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(回答先: ユビキタス社会の落とし穴 [Alternative Media/青山貞一氏] 投稿者 なるほど 日時 2004 年 4 月 02 日 16:18:04)
プライバシー・クライシス 文春新書 (023)斎藤 貴男 (著)より
個人情報の使われ方(P84〜87)
住基ネットワークシステムが稼動した場合、それがどのようにして運用されるかが問われなければならない。法案や報告書を検討していくと、政府は、各市町村が発行し希望者に配布するICカードをこのシステムの基盤技術として位置ずけていることがわかる。
ICカードが、小さな“電子頭脳”と呼べるほどの機能を有していることはすでに述べた。カードリーダーに差し込んでデータを読み取ってもらう接触型と、無線データを送信できる非接触型とに大別できるが、どちらも従来の磁気カードに比べて百倍以上の記憶容量を持っている。住基ネットワークシステムが単なる住民票事務の電算化にとどまらず、他の行政機関の事務処理にも及び得る物理的な理由がここにある。
広くは知られていないが、そこに関係する人々にとっては常識でしかない知識を、まず承知しておきたい。政府が集めた個人情報が現実にどう活用されているのかを示す典型的な例−。
引越し、新婦夫妻の新所帯、親元をはなれての独立・・・・。何であれ、われわれが新しい町に住み始めると、近くの交番から警察官がやってきて“巡回連絡カード”への記入と提出を求めてくる。カードには世帯主と家族の氏名、生年月日、続柄、本籍など住民票の記載事項の他、職業や勤務先、通学先と学年、同居人の素性、保有自動車の種類と保管場所、非常の場合の連絡先として親族または知人等の住所氏名の欄などが設けられる(図U−1)。
何も考えずに素直に応じれば、とりあえず何も起こらない。が、拒否すると怖いことになる。
警察幹部の打ち明け話。
「巡回カードを嫌がる人は、それだけで反警察的・反体制的な好ましくない人物として調査の対象になります。マンションの大家や入所をあっせんした不動産屋をはじめ、周囲を徹底的に洗う。場合によっては尾行も行います。あくまでも防犯の見地からの活動ですから、調査の結果、特にマークする必要がなければ、それ以上は追いません。ただし巡回カードに非協力的だったという事実は、所轄警察署の地域課に保存される母簿に残る。共産党員や過激派、オウムのような連中だと、その後も監視下に置くことになります」
私自身もささやかな経験がある。フリーの物書きとして独立して間もない頃のことだった。
賃貸アパートの一階に居を定めた私は、巡回カードへの記入を二度ほど拒否した。すると何か月かして、それまでとは違う警察官の訪問を受けた。以下、彼との会話である。
「どうしても記入してもらえませんか」
「はあ。お巡りさんには申し訳ないんですが、職業や親のことまで書けというのは、やっぱりおかしいと思うんです」
「そうですか」
「でもまあ、僕はノンポリで過激派じゃあありませんから。ご心配なく」
「ええ。ところで、フリーのライターって大変でしょう?」
「・・・・・(職業まで)よくご存じですね」
「どこにも勤めず、好き勝手なこと書いて生活する。いやあ、私ら宮仕えから見ると羨ましい限りです」
「・・・・・・・・・」
「ああ、それから、お宅のお風呂場ね。あそこの窓枠は外からでもドライバー一つで簡単に取り外せます。ここは一階だし、用心することですな」
交番を拠点とするこうした警察活動と、かつて世界一を誇った治安状況との因果関係は証明できない。少なくとも近年の凶悪犯罪に対してまるで無力である現実と、防犯目的を強調しながら、その本質が優れて政治警察的である点だけを、ここでは指摘しておく。
巡回カードの母簿に残された記録は、その住民が犯罪に関わらなくても、そのまま警察署の倉庫で眠り続けるわけではない。つぎのような形でも活用される。
警察庁公安部OBの証言。
「現在では、大手と呼ばれる企業のほとんどに元警察官が天下っています。彼らは総会屋への利益供与が発覚した『味の素』のように、裏の仕事に携わるだけでなく、社員を採用する際にも活躍する。入社志望者やその親の身元、思想信条に関する情報を、警察から入手するのです。共産党員はもちろん、巡回カードへの記入を拒否したりして地元の警察に反体制的とみなされている人やその子息の就職は難しくなるわけです」
八〇年代半ば頃まで、多くの企業は入社希望者に提出させる書類に両親の職業や学歴、詳しい家族構成まで記入させていた。今日、企業がこの種の情報を求めるのはご法度とされる。一般のプライバシー意識の高まりと労働省の行政指導の成果だったが、何のことはない。企業は志望者の周辺情報を本人にたずねないかわり、警察から手に入れるようになったのである。
レビュー
日経ビジネス
個人情報の危機を考える
1970年代に政府は国民総背番号制度の導入を試み、国民の反発によって断念した。それから四半世紀、情報化社会の発展とともに総背番号制度に対する抵抗感も薄らいだ今、政府は今またこの計画を本格的に進めつつある。制度導入に伴う個人のプライバシー侵害などの問題を考察した1冊。
国民総背番号制度はもともと、税の不公平をなくすため、納税者番号をもとにした管理システムを作ることがねらいだった。
しかし、今これを現代に即応したかたちで機能させるために、生年月日や住所だけでなく、職歴、病歴といった個人情報を一括管理する発想が生まれている。それによって、役所の事務や事故・災害処理などの効率化が図れるからだ。
しかし、個人の立場から見れば大きな問題があることも事実だ。もし集積回路(IC)内蔵の個人識別(ID)カードによる国民管理体制が作られれば、例えば図書館で借りる本、買い物、レンタルビデオの利用などから、趣味・嗜好に関する情報までがあらわになる恐れもある。
情報管理社会と個人のプライバシーについて考えさせられる。
(日経ビジネス1999/3/15号 Copyrightc日経BP社.All rights reserved.)
出版社/著者からの内容紹介
定期券、貯金通帳から病院のカルテまで、最先端技術をもってすれば一元管理など実に容易なのだ。いま甦る国民総背番号制度の悪夢
内容(「BOOK」データベースより)
国民一人一人にICカードを携行させ、生活のすべてをコンピュータで一元管理しようとの政府計画が、密かにすすめられている。いま甦る国民総背番号制度の悪夢。その後の技術の発展が自動改札定期券、預金通帳、病院カルテなどの統合・集約を可能にしつつあるのだ。しかも若年層を中心に、管理されることに慣れきった人びと―。人間の尊厳を守るために、いま何を知り、何をなすべきなのか。