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【フランクフルト=貞広貴志】ドイツの金属産業労働組合(IGメタル)は、旧東独地域の労働者にも旧西独と同じ「週35時間労働」を適用するよう求めるストを今月初めから決行、主要自動車メーカーが一部操業停止に追い込まれるなどドイツ経済全体に影響を及ぼし始めた。デフレ危機すらささやかれる景気低迷と大量失業のさなか「時短闘争」を繰り広げる感覚には、各方面から批判が噴出し、“抵抗勢力”の後進性も浮き彫りになった。
「われわれにも『西』並みの労働条件を!」。工場の入り口前に陣取った組合員が、そろいの赤いチョッキで声を張り上げる。バリケードを越えて工場に入ろうとする納入業者や非組合員の車には、「東で日が昇る」と書かれた時短闘争のステッカーをベタベタ張っていく。今月2日から旧東独の各地で繰り広げられているストは、4週間目を迎えますます士気を高めているかに見える。
「東西ドイツ統一から13年。旧東独の人たちに平等な労働条件が実現する見通しを示さねばならない」。IGメタルのクラウス・アイリヒ広報担当は、時短闘争を「真の統一」に向けた取り組みと意義付ける。
1990年の統一では、東西の産業競争力の違いを考慮し、別々の労使協約を結ぶことになった。週の労働時間は「西=37時間、東=40時間」でスタート、それぞれ時短が実現したが、東はいまだに週38時間で西との3時間の格差は残った。
「同一国民間の平等」という抗弁しがたい大義を掲げた労働闘争は、だが、きわめて評判が悪い。
独自動車工業会のベルント・ゴットシュランク会長は労組に対し「早く理性を取り戻せ」と要求、ストが長引くようなら中・東欧への生産拠点移転が避けられないと言う。収入と職場を失うのを恐れた労働者の間でも、スト破りが横行。ドレスデン郊外の米国系自動車部品メーカーは、ヘリコプターで労働者の通勤や食料補給を行う派手な演出でストに対抗した。
フランクフルト大学のヨゼフ・エッサー教授は「今回のストは労組内の路線対立の結果。さらなる組織弱体化を招きかねないオウン・ゴールだ」と評する。
若者やハイテク技術者の労組離れといった課題に直面し、労組の組織と役割を抜本的に見直そうとする改革派と、伝統的な労働闘争強化で対応する保守派の路線対立が激化した。10年間にわたり議長をつとめた改革派ツビッケル議長が今秋退任し、人事抗争の末に保守派のユルゲン・ペータース第2議長の昇任が決まったことが、闘争方針の過激化の背景にあるという。
IGメタルに代表されるドイツの労組は、労働者の権利を勝ち取る一方、生産性向上にも取り組み、経済成長を支える原動力でもあった。それが最近は、シュレーダー政権の改革構想「アジェンダ2010」反対の急先鋒(せんぼう)となるなど、抵抗勢力のイメージが定着しつつある。
労組内でも逆風の認識は高まりつつあり、27日に開かれる労使協議に向け、時短分を職業訓練に振り向ける案などメンツを保ちつつ妥協を探る動きが出ている。「これを乗り切れなければ、IGメタルに将来はない」(エッサー教授)とさえ評される危機は、労組のあり方を問うものとなりそうだ。
◆IGメタル=自動車、鉄鋼、機械産業などで働く労働者を組織するドイツ最有力の産業別労組。組合員数は264万人で、ドイツ労働総同盟(DGB、約900万人)中、最大級の規模を誇る。東西ドイツ統一に伴い、1991年に旧東独から100万人が新たに加わった。98年に繊維・衣料労組、2000年に木材・化学製品労組と合併したが、名称は変えなかった。
(2003/6/27/02:01 読売新聞 無断転載禁止)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20030626id28.htm