投稿者 あの〜 日時 2001 年 10 月 29 日 18:40:30:
<エディトリアル1・インタビュー
Z・ブレジンスキー
「日本はやるべきことを勘違いしてはいけない」>
小泉政権は憲法問題をクリアしないまま、戦後半世紀以上守り続けてきた日本の「不戦の誓い」を捨て去り、アメリカの自衛のための戦争にのめり込もうとしている。目下の戦争は国連が認めたテロリストへの武力制裁ですらなく、むしろ、世界中に戦火を広げる危険に満ちている。カーター政権で安全保障担当の特別大統領補佐官を務めたをズビグニュー・ブレジンスキー氏は、アメリカを代表する中央アジア・中近東問題専門家であり、ブッシュ大統領のアドバイザーとしても知られている。ブレジンスキー氏が対テロ戦争と日本の役割について語った。(インタビュアー/佐藤則男=ニューヨーク在住)
*
――“テロとの戦争”は、これまでの戦いと何が違うか。
「非常に異なっている。これは、宣戦布告もなければ敵も特定されない戦争だ。敵が名乗り出ないから特定の要求もない。あえていえば、われわれへの憎悪の戦いといえる。
私は、これを≪世界戦争≫だと位置付けると世界をミスリードすることになると考える。むしろ、国際システムを破壊し、不安定にし、罪のない人を殺す連中を封じ込めるための戦いとみるべきだ」
――テロ支援国の中にイラクは含まれるか。
「イラクを含むどの国でも、アメリカに対して敵対するテロリストを助けたことのある国、もしくは助ける意図のある国に対しては、アメリカはあらゆる攻撃をする権利を有するのは当然だ。
しかし、それが中東の国であった場合、政治的配慮が必要になる。この地域では、アメリカの対イラク経済制裁に対して拒否反応がある。その制裁は、数百万人におよぶイラク民衆の生命と健康に大きな被害を与えている一方で、サダム・フセイン大統領には何の被害も与えていない。
だから、アラブの人たちには、アメリカの一方的なイスラエル支持やボスニア支持に対して拒否反応がある。アメリカ人のイラクに対する怒りは、逆にエジプトやパレスチナ、サウジアラビアを不安定にする」
――パウエル国務長官がパキスタンを訪問した途端、カシミールでインドとパキスタンの紛争が起きた。イスラエルは、「対テロ戦争」と称してパレスチナに侵攻した。アメリカの動きが世界の火薬庫を爆発させる恐れはないか。
「全くその通りだ。世界のいろいろな国が、≪テロリストに対する戦争≫という名を利用して、自らの戦争に突入する危険がある。『対テロ』というのは、口実としては誰も否定できない力を持つ。
そういう一言が軍事行動を取る理由になると、火薬庫はいくらでもある。例えば中国政府にとってのウイグル自治区、インドとムスリムの対立があるカシミール、ロシアとチェチェン、イスラエルとパレスチナの紛争、トルコのクルド人問題、そうしたリストを挙げたらきりがない。 アメリカは非常に注意しなければいけない。各国が自分の都合で戦争に走るという危険をよく考えるべきだ」
――アメリカにとっては何のための戦いなのか。
「今回のテロは、アメリカの民主主義がこれまで直面した最大の壁だろう。市民権に対する挑戦でもある。だから、テロ活動が広がり、さらに破壊的になれば、強力な軍事力を使ってテロリストを徹底的に破壊する攻撃に発展することは避けられない。
同時に、アメリカ憲法とアメリカの価値観そのものが問われることになる。かつて、共産主義やナチズムがアメリカに挑戦してきたこととは意味が違う。なぜなら、その2つはアメリカ本土を巻き込んではいなかった。しかし、その時でさえ、アメリカでは市民権を侵す忌まわしい出来事があった。第2次世界大戦の時、日系アメリカ人が受けた迫害はアメリカの憲法に違反した行為だった」
――強制収容所に入れられたことか。
「そうだ。今度のテロリズムがもっと破壊的に進めば、アメリカ憲法の根本を侵す問題になるかもしれない。その意味で、アメリカへの大きな挑戦なのだ。私は、第2次大戦時のような過激な動きがないことを望んでいる。そんなことをすれば、それはアメリカの敗北を意味する。 ただし、アメリカは非常に反攻する力の強い国だ。そして、非常に愛国心の強い国民でもある。攻撃されたら怒りに燃えてやり返す。アメリカが、いったん怒ったら(こぶしを握り締めて思いきり殴りつける動作をする)」
――アーミテージ国務副長官は、柳井俊二駐米大使に、「ショー・ザ・フラッグ(旗を見せろ)」といった。小泉純一郎首相は、アメリカが自衛隊の海外派遣を求めていると解釈し、新しい法律を作ろうとしている。
「今のテロリストたちは、全世界をテロ戦争に巻き込もうとしている。だから、日本にも共通の利害がある。世界中の国がテロ撲滅に貢献すべき時だ。≪ショー・ザ・フラッグ≫とは、そういう戦いの一部をなすことを自ら示すということだ。今のところ、わが国と共にその役割を果たしているのはイギリスだけだが、アメリカは、日本を極東におけるイギリスと同じような同盟国だと考えている」
――あなたは日本を「脆い花」とも表現した。今の日本は歴史上、最も脆い状態ではないか。
「経済と金融システムの脆さを国民の脆さと一緒にしてはいけない。歴史的に日本のコミュニティは非常に強いものだったのではないか。金融、経済構造は脆いけれども、国民は強さを持っている」
――国の危機にも、日本は真の改革をしていない。
「確かに危機は深まっているが、本当に深刻になれば日本人は必ず反応する。明治維新でも、日本は大きな変化を起こして危機に対応した。日本人は、勉強熱心で国に奉仕する結束力の強い国民だ」
――日本人は脆くはない?
「私は日本人が脆いといいたかったのではなく、日本のグローバル・セッティング(国際化への行動)が脆いという意味で『脆い花』と書いた。独自にまかなえる資源に乏しい、経済のグローバル化への準備がない、国家の安全保障はアメリカに頼っている、そういう要素が日本を脆くしていると考えている」
――日本人はテロと戦うことができるか。
「日本がテロリストに攻撃されることは恐らくないだろう。テロと戦うのではなく、日本人は国の根本に触れる大きな変化に立ち向かわなければならない。日本人はそれに耐えると思うし、そうであることを期待している。
世界がテロ戦争に巻き込まれ、“レッツ・ショー・ザ・フラッグ”といわれれば、日本はそれに応じることが必要になる。それに備えた国づくりができるかどうかだ」