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http://www.kumanichi.co.jp/kawabegawa/bunsuirei/bunsuirei01.html
利水の自治体次々撤退 水需要予想量が計画を下回る
拡大する国と地方の財政赤字、景気低迷や人口増の鈍化などで縮小する水需要。厳しい現実を踏まえ、ダムを核とした河川行政の見直しが進んでいる。転換点に立つ利水事業やダム建設計画の現状を各地に訪ねた。
湿原で知られる尾瀬のふもとに位置する群馬県片品村。人口約六千人の静かな山村に今月中旬、衝撃が走った。
「片品村に計画中の戸倉ダム事業を中止する」。ダムからの給水を予定していた埼玉県と東京都が突然、事業撤退を表明。「客を失った」（国土交通省幹部）ダム事業は、計画から二十年を経て白紙に戻った。
「あまりにも唐突すぎる。一方的にダム事業を要望して、今度は勝手に下りる。私たちの協力は何だったのか」。ダムを観光資源に位置付け、下流域自治体による基金で生活基盤整備を進める片品村の幹部は、中止決定に憤りをあらわにした。
戸倉ダムは、水資源機構（旧水資源開発公団）が一九八二（昭和五十七）年に計画。二十五のダムや用水路から成る利根川・荒川水系の水資源開発基本計画で、首都圏の”水がめ”の一つに位置付けられ、九二年に工事が始まった。
ところが昨年、国交省が長期的な水需要の見直し作業に入り、最大利水者である埼玉県と東京都に総需要量を照会。人口見通しの下方修正や暫定水利権の見直しなどで、両自治体の需要予想量は、現行計画を二割近く下回ることが判明した。
■「当然のこと」
加えて、国交省は十月、同じ水道用として建設を進める八ツ場ダム（群馬県長野原町）の事業費が倍増する見通しを発表。両自治体が下した決断は、戸倉ダム事業からの撤退だった。
「これだけ財政が厳しい今、中長期的な視点に立ち、不要な事業をやめるのは当然のこと。地元の事情も分かるが、県民への責任もある。戸倉ダムは本体工事に未着手で、中止の影響が最も小さい」。埼玉県では撤退理由をこう説明する。
水資源機構や国の大規模ダムとして初めて、事業開始後に中止を余儀なくれた背景には、同機構の独立行政法人化に伴い施行された水資源機構法もある。利水者が事業撤退する際の負担割合を定めた”撤退ルール”を初めて明文化。タブー視されてきた公共事業の中止への道筋を開いた。
■地元補償で論議
中止決定に関し、国交省河川局は「これまでの再評価制度と同様、実情に照らし、客観的に公共事業の適性を判断しただけ」と説明する。
ただ、川辺川ダムの見直しになると「治水という重要な役割があり、利水の比重が高い戸倉ダムとは根本的に違う」との立場。風岡典之事務次官も「ダムには個々の事情があり、幅広い視点の議論が必要」と言う。
今回の国交省の対応について、「首都圏のダム問題を考える市民と議員の会」代表の藤原信・宇都宮大名誉教授は「他の大規模ダム建設を推進するための捨て石ではないか」と懸念する。
藤原代表は「あいまいな行政の裁量で中止を決めるのではなく、治水を含めた基準を明確にし、ダムに振り回された地元補償の法整備も進めるべきだ」と指摘する。 （東京支社・毛利聖一）
◇戸倉ダム 首都圏の水道用水確保と治水が目的。総貯水量約９２００万立方メートルで、総事業費１２３０億円。用地買収や工事用道路などに着手し、進ちょく率（工事費ベース）は約２２％。国のレッドデーターブックで絶滅危ぐ種に指定されているクマタカが周辺で発見され、環境影響評価（環境アセスメント）のため９６年度から５年間、事業が中止された。
熊本日日新聞 ２００３年１２月２８日朝刊掲載
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。