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日本の信用力は「一段と低下する」S&P

投稿者 sanetomi 日時 2002 年 1 月 31 日 19:01:17:

(回答先: 日本の信用力は「一段と低下する」-2002年、S&Pが厳しい認識 東京 1月31日(ブルームバーグ) 投稿者 sanetomi 日時 2002 年 1 月 31 日 18:54:24)

バブル経済の崩壊から10年が過ぎ、日本経済は好転の兆しが見えないままデフレを伴った景気後退に突入した。スタンダー
ド&プアーズは2002年、基本的にあらゆる部門の信用力が一段と低下するとみている。本リポートでは、日本の過去10年の
信用動向を検証するとともに、2002年の見通しを評価していく。以下はその要旨である。

事業会社部門の信用力は引き続き低下する。経済情勢が悪化を続け、銀行による支援
が弱まるため、上場企業、中小企業を問わず破産件数が増加する。スタンダード&プアー
ズでは特に、ハイテク、小売り、商社、建設部門の動きに注視する。
銀行部門はかつてないほどに衰弱している。特に大手銀行は何らかの形による政府介入
が避けらない状況にある。一方、規模の小さい金融機関の救済に対して政府が消極的で
あるとの見方も裏付けられてきている。今後の金融機関の破綻から生じる負担が、預金
者および債務者にもある程度及ぶ可能性がある。
運用環境の低迷が続く中、保険業界は依然として逆鞘に悩まされよう。損保業界では、
大手は現在の経済情勢下でも持ちこたえられるとみられ、結果として信用格差の拡大が
予測される。一方、生保業界では信用力の低下は、より業界全体に及ぶとみられる。逆
鞘、規制緩和、競争激化が引き続き圧力となり、規模の小さい生保会社の破綻が新たに
発生する可能性が高い。
スタンダード&プアーズは中期的経済成長の見通しの悪化、構造改革の遅れ、公共部門
の債務の増加を主な理由として、2001年に2度にわたって日本のソブリン格付けを引き下
げた。2002年度の政府債務総額はGDP比140%に達する見通しであり、構造改革もしく
は景気回復がさらに遅れた場合、ソブリン格付けが再度引き下げられる可能性がある。

一方、ここ数年でみられたプラスの徴候として、以下が挙げられる。

企業破綻の発生頻度が高まっていることで、投資家は信用リスクに対する認識が高まり、
その結果、リスク管理手法が改善されている。
過去3年間の一連の資本市場改革とリスク管理手法の改善は、資本配分の効率性を改
善し、痛みは伴うものの避けて通ることはできない日本の経済基盤の再建に寄与しよう。

1992−2001年 信用力は急落、もう一段の悪化も
1990年代に日本の信用力がいかに急速に落ち込んだかは、格下げに対する格上げの比率を見
れば容易に把握できる。1992年〜2001年まで毎年、格下げの件数が格上げの件数を上回って
いる。スタンダード&プアーズは、2002年もこの傾向が続き、11年連続で格上げ/格下げ比率が
1を下回ると予測している。1990年代はじめの格付けは、件数そのものが限られている上、高い
水準に偏っていたため、信用力悪化の度合いが若干誇張されており、また格上げもなかった。

興味深いことに、1990年代半ばまでは、格付けの低下傾向にもかかわらず市場関係者の信用リ
スクに対する問題意識は高くなかった。上場企業のデフォルトが散見されたものの、店頭市場に
上場していた規模の小さい企業に限られていたため、市場関係者の中には日本市場における信
用リスクの存在を否定する向きもあった。その一方で、中小企業の倒産が続発して邦銀の貸し出
しポートフォリオは急速に悪化していった。1998年に格下げ件数が多いのは、バブル経済崩壊後
に銀行部門の信用力が急激に低下したことと関連する。

2000年には格付け対象の発行体が300以上に達したため、格付けが総じて低下傾向にあったに
もかかわらず、数件の格上げがあった。しかし、その多くは比較的低い格付けカテゴリーの発行
体であり、総合商社の兼松は、1999年7月に「SD(選択的債務不履行)」に格下げとなった後、
2000年には2度の格上げにより「CCC+」となった。そして2000年にはそごう、長崎屋などの東京
証券取引所の一部上場企業7社と中堅生保会社4社が破綻、信用リスクは機関投資家および個
人投資家のいずれからも重視されるようになった。

2001年にはあらゆる部門の信用力が低下した。2度にわたるソブリン格付けの引き下げに加え、
個々の倒産事例は、金融界や、機関投資家、個人投資家へと広く影響をもたらした。その結果、
信用力に対する認識が急速に高まり、リスクに応じて段階的に金利が設定されるようになってき
た。事業会社ではマイカルの倒産が大きな衝撃をもたらした。スタンダード&プアーズはマイカル
に対して1998年に初めて「BBpi」の格付けを付与、2001年には2度の格下げで「D」となった。同社
の債券の多くは保有リスクを認識していない個人投資家によって保有されていたことから、同社
の倒産による衝撃はより大きなものとなった。同様に、東京相互生命保険や第二地銀の石川銀
行をはじめ、40以上の信用組合や信用金庫が破綻、投資家の信用リスクに対する認識はますま
す高まり、2000年に金融サービス部門で始まった質への逃避が加速した。


事業会社部門
事業会社の信用力は過去10年間、総じて低下傾向にあった。しかし事業会社は、各業界動向の
違いや企業間の格差により、格付けの格差が最も顕著に表われる部門である。日本の事業会社
の信用力が低下した根底には、投資に対するリターンの低さであり、業務効率に乏しいだけでな
く、資産が有効に活用できていない状況にある。有利子負債への依存度は、低下しつつあるとは
いえ依然、高水準にあり、スタンダード&プアーズが格付けを付与している事業会社274社の
2000年度の有利子負債比率は平均で51.5%であった。


事業会社はその収益性の低さや有利子負債比率の高い資本構成にもかかわらず、国内の低金
利の恩恵により、債務の返済に窮することはなかった。274社の2000年度の支払利息・税金・減
価償却・控除前利益(EBITDA)の平均は9.7倍と、十分な水準であった。しかし事業会社は、
「AAA」のトヨタから、「BB」以下の企業が70社以上と、格付けが広く分散しており、ひとくくりに考
えることはできない。また産業ごとに信用力に大きな格差があり、特に建設および小売業界の信
用力が弱い。デフォルトに陥った企業の多くは、財務状況の逼迫が深刻になるはるか以前から、
格付けが「B」もしくは「CCC」のカテゴリーにあった。さらに2001年9月のマイカルの倒産に例証さ
れるように、体力の低下した主要取引銀行からの支援が弱まっていることが、デフォルトに至る主
な要因となっている。

2002年は経済のマイナス成長と銀行による支援の弱まりを背景に、中小企業と上場企業の双方
で、多くの倒産が発生する恐れがある。スタンダード&プアーズではハイテク、小売り、商社、そし
て建設業界を特に注視していく。これらの業界では、多くの企業がすでに危うい状況にあり(ただ
し、スタンダード&プアーズが格付けを付与しているハイテク企業は、小売り、商社、建設ほど危
うい状況にはない)、主要取引銀行からの支援が弱まればデフォルトに陥る可能性が高まる。

建設業界においては、スタンダード&プアーズが業績をモニターしている12社の2001年の資本総
額に対する有利子負債の比率は平均73%と、かなりの高水準にあった。一方、営業キャッシュフ
ローは有利子負債総額のわずか1.3%をカバーするにとどまっており、金利返済能力に極めて乏
しいだけでなく、実質的な元本返済能力がないとみることができる。従って、建設会社の債務返
済能力は銀行の支援継続の意志に依存している。しかし、名目金利は極めて低水準にとどまる
との見方が大勢を占めており、デフレ圧力は実質的な借り入れコストの増加をもたらす。銀行はみ
ずからが窮地に立たされており、損失を最小限に食い止めるためにも不振にあえぐ企業に対する
追加融資を控える可能性がある。2000年4月には、民事再生法が成立し、企業の経営陣に選択
肢が増えた。この結果、債権者の一部が損失を被り他の債権者を保護することになり、銀行の監
督下での債務再編や債権放棄に比べて、事業再建の頻度と効率性はより高まることになる。


銀行業界
1991年のバブル経済崩壊以降、邦銀は膨らみ続ける不良債権に苛まれている。不適切なリスク
評価と低い利鞘に起因する弱い収益力を背景に、不良債権処理費用がコア利益を上回る状況が
続いており、銀行の自己資本を浸食している。

邦銀の収益性は国際的にみて高水準にあるとは言い難く、バブル経済崩壊時の格付けもそれほ
ど高い水準ではなかった。従って、格付けは一貫して低下傾向にあるものの、信用力の低下はそ
れほど明確なものとはならなかった。例えば、現時点で邦銀の中で最も高い格付けを付与されて
いる東京三菱銀行(長期格付け「A−」)でも、1996年の当初の格付けは「A+」。同行の前身であ
る旧東京銀行と旧三菱銀行の格付けは、1991年の時点でそれぞれ「AA−」と「AA」であった。農
林中央金庫は1991年時点で唯一「AAA」を付与されていた金融機関であったが、2001年も「A+」
と比較的高い水準を維持している。1997年には旧北海道拓殖銀行、1998年には旧日本債券信
用銀行、旧日本長期信用銀行と大手3行が破綻し、邦銀に対する格付けの中央値は「A」カテゴリ
ーから「BBB」カテゴリーへと低下した。その結果、世界市場で日本の銀行業界に対する信頼が
損なわれ、1998年および1999年には日本政府が銀行システムに10.5兆円の公的資金を注入す
るに至った。

2000年以降、大型グループの形成に向けて統合を進めてきた邦銀だが、業務の合理化や収益
力の改善、コーポレート・ガバナンスの強化には至っていない。長期的な取引関係に基づき寛大
な融資方針をとってきたために体力の弱い企業に対する大きなリスクを抱えていること、および低
い名目金利と不十分な自己資本に鑑みて、邦銀は問題のある取引先に対して積極的な措置をと
らず、事業会社のリストラを妨げることになり、結果として不良債権の増加が続いた。

2001年末にはTOPIXが過去5年で最低の水準となるなど、株式市場が低迷したのに加え、時価
会計が導入されたことで、邦銀の低い自己資本はさらに毀損した。邦銀は自己資本に占める保
有株式の割合が大きく、大手銀行の保有株式はTier1自己資本の1.4倍に相当する(さらにTier1
自己資本の約70%は、スタンダード&プアーズが質の低い資本とみなす繰り延べ税額と優先株
式が占めている)。スタンダード&プアーズでは含み益を自己資本とはみなしていないため、時価
会計の導入によって邦銀の格付けを変更することはなかった。しかし時価会計の導入によって、
株価の下落が銀行に与える影響がより鮮明になったため、銀行の財務の柔軟性が損なわれてお
り、配当能力が極めて制約されているという警告が市場関係者に対して発せられる結果となっ
た。2002年に入り、銀行業界は過去10年で最も厳しい状況に立たされている。

金融庁の概算(低めの概算と見受けられるが)によれば、引当金を積んでいない不良債権は銀行
業界全体で33兆円。銀行全体の自己資本は総額46兆円前後であるため、急激な収益拡大でも
ない限り、政府による何らかの介入は避けられないだろう。スタンダード&プアーズは現段階で、
銀行システム全体の不良債権処理費用はおよそ20〜30兆円、4〜5年分のコア業務利益に匹敵
と推定している。邦銀の信用力はこれまでに増してシステムサポートに依存することになり、格付
けは今後、「BBB」カテゴリーへの集中度が高まっていくとみられる。

一方で、政府が体力の弱まった金融機関のすべてを救済することはなさそうである。2002年4月
にはペイオフが解禁されるが、こうした監督方針の変化は、年明けに政府および金融庁の幹部の
発言によって確認された。政府は同時に、システミックリスクを防ぐためには、公的資金の発動も
ありうることを示唆している。預金の全額保護の撤廃は、金融機関が破綻した場合、預金者にも
損失の一部負担が求められることを意味する。その一方で、信用金庫や信用組合が破綻しても
金融システム全体を危機に陥らせるほどの影響力を有していないとして、政府がこうした規模の
小さい金融機関を救済する意志がないことも示唆している。2001年だけでも、9つの信用金庫と
37の信用組合が破綻するなど、金融部門の中でも特にこの分野の健全度が悪化しており、市場
原則に牽引された合理化が必要であることが強調されている。2001年12月の石川銀行の破綻に
みられるように、今後、地銀クラスの比較的規模が大きく、すでに体力が低下している金融機関
が破綻に至る可能性がある。


保険業界
保険業界における格下げは、全体として銀行業界に比べより鮮明なものとなる一方、格付け変更
の動きにはばらつきがみられた。保険会社の運用ポートフォリオが全般的な環境悪化にさらされ
ている上、生保会社では低金利の影響で逆鞘問題がより深刻化している。

株価低迷の影響も大きい。緩衝材としての役割を担ってきた株式ポートフォリオの含み益が縮小
したり、消滅したりしたことで、多くの保険会社の信用力が損なわれた。1990年代はじめに
「AAA」の格付けを付与されていた保険会社は、すべて格下げとなっているものの、東京火災海
上の「AA」に見られるように引き続き高い格付けを維持している。一方、過去2年間で破綻した保
険会社6社はいずれも1990年代半ばに初めて格付けを付与され、その後1社を除いて「BB」もしく
は「B」のカテゴリーに転落した。
大成火災海上の破綻は特筆すべき例外である。同社は1997年に初めて公開情報に基づく格付
け「Api」を付与され、1998年に「BBBpi」に引き下げられた。2001年11月には、同社が同年9月の
米国テロ事件の保険金支払いに関連して更生特例法を申請したことに伴い、同社の格付けを規
制当局の監視下に置かれていることを意味する「R」に変更した。ずさんな再保険契約によっても
たらされた保険金支払い請求額は744億円。これは同社が破綻する前に日本損害保険協会が発
表した、米国テロ事件に伴う業界全体の保険金支払い見込み額の2.5倍であり、合理的な予見
は不可能であったといえる。

2002年、損保業界では信用力の格差がさらにひろがるとみられる。東京海上や三井住友海上な
どは引き続き堅調が予測される一方で、保険料収入の減少と厳しい運用環境が続く中、規模の
小さい損保会社の信用力はさらに低下しよう。損保業界では再編の結果、大手5社による寡占が
進むが、規模の拡大に伴う財務力の向上が直ちに実現することはないだろう。

国内のあらゆる生保会社は、逆鞘による悪影響を免れられないとみられる。信用力の悪化は生
保業界全般に及び、損保業界より深刻なものとなる可能性がある。規制緩和、損保会社や金融
機関を巻き込んだ再編、外資系の参入により、競争はますます激化しよう。体力の劣る生保会社
は、これを不安視する保険加入者による保険の解約が進むと考えられ、特に解約失効率の上昇
による影響を受けるだろう。1997年以降、すでに7社の生保会社が破綻しているが、さらに増える
可能性は否定できない。


 


公的部門
スタンダード&プアーズが公的機関の格付けを本格的に開始したのは、2001年とごく最近のこと
である。直接のきっかけは、財政投融資制度改革であった。財投機関は財投機関債の発行によ
る市場からの直接調達(日本政策投資銀行、国際協力銀行など)や保有資産を裏付けとした資
産担保証券の発行(住宅金融公庫)を開始している。ここで留意する必要があるのは、すでに金
融市場へのアクセスを開始した財投機関は、有力な政府系機関に限定されていることである。政
策や経済において極めて重要な役割を担っており、政府と緊密な関係にある。また、これらの機
関が破綻すれば、その多額の損失を政府が負担することになるため、これら機関の全般的な信
用力は政府の信用力と概ねリンクしている。しかし、163に及ぶ財投機関の大半は政府による支
援の度合いが低く、よって信用力はかなり低水準となる可能性がある。8,000以上の第三セクタ
ーにも同じことが言える。2001年2月に3,261億円の債務を抱えて破産申請したシーガイア・リゾ
ートの例からも分かるように、破綻に至っていないとしても大半は極めて脆弱な経営状況にある。

地方自治体の財務状況は過去10年間で著しく悪化した。それに伴って、自治体の信用力に対す
る関心は非常に高まっているが、これまでのところ自治体の格付け実績はない。しかし、強力な
システムサポートが、多くの邦銀の格付けを支える要因となっているのと同様に、地方自治体の
格付けも政府からの継続的な強い支援を根拠に、概ね高い水準となろう。

これまでの非生産的な経済部門への膨大な資本注入は、金融市場の歪み、経済改革の行き詰
まりなどをもたらし、日本の信用力に悪影響を及ぼしつづけている。日本全国の預金総額のおよ
そ3分の1を占め、世界最大の預金受け入れ機関である郵便貯金は、財政投融資の主要資金源
としての役割を切り離されたものの、引き続き資金の誤配分の中心的役割を担い続けている。そ
の規模の大きさと性質から、郵便貯金制度は経済の中でも生産性に劣る小売りや建設業界など
の存続を支え続けている(建設会社の数は61万社以上、従業員数は650万人に及ぶ)ため、銀
行業界を圧迫している不良債権問題の主な原因となっている。


ソブリン
スタンダード&プアーズは、2002年の日本経済が0.6%程度のマイナス成長となり、事業会社部
門の縮小、銀行業界に対する不安やデフレの進行を背景に、消費者の購買意欲の減退、世界経
済の停滞があいまって、過去10年で4度目の景気後退に突入するとみている。日本のソブリン格
付けは2001年に2月と11月の2度にわたって引き下げられ「AA」となった。中期的な経済回復の
見込み低下、構造改革の遅れ、膨らみ続けている公的債務残高がその主な理由である。日本は
20年以上にわたって「AAA」の格付けを維持してきたが、もはや政治家の政策の失敗を吸収する
余裕は非常に少なくなってきている。

日本の格付けは2002年、構造改革の進展のスピードと、その結果としてのマクロ経済成長回復
の見通しに左右されることとなろう。小泉政権の改革に向けた努力は、極めて硬直的な政府およ
び予算制度を徐々に揺り動かしつつある。しかし、こうした改革の流れは逆戻りすることはないに
しても改革の進展は遅く、政府がこれまでに上げた成果も、いずれも改革の明確な実施期限や最
終的なゴールが明確でない。また、これらの政策が当初の目的である政府資金の回収や持続的
経済成長の促進等にどの程度効果があるのか、予測するのは困難である。構造改革が遅れれ
ば、日本経済の潜在成長率を押し下げることによって長期的経済成長のチャンスを減らし、景気
の谷をより深くし、政府の構造改革に対する積極的な取組みを困難にする従って、今年、日本の
政治家は現在の不況を一層深刻化させることなく長期的な改革を推し進めていくことが強く求めら
れている。さらに銀行業界の不良債権処理は、政府にとってより厳しく、差し迫った政策課題であ
る。対応が遅れれば、日本の中期的成長の見通しはさらに弱まり、政府の債務負担の増加を通
じて、日本政府の信用力にも悪影響が及ぶ可能性がある。

2002年度における、日本の財政赤字はGDP比6%に達し、年度末の一般政府債務総額はGDP
比140%を上回ると予測されている。こうした状況の下、政府の資金調達は市場の信任の低下に
よる影響に対して非常に弱くなるであろう。政策運営面でも今後、取りうる選択肢は益々少なくな
り、構造改革と景気回復のいずれかにさらなる遅れが生じれば、格下げの可能性が高まるだろ
う。


リスク管理手法の改善
悲観的なムードの中での明るい話題としては、健全な信用慣行が徐々に定着しつつあることがあ
げられる。貸出先との関係ではなく、客観的なリスクとそれに見合ったリターンを根拠として、投資
や貸し出しを決定する機運が増してきた。信用リスクに対する意識の高まりは、過去10年間に信
用力が全般的に低下したことよりも、むしろ1997年の山一證券の破綻に始まる一連の大手企業
の破綻をきっかけに、市場が信用力のやや弱い企業(格付けでは「BB」以上)と明らかに弱い企
業とを区別し始めたことによる。2001年のマイカルの破綻は機関投資家と個人投資家の双方に
影響を及ぼした顕著な例となった。

1990年代はじめには日本企業の信用リスクが問題視されることはほとんどなく、主要な貸出先に
対しては基本的に金利に差異を設けることがなかった。しかし、現在では金融市場が信用リスク
の動向に極めて敏感になり、格付けに基づいて段階を設けた金利を適用するようになった。単に
信用リスクを認識するだけでなく、調査事例からは投資家や貸し手がより積極的にリスクの評価
を行い、引き受けるリスクに見合ったリターンを求めている姿が見て取れる。多くの資本市場改革
があいまって、ゆくゆくはより効率的な資本配分や金融市場の全般的な健全化といった結果をも
たらすことになろう。


金融制度改革
1997年の金融ビッグバンに始まった一連の改革は、金融および法律的なインフラ整備や、健全
かつ機能的な金融市場の発展をもたらした。最も重要な改革としては、以下のようなものが挙げ
られる。

日本の証券化市場の拡大をもたらした1998年の債権譲渡特例法および特定目的会社法
の制定
持ち株会社制度の禁止を解除した銀行法および独占禁止法の改正
ノンバンクに債券の発行を認めた1999年のノンバンク社債法の制定、普通銀行に対する
普通社債の発行解禁
日本での不動産投資信託の創設を認めた2000年の改正投資信託法
破綻した企業の再生を容易にした2000年の民事再生法の制定
企業分割を容易にした2000年の商法改正

また、2000年度から連結決算への転換を義務付け、2001年4月から時価会計を導入した会計制
度の改正も、大きな動きであった。

こうした法的インフラ整備と、経済の低迷、発行体の信用力の低下により、金融市場における資
金調達も大きく様変わりした。日本企業によるユーロ債の発行は1990年代に減少を続け、2001
年には約50億ドルにまで落ち込んだ。これは5年前の調達額の10分の1にも満たない。ユーロ債
の減少分が国内債券市場で吸収されたわけではなく、1990年代後半には事業会社の有利子負
債離れが進んだことなどから債券市場全体も縮小した。一方で、銀行とノンバンクの普通社債発
行が解禁された翌年の2000年には、銀行およびノンバンクによる起債が3兆円に達した。また、
地方自治体による起債も急増し、1991年に60兆円をやや上回る程度だった起債額が、2001年に
は200兆円に迫る勢いとなった。中央政府が地方分権化によって地方に財政責任を移譲しつつあ
ることから、この傾向は今後も続くとみられる。

一方、証券化による資金調達の拡大には目をみはるものがある。1995年には事実上ゼロだった
調達額は、2001年には3兆円を上回るまでになり、そのほとんどが実質的に国内投資家によって
消化された。 国内の金融制度問題を背景に、規制当局が銀行など金融機関に対してリスクの削
減とバランスシートの見直しを強く求めれば、証券化市場の伸び率は40%に達する可能性があ
る。2002年が1998年および1999年の再来となり、銀行危機で企業が資金源を証券化市場に求
めることになれば、発行総額は5兆円に達する可能性がある。銀行がバランスシートの健全化を
追求するのに伴い、銀行の貸出債権のCLOやシンセティックCDOが証券化市場の伸びを牽引す
る原動力となろう。また、整理回収機構が邦銀から買い取った担保不動産の流動化も、不良債権
の証券化促進に資することとなろう。


リストラは緩やかながらも進行
スタンダード&プアーズは信用力が引き続き低下すると考えてはいるものの、多くの企業ではリ
ストラ策が進行中であり、高い信用リスクを抱えつつも、実際の財務運営は良好に行われてい
る。例えば鉄鋼会社が半導体や娯楽事業などで多角化を図るように、確固たる基盤を持つ大企
業が成長することで問題を解決しようとするケースが多く見られる。対照的に迅速な対応によって
成功を収めている企業はほとんどすべての業種にみられ、そのような企業の数は今後増加しよ
う。大企業がますます困難な財務問題に直面し、既存事業の維持に必要な支出を切り詰めざるを
得なくなるにつれて、競合他社の参入を促すことになるためである。このパターンは小売業界で多
く見られ、破綻の前の店舗は日増しにさびれていくように見受けられる。

銀行業界の問題の解決は明らかに困難であるが、限られた範囲でながら大きな変化が起きつつ
ある。第一に、ソニー銀行やアイワイバンクなど、ビジネスモデルによって信用リスクをほぼ払拭し
た新しい銀行の登場である。これまでのところ新規参入銀行が成功を収めているのは、従来の銀
行に対する消費者の不信感や不満が高まっていることが根底にある。第二に、消費者金融会社
が現金自動預け払い機(ATM)によるサービスの提供、高い純資産を持つ個人向けの無担保ロ
ーン、およびローン代金回収業務などで、従来の銀行業務の分野に参入してきたことである。

大手銀行でも変化は起こりつつある。1999年に一時国有化された旧日本長期信用銀行を継承し
た新生銀行は、そごうなど返済の可能性が低い借り手に対する新規貸し出しを拒否し、リスクに
応じた価格設定をして業界に衝撃を与えた。こうした対応に対して当初は批判の声があったが、
現在は競合他行も同様の手法をとりはじめたところもある。銀行業界全体に影響を与えた不良債
権問題では、ごく最近、あさひ銀行が2,000億円の不良債権を償却すると発表した。これは、たと
え返済能力がない状態でも貸出先との関係を断絶することには消極的であった邦銀体質との決
別といえる。

事業会社部門でも強者が単独で生き延びているケースが、最も知名度の高い大企業で見受けら
れる。国際標準の信用力を維持しているトヨタ自動車である。同社は日本が不況に見舞われた過
去10年間も、世界経済が減速した2001年にも、「AAA」の格付けを維持し、昨年度は収益の最高
記録を再び塗り替えた。自動車業界では他に、日産自動車が積極的なコスト削減策によって逼
迫した財務状況および倒産の危機から脱し、同様に深刻な状況に苦しむ企業に先鞭を付けた。
またホンダは国内の営業費用が増加するのを見越して、生産拠点を需要が生じる地域に移転さ
せた。今では国内よりも海外でより多くの自動車を生産している。

また、先例がないほど深刻な世界的不況に直面しているエレクトロニクス産業でも、総じて日本で
は大胆なリストラ策をとり、工場の閉鎖や事業部門全体の売却などを進めている。しかし、東芝、
NEC、日立製作所、富士通の4大エレクトロニクス企業で広く行われている多額の人件費削減策
は、日本の事業会社における人件費の削減がいかに困難であるかを改めて示した。4社合計で6
万人以上の従業員を削減すると発表したものの、その内容は最低3年間、新規雇用を削減すると
いう自然減によって達成しようとするものである。進捗は緩やかながらもリストラを実施していると
いう状況にある。2001年、上場企業69社によって国内124の工場の閉鎖が発表された。これは、
事業会社全体が抱える過剰設備の解消に向けた第一歩といえよう。

公的部門で進行中の改革も、大胆さには欠けるものの、日本が直面する問題の根底にあるもの
への対処を意味している。すなわち、国の需要にそぐわない経済構造、それに基づく投資資本に
対する平均的なリターンの低さ、生産性の低さ、存続し続けている不良債権といった問題である。
中でも、2001年4月に行われた財政投融資制度改革は最も大きな意味を持つものであった。これ
により、旧大蔵省で郵便貯金から集めた資金を公的機関に支出する役割を担っていた資金運用
部が廃止された。2002年度に財政投融資計画に支出される政府の資金は18%と大幅に削減さ
れ、財投機関は単独で2兆7,000億円の資金を調達すると予想される。この金額は大きいように思
われるが、財政投融資計画総額のわずか10%にすぎない。

同様に、財務省と国土交通省の間で2001年12月に妥協案の合意に至り、自動車重量税の一部
を道路特定財源ではなく一般財源に回すこととなった。これもまた、資本の国内配分の改善に向
けた一歩である。
最後に、小泉政権による構造改革の速度は遅いが、民営化すべき公的機関を2つに絞り込んだ。
ひとつは自動車重量税や揮発油税の主な受け手であった日本道路公団。もう1つは国内の住宅
ローンの3分の1以上を占め、住宅ローン市場で民間銀行の強力な競争相手となっていた住宅金
融公庫である。


アウトルック
現段階では、日本の事業会社および銀行部門の信用力が今後2年程度で底を脱するという望み
はほとんどない。その理由は以下の通りである。

事業会社における設備過剰が極めて高水準にあり、コスト削減への大胆な取り組みはよ
うやく本格化したばかりの状態にある。
多額の不良債権がのしかかっていることを考慮すると、銀行システムの不良資産の解決
には、たとえ3年前と同様の規模の公的資金を注入し、コア収益が若干改善したとしても、
数年間を要するとみられる。
公的部門による誤った資本配分を修正するには、たとえ構造改革が2002年中に成功して
も、今後2、3年を要するとみられることが最大の懸念材料となっている。この資本の誤配
分が不況部門の持続や民間部門の再編の遅れにつながっている。

一方で、事業会社部門の一部で起きている構造調整の範囲が拡大、かつ加速するとみられるこ
とから、日本経済が破滅するかのような予測は行き過ぎである。調整のプロセスはある程度ま
で、余剰従業員の解雇や将来性の高い事業への注力など、やむをえず痛みを伴う決定を下すと
いう通常のパターンによって押し進められるとみられる。しかし、企業分割や事業再編を簡略化す
る日本の法制度の改善や、高コストで年齢層の高い従業員の自然減による雇用削減、また世界
第2位の規模を誇る経済への進出を狙う外資系企業といった要因も推進力となる。一方、銀行は
目下、コストを切り詰め、リスク管理手法を強化している。この結果、健全性が比較的高い事業会
社部門からのコア収益が償却額を上回るにようになり、収益力の回復と自己資本基盤の再建が
進むことになろう。

こうした調整が2年から3年という妥当な期間で行なわれるかどうかは、政府による構造改革の効
果とスピードにかかっているといえよう。経済へのさらなるダメージを回避しつつ、国民の支持を背
景に抜本的な構造改革を断行しなければならない。従って、政府主導の構造改革のスピードと秩
序が、調整が軌道に乗るまでに要する時間と、信用力の低下がどの程度まで深刻になるかを決
定づけることになろう。





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