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『開かれた社会とその敵 第二部予言の大潮 ヘーゲル、マルクスとその余波』
（カール・Ｒ・ポパー著：小河原誠―内田詔夫訳：未来社刊：４２００円＋税）
「第一四章 社会学の自律」より：
「私の論点を明確にするために、広範に受け入れられてはいるが、私の見るところ社会科学の真の目的とは正反対のものを前提している理論を手短に叙しておこう。私はそのような理論を「社会の陰謀理論」と呼んでいる。この理論の見解によれば、社会的現象の説明は、そうした現象の実現に関心を持ち（時として、この関心は隠されているから、最初に暴露されなければならないのだが）、またそうした現象を惹き起こそうと計画したり、陰謀をめぐらした人間とか集団の発見にある。
社会科学の目的についてのこうした見解は、言うまでもなく、間違った理論、すなわち、何であれ社会で生じる出来事―とりわけ一般に人々が嫌悪するところの戦争、失業、貧困、欠乏、といった出来事―は、若干の権力を握った個人や集団による直接的計画の結果である、という間違った理論に由来している。」（Ｐ．９２）
「陰謀は決して生じない、と私は言おうとしているのではない。反対に、陰謀は典型的な社会現象である。例えば、陰謀理論を信じている人々が権力を掌握する時にはいつでも陰謀が重要なものとなってくる。そして、地上に天国を作り出す術を知っているとまじめに信じている人々は、おそらく陰謀理論を採用し、存在しない陰謀家に対する対抗―陰謀に加担し易いであろう。というのは、彼らの天国を作り出すのに彼らが失敗したのは、地獄に既得権を持つ悪魔の邪悪な意図のせいである、というのが唯一の説明になるからである。
陰謀が企てられるということ、このことは認めなければならない。しかし、陰謀の発生にもかかわらず、陰謀理論を論駁する驚くべき事実は、結局のところ、それらの陰謀のうち成功するものはごくわずかしかないという事実である。陰謀家がその陰謀を成就するのは稀有なのである。」（Ｐ．９３）
※ 批判的合理主義を唱えながら、論証抜きで「間違った理論」と決め付けたり、「結局のところ、それらの陰謀のうち成功するものはごくわずかしかないという事実」と実例や実数を挙げないまま説明している態度に戦慄を覚えます。
そして、陰謀理論の偽を論証するとして、
「ある男が家を購入したいと切実に望んでいるとしよう。この時われわれは確信をもって、この男は家の市場価格を高くしたくないと望んでいる、と仮定できる。しかし、彼が購入者として市場に現れるという事実はまさしく市場価格をつり上げる傾向を持つであろう。そして、同じようなことは販売者についても言えるわけである。また、全く別の分野から例を取ってみよう。ある男が生命保険の契約を決心したとしよう。この男が、ある人々に保険会社の株式に投資するよう勧める意図を持っているとは思われない。だが、それにもかかわらず、かれはそうしたことになろう。ここに至って、われわれの行為のすべての帰結が意図された帰結でないことは明白である。それゆえ、社会の陰謀理論は真ではありえないのである。なぜなら、陰謀理論は、一見したところでは誰にも意図されなかったと思われる結果でさえ、そうした結果に関心を持っていた人々の行為から生じた意図的結果であると主張するに等しいからである。」（Ｐ．９４）
※ 陰謀論の真偽を論証しようとする際に、住宅購入希望者や生命保険加入者と生命保険株式価値を持ち出したのには唖然としました。
このような論理が、「若干の権力を握った個人や集団による直接的計画」という「陰謀理論は真ではありえない」の論証になるというのなら、“批判的合理主義”とやらはいい加減なものということになります。
でも、真顔で「陰謀論」を取り上げたことにはそれなりの評価ができると思っています。
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。