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「点と線」、といっても今回は松本さん(松本清張)の推理小説の話をするのでない。われわれの青年時代、これは日本の大陸政策を評する語であった。日本は、シナ大陸を制圧し、地図を日本の色に似せて桃色に塗ったりしているが、実際におさえているのはいくつかの大都市と、それをからくもつなぐ鉄道線路だけではないのか。この評言はどこか外国の新聞記者がつくった言葉らしい。
さもありなんと思っていた学生時代は、まだよかった。本当に北支派遣軍の二等兵になって大陸に侵攻してみると、この言葉は不気味な現実感をもって私をおびやかしつづけたのである。
何日もわたる討伐旅行を企てても、その間、敵の影を見ることさえないのが常であった。しかも本隊と離れた小部隊はしばしば帰らなかった。われわれが会った北支の人民たちは、みんなまどろんでいるようにおだやかな人たちであり、だが彼らは、明らかに全部が敵であった。戦いには勝っているかもしれないが、結局われわれは負けているのだ、と思い知らされることが何度もあった。
例えば少なくとも私は、北支にいる間中、若い女の人を一人も(!)見ることがなかったし、お菓子をくれと手を出す子供も居なかった。そして、われわれは戦いにもやはり負けてしまったのである。日本軍占領下の中国人は立派であった。
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「ほんの話―青春に贈る挑発的読書論―」白上謙一著 現代教養文庫、(社会思想社)より