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(回答先: 西日本新聞:特集記事「ヤミ金融を追う」第3部:業者の内幕 [記事15本]【「闇金」“先進地域”福岡:業者「ヤミ金はもう頭打ち」】 投稿者 あっしら 日時 2003 年 6 月 28 日 18:55:27)
「高利とわかっていても、ヤミ金融に手を出し、転落していく人々。そのほとんどが、銀行や消費者金融などに多額の借金を抱える多重債務者。すがるような思いで、自らヤミ業者にすり寄っている現状がある。借金返済のための借金。銀行を頂点とする金融ピラミッドの中で、複雑に絡み合い、無限に膨らんでゆく連鎖の構図を報告する。」
第4部第1回
中小貸金業者 〜 審査落ち狙う裏の顔も 〜
「十万、お願いします。お金が入る予定もあります」。テーブル越しに向き合った二十代の主婦は、ひざの上のバッグを握りしめていた。
北九州市の雑居ビルにある小さな金融会社。紺のスーツ姿の男性社員(41)は、パソコンのキーをたたき、主婦の借り入れ状況を照会した。数社から約二百万円。長期延滞分もあった。「お客さまの債務状況では、融資できかねます」。「どうしてもだめですか」。上目遣いに懇願する主婦。「無理ですね」。パソコン画面で見た主婦の信用情報が浮かんだ。「この姉ちゃん、引っかかるな」
中小の貸金業者を訪れる顧客の大半は、大手消費者金融で枠いっぱいに借りた客。「この程度なら前までは貸せたけど。今は簡単に自己破産されるから、審査で絞るように指示されててね」
翌日、アルバイトを使い、主婦の自宅に自分の携帯電話番号入りのチラシを入れた。社員には裏の顔がある。会社に隠し、審査落ちの客を狙って始めた高利のヤミ金融。「あの状態で貸せるほど、まともな中小業者は余裕ない。後はヤミだけ。ヤミなら、回収方法はいろいろあるしね」
二日後に携帯電話が鳴った。主婦からだった。
■ ■
「持って行きたきゃ、家具でも何でも持ってってよ」。返済が滞った客の自宅。福岡市の老舗の中小金融会社で働く三十代の店長が戸をたたくと、玄関に出てきた男性が言い放った。「五年もたてば時効やろ。弁護士入れたら、帳消しやしな。あんたらもやりにくかろうね」
督促状を出しても反応はない。電話も出ない。足を運べば居留守がほとんど。「借り手も、変わりました」。店長はため息まじりに話した。
貸し倒れは積もる一方だ。自己破産や、債務が減額になる調停も増え、弁護士の対応に追われる日々が続く。「顧客数はたかだか千件。このうち月三十件に弁護士が入る。もう先は見えません」
店の転機は二〇〇〇年六月。「金利の引き下げだった」と店長は言う。出資法の上限金利が約40%から現行の29・2%になった。会社が赤字に転じたのは翌月から。収益確保のためには融資を増やすしかない。「でも貸し倒れリスクを考えると、資金力のない中小零細は業務縮小しかない。新規融資はせいぜい月に二件。それが現状です」
■ ■
この店長には忘れられない四十代の夫婦がいた。
二人はその日、店の窓口で千円札数枚を差し出した。返済期日だった。「手持ちがそれだけなら今日はいいから。カップラーメンでも買いだめして、とにかく食べて」。そう言って見送った。
深々と頭を下げ、玄関で振り返った二人の笑顔。それが店長が見た最後の姿になった。
夫婦は自分たちの借金のほかに知人の保証債務まで抱え、返済に追われていた。二カ月後に一万円入金されたが、その後自殺。残された日記には「優しくしてくれたのは店長の会社だけだった」とあったと聞いた。「自己破産すれば死を選ぶことはなかった。そんな二人にとってうちも助けにならなかった」
お金がある人は低い金利で借金できる。持たない人ほど、高利でしか借りられず、追い詰められる。そんな金融構造が生み出す闇が、業者も債務者ものみ込んでいく。
[2003/06/16朝刊掲載]
第4部第2回
生き残り競争 〜 大手も走る「強引回収」 〜
「むじんくん」「お自動さん」…。テナントの大半が消費者金融で占められたビルが立ち並ぶ、福岡市の幹線道路沿い。いわゆる「サラ金ビル」。月曜日の昼下がり、一階の大手業者の無人店舗の利用客は、一時間余りで二十人を超えた。
ビル内の数店をはしごした中年女性。店を出て横断歩道を渡ると、きびすを返し信号を待つそぶり。再び車道をよぎり、別のサラ金ビルに。
スーツ姿の男性はカードと一万円札数枚を握ったまま、自動ドアが開く時間さえもどかしそうに外へ。小走りに向かった先はパチンコ店だった。
財布をかばんにしまいながら出てきた二十五歳の会社員男性は言う。「二年前、生活費で三十六万借りた。今は定職にも就いたし、今日は返済です」。計画的な利用客も、もちろん多い。
大手業者が全国展開する無人契約機。その数は、最近六年間で二十倍近くになった。消費者金融業者全体の貸付残高は二〇〇二年度で、約十二兆円に迫る。このうち、上位二十社だけで十兆円以上を占めている。
スピード審査、即日融資。安心、便利さが売り物になり、借金への抵抗感はぬぐわれてきた。
■ ■
返済の督促電話で職場を解雇され、福岡県南部へ引っ越してきたばかりの夫婦。入金が滞って一カ月が過ぎていた。大手消費者金融に勤めていた男性(28)は、延滞リストを手に、その日も回収に向かった。
「もう少し、待ってもらえませんか…」。目をそらそうとする夫に詰め寄った。「手はあるんですか」。玄関から続く居間に目をやる。テレビ、ビデオ、ステレオ…ゆっくりと視線を走らせた。夫が切り出した。「テレビとか、売りますから」。一時間後、リサイクル業者がトラックで家電製品を運んでいった。
「自主的にやらせるのが手。一万ちょっとだけど、もらって帰りました。それが仕事だし」。勤務当時を振り返って苦笑する男性は、小柄で童顔。優しそうな印象との落差は大きかった。
「合法とは思ってましたけど。今考えればヤミ金まがいですね」
■ ■
九州北部で、別の中堅業者に勤務する二十代の社員も言った。「回収すれば回収するだけ、自分の実績だから」
雨の中、七十すぎの女性を連れ回したことがある。隣家のチャイムを押す。「金貸してって頼まんといかんやろ」。戸をたたかせ、頭を下げさせる。二軒目の商店。レジの女性が、かっぽう着のポケットから、二千五百円を差し出した。
「親族への取り立ては常識だった。借りる方もまひしてるけど、取る側も、まひしてくる。最近はヤミ金で、世間の目が厳しくなってきたけど」
先細る中小業者をよそに、貸出残高を伸ばし続ける大手消費者金融。それでも回収実績を上げなければ、貸し倒れは膨れ上がる。「すでに市場は飽和状態。大手といえど生き残り競争はし烈です」。ある幹部は言う。
大手の返済に行き詰まると、中小業者に走って資金をつくる。中小への返済金にも窮したとき―。「低利融資」「楽々返済」などとうたうダイレクトメールや街角のチラシ。ヤミ業者の甘い虚言が心のすき間に入り込む。
[2003/06/17朝刊掲載]
第4部第3回
過酷なノルマ 〜 残高アップへ追加融資 〜
その朝も、パソコン画面にはオンラインで本社から送信される業務指示が届いていた。関西地区にある消費者金融会社の支店。
〈102―1=0 自店の責任で支社の『旗』はつぶせない!〉
支社が統括するのは百二の支店。このうち一店でもノルマ達成ができなければ、支社全体の実績はゼロと同じ。数式はそんな意味だ。「支社幹部は支店長クラスを締め付け、さらに支店長は社員を締め上げる」。支店長経験のある元社員(29)が明かす。その連鎖はいや応なしに債務者に向かう。
〈ダイヤルは十一時までに300%必須!〉
始業の午前八時すぎから十一時までに、未回収件数の三倍に当たる顧客に電話しろという指示だ。当時、支店には二千件以上の延滞者がいた。三時間で六千ダイヤル。
貸付残高の総額に対し、一カ月以上延滞の不良債権は0・1%しか許されなかった。多くの支店は十億円規模。百万円借りた顧客が一人焦げ付けば、残りすべてを回収しなければ未達成となる。
「できるはずがないと分かっているが、ノルマが果たせなかったらつるし上げだから」。元社員は電話のダイヤルを押し続けた。
■ ■
「土下座してでも取ってこい」。大手消費者金融の九州北部の支店。債権回収担当だった元社員男性(29)は、上司に言われ店を出た。延滞常連の男性客宅のドアをたたく。「なんか文句あるか」。男性は包丁を持っていた。びっくりして逃げた。結局、一件も回収できなかった。携帯電話で上司に報告した。
「なんでできないんだ、お前」「申し訳ありません」「理由を言え」「いえ、やります」「犬猫ならあきらめもつく。なんで人間と会って取れないんだ」…。その繰り返し。電柱の陰で、頭を下げ続けるしかなかった。
「未達会議」。各支店を束ねる支社単位で、ノルマ未達成の支店長だけが呼び集められ「答弁」を求められる。罵声(ばせい)が飛び、灰皿が投げ付けられる。涙を流す支店長もいると聞いた。ある日の終礼。「頼むからやってくれ」。支店長が床に手をつき、社員らに頭を下げた。
返済が続けば、貸出残高は減る。残高が減れば利息収入も減る。「残高アップ」も至上命題だ。別の元社員(31)がそれを達成するための甘言の一端を明かした。
「初回の融資は五十万円です」。十万円の融資申し込みに来た客にはこう持ち掛ける。そもそも必要だったのか、返済の自信があるのか、断る客はまずいない。
「金利を低くできますから、ご来店を」。順調に返済を続ける客にはPR電話。実際は「五十万から百万に枠を広げれば、金利が下がる」と、体よく追加融資を迫る。
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消費者金融大手「アコム」では、返済不能に陥り、債務整理を申し出た顧客に対し、実際よりも残債務が多くなるように計算した書類を提出していたことが発覚。最大手の「武富士」の元社員らは「厳しいノルマ達成のため、サービス残業を強いられた」として未払い残業代などの支払いを求め集団提訴した。
「大手だから」。その信頼の裏で、消費者無視の過激な企業体質が多重債務者を追い込んでいる。
[2003/06/18朝刊掲載]
第4部第4回
貸し渋り 〜 苦境の「中小」追い込む 〜
福岡県北部の建設会社の応接室。昨年末、初老の社長はいつもの柔和な表情を一変させ、ある地方銀行支店の融資担当課長(42)の胸ぐらをいきなりつかんだ。「きさん、見殺しにするんか」。社長が依頼した三百万円の融資を断った。「慈善事業やない。分かってくれ」。課長は無抵抗のまま、言葉をのみこんだ。
建設会社は三十年ほど前、社長が設立した。従業員は四人ながらも経営状況は堅調だった。課長との付き合いは三年前の支店赴任以来続いていた。
経営がほころび始めたのは昨年秋ごろから。「カネ回りが悪い。来月まで会社が持つやろうか」が口癖になった。課長が会社の収益などのデータを銀行のコンピューターに入力すると「破たん懸念」との回答がはじき出された。
バブル経済の崩壊後も、処理しては新たに生まれる不良債権。処理に追われる銀行が経営状態を一定水準に保つためには、貸し出しを抑えるしかない。デフレがそれに拍車をかけた。こうした「貸し渋り」の矛先が、足腰の弱い中小企業に向かった。
課長はつぶやく。「貸したくても貸せない。おれたちだって生き残るのに必死なんだ」。建設会社が倒産したことを知ったのは今年五月、転勤先でだった。
■ ■
資金繰りに窮した揚げ句、ヤミ金融に手を出す事業者もいる。福岡市内の男性(45)。脱サラして三年、設立した化粧品販売会社は軌道に乗り、毎月の売り上げは三千万円を超えていた。高級外車二台を代わる代わる飛ばして得意先を回る自分の姿が誇らしかった。
「社長、支店をつくって業務を拡大しましょう。融資はうちにまかせてください」。入れ替わり訪ねてくる銀行員たちが胸をたたいた。
得意の絶頂は思わぬ形で打ち砕かれた。昨年末、税務署から申告漏れを指摘された。領収書の管理ミス。五百万円の追徴課税を納めると、運転資金が不足し始めた。「ちやほやされ、気が緩んでいた」。悔やむ間もなく、金策に走り回る日々。外車を手放したが、焼け石に水だった。収益は最盛期の二割に落ち込んだ。
水が引くように銀行員は寄りつかなくなった。交換した名刺を頼りに、融資を申し込んだが、すべて断られた。
「銀行に断られた方 独自審査で融資」。電柱のチラシを見て、受話器を握った。
二カ月後、気付けばヤミ金融二十業者から計八十万円を借り、三百万円もの利息を支払っていた。会社には毎日五十回以上、取り立ての電話がかかってきた。自己破産しかなかった。
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「銀行が安全なところに貸すのは当然でしょ。その一つが消費者金融」。昼下がりの喫茶店で、取材に応じた三十代の行員が窓の外に目をやりながらこう言い放った。
中小企業の倒産が続けば続くほど、銀行の融資は業績を堅調に伸ばし続ける消費者金融に向かう。その金は銀行の「貸し渋り」にあえぐ中小経営者の手元にも流れ込む。消費者金融大手の場合、金利2%前後で借り入れた金は、その十倍ほどの利息で貸し付けられるという。
多重債務者たちが最後にすがりつくヤミ金融。銀行から連なる金融の鎖には、いくつもの破たんの軌跡が重なり合う。
[2003/06/19朝刊掲載]
第4部第5回
自主規制 〜 誘うCM批判に揺れる〜
福岡市早良区の主婦(42)は景品交換の窓口で紙幣をわしづかみにした。十六万円もあった。三年前に始めたパチンコで、最高の大勝ち。二〇〇〇年のゴールデンウイーク前のことだった。
暇つぶしで始めたパチンコ。いつでもやめられると思っていた。だが、その思いは甘かった。玉いっぱいの箱を積み上げる優越感、負けから勝ちに転じたときの興奮…。酒好きの夫と不仲だったこともあり、子どもを小学校に送り出すと、毎日、店に入り浸った。
「大勝」から一カ月後。負けが続き、生活費にも事欠いた。そんなとき、自宅のテレビから流れた消費者金融のコマーシャルソングが胸にすっと入ってきた。気付くと、その支店を訪ね、笑顔の女性に勧められるまま限度額五十万円を借りていた。
「また勝てば、何とかなる」。ついにはヤミ金融からも借金を重ね、パチンコを続けた。三百万円の負債を抱えて自己破産したのは今春だった。
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ギャンブルがやめられない人をサポートする全国唯一の施設「ワンデーポート」は横浜市にある。美容室を改装した日の当たる部屋。午前と午後の二回、寮生活を送る二十―五十代の男性十一人が、楕(だ)円形のテーブルを囲む。自らの体験を話し、仲間が聞き入る。
主宰する中村努さん(35)は二十四歳のとき、約三百万円の借金をした。パチンコなどにはまり高校の非常勤講師の職を投げ出した。ギャンブル資金が欲しいがために車荒らしをして逮捕されたこともある。自らの体験から、ギャンブル依存症は「心の病」という。
「生活に充実感がなく、孤独でストレスを抱え込む人がのめり込む」。自らを依存症と認めない人も、ミーティングを続けることで、孤独感が癒やされ、冷静に自分を見つめ直すようになる。
「責任は結局、自分自身にあり、金を貸す側が悪いとは思わない。ただ、借金を元手にギャンブルをすれば、依存症が進行するのも事実だ」
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自己破産を経験した主婦が、ぞっとした光景がある。
「レッツゴー」。下校中の小学生四人が道ばたではしゃいでいた。息子のような年ごろ。眺めているうちに、それが消費者金融のCMの中に登場するダンスをまねていることに気付いた。
「私もCMにからめ捕られて、気軽に店に行った。あの子たちも将来、CMのイメージにだまされないかと恐ろしくなる」
「安易な借金を助長する」。そんな批判が強まり、大手「アイフル」は五月から、午後五―九時にチワワ犬のCMの放映をやめた。大手各社も同調する方向だ。
もともと消費者金融のCMは「深夜帯」だったが、二〇〇〇年前後にテレビ局が次々と解禁した。「たばこのCM減や不況が解禁理由」と、在京放送局の社員。CM料は年間四百八十億円に上るといわれ、新聞にも広告が載らない日はない。
弁護士などは、業者側だけでなく、メディアもCMや広告量を規制するよう求めている。
「問題は経営面だけではない。CMにも表現の自由はあり、それを侵す」「広告は多企業に公平に使ってもらうのが原則。消費者金融はダメで、ギャンブルはいいのか」―。企業経営と報道倫理。メディアはそのはざまで揺れ、内部では論議が続いている。
[2003/06/20朝刊掲載]
第4部第6回
落とし穴 〜 カード借金抑え利かず 〜
大阪の阪急梅田駅には消費者金融のカード発行機がある。改札口のすぐ横で、電車から吐き出されたサラリーマンや学生たちの雑踏に見え隠れしていた。
午後十時すぎ、現金自動預払機(ATM)で会社員女性(26)が引き出していた。初めてつくった消費者金融のカードが「阪急」だった。「看板が阪急のやったら信頼できるし、持っててもええかなぁと思って。帰りにお金いるときあるし」
阪急電鉄は昨年九月、国内の鉄道事業者として初めて消費者金融に乗り出した。沿線の駅構内を中心に約九十店を展開している。沿線には高級住宅地が多く、阪急百貨店は大阪の若い女性に「おしゃれ」と人気が高い。そのブランドを前面に打ち出し、半年間で開拓した消費者金融の顧客は二千―三千人になる。
来年から、電車の運賃を預金口座から引き落とせるICカード乗車券を導入する予定で、この乗車券にも金融機能を持たせる。
「キャッシング(現金借り)は便利で、悪いイメージはもうない。いまはどんなカードにも機能ついてるでしょ」。阪急幹部は自分の財布から、五種類のカードを取り出してみせた。
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レンタルビデオ、デパート、ガソリンスタンド…。クレジット最大手の「JCB」は、企業提携を進め、約五百種類のカードを出している。発行枚数は約五千万枚。ショッピングのほか、利用者の希望でキャッシングもでき、昨年度の利用額は約八千億円に上る。
福岡市の主婦(38)は、消費者金融への返済に追われていた昨秋、JCBマークが入ったデパートのカードで十万円を引き出した。
「お金を工面するのに必死で。それでも、まだ、借りられるって、本当にほっとした」
今春、自己破産したときの負債額は約三百五十万円。「働いてもないのに、よくこんなに借りられたと思います」
個人融資の「選択肢」は、ほかにもある。一部の都市銀行と消費者金融は、個人ローンの会社を設立。全国約百五十の地銀、信金は三洋信販と提携し、新商品をPRしている。
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「サラリーマンと主婦、君ならどっちに融資するか」
福岡市の地方銀行員は、提携先の消費者金融の幹部から問われた言葉が忘れられない。
「私たちが一番心配するのは融資の焦げ付き。絶対にサラリーマンの方が安心なのに、消費者金融は主婦なんです」
収入がなく、担保のない人たちにまで広げて貸し付けることで、利益を増やす。これが消費者金融のやり方という。
「彼らは過去の膨大な融資データを基に、焦げ付きを防ぐ審査方法など優れたノウハウを持っている。企業秘密らしいが、銀行もそれが欲しい」
企業融資が不調で、高利の個人ローンでもうけを狙う銀行。別の銀行の幹部は打ち明ける。「不況が終わるまで、この傾向は続くと思う」
個人に向けた「融資します」「便利です」の大合唱。それは、バブル期に、銀行が企業に迫った姿勢と重なる。
再び、自己破産した主婦が悔やむ。「個人ローンを使っている間に、自分の預金のような錯覚になった」。広がるカード社会。誰の足元にも落とし穴が口をあけている。
[2003/06/22朝刊掲載]
第4部第7回
頼みの法改正 〜 捜査後押し摘発に弾み 〜
昨夏のある日の夕刻、福岡県北部のスーパー屋上の駐車場。「不審な男が女性を車に押し込めた」―目撃した客から通報が入った。警官が駆けつけると、車から降りてきた三十代の男が悪びれることなく、言い放った。
「貸した金を返してもらおうとしとるだけ。何か文句ある」
男はヤミ金融業者。顧客の四十代の主婦を後部座席に乗せ、返済を迫っていた。主婦は三万円を借り、四十回にわたり利息四十万円近くを払った。法定利息の千二百倍以上。「捕まえて」。主婦は体を震わせて訴えた。
今の法律では、男が暴力を振るったり、「殺すぞ」などの暴言を吐いたりしない限り、取り押さえられない。違法な高金利で摘発するには、借用書などの分析や綿密な裏付けが絶対条件で時間がかかる。警官は「冷静に話し合いなさい」と諭すしかなかった。
「奥さん、それじゃまた」。男は主婦に声をかけると、警官の鼻先をかすめるように歩いて車に乗り込んだ。この場で警察が手出しできないことを知っている男の態度は挑発的だった。
「ヤミ金融の被害者が目の前にいても、何もできない。今の法律では限界がある。結果的にのさばらせてしまっている」。警官は走り去る男の車に険しい視線を向け、ナンバーを控えた。
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炎天下に窓を閉めきった車内の温度は六〇度を超えた。捜査員四人が窓ガラス越しに向ける望遠レンズや双眼鏡は百メートル先の古びた雑居ビルに焦点を当てていた。張り込みは一週間続いた。
県警は駐車場でのトラブル後、警官のメモを基に男をマークしてきたのだ。ビル三階に男の事務所があった。
客が振り込んだ利息を引き出すため男が立ち寄る銀行と、複数の口座を割り出した。客六人の被害も特定し、男を逮捕したのは三カ月後。
ヤミ金融業者一人を逮捕するのに費やす労力と時間。「捜査員を何百倍に増やしても追いつかん。罰則が軽すぎるから抑止力にならん」
男が二年間で口座から引き出した現金は、総額数億円。大半が収益だったとみられる。ただ、現行の貸金業法と出資法の罰則は「三年以下の懲役もしくは三百万円以下の罰金」。福岡県警が昨年摘発し、一審判決を受けたヤミ金融業者は四人だが、うち三人は三十万―二十万円の罰金だった。暴利をむさぼった業者には、痛くもかゆくもない額でしかない。
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「やりたい放題だった業者も少しは動きが鈍るやろう」。書類が山積した警察署の一室で、ヤミ金融事件担当の捜査員は五月に自民党がまとめた貸金業法、出資法を一部改正強化する、いわゆる「ヤミ金融対策法案」を伝える新聞を開いていた。業者の摘発に苦慮する警察を後押しする法改正をめぐり、与野党間で最終調整が続いている。
捜査員が注目したのは改正法案に盛り込まれた「禁止する取り立て行為の明確化」。勤務先への押し掛け。親族への脅し…。業者の手口が具体的に禁止行為として明記されれば摘発は容易になる。現行法は抽象的な表現にとどまり「頼りにならない」というのだ。
「客を車に押し込めただけで、禁止行為になる可能性だってある」「私たちは新しい法を駆使して悪質業者を取り締まれる日を待っている」。はびこる違法業者との闘いに疲れが見え始めた捜査員が力を込めた。
[2003/06/23朝刊掲載]
第4部第8回
高まる世論 〜 「撲滅」求め政治動かす 〜
東京・永田町の自民党本部七階。五月二十日、ヤミ金融対策を検討する自民党の財務金融部会などの合同部会が開かれた。
「業者が電話で行う取り立てがひどすぎる。違反基準を設けて取り締まってはどうか」「罰則が軽すぎる。罰金は一千万円程度に引き上げるべきだ」
出席した議員は約二十人。業者の過酷な取り立てをめぐり、規制や罰則の強化を求める声が続出した。議員の一人は声を強めた。「ようやく警察もヤミ金摘発に本腰を入れている。この状態を継続して悪質業者を封じ込めよう」
当初は警察でさえも対策・摘発に消極的だったヤミ金融問題。だが、ヤミ業者にすがった末の多重債務者の自殺や事件が相次ぎ、高まりをみせた「ヤミ金撲滅」の世論が議員を動かした。昨年末から九回の会合を重ねた自民党内の検討会がまとめた、いわゆる「ヤミ金融対策法案」要綱がこの日の部会で決まった。
貸金業法と出資法を一部改正。貸金業登録は従来、書類審査と手数料納付だけだったが、一定の資産を持っていなければ認められなくなる。「090金融」など無登録業者に対しては、チラシなどの広告や勧誘をするだけで刑事罰の対象にすることも盛り込んだ。
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「29・2%の金利では中小零細業者はやっていけない。うちも廃業を決めた」。二十年余り、小さな金融会社を営んできた五十代の男性がため息をついた。
金利問題もこの日の部会での重要なテーマだった。出資法の上限金利が約40%から現行の29・2%に引き下げられたのは二〇〇〇年六月。ちょうど三年後の今が見直し時期だ。
「収入が減った中小金融業者が貸し倒れを避けるため融資審査を厳しくした。だから、借りられなくなった人たちを狙ったヤミ金融がはびこった」。金利引き上げを主張する業界側。これに対して、弁護士らは「ヤミ金横行は高金利によって、多重債務被害が深刻になったことが原因だ」と引き下げを求めている。
部会では「上限金利の据え置き」で、その結論を先送り。一刻も早く被害の拡大を防ぐためにヤミ金融対策を優先した。「今引き上げをやると、世論から袋だたきに遭うよ」。部会終了後、ある議員はそう漏らした。
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自民党案で見送られたもう一つの案がある。
被害救済に動く弁護士らが「ヤミ金対策の決定打」として主張した「違法貸し付けは元本も無効」とする制度だ。つまり「ヤミ業者には、借りた金も返す必要はない」と法で規定する案だった。
「借り手の保護って言ったって…。借りる人間に甘いんじゃないの。業界も困るだろう」
都内の事務所のソファに腰をおろし、部会メンバーの自民党議員が言った。「返済義務がないことを逆手に、借りまくった揚げ句に踏み倒す消費者が出かねない」
これは業界側の論理に通じる。「借りた金を返すのは常識。元本も返さなくていいとなると、貸し手と借り手の契約が成り立たなくなる」。正規取引に悪影響を及ぼすという主張だ。
借り手の責任と保護。その線引きの難しさを浮き彫りにしている。
ヤミ金融対策法案。課題を残しながらも、今国会での成立を目指して与野党間の協議は大詰めを迎えている。
[2003/06/24朝刊掲載]
第4部第9回
海外に学べ 〜 救済システムの確立を 〜
米国の首都ワシントンの目抜き通りに面したビル。その八階に「消費者クレジット相談所」の事務所があった。
自己破産者が年間百六十一万人(二〇〇二年度)に上る米国がもっとも力を入れているのが破産寸前の多重債務者のカウンセリングだ。この二十年で、自己破産は五倍以上になり、経済損失は五百億ドル(六兆円)に達するともいわれる。防止対策に熱心にならざるを得ない状況だ。
事務所の統括責任者のジェフ・ブラウンさんが説明する。「債務者の家計を査定して、出費の優先順位を決めて生活費を切り詰めさせ、月々の返済額を決めるんです」
カウンセラーは債務者と債権者の仲介役。債務者は直接督促を受けず、債権者は貸金を確実に回収できるからだ。事務所にいる五人のカウンセラーは常に約四百人の相談に当たっている。 わずかな額の現金支払いもカード。カード無しではレンタカーやホテルの予約もできない。カウンセラーを置かなければならない状況がクレジット大国の病理の一端を浮かび上がらせる。
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逆に、カード取得が困難なのがフランスだ。大手銀行で二十年近く、個人向け融資を担当しているドメネクさんは「銀行の口座開設審査はとても厳しい。一人が何枚もカードを持つのは難しい」と話す。
銀行が消費者金融の大部分を担っているうえ、金利の上限も厳しく監視されている。日本の日銀にあたるフランス銀行が三カ月ごとに消費者金融市場を調査。平均金利の一・三三倍を超える貸し付けは暴利として、禁固・罰金刑が科せられる。この結果、上限金利は約10%に抑えられている。
「だからフランスには日本のようなヤミ金融はありません」。ドメネクさんは言い切った。
パリの金融業者を訪ねた。受付の男性はにこりともせず、客に必要書類のリストを差し出す。 身分証明書、利用目的、最近二カ月間の給与証明、前年の納税証明、銀行口座の明細書、住居確認のための電力料金請求書…。女性が出迎えて「お気軽にどうぞ」とほほえむ日本の消費者金融とはほど遠い。
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そんなフランスでも、カード社会の波から逃れられない。クレジットカードの利用率は毎年約一割増。これに伴って多重債務者数も膨らんだ。
一九九〇年に「返済困難債務対策法」が施行され、行政、金融機関、消費者団体代表らでつくる「個人過剰債務委員会」を各地に設置。多重債務者救済のため返済の一時猶予や返済期限の延長、利息減免などについて債権者と調停を行い、返済計画書を作成している。
フランス銀行の担当者は「無料で調停を行うのが最大の特徴。弁護士などに依頼できない弱者の救済に役立っている」と説明する。救済は「行政主導」という理念に裏打ちされているのだ。
ヤミ金融被害が深刻な日本では、多重債務者が相談するすべも知らずに追い込まれ、ついには死を選ぶケースも少なくない。大阪府八尾市で今月十四日、ヤミ金融の取り立てに苦しんだ老夫婦ら三人が電車に身を投げて心中した。
全国ヤミ金融対策会議の宇都宮健児弁護士は「悲劇を繰り返さないためには、行政や弁護士会などの連携が不可欠だ」と指摘する。ヤミ金融の規制強化だけでなく、被害の「盾」となる救済システムづくりが急務だ。
[2003/06/25朝刊掲載]
第4部第10回
消費社会 〜 欲望の陰に潜む“地獄” 〜
福岡市の主婦(55)は昨秋、自己破産した。
初めて借金をしたのは六年前。夫から一万円単位で渡される生活費では、大学生の息子への小遣いなどが足りず、消費者金融から五十万円を借りた。それがいつの間にか計十社、二百六十万円まで膨れ上がった。昨年夏、ヤミ金融に走った。
「利息、分かってて借りたんだろが。ババァ」。業者から連日どう喝された。金策に朝から走り回り、親友に頼み込んで五十万円借りた。どこに、いくら借りたのか―。そんなことも分からなくなった昨秋、夫に打ち明けて自己破産。親友とのつき合いは途絶え、離婚した。
今はパートで収入を得ながら一人で暮らしている。ときには息子が遊びにきてくれる。だが、失った生活は戻ってこない。
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多重債務者の多くはこのような主婦や若者たちだ。消費者金融から借金をしている人は全国に約千五百万人。その約八割が年収五百万円未満。病気などの突然の出費を個人ローンでしのぐ人も多い。
消費者金融問題に取り組む木村達也弁護士(大阪)は、利用者保護の立場から訴える。
「法定内とはいえ年25%前後の高い金利で、相手が返せないことを知りながら、長期間貸し付けるのが問題なんだ」
家計が苦しいから金を借りる。その高利が何年間ものしかかり、生活をさらに圧迫。支払いのため、一度でも別に借金すれば、負債は雪だるま式に膨れ上がる。そして、ヤミ金融へ―。甘言とどう喝を繰り返し、相手の心理につけ込む罠(わな)が仕掛けられている。
「最初の借金の責任は借り手側にある。だが、多重債務者を生み出す責任は業者にもある」。穏やかな口調に力がこもる。
木村弁護士が多重債務を防ぐ一つの数字を示した。
「融資限度三十万円、年利10%、返済期間一―二年」
これだと破たんする金融業者もあるかもしれない。木村弁護士は言い切る。「自己破産の深刻さを考えるとやむを得ない」
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バブル期、人々は高額なものを買い求め、物質社会にどっぷりと浸った。バブルが崩壊しても肥大した人々の欲望が一種、ゆがんだ現代の消費社会を生んでいる。
「借金してでも豊かな生活がしたい」。大量消費社会に慣らされた人々の欲望は、現代の不況下でも歯止めがきかない。そうした欲望のすき間に「ヤミ金融」が入り込む。自殺、失跡、家庭崩壊…。数々の悲劇を引き起こしている。
「私たちが生活の中で本当に必要なものは、何だろうか。自分にとって大切なものは。それを見つめ直すことが、根本的な問題ではなかろうか」
金融問題に詳しい甲斐道太郎・大阪市立大名誉教授は、身の丈に合った生活に誇りを持つことの必要性を強調する。
ただ、われわれは「借金」「ローン」などから切り離せない暮らしをしていることも事実だ。だれもが、ヤミ金融地獄に陥る危うさと隣り合わせている。
自己破産した冒頭の主婦はこう話した。
「私のような人が二度と生まれないように苦い体験をみんなに伝えてほしい」
昨年から顕在化した「ヤミ金融」は社会を構成する一人一人が考える問題だ。 =おわり
(社会部・ヤミ金融取材班)
[2003/06/26朝刊掲載]