現在地 HOME > 掲示板 > 昼休み4 > 462.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
(回答先: 捜査機関への匿名告発【小倉秀夫のIT法のTopFront】 投稿者 クエスチョン 日時 2004 年 12 月 23 日 12:40:00)
実名による反政府的表現の危険性【小倉秀夫のIT法のTopFront】
http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/1a320635cdd48f72b371cf3322da7f12
2004年12月11日
崎山さんからトラックバックをいただきました。
自衛隊官舎反戦ビラ撒き事件でアムネスティが問題としている事項の多くは、実は、現在の日本の刑事司法の問題点としてつねづね弁護士らが問題としてきたものですね。具体的にいうと、
1. 被疑事実との関連性の薄いものまで含む広範囲な捜索差押え
2. 連日、長時間の取り調べ
3. 取り調べへの弁護人の立ち会いの拒絶
4. 安易な逮捕・拘留と厳しすぎる保釈決定
私は、これらの点は早急に改めるべきだと思います。
(なお、2/27逮捕、3/19起訴、5/6第1回公判、5/7地裁保釈許可決定というタイムスケジュールは、否認事件であることを考慮すれば、現在の日本の裁判実務においては、全く異例ではないと思います。)
その上で自衛隊官舎反戦ビラ撒き事件を見ていくと、警察・検察の意図はどうであれ、これは表現の内容規制ではなく、「時場所方法に関する規制」に引っかかってしまっているということができます。
そして、(口語化された現在の刑法の文言を使用していうならば)正当な理由がないのに他人の共同住宅の共用スペース(通路部分など)に侵入することが住居侵入罪にあたることは既に判例があるし(広島高判昭和51年4月1日判タ345号314頁、広島高判昭和63年12月15日判タ709号269頁、名古屋地判平成7年10月31日判時1552号153頁)、ビラ撒きのために他人の住居等に侵入することが住居侵入罪に当たることについても、東京高判昭和 27年4月24日高刑5巻5号666頁等の判例があります。
最判昭和58年4月8日刑集37巻3号215頁は、
刑法130条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである
と判示しています。まあ、どういう人が建造物等の中に立ち入ることが許され、どういう人が許されないかについて建造物等の管理権者に決定権限があるということ自体はそうかなという気がしますし、そうだとすると、「宅配ピザのチラシを投函しに来てくれるのはOKだけど、ピンクビラと宗教ビラと政治ビラはNGね!」というのは、公務員官舎であるという点を考慮しても、許容範囲かなあと思います。政治的表現の自由は政治的表現を受け取りたくない人に受け取らせる権利や政治的表現のために他人に場所を提供させる権利を含まないですから(「自民党のビラは良いが共産党のビラは駄目!」とか「創価学会のビラは良いけれどもエホバの証人のビラは駄目!」とかということになると、中立性を欠くので、公務員官舎としては問題があると思いますが。)。
もちろん、ビラ撒き目的の共有スペースへの立ち入りをわざわざ逮捕・起訴に持ち込んだ警察・検察は、ビラの表現内容を問題視していた可能性は相当あるようには思うのですが、少なくとも法律的には、ビラの表現内容は、自衛隊官舎の管理権者の推定的承諾の有無を判断する一資料という以上の位置づけを持たないように思います。
【追記部分】
西山事件についていうと、「政府に都合の悪い発言を行ったこと」で逮捕された事件というより、機密の漏洩を唆したということで逮捕された事件なので特に触れなかったのですが、崎山さんからリクエストがあったので、追記します。
西山事件最高裁判決(最判昭和53年5月31日刑集32巻3号457頁)は、
報道機関の国政に関する報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、いわゆる国民の知る権利に奉仕するものであるから、報道の自由は、憲法二一条が保障する表現の自由のうちでも特に重要なものであり、また、このような報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由もまた、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値するものといわなければならない(最高裁昭和四四年(し)第六八号同年一一月二六日大法廷決定・刑集二三巻一一号一四九〇頁)。そして、報道機関の国政に関する取材行為は、国家秘密の探知という点で公務員の守秘義務と対立拮抗するものであり、時としては誘導・唆誘的性質を伴うものであるから、報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといって、そのことだけで、直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではなく、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである
として、取材の自由にそれなりの配慮を示した上で、
しかしながら、報道機関といえども、取材に関し他人の権利・自由を不当に侵害することのできる特権を有するものでないことはいうまでもなく、取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであっても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躪する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない
としています。その上で、西山記者の取材の手段・方法に関して、
被告人は、昭和四六年五月一八日頃、従前それほど親交のあったわけでもなく、また愛情を寄せていたものでもない前記蓮見をはじめて誘って一夕の酒食を共にしたうえ、かなり強引に同女と肉体関係をもち、さらに、同月二二日原判示「ホテル山王」に誘って再び肉体関係をもった直後に、前記のように秘密文書の持出しを依頼して懇願し、同女の一応の受諾を得、さらに、電話でその決断を促し、その後も同女との関係を継続して、同女が被告人との右関係のため、その依頼を拒み難い心理状態になったのに乗じ、以後十数回にわたり秘密文書の持出しをさせていた
ことや
いわゆる沖縄返還協定が締結され、もはや取材の必要がなくなり、同月二八日被告人が渡米して八月上旬帰国した後は、同女に対する態度を急変して他人行儀となり、同女との関係も立消えとなり、加えて、被告人は、本件第一〇三四号電信文案については、その情報源が外務省内部の特定の者にあることが容易に判明するようなその写を国会議員に交付していること
などの事実認定をして、
取材対象者である蓮見の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躪したものといわざるをえず、このような被告人の取材行為は、その手段・方法において法秩序全体の精神に照らし社会観念上、到底是認することのできない不相当なものであるから、正当な取材活動の範囲を逸脱しているもの
として、違法性阻却を認めませんでした。
これに対しては、取材対象者である外務省の女子職員の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙したことは、当該女子職員が西山記者に慰謝料請求等を請求してきた場合に斟酌すべき話であって、当該取材の公益性を損なうものではないから、違法阻却の成否に影響を及ぼすものと考えるべきではないという批判はあり得るところだとは思います。
とはいえ、取材方法に気をつければ、国家機密を聞き出して報道しても処罰されないということがこの最高裁判例によって示されたわけです。
したがって、「インターネットを利用した告発」のように時場所方法に関する規制が通常考えにくい(スパム規制などの例外はあるにせよ)ものに関していえば、政府に都合の悪いことを実名で表現したからといって、逮捕されたり、暗殺されたりということは、今の日本ではやはり考えがたいといえるように思います。