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(回答先: 検証・工作船事件 [読売] 投稿者 ちょっと 日時 2001 年 12 月 30 日 03:59:57)
月刊社会民主99年5月号
http://www5.sdp.or.jp/central/gekkan/6zieitai9905.html
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海上警備行動発令
自衛隊実戦へ突入
〜「不審船」追跡が残した問題〜
総力調査:本誌軍事問題特別班
三月二三日午前、佐渡島沖を航行中の「不審船」を海上自衛隊のP3Cが、能登半島沖の領海を「不審船」が航行しているのを同じく海上自衛隊のP3Cが発見し、追跡劇は始まった。海上保安庁は、一五隻の巡視船艇と、一二機の航空機を投入して合計千三百発の威嚇射撃を行い、海上警備行動を発令して追跡を引き継いだ自衛隊は、四隻の護衛艦と一二機の航空機を投入して三十五発の威嚇射撃と十二発の爆弾投下を行い、「不審船」を追跡した。これだけの戦力を投入して行われた「不審船」追跡は、結局「不審船」に逃げ切られる形で幕を閉じた。政府・防衛庁・自衛隊からは、武器使用基準の緩和を求める声や装備の充実をもとめる声が挙がっているが、はたして、今回の追跡劇に問題はなかったのだろうか。法律的な側面から考えてみた。
三月二三日夜、東京都千代田区の社会民主党本部の大ホールでは、大田昌秀・沖縄前知事や歌手の喜納昌吉氏を迎えて「ずっと『平和』をまもりたい。」集会が開催され、市民や労働組合員など約700人が集まり、新ガイドライン・周辺事態法案に反対する決意を固めた。
しかし、まさにこの時、社民党本部から500メートルと離れていない首相官邸には、小渕恵三首相以下、野中官房長官、野呂田防衛庁長官、高村外務大臣、川崎運輸大臣ら主要閣僚が集まり、能登沖と佐渡島を北に向けて走る二隻の不審船への対応を協議、初の自衛隊による海上警備行動の発令=自衛隊の実戦突入を検討していたのである。
漁業法違反で銃撃
二三日深夜、関係省庁連絡会議後に記者会見した、伊藤康成・内閣安全保障・危機管理室長は、「不審船」を追跡する理由を「現時点ではっきりしている適用法令は、登録されていない漁船であることから、漁業法違反で調査する権限がある。この法令には罰則もあり、立ち入り検査で何か違反行為が出てくれば、その他の法令の適用もある。」と発表した。
海上保安庁によれば、適用となるのは「漁業法七四条|3」。法文には「漁業監督官又は漁業監督吏員は、必要があると認めるときは、漁場、船舶、事業場、事務所、倉庫等に臨んでその状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査し、又は関係者に対して質問することができる。」とある。
また違反した場合の罰則は、一四一条−2で「漁業監督官又は漁業監督吏員の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はその質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の陳述をした者」は「六ヶ月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処す」としている。
海上保安庁は、能登沖と佐渡島沖を走る二隻の不審船に対して、それぞれ立ち入り検査をするため停船を命じたが忌避したので、漁業法七四条−3違反となった。
漁業法の主管官庁である水産庁によれば「これまでも違法操業をしている外国船を漁業法七四条によって検査している」という。
それでは、海上保安庁は、通常、漁業法違反の船舶に対して、どのように対応しているのであろうか。
海上保安庁が発行している「海上保安白書」(平成一〇年版)によれば、「わが国の領海および排他的経済水域において確認された外国漁船隻数は、八年に延べ約一万2千隻、九年に延べ約一万九千隻」であり、そのうち不法操業で検挙した外国漁船は平成元年から九年で三一五隻、他に警告・退去させた漁船も増加している。だが、このような外国漁船に対して、威嚇射撃を実施した事例はない。
漁業法とは、名前の通り、日本の領海における漁業について定めた法律である。漁業法・第一章総則・第一条(この法律の目的)には以下のように記されている。
「この法律は、漁業生産に関する基本的制度を定め、漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によって水面を総合的に利用し、もって漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ることを目的とする」
今回の不審船は、違法操業をしていたわけではない。また、この漁業法のどこを読んでも、情報収集や、なんらかの「工作」のために領海に侵入した「不審船」を捜査・摘発するという項目はない。実在する日本漁船や廃船になった日本漁船の名前を騙っていたということで、「不審船」を漁業法違反で追跡するには、法律的に無理がある。
領海侵犯という法違反はない
今回の不審船事件に関して、いくつかの報道機関は「領海侵犯」という用語を使ってる。
なぜ、海上保安庁は不審船を「領海侵犯」として追跡しなかったのであろう。
手元にある「国際法辞典」(有斐閣)を開いてみる。ところが、「領空」の項目には「領空侵犯」についての解説があるが、「領海」の項目には「領海侵犯」についての解説がない。他の国際法の専門書を読んでも、「領海侵犯」という文字は出てこない。
現行の法律には、領海侵犯という犯罪または法違反は存在しないのである。国際法的には、「領海の無害通行権」というものがあり、基本的には、どの国の船舶でも、他国の領海を通行できるのである。海洋法に関する国際連合条約・第一七条(無害通行権)には、「すべての国の船舶は、沿岸国であるか内陸国であるかを問わず、この条約に従うことを条件として、領海において無害通行権を有する」とし、同条約第一九条で無害通行とは「沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされる」としている。
これは領空の場合は軍事的な理由から「完全且つ排他的な主権」(国際民間航空条約1)が認められ、許可を得ない領空への侵入(領空侵犯)は国家が行った場合には「国際違法行為」となるが、領海に関しては、古来から海は交通の手段だたこともあり、当該国の領域主権はある程度制限されるためである。
しかし、外国船の通行が全て自由なわけではなく、「漁獲活動」や「調査活動または測量活動」とあわせて、「沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為」や「軍事機器の発着又は積み込み」は「沿岸国の平和、秩序又は安全を害する行為」とされている。
不審船が、言われているとおり情報収集やあるいは工作員の侵入に使われていたのなら、この項目に該当し、「無害でない通行」として、取り締まりが出来たはずだ。
海上保安庁はなぜ、軍事目的の無害でない通行でなく、漁業法違反で、追跡をしたのだろうか。
なぜ、威嚇射撃を行ったのか
日本の領海が侵犯されたのは今回がはじめてではない。前述の「海上保安白書」(平成一〇年版)は、「第1部 平成における海上保安の取り組みと今後の課題」「2 領海における主権等の確保と警備実施」のなかで、「我が国領海等における主権、主権的権利および管轄権を確保するため従来から領海警備等を実施しているが、近年尖閣諸島等において重大な事案が発生している」として、尖閣諸島の領有権問題を巡り、領有権を主張する台湾や、香港などの抗議船が領海内に侵入または岩礁に強行上陸した事例を紹介している。しかし、こうした「重大な事案」に際しても侵入を排除するのみで、警告射撃はしていない。
同白書「第2部 海上保安の動向」「第1章海上治安の維持」の項目でも、「九年には、我が国領海内で操業等の不法行為を行いまたは徘徊等の不審な行動をとった外国船舶八一六隻(うち漁船七九七隻)を確認している。このうち、不法行為船であった五〇三隻に対しては、四七一隻を警告の上直ちに退去させ、悪質な二八隻については検挙し、また、不審な行動をとった船舶三一三隻に対しては、当該行動の中止を要求し、あるいは警告の上退去させるなど必要な措置を講じた。」とある。
また、「一〇年四月には、中国の海洋調査船が、東シナ海の日中中間線付近より日本側の海域で、巡視船の中止要求等を無視して調査活動をおこない、さらにこの間三回に渡り領海に侵入」したが、この時も「該船が我が国排他的経済水域から退去するまで巡視船等による警備を行」うのみであった。
過去に、海上保安庁が威嚇射撃をした事例としては、一九五三年八月八日、北海道・宗谷岬沖で旧ソ連のスパイ船に対して威嚇射撃をした時のみ。また、これまでに確認された不審船は「海上保安庁創設以来一八隻」。追跡した事例は、昭和六〇年の四月二五日の「宮崎沖で発見された不審船を海上保安庁の巡視船艇、航空機により追跡」した一例だけだ。(三月二四日衆議院安全保障委員協議会で辻元清美議員の質問に対する海上保安庁・楠木委員の回答)
このように、日本の領海・領土に侵入した船に対しては、通常は領海外への退去を要求するのみで、不審船を追跡した実例は一例、威嚇射撃も一例であることを考えれば、今回の領海外まで追跡し、しかも領海外で威嚇射撃をおこなうという行為が、いかに異例かが分かる。
海上保安庁の巡視船「はまゆう」「ちくぜん」「なおづき」の三隻は、二隻の不審船に対して、二〇ミリと一三ミリの機関砲を合計で千三百発警告射撃した。海上保安庁は発砲の根拠を警察官職務執行法七条としている。同法では、「警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護または公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じて合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。」としている。
しかし、漁業法違反の罰則規定が「六ヶ月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処す」であることを考えれば、海上保安庁の巡視船・艇による千三百発の威嚇射撃は、過剰な反応と言わざるを得ない。
海上保安庁「追跡」の根拠は
それでは、通常は領海に侵入した船を、領海外に退去させるだけの海上保安庁が、なぜ、今回に限って、追跡をおこなったのだろうか。
海上保安庁は不審船を、公海上に出てまで追跡した法的根拠を、国際法でみとめられた追跡権としている。 追跡権とは、海洋法に関する国際連合条約第一一一条でみとめられた権利で、「外国船舶が自国の法令に違反したと信じるに足りる十分な理由があるときに」当該の船舶を追跡できる権利である。追跡は自国の領海内から開始しなければならず、中断しない限り他国の領海内にはいるまで続けることができる。
ここで問題になるのは、追跡権の対象が条約で「外国船舶」とされていることだ。しかし、海上保安庁は「不審船」を漁業法に違反した日本籍の船と認識している。条約からは日本籍の船であれば、追跡権の対象とはならないのだ。
巡視艇はなぜ、強行接舷しなかったのか
社民党の土井たか子党首は、不審船に対する海上警備行動の発令に関してテレビから求められたコメントで「威嚇射撃をするのでなく、体当たりなどをして止められなかったのか」と発言した。
不審船は、最初は一〇ノット(時速一九キロ)、その後三〇ノット(五五キロ)とスピードアップしていった。海上保安庁の巡視船・艇は、低速で航行していた時点で追いついているのだ。漁業法違反による立ち入り検査を行おうと思えば、強行接舷して乗り込むことも可能であった。
強行接舷が危険だとの見解もあるが、海上保安白書では「悪質な外国漁船に対しては」「巡視船艇により強行接舷を行い、複数の海上保安官を移乗させて漁船乗務員を制圧するなど、徹底した取り締まりをおこなっている」としている。強行接舷は、不法操業漁船などに対して、これまでにも行われているのだ。
また、海上保安庁には、海上でのテロ行動などに対応するための「特殊部隊」も存在している。
海上保安庁は、不審船に追いつき、強行接舷できる機会をみすみす逃して、なぜ「海上保安庁の船に比べスピードという能力が明らかに上回っていた。このため自衛隊におまかせするしかないと判断した」(川崎運輸大臣)のだろうか。
海上警備行動の発令
ともあれ、政府は二四日零時四五分、自衛隊による海上警備行動を発令し、海上保安庁に代わって自衛隊が「不審船」を追跡することになる。
自衛隊はこの行動のために、イージス艦「みょうこう」をはじめとして「はるな」「あさぎり」「あぶくま」の護衛艦四隻、P3C対潜哨戒機五機、EP3やE2Cなどの警戒機、F15戦闘機などを出撃させ、二隻の「不審船」に対して護衛艦からは合計で三五発の五インチ砲を発射し、P3C対潜哨戒機からは二二発の一五〇キロ爆弾を投下した。
海上警備行動とは、どのような法律に規定されているのだろうか。
自衛隊法は第六章・自衛隊の行動で、自衛隊の出動として(一)防衛出動(二)治安出動(三)要請による治安出動(四)海上における警備行動(五)災害派遣(六)地震防災派遣(七)領空侵犯に対する措置をあげている。
このうち海上における警備行動(第八二条)は「長官は、海上における人命若しくは財産の保護または治安の維持のための特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる」としている。
では、今回の漁業法違反が、この条文にあたる事態なのだろうか?
一九八一年四月一七日の参議院安全保障特別委員会で夏目防衛庁官房長(当時)は、その前年におきた旧ソ連の潜水艦が日本の領海に入ってきた事件に関連して次のように述べている。
「第一義的に、領海侵犯、こういった海上における警察行動については海上保安庁の任務になっております。私どもが自衛隊法八二条で規定しておりますところの海上における警備行動というのは、先ほど防衛局長がるる述べたように、有事が近くなって、海上における不審船舶によってわが方の海上交通が著しく阻害されるような場合、あるいは海賊的な行為が頻発するようなことがあってわが方の国民の生命、財産を守る必要があるときに、海上保安庁の手に負えなくなるような事態に、内閣総理大臣の命令を受けて出動するというものでございまして、先般の領海侵犯がたまたまなったからといって、すぐさまそういうものが発動されるものでもありません」
また、海上保安庁によって追跡か行われたただ一例である一九八五年四月二五日の宮崎沖の不審船も、今回と同様に、日本漁船に偽装した高速船であったが、海上警備行動は発令されていない。
今回の漁業法の「不審船」の追跡は、「海上における人命若しくは財産の保護または治安の維持のための特別の必要」に該当するのであろうか。
三月二四日に開かれた衆議院安全保障委員協議会で野呂田防衛庁長官は、なぜ今回八二条を発令したのかという辻元清美議員の質問に応えて「大変今回の場合は悪質であったということを挙げることができると思います。漁船を装いながら、漁具も魚網もなにも持っていない。それから、物すごい高度な情報収集のためのアンテナを持っているがこれはつぶさに申しあげるわけにはいきませんが、相当高度な情報収集で、勘ぐれば、我が国に対するスパイ行為をやることを想像させる、大変機能の高いものを持っている。それから、とにかく、現存する日本の船の名前を詐称したり、あるいはなくなった船であることを知っていてそういう船の名前を詐称したり、私どもにとりましては我慢の限度を越えた大変悪質なものである。そして、こういうことから見ると、日本の秩序維持という点からも、これは過去の例に比較しても許しがたい行為であるというふうに思って、八二条の適用をした」と述べている。
しかし、八五年の宮崎沖の際にも、今回と同様にアンテナを立てた高速偽装漁船であったことは変わらない。ましてや八一年に国会で答弁された「有事が近くなって、海上における不審船舶によってわが方の海上交通が著しく阻害されるような場合、あるいは海賊的な行為が頻発するようなことがあってわが方の国民の生命、財産を守る必要があるとき」には到底当たらない。
そして、なんども繰り返すが、「不審船」が犯した法律違反は、立入検査を忌避した漁業法違反なのである。漁業法違反で海上警備行動が発令されてしまえば、市民運動や労働組合によるデモの際の公安条例違反や道路交通法違反で、治安出動が発令されかねないではないか。
しかも、政府が海上警備行動を発令したのは、日本の領海でも排他的経済水域でもなく、「不審船」が日本の領域から遠く離れた公海上である。日本の治安にも、日本人の生命・財産にもまったく関係はない。
食い違う海上保安庁・防衛庁・外務省の見解。
防衛庁に確認したところ、「不審船」に対して、護衛艦の威嚇射撃や、P3Cによる爆弾投下を行ったのは、明らかに公海上。公海上での威嚇射撃や爆弾投下を合法化するのは海上保安庁の場合と同じく国際法に基づく追跡権であり、警察官職務執行法七条の準用とのこと。
ところが、ここで海上保安庁と防衛庁の間で、法的根拠の食い違いが起きている。 海上保安庁が「漁業法違反」で追跡・威嚇を行ったのに対して、防衛庁側は「領海侵犯」で追跡・威嚇を行ったとしているのだ。
前述の通り、日本には「領海侵犯」を罰する法律はない。したがって、「外国船等が自国の法律に違反したと信じるに足る理由があるときに追跡できる」とした国際法に定められた「追跡権」の根拠となる「自国の法律に違反する」行為は、存在しないのである。自衛隊による海上警備行動の発令と、自衛艦・航空機による追跡と警告射撃、爆弾の投下には、まったく法的根拠がないのだ。
もし仮に「領海侵犯」という法律違反があったとしても、領海内で行われた「漁業法違反」に対する海上保安庁の追跡が、海上自衛隊「継続」した時点で「領海侵犯」に変わってしまったことになる。対象法令が途中から変わってしまうことが、国際法的に認められるのだろうか。
また、外務省の見解も、海上保安庁、防衛庁とは異なっている。外務省は「不審船」を漁業法に違反した「国籍不明船」と判断し、追跡権を行使したとしているのだ。
日本船か国籍不明船か、行業方違反か領海侵犯か。「不審船」追跡・威嚇射撃に関わった三省庁で、それぞれ見解が異なるのだ。
不審船を発見したのはいつ
さて、不審船は、どのような経緯で発見されたのであろうか。二四日未明の記者会見で、伊藤内閣安全保障・危機管理室長は海上自衛隊の対潜哨戒機P3Cが「通常の哨戒活動のなかでたまたま嗅ぎつけた」と発言した。また野呂田防衛庁長官も前述の衆議院での審議で「警戒監視活動を実施中の海上自衛隊の航空P3Cが、2隻の不審船舶を発見しました」と答弁している。あくまでも「たまたま」発見したとしている。
ところが、三月二七日付けの東京新聞によれば「海上自衛隊の護衛艦『みようこう』と『はるな』は不審船捜索を理由に当初予定していた訓練日程を一日繰り上げ」ていたことが「防衛庁筋の話で明らかになった。」「二一日深夜、防衛庁・統合幕僚会議情報本部の通信所が能登半島付近の洋上から出ている不審な電波を傍受、領海に不審船が入り込んでいた可能性が濃厚になった。二隻は予定を一日繰り上げ、急きょ二二日午後三時に舞鶴地方総監部所属の『あぶくま』とともに出航、能登半島付近に進出した」と記されている。
不審船の発見と自衛隊の出動についての、防衛庁長官の国会答弁と新聞記事の食い違いについて、防衛庁は「答えられない」が「一般的に色々な電波が飛んでいる。明確にするのに時間がかかった」としている。
防衛庁長官の国会答弁によれば、海上自衛隊のP3Cが不審船を発見したのは、二三日の九時二五分頃で、海上自衛隊から海上保安庁に連絡されたのは午前一一時頃。この時点ですでに、発見から連絡までに一時間半以上のタイムラグがあり、しかも新聞報道が事実だとすると、二一日には「不審船」がいる可能性があったのに、一日半以上、海上保安庁に連絡が入らなかったことになる。
海上保安庁が不審船に追いつける巡視船艇を持っていながら、現場に投入できなかった理由は、時間がなかったためであるが、二一日深夜の時点で自衛隊から海上保安庁に連絡が入っていれば、海上保安庁でも十分に対処出来たはずだ。
縦割り行政の中で、単に省庁間の連絡がうまく行かなかっただけなのかも知れない。しかし、勘ぐれば、海上保安庁への連絡を遅らせることで海上保安庁の対応を遅らせ、自衛隊の出番を意図的に作ったともとれる。
自衛隊のねらいは何だったのか
P3C・EP3・E2C・F15という、世界的にも先端を行く空海自衛隊の主力航空機と、同様に最新鋭のイージス護衛艦を動員して行われた日本海での「大捕物」は、結局失敗に終わった。海上自衛隊の護衛艦は、「不審船」に追いつき、その前方に回り込みながら、強行接舷もせずに取り逃がしたのである。
しかし、政府・防衛庁・自衛隊は、この失敗を自衛隊の能力のせいではなく、「十分に武力行使できない法律上の不備があり、逃走を許した」(野呂田防衛庁長官・二四日の記者会見)とし、海上警備行動の際の武器使用基準の緩和や、護衛艦に口径の小さい機関砲を搭載するなど装備の一層の充実、そして、自衛隊法の改定や有事法制の必要性を主張し始めた。
「有事法制について『国民の生命・財産を守るためにいかなる措置を講ずるべきか。いろいろな事情に照らして対処するのは政府としての責任』と述べ、法制化を前提に研究を進めていく方針を明らかにした。」(小渕首相・毎日新聞三月二七日)
例えば「有事法制について『私としては研究にとどまらず、その結果に基づき法整備されることが望ましいと考える』」(野呂田防衛庁長官・読売新聞三月二九日)
「野呂田芳成防衛庁長官は二四日の衆院安全保障協議会で、不審船の発見など自衛隊による通常の警戒情報収集勝土をを防衛庁施設法に基づき行っていることについて「少し検討してみたい」と述べ、自衛隊法に明記するこおも視野に入れながら検討する方針を明らかにした」(毎日新聞三月二五日)
「野田自治相(国家公安委員長は)二八日のフジテレビの報道番組で、不審船の日本領海侵犯事件について、『逃がさないで拿捕できる体制があるのか。武器使用という問題が必ず出るが、どういう武器をどういう段階でやれるのかというと、現在は非常に制約が多すぎる』と述べた。これは、領海天板での武器使用について、緩和するため、法改正を含めた検討が必要だとの認識を示したものだ。」(読売新聞三月二九日)などだ。
また「防衛庁では、新たな防衛二法改正案が、水面下で準備されている」「現在は領空侵犯に対する措置だけが定められている八四条について、こうなおしている」「長官は・・・防衛出動にかかる事態にいたらない、外国の武装部隊の我が国領土への不法侵入、外国の軍艦(武装船舶を含む)の無害でない領海通行、または外国の航空機の我が国領域の上空への侵入を阻止するため、自衛隊の部隊に対し、国際法規及び慣例に従い必要な実力を行使することができる」「この新たな自衛隊の任務を『領域警備』と名づけている」(朝日新聞三月二六日)という記事もある。
有事法制や自衛隊法改正を求める声は、政府だけではなく、自衛隊の制服組からも上がっている。
(新ガイドライン)「関連法案が成立したからといって、直ちに自衛隊が行動しやすくなるわけではない。それをはっきりと示した事例だ」。関連法案は「日米両国の信頼関係を深める上で必要。また、それが機能するためには、(自衛隊法など)関連するルールの整備も欠かせない」と述べた。(海上自衛隊横須賀地方総監部の坂部邦夫総監・神奈川新聞三月六日)
こうした事件後の一連の発言を見ると、有事法制の整備や防衛予算の拡大のために、本来であれば、捉えられた「不審船」を、意図的に逃がしたのではないかとも思えてくる。
今後どうしたらいいのか
前述したの夏目防衛庁官房長(当時)の答弁通り「第一義的に、領海侵犯、こういった海上における警察行動については海上保安庁の任務」である。
日本の領海に侵入したのが、違法操業の漁船であれ、「不審船」であれ、海上保安庁が対処するべきだ。
日本領海での不審船への立ち入り検査や拿捕、追跡に、簡単に海上警備行動を発令し自衛隊が出動すべきではない。
自衛隊の防衛出動や治安出動には国会の承認が必要である。しかし、海上警備行動は総理の承認があれば良く、国会承認を必要としない。その国会承認を必要としない海上警備行動で、武器の使用基準を緩和し、武装した外国船・「不審船」と交戦が行われ、それが引き金となって戦争が起きてしまった場合はどうするのか。
実際に今回の追跡劇でも、日本政府の発表によれば24日早朝、朝鮮民主主義人民共和国からミグ21戦闘機が発進している。また航空自衛隊も、小松基地所属のF15戦闘機を発進させ、警戒にあたっていた。日本側が、防空識別圏を越えて大陸近くまで「不審船」を深追いした場合には、戦闘機どうしの交戦に発展していたかも知れない。
海上保安庁は、現在、七〇機の航空機と三五五隻の巡視船艇を保有している。八五年四月の宮崎沖での不審船追跡を教訓に、最速三五ノットを出せる巡視艇も一〇隻保有している。今回「不審船」追跡の主軸となった新潟の第九海上保安本部には、この船は配備されていないが、隣の第八管区(舞鶴)には配備されており、実際に出動している。しかし、その船も舞鶴から現場海域までは距離があり、不審船を追尾するには至らなかった。
しかし、海上自衛隊が不審船を発見した時点で海上保安庁に即座に連絡をしていれば、保安庁の船で十分に対処出来たかも知れない。
防衛庁では、装備品の納入にあたっての不祥事が相次いでいる。「不審船」事件直後の三月二五日には、総務庁が、防衛庁に対して、装備品の価格算定が妥当かどうか第三者が検定する仕組みをつくることを勧告している。これは物品の新規調達にあたって、見積もりを一社からしか取らずにそこが受注するなど、実体のない競争入札が発覚したためだ。(毎日新聞三月二六日)。
日本の自衛隊が、価格的には国際水準よりもはるかに高額な日本産の装備品を多数導入しているのは、周知の事実である。
国民の血税たる防衛費を、自らの天下り先の確保のために流用する防衛庁・自衛隊に多額の予算をつぎ込むよりは、日々、領海を警備している海上保安庁に十分な装備をさせることの方が、より重要ではないだろうか。
軍事のエスカレートはなにも解決しない
今回の「不審船」事件の発端を、米軍による情報提供とする報道もある。また、二隻の「不審船」が朝鮮民主主義人民共和国の港・清津に入港したことを確認したのも、米軍からの情報だと報道されている。防衛庁は清津への入港確認を、すべての状況を総合的に見て」確認したとしているが、「詳細は公表できない」としている。
朝鮮民主主義人民共和国の港・清津が、自衛隊のレーダー探知の外側にあることを考えれば、確認したのは、米軍の情報衛星であろう。
日本でも「テポドン」騒動以来、偵察衛星の保有を決定した。
巨大な軍隊と巨額の軍事費を持つ米国や日本が、朝鮮民主主義人民共和国の領土を高高度から「盗み見」することは許されて、他の国が船で電波を傍受するのは許され無いというのは、どういうことなのだろうか。
なにも、「米国や日本も『盗み見』しているのだから、他国の領海侵入や情報収集を許せ」と言っているのではない。
偵察衛星に対して「不審船」の派遣、「不審船」に対して武器の充実や武器使用の緩和という悪循環を続けていけば、行き着くところは戦争である。相互にエスカレートする軍備拡大を、どこかで止めなければならない。
九四年、核査察の受け入れをめぐって朝鮮半島が一触即発となった時、単身訪朝した、米国のカーター・元大統領が対話の道を開いた。
米国や韓国でさえもが、「太陽政策」を取っているいま、日朝間でいま求められているのは、対話の窓口を開くことである。
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23日 6時42分頃 海上自衛隊のP3Cが佐渡島沖で「第1大西丸」発見
9時25分頃 海上自衛隊のP3Cが能登半島沖で「第2大和丸」発見
11時頃 海上自衛隊が「第2大和丸」発見を海上保安庁に連絡
13時頃 海上自衛隊が「第1大西丸」発見を海上保安庁に連絡
13時18分 海上保安庁巡視船が「第2大和丸」に停船命令。応答せずに北に航行
14時 「第1大西丸」に海上保安庁が停船命令。応答せずに北に航行
17時37分 首相執務室に川崎運輸相、野中官房長官、高村外相、野呂田防衛庁長官が入り、対応を協議
20時 巡視船「ちくぜん」が「第2大和丸」に対して、20ミリ機銃で威嚇射撃
20時24分 巡視艇「はまゆき」が「第2大和丸」に対して、13ミリ機銃で威嚇射撃
20時31分 巡視艇「なおづき」が「第1大西丸」に対して自動小銃で威嚇射撃
24日 0時50分 自衛隊に対して「海上警備行動」発令
1時19分 海上自衛隊護衛艦「みようこう」が「第2大和丸」に一回目の威嚇射撃。以降2時すぎまでに合計13回の威嚇射撃
1時32分 護衛艦「はるな」が「第1大西丸」に一回目の威嚇射撃。以降4時過ぎまでに合計12回威嚇射撃。
3時12分 P3Cが「第2大和丸」に150キロ爆弾4発を警告投下
3時20分 「第2大西丸」が防空識別圏を越え海上自衛隊は追跡を断念
4時1分 P3Cが「第1大西丸」に150キロ爆弾4発を警告投下
5時41分にも4発投下
6時6分 「第1大西丸」が防空識別圏を越え、追跡を断念
7時55分 航空自衛隊のE2C早期警戒機がレーダーで朝鮮民主主義人民共和国から航空機数機が発進するのを確認。
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