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TOKYO少女(2)
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投稿者 ねこ 日時 2004 年 10 月 04 日 00:43:45:9Uw8PbWd453oQ
 

(回答先: TOKYO少女 投稿者 ねこ 日時 2004 年 10 月 03 日 16:07:11)

618 :70 ◆DyYEhjFjFU :04/10/03 16:34:16
6日目の朝。遅い時間。
姫様に揺り起こされて目覚めた。
最後の日だっていうのに、体がさっぱりいうことを聞いてくれなかった。
熱はいくらか治まってたけど眠くてしかたなかった。
彼女がコンビニで買ってきてくれたスープとパンを時間をかけて食べ
お礼を言って、彼女にはもう帰るよう勧めた。
楽しかった新年の数日。もう充分だ。
これ以上引きとめても可哀想だし。
午後も眠って過ごしてしまうだろうし。
彼女は何も言わなかった。
ぼくの手からパンの包みをとって捨ててくれ、
飲みきれなかったスープを引き受けてくれた。
それから彼女は裸になってベッドへ滑るように潜りこんできた。
ひんやりとした彼女の肌。
シーツの衣擦れの音。
長い髪が、かわいいおっぱいに垂れてふんわり揺れる。
寝てないから、寝る。と彼女は言った。
午後から雨が降りはじめた。
ホテルの部屋はもの音ひとつなくて
午後の美術室みたいな冷たい静けさがあった。
サイドテーブルの上の時計の振り子が
モーターの入ったガラスドームのなかでくるくる回転している。
午後1時を過ぎた頃に、彼女の寝息を聞いた。
ぼくの記憶はそこで途切れていた。
後に残ったのは浅い眠りの中で見た夢。
いまとなってはどうでもいい、アジアのどこかの街並みと
一枚のフロッピィディスク。


619 :70 ◆DyYEhjFjFU :04/10/03 16:35:37
暗い部屋の中でまた目覚めたとき
彼女はもういなかった。
クロゼットからも、バスルームからも
彼女がここにいた痕跡すらすべて消え失せていた。
シンクの回りにまき散らされた化粧品も
ベッド脇にあった紙袋の山も
一切合切が突然この部屋から切り取られて魔法のように消失した。
電源が投入されて待機画面になったままのノートPC。
サイドテーブルにあった一枚のメモ。
ぼくはふらつきながら、トイレへ立ち、そのあとで
冷蔵庫からペリエを取りだしてがぶ飲みした。
焦って飲んだせいで鼻に逆流して、止まらない咳になった。
日が落ちてから熱が体の内側から再び沸き起こり
燃えるように熱かった。
体がひどくだるく、鉄みたいに重く、関節がぎしぎしときしむようだった。
ライトのボリュームに手を伸ばしてなんとかねじることができた。
メモにに残された筆跡は達筆で、こう書かれていた。

 また熱が出るのかな。
 ちょっと心配です。
 だからクマを置いていきます。
 クマがヒロを見張っています。
 このクマはわたしの命より大切です。
 だからまたわたしに電話して
 必ずわたしのバッグに戻してください。
 
 p.s.
 ヒロの大切なお友達に連絡しておきました。
 遅くならない時間に迎えにきてくれるはずです。
 それまでベッドを出ないように。
 おっけい?わかった?

 恵子


620 :70 ◆DyYEhjFjFU :04/10/03 16:37:36
姫様はアドリブがきく。
彼女のあどけない仕草とか
細くて色っぽい声とか
綺麗な顔立ちに誤魔化されて肝心なことを忘れていた。
頭のいいこなんだ。
姫様は。

部屋の電話が鳴り、フロントから来客を告げられた。
午後10時をまわったあたり。
部屋にオタが入ってきたとき、ぼくは床に座りこんで鼻水を垂らしていた。
拭き取る気力もなかった。
「面倒かけやがって」
オタは入ってくるなりそう言った。
でも言葉ほど刺は感じられなかった。
ぼくはわけが分からずにオタにごめんと、なんども謝った。
オタは外に出るのが嫌いなんだ。
ところがここまではるばるやって来てくれた。ぼくのために。
オタは車を持っているヒキだ。
廃車寸前の四駆。
ぼくはその助手席に収まって鼻水を垂らし続けた。
車がウインカーを点滅させてどこかの交差点を曲がったとき
オタはこう言った。
「前言撤回だ。おまえの嬢様はできがいい。
できのいい女はおまえにはもったいない。
だからもう手を出すな。
ホテルの精算も済んでた。
送られて来たメールは丁寧で簡潔で、二重敬語もなかった。」
だからきれいさっぱり忘れろと言った。
おまえの手にはおえない、と言った。
それから、ぼくは泣き出した。声に出して。
ほんとにごめんな。オタ。
愛してるよ。心底。
車が自宅に到着する前にぼくは嘔吐してゲロった。
四駆のシートに派手にまき散らした。
ところがオタは窓を開けただけで、何も言わなかった。
ぼくの手に握られたピンクのクマ。
鼻に近づけるとかすかにミツコの香りがする。
姫様は、このクマがぼくを見張っているといった。
でも、それは違う。ぼくがこのクマなんだ。
君のところへ帰りたくて胸が張り裂けそうだ。
ぼくはいつだって一秒たりとも間隔を開けずに君のことを考えている。
君の胸こそがぼくのいるべき場所なんだ。


621 :70 ◆DyYEhjFjFU :04/10/03 16:38:14
今日書いてるときに流れていた曲
シャルロットマーティン/Charlotte Martin 「on your shore」

横須賀への電車の中で聴いてたバッハのチェロソナタ
ミシャマイスキー/Mischa Maisky J. S. Bach 「6 Cello-Suiten」


641 :70 ◆DyYEhjFjFU :04/10/04 00:31:40
嘔吐してゲロった。
おかしいことは承知で使いました。

お姫様に送信記録の一部を知られたというのは本当です。
まったくくだらない理由でバレてました。
あとあと説明するくだりが出てくる予定なんですけど、こんなことを追記してるとこが所詮シロウト。
文章で補えないところは口答でw
クマが見張っている→クマが見守っている とするべきでした。

続きを書いてますけど、微熱が続いてます。
明日も休みをもらってるので、ゆっくりあげます。
待ってるよとレスされると、急いで書いてしまうので待たないでくださいw

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