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(回答先: タイガの特徴【シベリア・タイガの森(4) FoE Japan】 投稿者 エイドリアン 日時 2003 年 12 月 13 日 09:20:39)
[タイガで数百年以上暮らし、今、生活基盤を奪われつつあるウデゲ人:少数民族]
■ かつて"無限"と考えられたタイガも、確実に劣化が進んでいます。それは、数字となってロシアの林業統計にも表れるほどの劣化です。しかし"森林資源"の減少としての状態の悪化は、タイガの破壊で生じる数々の問題の一つに過ぎません。ここでは、極東ロシアのタイガの破壊がなぜ問題となるかを考えていただくための参考に、いくつか例を挙げてみます。
http://www.foejapan.org/siberia/taiga/10.html
■ タイガは、ユーラシア大陸、日本をふくむ北東アジアの環境の安定にとって重要
ユーラシア大陸北部やサハリン島のかなりの部分をタイガが覆っていることで、広い範囲に渡って水や大気が浄化されるなど、生物や人間にとって住み良い環境が形成・維持されている。日本列島を含む北東アジア地域の気候風土や日本海やオホーツク海の水産資源の豊富さも、極東ロシア大陸部やサハリン島のタイガの状態に影響を受けている。
タイガが破壊されると・・・
極東ロシアで起っているタイガの破壊は、総体として大きな影響力をもち、ロシアの国境の外にまで及ぶおそれがあります。
その場合の影響 − どこで何がどの程度変化するか − について述べた研究が存在するか私達は調べていませんが、タイガの破壊が拡大した場合、その影響はロシア国境を越え、日本人がこれまで何百年も当たり前のように享受してきた気候風土や食生活に何らかの影響を与える、ということはほぼ確実であると言えます。
それは、日本列島付近の気候や、日本の漁業にとって大切なオホーツク海の水質などを決める重要な要因のひとつが極東ロシアのタイガの健康な営みであるからです。
以上、極東ロシアのタイガを守ることはこれからの世の中の"危機管理"であると言っても決して過言ではなさそうです。
http://www.foejapan.org/siberia/taiga/11.html
■ タイガには、少数民族の生活基盤となっている場所がある
タイガには、ウデゲ人やナナイ人といった先住民族の暮らし、文化の基盤となっている場所がある。そういった箇所でのタイガの破壊は、先住民族の暮らしや文化に壊滅的な打撃を与える場合がある。
1989年、韓国の某多国籍企業と旧ソ連の企業の合弁企業が沿海地方のビキン川という川の上流域のタイガを伐採する計画を発表しました。これに対して反対運動を起こしたのがこの一帯で数百年以上暮らしてきた、ウデゲ人と呼ばれる少数民族の人々でした。(写真)
意外に思われるかもしれませんが、タイガには人々の暮らす場所、大規模商業伐採以外の利用 − 狩りや山菜採り−をする場、となっているところが沢山あります。なかでも、日本海に沿って連なるシホテ-アリニ山脈のタイガは、このウデゲやナナイの人々(ツングース系の少数民族です)にとって何百年も前から家や庭も同然となってきました。黒澤明監督の映画にも、この地方を舞台とし、ナナイ人の猟師が主役となった作品(『デルス・ウザーラ』)があります。
シホテ-アリニ山脈のタイガは、後述の「アムール−サハリン生物圏」の中でも中心的な役割を果たす森林で、まだ林道が達していない箇所には数多くの動植物の暮らすタイガの生態系が見られます。少数民族の人々も暮らしの場としてこのタイガのある場所を選んだわけですが、極東ロシアの林産企業が針葉樹丸太を集めるために最も注目しているタイガも、このシホテ-アリニ山脈のタイガとなっています。
http://www.foejapan.org/siberia/taiga/12.html
■ タイガは、絶滅危惧種の野生生物の宝庫
写真下に見られるようなフクロウやアムールトラなどの野生生物にとってタイガは失うことの出来ない住みかとなっている。そうした箇所でのタイガの破壊は、野生生物の生息を根本から脅かし、最悪の場合は種の絶滅を招いて生態系のバランスを壊してしまう。
極東ロシアは日本の17倍もの面積のある地方であり、タイガはじつにその45%までを覆っています。しかし実際に伐採の行なわれてきた箇所は南部の一部の地域に集中してきました。
これは気温の低い北部のタイガでは十分な太さの木の得られなかったこと、北部には道路などのインフラが不足していたことなどが原因ですが、結果的に伐採の集中してきた地方 − アムール州、ハバロフスク地方、沿海地方、サハリン島など − のタイガは、一方で世界的に重要な生態系の基盤を成す森林でもありました。良質の針葉樹丸太を得るために最も激しい伐採の行なわれてきた地方が、実は広い極東ロシアの中で最も生命に溢れる森林生態系のある地方でもあったわけです。皮肉なことですが。
世界銀行がロシア森林政策を分析して1996年に出した報告書は、この地方を「アムール-サハリン生物圏」と呼び、その重要性をこのように紹介しています。
「カフカス(コーカサス)山脈と極東ロシア地域の種の構成は独特であり、その多様性・固有性において世界のあらゆる温帯林を凌いでいる。また、ロシアの森林はシベリア地域と極東地域の先住民族の文化的多様性を支えている。
なかでも極東ロシア地域の "アムール-サハリン生物圏"は、その大部分が氷河期を経験していないため特別な重要性を持つ。過去の氷河期の際、この地域は"種の避難所"となり、その結果今日のこの地方の植物や無脊椎動物の固有性は、きわめて高いものとなっている。(Krever and others 1994; Charkiewicz 1993)。かつては類似の森林が中国や韓国、日本を覆っていたが、今日ではその多くがすでに破壊されてしまっている。
極東ロシア地域の生物学的・地理学的変遷はきわめて独特であり、世界の他の地域にはない動植物相をもたらした。今日、極東ロシア地域では、アムールトラ、アムールヒョウ、ジャコウジカ、ツキノワグマといった野生動物が、ヒグマやトナカイ、サケと生息地を共にしている。」
("Russian Federation Forest Policy Review; Promoting Sustainable Sector Development During Transition" p25,"The Global Significance of Russia's forests"より。著者和訳)
つまり、針葉樹丸太を集めるためにソ連時代から盛んに伐採の行なわれてきたアムール地方からサハリン島にかけてのタイガが、実は、言ってみれば自然の宝庫であり、そこではタイガこそが、様々な動植物が織り成す生態系の基盤となっていたわけです。
そして、ロシアの政府機関の作成した絶滅危惧種のリスト(レッドデータブックと呼ばれます)を見るとこれらの地方には絶滅の危惧される数多くの動植物が存在することが分かります。
これらの絶滅危惧種の数は、森林以外の場所−湿地や海など−の生物を含んでいるとはいえ、この「アムール−サハリン生物圏」と呼ばれた地方の自然の代表的な形態がタイガであること、そして湿地や海もタイガとつながっていることを考えると、この地方のタイガの破壊は、思ってもみなかったような生物の絶滅を引き起こす可能性があります。
説明が長くなりましたが、この「アムール−サハリン生物圏」という捉え方は大切なヒントであると思います。極東ロシアの全部の州や地方の名称を覚えるのは面倒かもしれませんが、取り敢えず、この「アムール−サハリン生物圏」にある州や地方としてこの四つを覚えておいて下さい。この後、この本の中でまた登場します。
・ アムール州(州都 ブラゴベシチェンスク)
・ ハバロフスク地方(州都 ハバロフスク)
・ 沿海地方(州都 ウラジオストク)
・ サハリン州(サハリン島、旧樺太 州都 ユジノ−サハリンスク 旧豊原)
そしてこれはロシアの制度上の問題ですが、現状では森林開発のためのロシアの制度、手続きは、現場の自然や生態系やを十分に守れるものとなっていません。
たとえばハバロフスク地方政府が1997年暮れマレーシアの会社にタイガの伐採権を得た場所 − スクパイ川流域 − は、そのわずか3年前に現地を調査した同じ地方の科学アカデミーの科学者たちが、国立自然保護区としての指定を求めたほどの場所でした。
http://www.foejapan.org/siberia/taiga/13.html
→タイガは炭素の「緑の貯蔵庫」【シベリア・タイガの森(6)】へ