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壮絶な格闘の中から生まれた父娘の絆(きずな)が金メダルへの夢をつなぐ。アテネ五輪女子レスリング72キロ級代表・浜口京子(26)。父・平吾さん(56)はプロレスで活躍したアニマル浜口。特別支援コーチとして娘のセコンド役として共に戦う。熱血の父は鬼になって娘をレスラーに鍛え上げた。父娘の関係の真実、思いとは?(2004年8月4日付紙面から)
「鬼」にもなる。娘は父親の分身で同志で「芸術作品」【いいな、この記事。下町の浜口父娘鷹】
http://www.sponichi.co.jp/olympic/athens/kokishin/37.html
渡る世間どころか「鬼」は身内にいた。「女房から“アンタは鬼だ”と面と向かって言われたこともありますよ。女房はオレが13歳から娘を追い込むのを目の当たりにしてきましたから。実際、そうかもしれません。しかしオレにだって口にできないかっとうはあるんです」。そこまで話すと父は口を真一文字に結び、静かに目を伏せた。
女子レスリング72キロ級日本代表・浜口京子。金メダルの最有力候補だ。特別支援コーチの父・平吾は国際プロレスや新日本プロレスなどで活躍した元プロレスラー。小柄ながら気風(きっぷ)のいいファイトで観客を魅了してきた。
プロレスラーは遠征の連続で家を空けることが多い。初枝夫人は“糟糠(そうこう)の妻”だ。浅草で小料理屋を経営しながら一家を切り盛りしてきた。夜も遅くなると、2階からトントンと階段を下りる音が聞こえてきた。ベそをかきながら顔をのぞかせる京子は愛くるしいという表現がぴったりの小学生だった。
その娘が13歳でボディービルを始めたと聞いた時点で今の“父娘鷹”の姿は想像できた。平吾は何をするにも中途半端を嫌う男だ。やる以上はとことんやる。現役引退後、ボディービルの選手権に出場した時には30キロも減量した。頑固一徹、まるで劇画「巨人の星」の星一徹である。
ボディービルからレスリングへ。スパルタ指導のかいあって、娘はめきめきと頭角を現した。96年、18歳で全日本選手権(70キロ級)を制し、翌年には世界選手権(75キロ級)をも制した。「娘はオレの芸術作品」。口ぐせのように平吾は言った。娘は父親の分身でもあった。
凄絶で純朴であまりに神々しい…
師弟を超えた間柄、いわば同志。しかし2人の濃密な関係に亀裂が走ったこともあった。あれは今から6年前の話だ。タックルを切る練習に、なかなか娘がついてこられない。師が「鬼」に変わる瞬間だ。「バカヤロー!帰れ」。鼻っ柱の強さなら娘も負けちゃいない。いや父親以上だ。「鬼」をにらみつけたまま道場の階段を下りていった。腹のムシがおさまらない平吾は壁に石を投げつけた。「あの時はさすがにやり過ぎたと思いました…」振り返って平吾は言った。「帰り際、チラッと道場の階段を見たら、京子はレスリングシューズも脱がずにヒザ小僧を抱えて震えていた。その姿を見たらね、もう一目散に飛んでいって抱きしめてやりたかったですよ。でも、オレもこういう性分でしょう。見ないふりをして浅草寺の境内の裏に行き、銀杏(いちょう)の木の下で夜空の星をながめていました。京子が見上げていた同じ空の星をね…」
一度、「鬼」に尋ねたことがある。「もし娘さんに好きな人が現れたらどうしますか?」。居住まいを正して平吾は言った。「娘には“オマエにしかできないことがある”と言ってあります。それはレスリングです。それこそが天がオレとコイツに与えた使命なんです。そこから逃げ出すことは許されない。もう覚悟を決めるしかないんです」
隣に座っていた京子が珍しく口をはさんだ。「ある人にこう言われたよ。京子ちゃんにいい人がいたら、もっと強くなれるよって。おとうさんにはおかあさんがいるからいいじゃない」。長い沈黙が流れた。「鬼」の目元がかすかに震えていた。
この世にホームドラマのネタになりそうな“父娘の物語”なら掃いて捨てるほどある。しかし、この父娘の物語はあまりにも凄絶で、あまりにも純朴で、あまりにも神々しい。間もなく下町の父娘鷹に審判の瞬間が訪れる。【二宮清純】
【浜口京子(はまぐち・きょうこ)】
1978年(昭53)1月11日、東京・台東区生まれの26歳。中学時代は水泳部に所属。14歳の時プロレスラーを目指しボディービル、さらにレスリングを始める。武蔵野高を1年で中退。ルール改正で女子の階級が9から6に減った97年に迷わず最重量の75キロ超級を選択。同年世界選手権で初優勝し3連覇。02、03年も世界一に輝いた。03年の全日本選手権で8度目の優勝、翌年2月のクイーンズ杯も制し、アテネ五輪72キロ級の代表に決定。日本選手団の旗手も務める。03年3月にジャパンビバレッジ入社。得意技はタックル。家族は父・平吾さん、母・初枝さん、弟・剛史さん。1メートル70、72キロ。