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対米覚え書き手交の遅れ
これも実に良く語られる話題である。オアフ島基地攻撃開始30分前にワシントンで対米覚え書きを手交する予定が大使館の怠慢で1時間以上遅刻してしまったのがその題材である。この対米覚え書きを開戦通告とは見なせないことや、よしんば開戦通告を事前に手交してあったとしても米国民が一斉に立ち上がったことに変わりはなかったであろうことは後に述べるが、その前に今まで全く議論されなかった点を挙げたい。
@一つは何を以って開戦あるいは攻撃開始と見るかという問題である。事実は、ワシントンで予定通りに覚え書きが手交されたとしても南雲機動部隊からの第一次攻撃部隊180機かはその1時間前に発艦していたのである。オアフ島基地から遠くない海面に勢揃いした仮想敵国の空母群から爆弾や魚雷を搭載した攻撃機がオアフ島を目指して大挙襲撃に出発した時点を以って攻撃開始と見なさないのには無理があるだろう。拳銃を例に取ればホルスターから抜いた時点で攻撃開始と見なすし、日本刀であれば柄に手を掛ければ戦闘開始であろう。
A逆の言い方も出来る。米艦艇に魚雷や爆弾をお見舞いする1時間以上前、すでに日本軍は英領マライ・コタバルの海岸に上陸を開始し、英軍航空機の夜間攻撃も受けていた。筆者が東京裁判に喚問されたとすれば、「我が軍はハワイ攻撃の1時間以上前に英領マレーのコタバル上陸作戦を開始し、英軍航空機の機敏な攻撃を受けていた。我が軍による無通告攻撃を英国に非難されるのであればこれは甘んじて受けるが、同盟国米英間の連絡の齟齬に起因してハワイが奇襲攻撃になった件は、犠牲になった米軍将兵とその家族に対する心底からの弔意を表するものの、国家として当時の敵性国家間の連絡不備に責任を感ずるものではない」位の台詞は吐いたであろう。どうせ死刑になるのである。言いたい放題言っただろう。
それは兎も角として、対米覚え書きが開戦通告になるかどうかの視点で覚え書きを見てみたい。186頁の図に示す通り、対米覚え書きは日米交渉の打ち切りを通告しているだけで、到底開戦通告とは言えない。無論、戦争を避ける為に続けていた交渉であるから、その打ち切りは戦争に繋がるとして当然である。どうせそう思われる事は分かっていたのだから、堂々と開戦を通告すれば良かった。しかし、よしんば開戦通告をして堂々と真珠湾を攻撃したとしてもそれが成功すれば必ず米国民は立ち上がったであろう。本書は正にこの検証を行う為にアメリカ建国からの歴史を辿ってきた。生活に困窮してヨーロッパを脱出し、本国に帰る当ての無い、いわば背水の陣で北アメリカ東岸に辿り着いた人々は飢餓による死者を出しながら頑張り通した。その後圧倒的に強いと思われた英軍と独立戦争を戦い、大きな犠牲を払って独立を果たした。独立時は東海岸に沿った広大とはいえない領土しか有していなかったが、その後、メキシコとの戦争やアメリカ・先住民との戦いを続け、西部の広大な土地もフランスから買取り、力強く開拓を続け、工業と産業を興していった。その間、道を妨げる者あれば強引にそれを排除していった。彼らも楽だった訳ではない。亭主の留守中に賊に襲われれば子供達に装弾を手伝わせて一家の主婦がライフルで戦った。負ければ皆殺しの覚悟で闘うその意志の強さ、実に半端ではない。めそめそ泣くだけの女性は今でもアメリカの辞書にない。彼らの精神はこうして自らに鍛え上げられ、敵に弱音を吐くような選択は全くない。仮令、自らに相当な犠牲があろうとも、攻撃されたら徹底的に反撃する。行く道を塞がれれば排除する。今の時代でも、9・11で何千人かの市民を殺されれば、仮令、無辜なる市民を多数巻き添えにしようが、アフガンを叩き、イラクを叩く、これが彼等の血となっている哲理である。善悪の問題ではない、それが彼等自身なのである。
アラモの砦を振り返って見よう。これはメキシコに移住して農業経営を許されていたアメリカ人が武力を行使した全くの不法行為である。アメリカがいかに美化しようが、彼らがメキシコ政府の好意を裏切ったならず者集団であった事に変わりはない。それでも彼らが全滅すれば、それを丁度良いスローガンとして政府が使い、全国民は立ち上がるのである。
戦艦メイン号を見てみよう。キューバの港でアメリカの戦艦が謎の爆沈を遂げたからと言って、なぜスペインの対米戦争行為と見るのか、何の論理性も根拠もない。それでもスローガンとしては立派に役立って国民は立ち上がるのである。
宣戦布告の有無に拘わらず、真珠湾を攻撃され、2千を超える犠牲者を出されて黙って引っ込む選択はアメリカ人の血に流れていないこと、ここまで読まれた読者は完全に同意される事と信じる。
以上は平成17年1月発刊予定の拙著「世紀の愚行 真珠湾攻撃」からの抜粋です。詳しくはホームページ http://akabori.web.infoseek.co.jp をご覧下さい。
赤堀 篤良