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9月11日の同時多発テロに端を発した米軍のアフガニスタン攻撃は、10月7日の空爆開始以来2カ月半を超えた。イスラム原理主義勢力タリバンの政権は崩壊し、新たな暫定政権が発足したものの、同時テロの首謀者とされるウサマ・ビンラディン氏は所在も生死も不明のままだ。タリバンの最高指導者オマル師も捕まらない。焦点の二人を巡る情報と周辺の状況を追った。
●死亡説
所在がつかめないビンラディン氏について、米軍は最近、死亡の可能性をにおわせ始めた。同氏がアフガン東部トラボラで戦闘の指揮を取っているとの情報が流れたのは今月11日。その2日前に米軍が6〜7トンの大型特殊爆弾を投下した際、パニック状態になったアルカイダの戦闘員が無線や衛星電話で交信し、これを傍受した米情報当局は同氏がトラボラにいると確信したという。
しかしその後、ビンラディン氏らしい声を傍受したという情報はなく、ラムズフェルド国防長官やウルフォウィッツ国防副長官、フランクス中東軍司令官ら国防幹部は相次いで同氏死亡の可能性に言及し始めた。
死亡したとすれば、米軍のアフガン攻撃は目的を一応達成したことになる。空爆で洞くつのがれきに埋もれて死んだのなら、世界貿易センタービルの崩落で死亡した犠牲者の「復讐」にもなる。だが、米軍が死亡説を強く打ち出せないのは、確証がないというだけでなく、ビンラディン氏が生存をアピールする声明などを出した場合、米軍の面目が丸つぶれになりかねないからだ。
このため米軍は近く海兵隊500人前後をトラボラに投入し、300近い洞くつを一つ一つ捜索する。同氏と思われる遺体を発見した場合はDNA鑑定を試みる予定だが、捜索の長期化は必至。この徹底捜索は同氏の所在特定のための時間稼ぎという側面もありそうだ。
●逃亡説
ビンラディン氏の生死論議に波紋を投げかけたのは、仏週刊誌マリアンヌ(24日発売)が掲載した同氏の側近、ザワヒリ副官のインタビュー記事だった。アルカイダのナンバー2にあたる同副官は「空爆で家族死亡、本人も重傷」との説が流れていたが、電話での取材に「私も家族も元気だ」と語り、ビンラディン氏や他の幹部が「アフガン各地で野戦を指揮している」と言明した。
このインタビューは今月9日、つまり米軍が大型特殊爆弾を投下した日に行われたとされる。副官はアルカイダの「最後の拠点」とされたトラボラが「もぬけの殻」だったと語った。この発言が事実であれば、ビンラディン氏は当時アフガンにいたが、トラボラは脱出していたことになる。
ビンラディン氏の逃亡自体はさほど難しくなさそうだ。現にタリバンの幹部や多数のアルカイダ兵がパキスタン領内に逃げ込んでいる。米軍事筋は「ビンラディンが他国へ逃げても、アフガン以上の自由は得られない」として外国逃亡説には否定的だが、米軍は海路の逃走を阻むため、パキスタン沖での臨検を強化している。
ビンラディン氏にすれば新しい暫定政権下のアフガンにいても展望は開けないため、ほとぼりが冷めるまでパキスタンの辺境地帯に潜伏するか、外国を転々とする可能性も捨て切れない。【ワシントン布施広】
ビンラディン氏はパキスタンに逃亡したとの説も流れているが、これは同国政府が最も懸念するものだ。ムシャラフ大統領は中国訪問中の22日、テレビのインタビューに「パキスタンには入国していない」と明確に打ち消した上で、死亡した可能性が高いと述べた。
パキスタンは米国によるビンラディン氏とアルカイダ・メンバーの捕捉作戦を支援してきた。軍情報機関(ISI)がCIA(米中央情報局)に情報を提供し、アフガンとの国境線に大量の部隊を配備し警戒した。
だが、ビンラディン氏がパキスタン逃亡に成功していれば、対米協力姿勢に疑念を抱かれ、関係を損なう事態も予想される。米国にパキスタン空爆の口実を与えることにもなりかねない。
一方、ムシャラフ大統領の「死亡可能性」発言に続き、25日付パキスタン紙オブザーバーが、ビンラディン氏は今月半ばにアフガン東部トラボラで病死したと報じた。
パキスタンにとって国益上、最も都合が良いのは「確証(遺体)のない死亡説」の流布だ。米国の捕捉作戦にISIの協力は欠かせず、パキスタンは、対インドをにらんだ交渉カードをいつまでも手にしていられる。
アルカイダにとっても「確証のない死亡説」は一番の落としどころかも知れない。ビンラディン氏を神格化し、組織への求心力を維持できるからだ。【イスラマバード春日孝之】
パキスタン軍情報機関(ISI)筋によると、タリバンの最高指導者オマル師は今月6日にカンダハルを明け渡し、北方のウルズガン州に入った。現在カンダハルを支配するグル・アガ氏は、オマル師がヘルマンド州バグラン近郊の山岳地帯に移ったと見て約4000人の兵力を派遣した。この移動情報も「極めて可能性が高い」とISI筋は言う。だが、拘束に向けた本格的な作戦が始まる気配はない。
アガ氏の部隊は18日、ヘルマンド州でアルカイダとみられる少数のアラブ兵と交戦した。増派された支援部隊の司令官の一人は19日、「命令があればオマル師をすぐ捕捉できる」と毎日新聞に語ったが、動きはピタリと止まった。裏の意図があるとの見方が出ている。
アガ氏は、タリバン撤退後にカンダハル統治を委ねられた別の部族勢力から統治権を奪った。暫定政権首相役のカルザイ氏から「暫定的な知事」に任命されたが、将来の統治権委譲が条件だ。
しかし暫定政権は国軍を持たず、南部地域でのタリバン掃討、オマル師捕捉作戦はアガ氏に任さざるを得ない。アガ氏はこの状況を利用して「兵力を増強し、権力を手放さないだろう」と消息筋は分析する。オマル師のヘルマンド州潜伏説も、アガ氏側の情報操作ではないかとの疑いをぬぐいきれない。
ヘルマンド州に部隊を派遣した部族勢力関係者は25日、「捕捉作戦が手間取っている間に、オマル師はヘルマンド州の山岳地帯から移動した可能性がある」と漏らした。
オマル師だけでなく、ほとんどのタリバン幹部は捕まっていない。24日付の英紙ガーディアンは、北部同盟のドスタム将軍がタリバン軍の最高幹部4人を捕虜にしたが釈放したと報じた。消息筋も「ドスタム将軍ら反タリバン勢力の多くは、タリバン幹部の身の安全を約束して支配地を広げた」と言う。
また米紙ワシントン・ポストは先に、タリバン政権時代の国防相、内相らが、反タリバン勢力との取り引きでパキスタンに逃れたと伝えた。【イスラマバード小松健一】
[毎日新聞12月27日]