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米英軍「楽勝シナリオ」の崩壊
<03/31/2003>毎日インターナショナル
◇ラムズフェルド長官更迭説も浮上◇
〜ワシントンDCから〜
「楽勝シナリオ」は完全に崩れた。米英軍は、イラク非正規軍によるゲリラ活動に苦しんでいる。バグダッドを早期に包囲してフセイン政権崩壊を目指す予定だったが、戦術の大幅変更を迫られている。非正規軍との消耗戦は長期間続く可能性があり、イラク戦争の「ベトナム化」の始まりと考える関係者もいる。早期終結の見通しは消え去った。
「我々が戦っている相手は非正規軍で、事前の演習で想定してはいなかった。ヤツらがイラク国内にいることは知っていたが、どんな戦い方をするのかは知らなかった」
米陸軍第5軍団司令官のウォレス中将は3月27日、イラク国内で正直に告白した。「ヤツら」とは、フェダイン・サダム(サダム殉教者軍団)を指している。総兵力は4万人かそれ以上。フセイン大統領への忠誠心が強い18〜30歳の若者を集めた特殊部隊である。任務は、市民にまぎれて破壊・ゲリラ活動を行うことだ。給料は非常に高く、新車を支給され、高級アパートに無償で住める特典があると言われている。
米軍は当初、「イラクは市街戦に引きずり込もうと、バグダッドの戦闘に集中するはず。クウェート国境からいち早くバグダッドへ進み、途中の都市での戦闘は避ける方が得策」と考えていた。
3月20日朝(現地時間)に始まった米英軍の戦闘が順調に見えたのは、最初の3日間だけだった。23日、米軍に10人の死者、12人の行方不明者が出てから、戦況は全く変わった。補給線が延び切った米軍の弱点を、フェダインが狙い出したのである。
米軍幹部は、フェダインのゲリラ戦法を「非常に狡猾」と表現する。例えば――
▽白旗を掲げて降伏を装いながら近付いた米兵に手榴弾を投げつける
▽道路標識を変えて米戦車を道に迷わせ、兵士を生け捕りにする
▽子供を連れて「地元の羊飼い」を名乗って米部隊に近付き、米側の兵員数や装備の情報を集める
▽移動は民間の長距離バスを利用し、検問されてもフェダイン兵士と分からないように装う
▽米軍の軍服を着て一般イラク人に銃を発射し、「米軍が民間人に残虐行為を加えている」と反米感情をあおる
――などの行動に出ているという。
地方レベルで独立して行動しているものの、統率は取れている。イラク側の指揮統制機能が生きている証拠と米軍は見る。3月26日、米軍はイラク国営テレビを空爆したが、イラク軍がテレビ放送を使って秘密のメッセージを伝達していると疑ったためだ。
ある米軍幹部は、「他にも、バイクや4輪駆動車を駆使して、イラク南部を自由に駆け回って作戦を伝達しているはずだ」と見る。
ゲリラ活動をしているのは、フェダインだけではない。10〜16歳の少年たちに軍事訓練を施した「エシュバル・サダム」(サダムの獅子たち)の活動も確認されている。さらに、志願兵部隊アルクッズ(エルサレム旅団)は女性を含む市民たちの民兵で、各都市に2000〜3000人規模で存在するし、アルクッズの青年版と言える「青年の力」という民兵組織もある。
町ごとに非正規部隊が駐留したうえ、民兵が組織化されていることは、一般住民に大きな圧力になる。例えば、米国は、南部シーア派住民が一斉に反フセイン運動に立ち上がると想定していたが、一部を除いて住民たちの動きは見られてはいない。
さらにフェダインは、湾岸戦争の教訓から、米軍とは正面から戦わないことを学んだ。意図的に深く攻め込ませ、延びきった補給線を狙っている。
前線と司令部の間にいる補給線上の部隊は、防備が薄くゲリラ攻撃には弱い。これはハイテク化した米地上部隊にとって最大の弱点である。ワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン研究員は、「RMA(軍事革命)が達成されても、陸上兵力が装甲車両に頼るのは昔と変わらず、多量の燃料の調達など大規模な兵站支援が必要だ」と述べている。敵地に乗り込む軍隊のアキレス腱が、補給線に攻撃を受けることであるのは、昔も今も変わらないと言うのだ。第2次世界大戦でロシアに攻め込んだナチス軍が敗北したのも、補給線を攻められたためだった。
このため米軍は、バグダッドに進軍を続けて早期に首都を包囲する作戦を変更。フェダインなど後方の脅威を取り除く作戦を優先することにした。ある米軍幹部が言う。「少なくともフェダインが米軍にとって脅威でなくなる程度まで、たたきつぶす。数日でできるとは言わないが、数週間はかからない」
しかし、それはあまりにも楽観的な読みだ。4万人もの“特殊部隊”が市民の中にまぎれていれば、もぐら叩きのようにつぶすしかない。かなりの時間がかかるはずだ。
さらに、英軍が担当する南部の戦闘でも、バスラを完全制圧する方針に変更した。当初は「南部の都市での戦闘は避け、バグダッドに直行する」といった作戦だったが、フェダインの活動が盛んなバスラで戦わなければ、シーア派住民に「米英軍は本気だ」とのメッセージは伝わらないと判断したようだ。バスラの戦いも市街戦になるはずで、米英軍はバグダッドの前にもう一つの課題を抱えた。
フェダインが、南ベトナム解放民族戦線のように長期のゲリラ戦を続ければ、米軍は非常に苦しくなる。ベトナム戦争で、誰が兵士で誰が住民なのかに疑心暗鬼になった米軍は1968年、無抵抗の村人500人を機関銃乱射で虐殺する「ソンミ事件」を起こした。
同じことがイラクで起こりえないとは誰も断言できない。すでに兵士に近付くすべての住民をうつ伏せにさせ、所持品検査を施している地域もある。これが広がれば、イラク人の間の反米軍感情はさらに強まり、フセイン政権の思うツボである。こうした状況になれば、仮に同政権が崩壊したとしても、米国の戦後統治が難しくなる。
米英軍が苦戦する中で、批判の矛先はラムズフェルド米国防長官に向かっている。「10万人程度の地上兵力だけで戦おうとしたのは無謀」「補給線を守るには、一戦線に2師団投入が定石なのに、陸軍第3歩兵師団と海兵隊第1師団は、別々な場所で単独の戦いを強いられており、自殺行為だ」「米国は160万人の強大な兵力を持つ超大国なのに、すべてを生かさないのは理解できない」などと、日増しに非難は強まっている。匿名ではあるが、「個人的には非難は当たっていると思う」とメディアに語る軍幹部も出るほどだ。
ラムズフェルド長官は「ハイテク兵器を使えば、イラク戦争は7万人程度の兵力で戦える」と主張し、陸軍出身のフランクス中央軍司令官がこれを現在の25万人体制に押し戻した経緯がある。陸軍のシンセキ参謀総長とラムズフェルド長官の冷たい関係も周知の事実だ。陸軍内のラムズフェルド批判は、マグマのように広がっている。
3月25日の記者会見で批判を直接ぶつけられたラムズフェルド長官は、「外部の人間に、私がどんな考えで作戦を練ったかについて、一体何が分かるんだ」と声を荒らげ、「作戦は予定通りに進んでいる」と強弁した。
さらに、長官の子飼いの部下が米メディアを集め、「特殊部隊の作戦がうまくいき、懸念していたイスラエルへのスカッド・ミサイル攻撃を防げた」「油井破壊も最小限に食い止められた」と宣伝し、批判かわしを図っている。
しかし、議会共和党などには、ラムズフェルド長官更迭をささやく声さえ出始めている。こうしたなか、イラクとの武力対決を強硬に主張していたリチャード・パール国防政策委員長が3月27日に辞任した。“武器商人”との不透明な関係という表向きの理由とは別に、対イラク作戦の失敗の責任を取ったという説が流れている。盟友を失ったラムズフェルド長官の立場はさらに苦しくなった。
米英軍の「失敗」はおそらく作戦のあいまいさに起因するものだ。米軍は、ベトナム戦争で相手の出方を見ながら、戦力を徐々に増す漸次兵力増強戦略をとり失敗した。このため湾岸戦争以降、緒戦の圧倒的戦力で短期決着を目指す新戦略を導入した。ところが、イラク戦争は大規模空爆など圧倒的戦略投入戦術を踏襲しているが、地上戦を見る限り、漸次兵力投入の旧戦略に先祖返りしてしまった。
これは、今回のイラク戦争に、国連決議といった明白な裏づけがなく、米国は民間人の犠牲者増に神経質になっているという要因が大きい。
ある国防総省当局者は、「ラムズフェルド長官だって本心では圧倒的戦力を見せつけて戦いたい。しかし、民間人の犠牲やインフラ破壊が多ければ、国際的な批判が高まる。だから、ある意味では手加減した戦いにならざるを得ない。イラクの民間人の被害は確かに減っているが、一方で米兵の犠牲者が増えるジレンマに陥っている。これ以上の米兵の犠牲者増は米国内の批判を高めるだけだから、長官は攻撃の列度を増す方向に舵を切るだろう」と予測する。
この一つの証左が、テキサス州の陸軍第4歩兵師団など10万人の増派である。しかし、これらの部隊が到着し、戦闘可能になるのは早くても4月10日前後だ。それまではバグダッドへの進軍など大きな動きはなく、膠着戦の様相を見せることが予想される。
すでにナシリアからアルクートに向かっていた米海兵隊第1師団は、イラクの共和国防衛隊が南下する動きを見て、戦線を後退させた。援軍到着まではさらに一時撤退の動きが出る可能性がある。
「膠着」のイメージは、「戦争が長引く」との懸念につながる。そこでバグダッドや共和国防衛隊への空爆は激しさを増すと考えられる。前線を巡る心理的な駆け引きが続き、全体状況がしばらく見えなくなるかもしれない。
しかし、はっきりしているのは、米英軍はフェダイン撲滅とバスラでの戦いを優先するということだ。天王山のバグダッドでの戦いは、少し先になると見た方がいい。
開戦当初、「衝撃と畏怖」作戦で早期決着を目指した米英軍だが、フェダインの予期せぬゲリラ戦に遭い、逆に「衝撃と畏怖」を感じてしまっている。ある国防総省幹部は、「戦いが終わるまで数カ月かかる」と言ったが、それとてもまだ甘い見積もりなのかもしれない。
★在ワシントンDCジャーナリスト・森暢平=サンデー毎日4月13日号(4月1日発売)連載中。
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