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排外主義と国際連帯
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投稿者 バルセロナより愛を込めて 日時 2004 年 9 月 21 日 20:52:25:SO0fHq1bYvRzo
 

(回答先: スペインの田舎町での反アジア人(中国人)騒乱 投稿者 バルセロナより愛を込めて 日時 2004 年 9 月 19 日 08:11:23)

排外主義と国際連帯


なんて、大きく出ましたが、いやいや、そんな大それた話ではなく、ごくごく身近な(私にとって)軽い話です。というか、少々気が重くなるような話も含まれているでしょうが、現実はこんなものです。ちょっとだけお付き合いください。


●バルセロナやマドリッドのような大きな都市とその周辺では、明らかな観光客は別としても、そこに住み着いている外国人はおそらく人口の15%ほどいるでしょう。

ちなみに、バルセロナ市では、2001年の国勢調査の統計では、全市人口が約1500万人でうち外国籍が99万5千人となっていますが、2004年に市独自で詳しい調査をするとその倍以上の約20万人、となっています。この国の統計はいい加減で有名なのですが、人口など移動が激しくまた、特に外国人の場合は不能滞在者などで調査に応じない者や把握できない部分が非常に多く、どうしてもいい加減にならざるを得ません。この調査の及ばない部分を推定して大雑把に言うと、人口の15%以上は外国籍、といってよいでしょう。

2004年1月時点でバルセロナ市が把握している数字を見ますと、その半数以上が中南米人で、そのさらに約3分の1の3万3千人がエクアドル人、ということです。アジア人は全体で約3万1千人、うちパキスタン約1万2百人、中国7千2百人、フィリピン5千9百人、インド2千8百人の順になっています。ちなみに日本人は1437人、また韓国人は373人です。ただこの数字は相当にいい加減で、不法滞在者等含めると、国によっては倍以上いる可能性があります。日本人と韓国人に関してはかなり信用してよいでしょう。身分のはっきりした企業関係者か学生が多いですので。

日本人と韓国人の過半数は企業の駐在員とその家族で、住居費などは会社持ちほとんどですから、山の手の高級住宅街に住むケースが多いようです。家賃は日本円にしておよそ25万円から35万円、スペイン人の平均年収が日本人の6割ほどですから、これがいかに大きな数字かわかるでしょう。(ただし私は5万円ほどの下町の安アパートに住んでいますが。)

中国人の場合、中くらいの地区(家賃で10万から20万)に住んでいることが多いのですが、これまた実態は把握できず、一つの家に複数所帯が住んでいることも多いと言われます。市内でレストラン(中華とは限らず近頃ではバルセロナの「日本レストラン」の半数近くが中国人経営)や商店を営む中国人には相当に金持ちもいます。

滞在人口の多い国の人間には、同胞が経営するレストランや工場で劣悪な条件の下でこき使われているケースが多く、その多くが不法滞在者です。(正直に言いますが、日本人の間でもこれはあります。どこで誰が、とは言えませんが。)当然ですが密売や売春組織、窃盗グループにしてもそうです。「成功者」の同胞に虫けらのようにこき使われる極貧者たち、という構図は、このような社会には共通して見られることです。

たとえば、バルセロナ周辺の都市には中小企業の工場が立ち並んでいるのですが(バルセロナ市自体は狭いため人口は約150万人ですが周辺都市を入れますと300万人を越えます)、そのような地区には同じ中国人経営の衣服・雑貨製造工場などがあり、そこで不法滞在の同胞をタコ部屋に押し込んでこき使っているケースもよくあり、何度か摘発されています。そのような地区にはもちろん貧しい中国人が固まり、同様の境遇にある(つまり同胞に搾り取られる立場の)モロッコ人などの外国人と共に住んでいるのですが、どうしても同国人同士で固まって住んでお互いに非常に排外的になりがちです。近郊のサンタ・コロマ市では貧しい中国人の若者グループとモロッコ人グループの間の抗争が絶えない、といわれます。

バルセロナでも貧民が固まって住んでいる地区で同様の対立があり、先日もそのような地区を夜中に歩いていた一人の日本人が、たぶん対立する中国人グループの一員と間違えられたのか、モロッコ人と思われる集団にボカボカに殴られてしまったそうです。こんな地区では特に夜は警察も嫌がって近寄りませんので、何が起こっても不思議ではありませんが。被害届けなど出してももちろん犯人など捕まるはずもありません。

それに加えてスペインにはジプシー(スペイン語では「ヒタノ」)が多く住んでおり、バルセロナ周辺では、隣の海岸地区のラ・ミナにある市営アパートにその多くが住んでいます。これは元々は、1992年にオリンピックが行われた際のメイン会場となったモンジュイックの丘周辺に自分たちでバラックを建てたりキャンピングカーなどで固まって住んでいたのを、オリンピックの前に市当局が強制排除して集団移住させたものです。なお、あのオリンピックの期間中には、彼らだけでなく市内をうろつく大勢のホームレスたちも同様に強制的に市外の一定の地域に追いやられたそうですが。今ではそのラ・ミナの周辺には一般のスペイン人は恐れて近寄りません。バルセロナ周辺で最も薄汚い危険な地域の一つ、といわれます。(さすがの私もここには近寄る気がしません。)

近年ではルーマニアなどの東欧からジプシーが大挙して移動してきて、市内外の空き地や半崩れで放棄された工場跡などに住んでおり、その多くが物乞い、売春、窃盗などで生きています。彼らの団結力は強く、事件を起こしても警察が犯人を挙げることなどまずできません。新聞もあえて彼らを取り扱うことはしません。

そして、当然ですが、スペイン人の中でも貧困層は大体固まっていくつかの地区に住んでいます。こちらで「スキン」と言われる、いわゆるネオナチ(といっても思想的なものではなく要するに抑圧されてあふれるエネルギーをより立場的に弱いものにぶつけるだけの者ですが)グループがいくつかあり、多くがここから出没します。

この「スキン」による排外主義的な外国人攻撃はバルセロナよりもマドリッドで多く起きており、被害者は中南米人(ただしヨーロッパ系ではなくインディオの顔をしたエクアドル人やペルー人)、モロッコ人などの北アフリカ人が多いようです。ただ今のところマドリッドで中国人が彼らに狙われた話は聞きません。報道されない部分でどうか、は知りませんが。

どうも気がめいるような話ばかりになりました。しかしいずれにせよ、立場の弱い無力な貧乏人や被差別階層同士では、逆にお互いに差別しあい、自分より低い立場の者(いなければ作ってでも)を攻撃することでちょっとでも屈折したプライドを満たそうとする傾向があるようです。

●さて、「スキン」どもにとって等しく「チノ」である我々東アジア人同士ではどうなのか、といいますと、特に対立するようなことは無いのですが、日本人や韓国人の間では、当然ですが、中国人と同一視されることには我慢ならず、中国人が固まっていると全く無視して足早に通り過ぎます。(正直言って私もそうです。)口の悪いガキどもから「チノ」と言われると、そんな挑発に反応するほど若くもありませんが、やはりムカッときますね。

ただ、私にとってはヨーロッパ系の顔つきをした者に囲まれていますので、やはりアジア系の顔はありがたい。個人的には結構中国人や韓国人とも深く付き合っています。彼らとはスペイン語が共通言語で、東アジア人としての共通の文化や立場や感情のみをこのお互いに母国語ではない共通言語で語り合うことが出来ますから、逆に変な感情が入らないのでしょう。

一般的には、日本人同士、韓国人同士はやはりどうしても固まってダンゴを作ります。彼らの大半が結局数年以内で帰国する企業の派遣社員が多いせいでもありますが、彼らの多くはあまり地元のスペイン人の中にも溶け込もうとはしません。これは皮肉なことに、情報化が進んでますますそうなっている可能性もあります。家では日本からのBS放送を自由に見ることが出来ますし、苦労して地元のテレビを見ることなど、まずありません。必然的に言葉も覚えられず地元の情報に直接触れる機会も非常に少ないのが現状です。

家の中では日本とほとんど変わらない生活が出来、外に出ても買い物は店員との対話をしなくて住むスーパーで済ませ、住宅に関するトラブルも日本語の分かる(日本人のいる)仲介業者を通して行い、旅行や帰省でも切符を日本人社員がいる旅行社で手配できますので、あまり地元のスペイン人社会に入り込まなくても生きていけます。ただ大人はいいのですが、派遣社員の子供たちは多くは日本人学校に通いますので、スペイン語をほとんど覚えようとせずスペイン人の友達を作らず(そんな機会も無い)、少数の国際学校(バルセロナには米国系、英国系、ドイツ系、フランス系、イタリア系などの学校があります)に通う生徒以外は、逆に日本の中にいるよりも視野が狭くなる可能性すらあるのではないか、と恐れます。

それでも日本人はこちらではやはり受けがいいですね。ホテルに勤めている知人のスペイン人がこんなことを言っていました。「日本人のお客さんが来るとほっとする。中国人の客が来るとぞっとする。ごみは散らかすし、床に唾を吐くし、列は平気で乱すし、大声で騒ぐし。そこへいくと日本人は礼儀正しく決してそんなことはしない。」ただ若い人たち、特に子供が集団で行儀の悪い事をしでかしているのも見かけますが。

日本人の受けが良い理由は他に「金払いが良い」点もあるでしょう。このような点は、スペインの観光産業担当当局が実施したアンケートでも、いえます。スペインの観光地での施設や店の調査で、地元民に最も評判の良いのがドイツ人と日本人、ついで米国人、礼儀正しいこともありますが、要するに金払いが良いわけです。ただ米国人に関してはその傲慢で横柄な態度に反感を覚える人もかなり多く、金を取ったら用は無い、というのが本音でしょう。最も評判が悪いのがイギリス人。特にスペインには英国でもどっちかというと貧しい階層の連中がバカンスを過ごしに来ますので、ケチで金払いが悪く、昼間からウイスキーやビールを飲んで騒ぎまくり、スペイン人を見下げる態度をあらわにし、おまけに、カナリア諸島などでは夜の浜辺を乱交パーティーの場に変えてしまいますので、地元住民からは鼻つまみ者です。


●またしても「貧乏人」ですが、人間やはり「貧すれば鈍す(貪す、だったっけ?)」で、物理的な「貧しさ」というよりも精神の貧しさが最も問題なのではないでしょうか。確かに物理的に貧しければ精神的にも貧しくなる傾向は、どこの国のどの文化の人間にもあるでしょう。しかし問題は、物理的にはさほど貧しくもないのに精神的に貧しい傾向が広まる場合があることです。

たとえば20世紀前半の米国南部で白人たちが大勢の黒人をなぶり殺しにして楽しんでいたようなことです。英国の学校の教科書(中学生用)でこのような写真を見ました。数名の黒人がつるされ、その周りにいる白人たちは、老いも若きも、男も女も、みな実に晴れ晴れとした顔つきで笑い合っている場面です。英国の教科書は、面白いことですが、とにかく「アメリカがいかに黒人を虐げてきたか、いかにインディアンをむごたらしく虐殺したか」等々を実に事細かに説明しています。大英帝国のインド支配の様子についても、イギリス人の残虐行為や抑圧ぶり、インドに対する経済的な収奪の様子を驚くほど詳しく書いているのです。これは逆に言えばアングロサクソンの「余裕」なのかもしれませんが、朝鮮半島支配の様子や日中戦争時の記述などでいつもピリピリしている日本と比較すると、ずいぶん違いがあるな、と変に感心しました。

ちょっと話がずれたのですが、特別に貧民でもない階層の人間が徹底して排外的・暴力的になれるのは、やはり目もくらむような精神の貧しさに覆われているからでしょうね。物理的には貧しくなくても、その精神の貧しさは手の付けようがなくなるわけです。どの国のどの文化にも豊かな面と貧しい面が含まれているはずです。お互いにその貧しい面だけを取り上げると、これは経済的な階層の違いに関わり無く暴力的な排外主義にしかなりえないでしょう。

たとえば今、日本と中国、あるいは韓国との間に、民衆同士の間で排外的な機運が高まっている様子がうかがわれます。別にお互いに貧しくてそうなっている、というわけでもないでしょう。特に日本の場合には。日本の文化の中にある豊かさと中国や韓国の文化の中にある豊かさを認め合うことが、双方の人間にとって根本的なことではないでしょうか。悪口を言う場合でもベースにその「豊かさの認め合い」さえあれば、決して傷つけあうような対立になることはありえません。それを認め合えない「貧しい精神」がお互いの「貧しさのぶつけ合い」を引き出し、腹黒い政治担当者たちの食い物にされていく「身も心も貧しい国民」を作ってしまうのではないでしょうか。

私はスペイン人やカタルーニャ人のことを時にはボロクソにけなしますが、しかしスペインの各地の文化の中にある汲みきれないほどの豊かさは知っています。そして日本文化の中にある豊かさを語るようにしています。またイスラム文化の中にも、ジプシーの文化の中にも、その豊かさを発見するようにしています。物理的な貧しさが精神的な貧しさにつながり、さらに精神的な貧しさが階層を越えて一般化すると、恐ろしいことが起こるでしょう。ちょうど今の米国人の半数近くがそうなっているように。日本人はこの米国人の約半数を反面教師としてじっくりと見つめるべきですね。

政治的陰謀や謀略は常にあります。ある意味で、そうでなければ政治(ましてその延長である軍事)は成り立たないでしょう。しかし、それに振り回されて利用されて暴力的な汚い歴史を作っていくのは、やはり個々の人間の、自らの精神の貧しさを認めず、自らの文化の豊かさも他の文化の豊かさも見つめることの出来ない、そのような本当に貧しい精神に原因があるのではないでしょうか。もし「国際的な連帯」というものが可能ならば、それはやはり自らの心を豊かにしていく作業の中からしか出来ないでしょう。

長い長いボヤキと雑談にお付き合いいただき、申し訳ありませんでした。

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