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デジタル・ディレイからサンプラーへ:VR社会の布石
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投稿者 HAARP 日時 2004 年 6 月 06 日 05:45:09:oQGUNb5q8hjD.
 

(回答先: シリーズ最終章 エレクトロニカの現在とESな世界 投稿者 ペルソナノングラータ 日時 2004 年 6 月 04 日 18:33:26)

デジタル・ディレイからサンプラーへ:VR社会の布石

1969年のアポロ11号の月着陸ミッションでは、ボギーやサンタクロースという言葉が聞かれたが、これらは地球外生命体の乗り物を表す言葉だった。
この時のミッション中継では、リアルタイムの映像・音声を数秒から十数秒遅延させて放送されたと言われている。
これは今で言うデジタル・ディレイ技術が最初に世界に向けて使われた最初のものらしい。
この1969年に使われたと言われる技術は、それに先立つ10年ほどの開発期間もあったと思われる。
また、このような映像と音声の遅延開示はNHKなどの放送局でも使われているという噂は絶えない。

このような遅延技術は、その後民生用として音楽に木霊のようなエコーを付ける機械として爆発的に拡がった。人間は残響を空間認識の重要なパラメーターとして認識するものであり、人工的な残響というものは最も初期のバーチャル・リアリティーに相当するものであった。
このような人工残響発生機の民生型で初期のものは1977年から78年にかけてのEven Tide社が発表したものが最初だったはずだ。この会社の後継機は今でも音響スタジオの定番のエフェクターとしての地位を生きながらえている。

発表当時のデジタル・ディレイは1秒を遅延させるのがやっとであり、これは当時の民生技術からすれば仕方のないことだった。ここから考えても、69年当時で映像ごと十数秒も遅延させるというNASAの技術と民生の差は、現在ではどれほどになっているのか想像もできない。

メモリー素子などの進歩により、1980年代に入ると急速に取り込める容量が増えたところで、何らかの既存の楽器で減衰時間の短いもの、例えば打楽器などの波形を取り込んでROM化し、それをトリガーすることによって簡単なドラムマシーンが出現した。
人工的な残響と人工的な打楽器及びデジタル・シークエンスのトリガー技術によって、音楽を作る環境は激変したと言える。
演奏者の肉体性を離れて、スイッチ一つで永遠にループするシークエンスを奏でることが出来るようになったわけだ。

一度にメモリーできる容量は増えると、サンプルできる楽器の種類は増えていく。80年代の前半では既にEmuを始めとするサンプラー・キーボードのメーカーがいくつかの音程が奏でられ、任意の楽器その他を録音サンプルして、かつそれを鍵盤で弾くことが出来るサンプラーを発表していた。
このようなサンプラーは、現在ではほぼ好きなだけの時間に亘るサンプルが可能であり、その音質もCDレベルを遥かに超えることから、現在のポピュラー・ミュージックでは聞こえるものが何であろうとそれが実際に発表名義のアーティストによって演奏されたものかは判別できないが、初期のサンプラーが使われた80年代中盤までのポピュラー音楽では、その不自然な音色やアーティキュレーションによって独特のニューウェイブ・フレイバーはある種の郷愁を湧き起こすものになっている。

概略で言って1975年から1985年までは、このようなデジタル技術による音楽のVR(バーチャル・リアリティー)指向の過渡期であり、世界中の人間に対して音楽のVR化への親和性教育が行われた。
これと平行して、全くの感性作業で行われる音楽、つまり単純に良い曲は衰退していくことになる。
1985年を境にして、一部のメジャーなアーティストは現在使用されているクオリティに近いレベルのデジタル楽器及び録音環境を手にしたことから、これ以降のポピュラー音楽は文字通りバーチャルなものへと変化していく。

楽器の演奏ミスは修正され、歌手の音程も人工的に修正されるようになったことから、出来上がった作品は見かけ上完璧なものになった。しかし、これはモザイクのように継ぎ接ぎされた結果であり所謂一発録りで録音されたものとは似て非なるものとなった。またサンプルされる容量も増えたことから、アンサンブル自体の一部をメモリーに取り込んで楽曲の一部とする、ループの手法も取り込まれたが、これが概念としては新しいものではなく、テープなどによるミニマル・ミュージックでは50年代から試みられたものがデジタル技術の発達によって民生化したものに過ぎない。

この85年から95年までには、感性を固定するというよりは多様に並列する音楽要素をミクスチャーするという実験が行われ、DJ文化に見られる音楽を逸脱するとも思えるスタイルの混合が多く行われた。
CDという規格のなかに収められた音から聞き取れるものは、全てがサンプルの対象となり、それがまたポピュラー音楽のマーケットへと環流していく。この技術的要件により決められたデジタル・データの中で混合されるものは、最早音楽でもありデータでもあるものとして、また身体性の表現である楽器の音色でもあり人工的に創出された音や残響として完全に並列対等なものとなった。

このようなデータとしての音楽の世界では、人類の文化史上最も早く、最も広範囲に生命的なものと機械的なものの混合が起こっている。これを音楽として毎日聴く莫大な数の人間が織りなす集合意識の様相は、2000年前のものとは全く異なるものと言えるだろう。
これは全て、最初の誰かが時間を操作するという霊感に突き動かされたということによっている。
そして、その最初の応用は真実を隠蔽するという動機の下のものであったかもしれないのだ。

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