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インフレ・ターゲットの導入にてこずる政府には、戦略転換して今度はマネーサプライ・ターゲットを導入しよう、との動きが見られる。しかし、今日の日本においては、インフレ・ターゲットの導入以上に難しい目標設定と考えられる。
かつて、米国ではFRBのカリスマ議長といわれたP.ボルカー氏が、果敢にもこのマネーサプライ・コントロールに挑戦し、見事に敗退した。79年の10月6日と記憶するが、ボルカー議長はインフレ・マインドを抑制するために、突然、従来の金利目標策から預金準備のコントロールに切り替え、マネーをコントロールしようとした。金利は突然20%に跳ね上がったかと思えば、翌日には5%に下落する、と言った具合に、金融市場は突然混乱に陥った。この荒療治の結果、その後インフレは次第に終息してゆくのだが、当局は日々のマネー・コントロールの困難さに疲弊し、いつしか金利コントロールに戻さざるをえなくなった経験をしている。
今日の日本は、当時の米国とは別の困難に直面している。米国市場が「強すぎる風の中で、凧がうまく上げられなかった」のに対して、今日の日本は「風がなくて凧が上がらない」状況にある。だから、ボルカー議長やグリーンスパン議長のような名人をもってしても、凧は上がらない。
日銀の指令に対して、現実にマネーを創出する役割は民間銀行に委ねられている。その民間銀行が、マネーの源である資産を拡大しにくくなっている。例えば、マネー創出の最大の柱となる貸出が難しい。ここには少なくとも三つの壁がある。
第一に、地価の下落で新たな不良債権が発生しやすくなっている。担保不動産の価格が引き続き下落しているため、放っておくと、保全されない「裸の債権」部分が大きくなる。そこに「ディスカウント・キャッシュ・フロー」を持ち込むと、返済期間が長くなってしまう。そうすると、従来「正常債権」であったものが、不動産担保の減価によって「要注意先債権」になる面があり、引当コストが高まる。時限を切られて不良債権比率を半減させ、かつ自己資本比率を維持せよ、ということになると、なかなか貸出を増やせなくなる。
第二に、企業の債務圧縮傾向が続いており、かつ大企業では潤沢なキャッシュ・フローのなかで、外部資金への依存が低下している。このため、依然として資金需要は低迷している。
第三に、公的金融も含めてみると、貸出市場が今なおオーバー・レンディングの状況にあり、クレジット・コストに見合った金利設定が難しくなっている。また、大手銀行では市場金利連動型の貸出金利設定が多くなっているが、日銀によるゼロ金利政策と、時間軸効果によって、短期の市場金利もほぼゼロとなっている。つまり、これに連動した貸出金利も低位で推移し、ここでもクレジット・コストをカバーするだけの金利設定が難しくなっている。
こうした状況では、銀行による貸出の増加は困難で、その分、国債保有等、政府向けの信用が増えることである程度マネーを供給してきた。しかし債券相場が不安定になれば、この面からのマネー創出も難しくなる。こうした市場構造を改善しないまま、マネーサプライ・ターゲットを設定しても、日銀や民間銀行に圧力をかけるだけで、成果をあげる可能性はきわめて低い。ひいては、政策当局のクレディビリティを問われることにもなりかねない。
[2003.12.24]
http://www.tbs.co.jp/newsi_sp/keizai/