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(回答先: Re: 「反省」と「冤罪」 投稿者 ななしさん 日時 2003 年 7 月 19 日 21:34:01)
「情報操作」と責任の関係は、非常に多様な場合を含みますから、一般論が可能か否か、ちょっとわかりません。ご質問の主旨にそわないかも知れませんが、刑法理論を一般的な用語で説明すると、次のようになります。
1. 情報操作によって、自己の行為そのものを理解できないときは、行為者に帰責することはできません。たとえば、かかしと信じて、イラク国民に発砲し、これを殺傷した場合です。このような荒唐無稽な講学事例に限らず、たとえば無人と信じて軍事施設を爆撃した場合に、殺傷の故意責任を負わせるのは無理です。せいぜい過失が問題になるだけです。
2. 行為の違法性を基礎づける事実を理解できないときも、行為者に帰責することはできません。相手方からの攻撃もないのに、これが迫っていると誤信し、正当防衛として相手を殺傷した場合などです。
3. 上と似ていますが、行為の違法性そのものについて誤信したときは、一般的には行為者に帰責されます。「イラク国民は殺してもよい」と誤信した場合などです。理由づけは色々とあるでしょうが(たとえば、「イラク国民はテロリストである」)、いずれにしても、これで免責されないとするのが一般的です。
比喩的に表現すると、すべての行為者は、その行為の状況に縛られて行為にいたります。「自らの意志に基づかず天皇位を世襲した」などの理由で裕仁の免責を試みる論もありますが、これは荒唐無稽です。より問題となるのは、「不本意ながら上官の命令にしたがった」です。この種の抗弁(いわゆる「上官命令の抗弁」)については、ごく少数の国際裁判の例があるだけですが、次のような傾向です。
1. 命令にしたがうべき下級者は、上級者の命令の適法性を積極的に疑う必要はない。原則として命令にしたがって行動してもよく、そのために責任を問われることはない。
2. しかし、下級者の命令が明らかに違法な場合は、そもそも、その命令も無効で、下級者はそれにしたうべきでない。このような場合は、命令を発した上級者と、それにしたがった下級者の双方が責任を分担する。
3. 命令が違法無効な場合でも、下級者の意思が完全に制圧されている状態なら、その責任は問えない。銃を突き付けられて違法な殺人に従事する場合などがこれにあたる。
4. しかし、「軍隊のような異常な状況に置かれたから」などは、責任を軽減するが、これを過度に強調すべきではない。理不尽な被害(しばしば生命の侵害)を受ける被害者に対して、「やむを得ない」との弁解は通用しない。「いやなら命懸けで抵抗しろ」となる。
純粋な刑法理論で考えると、特に4はちょっと違和感があるかも知れません。