御構想(TMD)の一部であると考えており、台湾問題とNMD構想は一体のものと見ています。アメリカ側は、武器売却を止める見返りとして、中国側が台湾へのミサイル発射行なわないという保証を求めていますが、基本的には「大きなお世話」です。台湾問題は中国の国内問題だからです。
ミサイル防衛網の構築は、たとえそれが米本土に限定されたものであっても、究極的目的としては中国の核抑止力を減殺することを目的とする戦略です。さらに、在日米軍を守るためと称する戦域ミサイル防衛網(TMD)に至っては、より露骨な中国牽制策に他なりません。それが将来、台湾海峡で起こりうる紛争に使用される可能性は十分にあります。
たしかに中国は、過去において日本の民主運動に乱暴に介入し、ベトナムに兵を送り、ポルポト派を支援し、南沙諸島を強硬占拠するなど、東アジアの平和にとって一定の脅威となっていました。台湾の総選挙時にも、ミサイルを飛ばしたり大規模な演習を行なうなど威嚇行為を行なってきました。しかし、この数年ほどの間に外交政策を大きく転換させてきていることも間違いありません。
中国はアメリカのNMD構想について、かたくなな態度をとりつづけているわけではありません。海南島のスパイ機不時着事件においても、中国側の原則的かつ柔軟な態度は際立っています。NMD問題でアメリカ側との議論を行うことについても、一貫して前向きな態度をとりつづけています。
ブッシュ=金大中会談の衝撃
これまで韓国の金大中大統領は、北朝鮮を対話の場に導き出すのが重要だと考える政策をとってきました。いわゆる「太陽政策」です。これはクリントン政権からも支持を受けていました。米朝の国交回復も、あと一歩のところまで来ていました。
しかしブッシュは、ふたたび北朝鮮を「ならず者国家」呼ばわりし、これまでの交渉を無視する態度に出ました。ブッシュの強硬姿勢に驚いた金大中大統領は、直ちに訪米し、ブッシュとの会談に臨みました。
共同声明は、何とかまとめたものの、共同声明発表後の記者会見で、両者の亀裂があからさまになりました。ブッシュは記者団の質問に答えて次のように述べ、衝撃を与えます。「私は金大統領に、いかなる交渉にも検証が必要であると伝えた。私は北朝鮮が世界中にさまざまな武器を輸出していることに憂慮している。北の武器輸出は中断されるべきであり、それを検証する必要がある」
『ニューヨーク・タイムズ』は、「対北交渉を急がないとのブッシュ大統領の発言は、金大統領に対する明らかな拒絶であり、任期が2年を切った金大統領には政治的な打撃である」と分析しています。
ブッシュにとって北朝鮮がどうなろうと対した関係はありません。彼にとってはNMD構想こそアルファでありオメガなのです。そのためには北朝鮮が悪者でい続けてもらわなくてはならないのです。
NMD構想は、そもそもロシアと中国に対する核脅迫政策ですが、そのためには北朝鮮のような「テロ国家」がどうしても必要です。さもなければ、NMD構想構想の大義名分は消えうせてしまうからです。
NMD構想と集団的自衛権、今後の行方
現在ロシアとヨーロッパ諸国は、NMD構想計画には断固反対の意を示していますが、米国との交渉については積極的な立場をとっています。むしろ、交渉の場で民衆の世論と結合しながらブッシュ政権を追い詰め、NMD構想の規模縮小を実現しようというのが戦略のようです。
ロシアも、あるいは中国もNMD構想の開発能力がないため、迎撃ミサイル(ABM)削減交渉のときのような取引材料を持っていません。したがって、いずれは交渉の場に参加して、他の諸国や平和勢力と歩調を合わせながら、米国に反対していくことになるでしょう。
あらためて、東西対決の時代は確実に終焉を遂げたことが実感されます。21世紀のあらたな平和の枠組み、平和運動の構築方法が模索されているといえるでしょう。
このような国際的緊張の中で、日本政府のノー天気ぶりは際立っています。3月、金大中=ブッシュ会談のわずか10日後、もはや死に体となった森首相が訪米し、ブッシュとの共同声明を発表しました。というより「させられた」というべきでしょう。この中ではNMD構想についての共同見解がしっかりと書きこまれています。 (外務省仮訳を一部改変)
1。大量破壊兵器と弾道ミサイルの拡散による脅威が増大しているとの認識で一致。
2。このような脅威に対処するため、防衛システム、拡散管理の強化及び拡散対抗措置(たとえば94年の北朝鮮に対する核脅迫:著者)を含む効果的な措置をとる。
3。弾道ミサイル防衛技術にかかわる共同研究の進行に満足(するとともに)、ミサイル防衛に関し、(引き続き)緊密な協議を行う。
この共同声明が金大中会談のわずか10日後に発表されたことには、深い意味があります。これは共同声明という形を借りた、金大中への通告です。ブッシュにとっては森首相が生きているか死んでいるかは、どうでも良いことです。彼は死んだ森首相に「カンカンノウ」を踊らせて、韓国政府にはっきりと「太陽外交ノー」の意思を伝えたのです。
日本はこの共同声明によって、しっかりとNMD構想に組み込まれてしまいました。すでに日本は、一昨年からTMDの共同研究を進めています。世界でNMDを支持し推進の立場に立つのは英国と日本だけです。だからこそ「愛媛丸事件」のとき、アメリカ側にしてみれば異例のリップサービスを行なったのです。
しかしアメリカが三つのリスクを犯すことになるのと同様、日本もTMD開発には多くのリスクをかかえることになります。TMDは朝鮮半島や台湾と関連することで周辺国の不安を募らせ、中国との関係悪化も必至です。
いま問題になっている「集団的自衛権」の具体的内容は、まさにこのTMD構想にあります。アーミテイジ国務次官が要求する「集団的自衛権」をそのまま認めるなら、日米安保条約の趣旨である専守防衛どころか、安保体制そのものが、諸外国に脅威を与えるシステムに変質しかねません。
もうひとつ、TMD配備には数兆円の負担が伴います。しかもその金はほとんどがアメリカの産軍複合体へと流れ、ブッシュとその一族を肥え太らせるだけです。 日本にとって良いことはひとつもありません。
この文章をかき上げたあと、新たな情報が入りました。ブッシュ政権は、NMD計画について、現在の陸上配備計画に加え海上配備の可能性に付いても検討に入ったということです。米国防総省当局者の話では「ミサイルが発射された直後に海上から迎撃するシステムが検討対象のひとつ」であるとしています。ウールジーらの主張が政府の公式方針となり始めたということになります。
この記事では、「国防総省内には、米国を射程に入れた長距離ミサイルの迎撃システムに自衛隊の協力を求める意見があり、海上配備計画が具体化すれば自衛隊の果たす役割が極めて大きなものとなるだろう」と観測しています。
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以下のリンク集は小川 彰さん (岡崎研究所主任研究員) のページから転載させていただきました。
◆ ◆米国のNMD論争関連サイト◆ ◆
米国のNMD論争関連サイト
弾道ミサイルの脅威を分析した、「ラムズフェルド調査会報告書(Rumsfeld Report)」の公開版はNGOサイトhttp://www10.plala.or.jp/shosuzki/assembly/www.fas.org./irp/threat/bm-threat.htmで閲覧できる。調査会の正式名称は、The Commission to Assess the Ballistic Missile Threat to the United States。
調査会メンバーRichard L.Garwinの手記、”What We Did”(「ラムズフェルド調査会で我々がしたこと」)http://www10.plala.or.jp/shosuzki/assembly/www.bullatomsci.org参照。
CIAの「1999年版国家情報見積(NIE)」の要約版は http://www10.plala.or.jp/shosuzki/assembly/www.cia.gov/cia/publications/nie/nie99msl/html。
毎日のニュースを追いかけるには、国防総省担当部局(BMDO)がスタッフ向けに毎日作成しているニュースクリップ“EXTERNAL AFFAIRS DIGEST“ www.acq.osd.mil/bmdo/bmdolink/html/が便利。
ほとんど同様のサービスを民間でも無料で提供している。http://www10.plala.or.jp/shosuzki/assembly/www.internationaldefense.com/
NMDの包括的理解には、核拡散・軍備管理を研究する17団体の連合体Coalition to Reduce Nuclear Dangersが4月に発行した報告 “Pushing the Limit” がバランスよくおすすめ。http://www10.plala.or.jp/shosuzki/assembly/www.clw.org/coalition/ibbmd.htm
米国政府の公式見解、報告書は、http://usembassy.state.gov/tokyo/wwwh3001.html
1999年のABM条約関連上院外交委員会公聴会の発言は、Heritage Foundation http://www10.plala.or.jp/shosuzki/assembly/www.heritage.org/library/backgrounder/bg.1002.htmlにまとめられている。
キッシンジャーの1999年3月26日の上院外交委員会での証言は、http://www10.plala.or.jp/shosuzki/assembly/www.senate.gov/~kiss.htm
NMDに関する戦略研究にはCSISのHomeland Defense Reportsに関する3論文などがある。csis.org/homeland/index.html#reports