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「イスラームの世界観とムスリム少数派」(1)[中田考]
http://www.asyura2.com/0311/bd32/msg/401.html
投稿者 なるほど 日時 2003 年 12 月 13 日 18:33:11:dfhdU2/i2Qkk2

「イスラームの世界観とムスリム少数派」(1)
(平成15年度宗教法人関係者人権問題研修会講演:平成15年9月2日)

 まず、イスラームとムスリムとはどう違うのか、そこのところからお話をさせていただきたいと思っております。といいますのは、今日の講演にはアラビア語の原語などが多く出てまいります。それだけでも耳慣れない言葉なのでわかりにくいかと思いますので、今日はできる限り丁寧に、一度出てきた言葉も何度も訳語をつけつつお話をさせていただきたいと思います。
 私は先ほど紹介のありましたように、東京大学文学部イスラム学科の出身で、文献学が専門です。狭い意味での専門は、13世紀から14世紀に現在のシリア、エジプト、レバノンのあたりで活躍しましたイブン・タイミーヤという中世の思想家の研究をしております。そういった関係上、宗教の歴史や思想史を研究しております。言葉の非常に細かい意味の変遷、同じ言葉を使われていても昔と今とでは意味が違う、そういうことを調べるのが専門でありますので、職業柄、言葉の使い方に非常に神経質になります。この研修会は人権の問題を考えるものでありますが、人権という言葉一つをとっても、(現在のイスラーム世界、アラビア語の世界でも権利や人権という言葉に相当する言葉はありますが、)そのような概念が1400年のイスラームの歴史のなかでそもそもあったのかということを考えていくときに、けっして簡単に、人権というものがイスラームにある、あるいはイスラームにおける人権とはどういうものか、ということは言えない、ということを考えることが仕事なものですから、どうしても違いの部分を強調することになりまして、そのへんで細かい議論に入ってしまって申し訳ないと思います。
 前置きはこれくらいにいたしまして、基本的にレジュメにあります順番でお話をさせていただきたいと思っています。タイトルは「イスラームの世界観とムスリム少数民族の問題」ということになっております。少数民族の問題にもふれますが、細かい事実関係についてお話をするのではなく、新聞等で最近目にすることの多いムスリム少数民族の問題を考えるための基本的なイスラームの世界観についてお話をすることが主眼になります。ですから、あまり細かい事実関係についての話を期待されると期待はずれになってしまいますけれど、そのへんはご容赦願いたいと思います。
 それではレジュメに沿ってお話をさせていただきます。まず、1の「真理とイスラーム」です。今日は、イスラームの世界観をお話させていただくわけですが、とくにイスラームに限らず、どんな宗教でも、どんな民族でも、どんな文化でも、すべてに共通する部分と違う部分がございまして、イスラームの世界観のお話をするときには、イスラームの信仰を前提としてはじめて意味をもつようなものがある一方で、それとは関係なく誰でも理解できることもございます。両方の側面があるわけです。今日はできるだけ区別して話そうと思っておりますが、イスラームの問題ということではなく、もっと普遍的な、人類に共通するような問題をお話しますと、それはイスラームの思想か、イスラームの考え方かと思われてしまうと誤解を招く部分もありますので、そのへんはしつこいぐらい区別をしながらお話をしていきたいと思います。
 まず、「真理」という日本語がありますが、これにあたる言葉はアラビア語で「アル・ハック」と申します。これが実は「権利」と同じ言葉なのです。そういうことを少しお話したいと思います。
 イスラームでは皆さまもご承知のとおり、神の名前は「アッラーフ」というのですが、これは英語でいう「The God」、唯一の神にあたるとよくいわれます。「アル」が定冠詞で、それに「イラーフ」という言葉がつきまして「アル・イラーフ」、これが定冠詞つきの神、アッラーフになるというわけです。アッラーフという神にはいろいろな名前がありまして、別名がたくさんございます。俗に99の名前があるといわれておりますが、その一つが定冠詞つきの「アル・ハック」、真理であります。つまり、真理という神の別名でございます。
 イスラームは、キリスト教やユダヤ教と同じく創造主をたてる宗教であります。神は創造主であって、人間も含めて宇宙は神によって無から創られるという世界観をキリスト教やユダヤ教と共有しています。そういう神というものが、アル・ハックであります。宇宙はイスラーム世界観では神の被造物でありまして、被造物は常に神に従っています。従っているというと人間的なイメージがありますが、そうではなく、宇宙はすべて神によって創られておりますので、神の意思のままであります。神の意思の現れが宇宙であります。
 日本語の「法」といった場合も、「自然の法」と「人間の法」とどちらも「法」という言葉で表されますが、ヨーロッパの言葉でもそういう使い方をいたします。イスラームでも、「法」には「自然の法」と「人間の法」がありますが、「自然の法」というのは、重力の法則があって物が落ちるのも神の意思であると考えます。自然科学では重力の法則といいますが、これも神の意思であり、神の意思が法であって、それに従ってこのように私の財布は下に落ちるわけです。このように、すべてのものは神の意思に従っているというふうにイスラームでは考えます。ですから、自然の法則といわれるものもイスラーム的にいうと神の意思であります。
 イスラームというのは何かといいますと、他の宗教では、キリスト教はイエス=キリストの名前にちなんでキリスト教という名前になっておりますし、仏教も仏陀の名前にちなんで仏教という名前になっておりますが、イスラームはそうではなく、ムハンマドという預言者の名前にちなんだ名前ではありません。イスラームというのは普通名詞なのであります。イスラームというのは、「アスラマ」というアラビア語の動詞がありまして、それの動名詞形がイスラームであります。これは服従する、降伏するという言葉でございます。仏教的にいうと帰依するという言葉にあたると思います。絶対的に身を投げ出すということであります。もともとイスラームの語源は「サリマ」という言葉であり、これは平和とかの意味であります。相手を平和にするのです。要するに自分のほうが降伏をして武装解除をするということです。そういう意味で、イスラームというのは帰依、絶対服従という意味であります。
 イスラームというのは、被造物である宇宙が創造主であるところのアッラーフに服従している姿なのです。宗教としてのイスラームというのはもちろんありますが、それ以前に、宇宙のあり方がイスラームでありまして、真理というのは実はアッラーフであり、イスラームというのは宇宙の姿であります。
 もちろんイスラームと真理はイスラームの考え方では矛盾はしませんが、どちらが大切かといいますと、当然真理のほうが大切であります。イスラームというのはあくまでも真理に至るというか、真理に対する被造物の姿でしかありません。イスラームというのは相対的なものなのです。真理のほうが大切であります。私はイスラーム学者ですし、イスラームを正しいと自分自身が考えた上で求めるわけですが、それはあくまでもイスラーム自体が目的ではなくて、真理を求める手段としてイスラームがあるということであります。個々の人間の営みはあくまでも人間の努力によるものであり、相対的なものであって、けっしてそれ自体を自己目的化して絶対化すべきものではないと思います。
 「アル・ハック」が、実は神の名前であり、真理である。というところから話を始めますが、アラビア語にはいろいろな意味が重層的にありまして、人権という言葉、権利という言葉も実はハックなのであります。ですから、われわれがアラビア語で現代に書かれたものを読んでいて、あるいは中世のものでいいのですけれど、現在のわれわれの見方でみた場合、「これは権利だな」「これは人権だな」と思われるものは、訳してしまうとどうしてもそうなるのですが、実はそれはもともとのイスラームの文脈のなかでは全然違った意味合いをもっていることがあるわけです。それを最初にご説明して、それからマイノリティの話をしたいと思います。
 そのためにはまず、私たちが何気なく使っている権利という言葉について、そもそもそれがどういう意味をもつのか考える必要があると思います。それはけっして一つのものではなく、いろいろな意味合いをもっております。これは今日の話の目的ではありませんので少し端折って話をさせていただきますが、いくつかの意味合いがございます。
 私たちは、人権がある、人間には生きる権利があるという言い方をしますが、そもそも権利があるというのはどういう意味なのかというと、必ずしも明らかではありません。といいますのは、権利というのは、物があるような形であるものではないからです。人は幸せに生きる権利があるといいますが、実際には幸せに生きない人間もいます。幸せでないからこそ権利の問題があるわけです。
 最近、池田小学校の殺人事件が求刑されましたが、小学校で罪もない子どもたちが不条理に殺されてしまうということがあり得るわけです。生きる権利があったはずなのに殺されてしまう。そういうことが実際にはあるわけです。そのときに、死んでしまった子どもたちに対して、彼らに生きる権利があったということには何の意味があるのかというと、けっして簡単に答えられる問題ではないわけです。この研修会は宗教法人の関係者の集まりですので、この世界を超えた何か別の世界というか、この世界を超えた宇宙というか世界というか、そういうものがあるという漠然とした考えは皆様も共有されていると思いますが、それがないところで権利という言葉を口にすることはどれだけの意味があるのかというと、私は非常に疑問に思います。死んでしまった人に対して権利があったということに何の意味があるのか。もちろんこの世の中でということに意味を与えていく努力は非常に尊いことだと思いますが、結局のところ、死んでしまった人に対して意味合いをもたせるというと、権利は第一義的には法律の用語ですので、死んだ人間の遺族に補償をするとか、あるいは罪を犯した人間を裁くという話になります。それが人権の意味かというと、やはり何か違うわけです。
 権利という言葉は、概念としては、権利があるといった場合に、物があるような形であるものではなく、むしろある状態がないということを前提にしてはじめて権利というものがあるのだということだと思います。そのときに人権という概念にはそもそもどういう流れがあるのか。いくつかあるのですが、レジュメに四つ書きました。この話は本題ではありませんので端折りまして、四つあるものを大きく二つに分けて、規範説と意思説があって、それぞれaとbに分けています。規範説のほうは省きます。憲法とかそういったものに出てくる権利とか人権の概念は意思説にあたりますので、そちらを簡単に説明します。
 現在のわれわれの憲法にあるような人権の概念は、おおざっぱにいうと二つの流れがあって、一つはアメリカ憲法の流れであるといってもいいと思います。今のブッシュ大統領の言説を、私たちは新聞その他で見られるようになったので、彼が非常に宗教的であるということが一般の人にもわかるようになりました。それは彼だけではなくて、そもそもアメリカというのは非常に宗教的な国なのです。そのことは同志社大学神学部長の森孝一先生が御専門であるわけですが。あれが本当のキリスト教の教えに則っているのかどうかは別問題として、少なくともブッシュ大統領本人が、自分はキリスト教の教えに則って物事を進めているのだと思っていることは疑いないと思います。
 それは今の話の流れのなかでいいますと、人権というのは神によって与えられたものなのだと。人権があるというのは、神が与えたからあるわけです。このことはアメリカ憲法のなかに明示されています。人権というのは神から与えられたものなのである。それゆえに永遠のものであって、普遍性をもつものである。これが一つの流れです。言い換えると、人権というのは神の意思であるわけです。ここで意思という言葉を使ったのは、先ほどの権利という言葉は、事実としてあるものではなく、人間が幸せに生きるべきなのである、生きる権利があるといった場合、それは必ずしもすべての人間が幸せに実際に生きていることを意味していません。実際にはそうではない人間がいっぱいいるわけです。そこで権利があるということは、そういうものを望ましいと思う意思の問題に最終的には帰着するわけです。そのときにその意思は誰の意思なのかということです。それが神の意思すなわち神意であるといった考え方の流れになるわけです。
 これとは反対に、それは人間の意思であるという流れがあります。われわれはそれを望むのである。人間というのはそういうものであって、そういうことを望んでいるのだ。それは人間の本性なのだという考え方です。これはとくに神をたてないわけです。これは歴史的にはホッブス、ロックというイギリスの社会契約論の思想家、それからルソーからフランス革命の人権宣言に至る流れです。この流れは神をとくに必要としないわけです。もちろんキリスト教が背景にはあるのですが、明示的にはそうではなくて、人間というものが価値の源泉であるという考え方です。
 日本の憲法、人権の流れはこちらにあるわけです。といいますのは、日本の憲法はアメリカの占領下でつくられましたから、アメリカの大きな影響を受けています。しかし、日本はキリスト教の国ではありませんので、権利は神から与えられたというような言葉を入れる余地がないわけです。ですから、その部分は日本の憲法を読むと曖昧で何も書いてないのです。人権はありますと書いてございますが、なぜあるのかという根拠の部分が曖昧なままに残されています。要するに、超越的なそういう背景がないので、人間のこの世界で完結させるしかなく、そういう流れになるわけです。
(続く)
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