現在地 HOME > 掲示板 > 戦争29 > 977.html ★阿修羅♪ |
|
(回答先: 米英軍「楽勝シナリオ」の崩壊(毎日インターナショナル) 投稿者 えっくす 日時 2003 年 4 月 02 日 00:12:25)
イラク侵攻計画「3つの弱点」
11/18/2002 -- 毎日インターナショナル
◇世界最強の米軍の見落とし◇
〜ワシントンDCから〜
11月10日付のニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙が、そろって米軍のイラク侵攻作戦の具体的内容を報じた。報道に加え、ワシントンの軍事関係者を取材してみると、作戦の大まかな概要が見えてくる。
関係者たちは作戦を「オペレーション・スライス」と呼んでいる。日本語にすると、「国土分断作戦」くらいの意味だ。
米軍は(1)バグダッドを中心とする「中央部」(2)モスルを中心とするクルド人居住区の「北部」(3)バスラを中心にするシーア派教徒の多い「南部」(4)砂漠地帯で人口が少ない「西部」……とイラク国内を4つの地区に区割りする。そして、北部は陸軍第101山岳師団、南部は海兵隊、西部は陸軍特殊部隊が中心となって侵攻、フセイン大統領を中央部(具体的にはバグダッドと大統領の出身地チクリート)に追い詰める――。
ここまでが作戦の前半部だ。要する兵力は約25万人。クルド人が自治を敷く北部を米軍が抑えるのは、チクリートへの最終攻略の拠点とする狙いがあるとともに、混乱に乗じてトルコがクルド人地区に触手を伸ばすのを牽制する意味がある。
南部占領も同様に、バスラなど主要空港を手中に収めてカタール基地への依存を弱める意図と、シーア派への影響力を強めたいイランを牽制するものだ。
西部占領は、イラクがイスラエルに対しスカッドミサイルを発射することを防ぐ目的がある。
この案は、米中央軍のフランクス司令官が今春に提案したものだ。陸軍の従来型戦闘を中心にする同案について、ラムズフェルド国防長官らは「空爆を多用し、特殊部隊あるいは反体制勢力に頼れば、もっと少ない兵力で戦え、死傷者が減らせる」と突き返した。
フランクス司令官は、同じ陸軍出身のパウエル国務長官の援軍を得て、自案の復活に奔走。最終的にはフランクス案が大統領に採用され、空爆重視派の空軍や特殊部隊の司令官たちを悔しがらせている。
◆すでに始まっている「心理戦」◆
さて、問題は「オペレーション・スライス」の後半部である。
作戦立案担当者らは、「緒戦での米軍の圧倒的勝利」→「三方を米軍、もう一方(東)を宿敵イランに包囲され、食料、燃料を確保する見込みがなくなったイラク軍の士気低下」→「イラク軍司令官や部隊が、なだれを打つように自主的に降伏し始める」→「イラク上層指導部にも反フセイン感情が蔓延」→「フセイン暗殺」といったシナリオを想定している。フセイン体制の内部崩壊を期待するものだ。
シナリオがフセイン暗殺まで進まず、バクダッド、チクリートでの都市型戦闘になだれ込んだ場合でも、イラク部隊の大量降伏によって、抵抗するのはフセイン親衛隊の共和国防衛隊など一握りになると、彼らは計算している。
「オペレーション・スライス」の核心は、軍の大半をフセイン大統領から切り離す「情報戦」「心理戦争」である。その意味で、戦争はすでに始まっている。
ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙の米2紙が、作戦に関する同じ趣旨の記事を同じ日に掲載したことは、国防総省側からのリークであることを疑わせる。
記事は、「空爆に使用される武器の6割以上が精密誘導弾」「湾岸戦争時に比べ、爆撃力は飛躍的に向上」――と、米軍がイラク軍を力でねじ伏せることを強調する。さらに「我々は多くのイラク兵を殺害することを望んではいない。
ただ、彼らが愚かにも戦うのであれば、そうせざるを得ない」との軍高官の発言を引用した。いずれも、イラク軍人たちの戦意を失わせ、反フセイン陣営に付けば有利に取り計らうことをほのめかすものだ。情報でイラクを混乱させる意図を読み取ることができる。
◆「猛暑でも戦える」と米軍幹部◆
今後の動きは、国連査察に対するイラクの出方が中心になる。フセイン大統領がどう動くかで、米国の対応も変わってくる。12月23日までに査察が始まり、査察団は来年2月21日までに国連安保理に査察結果を報告することになっている。今後の展開は読みづらいが、フセイン大統領は米国の武力行使を先延ばしにするための手段を取るだろう。
このため開戦は3月以降にずれ込むとの見方も出ている。バグダッドが猛暑になる4月以降の戦闘は、生物・化学兵器防護服を考えるときつい dirCF更オかし米軍幹部が「夏でも戦えと言われれば戦うのが軍だ。猛暑のカリフォルニアの砂漠でも訓練を行っている」と公言しているのは注目していい。また、湾岸に展開している空母「ジョージ・ワシントン」「エイブラハム・リンカーン」を、別の2隻が現場に入った後に米国に帰すことも検討されている。
ただ、時期は別にして、戦争が始まるのはほぼ確実だ。その時、「オペレーション・スライス」には3つの弱点があると思う。
第1に、作戦の前半戦で、イラクの「北部」「南部」「西部」を簡単に占領できるかとの疑問がある。砂漠で兵力がまばらな西部はともかく、北部にはイラク陸軍の第5軍団、南部には第3、4軍団が控えている。南部のチグリス川沿いの湿地は米海兵隊の行く手を阻むだろう。緒戦の電撃的な勝利を前提とする作戦は見通しが甘すぎないだろうか。
第2に、「北部」「南部」「西部」に展開する米軍の安全が簡単に確保されるのかという疑問もある。正規軍の抵抗が簡単に収まったとしても、フセイン大統領はテロという形で米軍に対抗するだろう。米軍を異教徒の占領軍と見た民衆が自爆攻撃を試みることも想定される。3つの地域の安定がなければ、中央部にいるイラク主力軍の造反は見込めない。
そして、最大の弱点は、最後の決定的な局面で「造反」「自主降伏」という相手側の動きに頼りすぎていることである。この想定が崩れると、両軍が血で血を洗う都市型戦闘に突入してしまう。戦争が泥沼化した時、最大の犠牲者がイラクの無辜の民になるのは言うまでもない。
★在ワシントンDCジャーナリスト・森暢平=サンデー毎日12月1日号(2002年11月19日発売)連載中。