投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 11 月 26 日 17:37:34:
1. 誤解に誤解を重ねるペイオフ解禁
小泉改革は、閣僚同士の対立が“名物”らしく、あたかも紅白試合ばかりやっているようで、改革の本試合になかなか進まない。
金融庁をして特別検査実施に追い込んだ竹中平蔵経済財政相にしても、いかにも金融再生の処方箋を書いているように振る舞っているけれども、国民とともに金融危機を乗り切る発想がまるでない。国民が今、最も経済不安を感じている問題のひとつが、来年4月解禁のペイオフであることは間違いない。
ところが、他の経済閣僚も真正面からそれを語ろうとせず、それでいて、小泉首相以下、「予定通りに実施する」という紋切り型の言い方しかしない。ペイオフ解禁に対する不安が広がったことで、信用組合や信用金庫、さらに地方銀行など中小金融機関では預金の引き出しが殺到し、破綻が相次いでいるのを知らないわけがない。一部の大手銀行でも、やはり預金引き出しが集中しているほか、ペイオフを恐れて預金をいくつもの金融機関に分散する動きはますます加速している。
まるで、鎖国を破る黒船の襲来のように思われているペイオフだが、何も来年新しく始まるわけではなく、実はすでに30年も前にできた古い制度だ。71年に銀行の破綻に対応するために預金保険制度ができたと同時に始まり、当時は保護する預金の上限を100万円に設定し、その後、2度の見直しを経て、1000万円まで保護される制度として定着したのである。
その後、金融危機が高まった96年6月、政府と預金保険機構は一時的な特例措置として制度を凍結、預金を全額保護することにした。それを来年4月に元に戻すというのが、いわゆる≪ペイオフ解禁≫だ。
しかし、来年4月の時点ですべての預金がペイオフの対象になるわけではない。定期預金と記名式の金融債(ワイドなど)、元本補填契約がある金銭信託(ビッグなど)といった一部だけで、預金の大半を占める普通預金、中小企業の決済に使われている当座預金など、多くの国民の生活を脅かしかねないものに関しては、さらに1年間はペイオフが凍結され、解禁されるのは2003年4月になる。
つまり、1つの銀行に1000万円以上の定期預金をしているという特殊なケースを除けば、何も焦る必要などないのである。
にもかかわらず、あれほど饒舌な竹中氏ら政府の幹部は、なぜ「ペイオフ解禁でパニックに陥る必要はない」という簡単なことをいおうとしないのか。むしろ、そこに口をつぐむ一方で、「まだ不良債権が隠れている」などと強調する姿は、金融危機を煽っているとしか見えない。
金融制度調査会の元委員で成城大学教授の村本孜氏は、政府を厳しく批判する。
「今、政府がやらなければならないのは、正しい情報を伝えて国民の不安を解消することです。ペイオフ制度に対する恐怖と誤解が高まっていることは大きな問題です。普通預金や当座預金が対象外だということもほとんど知られていないし、仮にペイオフが起きても、実際には銀行の資産を売却したりすることで、最終的には1000万円を超えた分も預金が戻らないなどあり得ない話なのです」
そのうえで、村本氏は政府が金融危機を煽るような真似をする背景を推測する。
「政府の中には銀行に税金を再投入すべきという主張の人たちもいます。一方で金融庁は反対の立場です。そうした違いから、金融危機が政治の道具に利用されている面も否定できないでしょう。金融庁幹部の女性スキャンダルが流されることも、政治的な背景がうかがわれます」
ペイオフ解禁を、さも重大事のように騒ぎ立てれば、まさに政府の思うツボだ。
2. 特別検査「2回」のごまかし
竹中氏ら首相直近の経済ブレーンたちは、経営が悪化している一部の大手企業を思い切って切り捨てなければ銀行危機を脱することはできないと主張する。“白組”の金融庁は、従来通り、貸倒引当金を積むことで不良債権処理を終わらせようとしている。
その対立が、『特別検査』実施の背景である。
竹中氏など首相サイドでは、金融庁が銀行とナアナアで不良債権の査定を甘くしているのではないかと疑っている。だから、金融庁は、改めて『特別検査』を実施して、破綻しかねない企業がないかどうか洗い直すと約束せざるを得なかった。
その特別検査は、銀行の融資全体ではなく、特定の企業への貸し出しを集中的に調査するもので、融資先企業のリスクを正確につかむことを目的としたものだ。では、今度こそ、ちゃんとした検査結果が出されるのかと思うと、どうも怪しい。
検査に先立って、金融庁は各銀行に、検査対象とする融資先企業をリストアップするよう指示した。その対象は、融資額が100億円以上ある企業の中から、『要注意先』と、『正常先』のうち経営に不安のある企業とされた。
そこに検査自体のカラクリがあった――。
ひとつの企業に別々の銀行が融資している場合、メーンバンクは企業が経営破綻したら不良債権としてハネ返ってくるから、おのずと査定を甘くしがちだ。しかし、融資額の少ない銀行は、破綻に備えて厳しく査定するなど銀行によって評価が違う。
竹中氏らは、銀行間で評価に違いあるのはおかしいから同じにするよう求めていた。が、特別検査でそうする場合、どうしても厳しい評価の方に合わせなければならず、企業とメーンバンクを経営危機に追い込みかねない。そこで、同じ融資先を、厳しい評価をしている銀行では検査対象から外し、甘いところだけ検査していたのだ。
金融庁幹部が、その使い分けがなぜ起きるかについて、言い訳とも開き直りともつかない言い方をする。
「メーンバンクや主力支援銀行とそうでない銀行では、それだけ企業との信頼関係も情報収集力も違うから査定が異なるのは当然だ。だから、今回の特別検査はあくまで主力行を中心にやると限定し、それが1巡した後に、主力以外の銀行を見る2巡目の検査をやることになる」
要するに、一部の銀行を検査対象から外したために、結局、査定がバラバラになる問題は解消されない。金融庁としては、特別検査でやった検査対象の使い分けがバレないように、わざわざ2回に分けて検査するという計画をひそかに練っている。
それでは、再び問題を先送りするだけで何の解決にもなっていない。金融庁は新たな不良債権の発覚を先延ばししておけば、株価暴落やテロ不況の影響をまともに受ける今年度決算は何とか乗り切れると読んでいるようだ。
3. どっちみち新護送船団が編成される
不良債権問題では、金融庁の分はいよいよ悪くなる。反動で、竹中氏らの税金投入論が勢いを増している。金融庁首脳の一人が悔しまぎれに物騒なことを口走った。
「もし、さらなる銀行への税金投入が行なわれれば、それは日本の銀行すべてを国有化することを意味する」
これまでに、大手銀行だけでも投入された税金は9兆円以上に上っている。その大部分は銀行が発行する『優先株』を政府(預金保険機構)が買い取る形で行なわれた。その結果、ほとんどの大手銀行では、現在、筆頭株主が政府という異常な経営に陥っている。
それこそが日本の銀行が国際的信用を失墜させている大きな原因のひとつとなっている。いわゆるジャパン・プレミアムはすでに1%を大きく超えており、事実上、邦銀は国際市場から退場を宣告されている。税金の再投入は自殺行為にも等しい。
前出・金融庁首脳は竹中氏の政策を激しく非難する。
「竹中さんの主張は、今の不良債権が50兆円なら、経済がマイナス成長なのだから、この先150兆円くらいまで膨らむはずだ。だから税金投入が必要だという論理にすぎない。マクロ・エコノミストの大ざっぱな予想であり、責任ある行政担当者とは思えない。これからさらに税金投入するということは、銀行を軒並み国有化することを意味する。銀行経営者は何の努力もしなくなり、モラルハザードはひどくなる」
さりとて、金融庁がまともな行政責任を果たしているかといえば、そうでないところにこの国の悲劇がある。
竹中氏の主張が通って税金が再投入されれば、それは即、銀行が国家管理され、金融界はいつか来た道、護送船団に逆戻りすることを意味するし、金融庁が主導権を取り返しても、今度は金融検査を武器に銀行支配を強めるにすぎない。政府の介入を強める結果は変わらず、民営化の小泉改革の逆を行くことになる。
前出の村本教授は、税金投入が必要になったとしても、これまでのような資本注入は好ましくないと警告する。
「税金で優先株を買っても、それできちんと不良債権処理がなされたか疑問だし、実際に金融危機は解消されていない。金融再生のために税金が必要なら、資本を入れて銀行を支配するようなやり方ではなく、例えば不良債権を政府が直接買い取る方がずっとスッキリします。政府はもちろん、銀行にも、金融は国民経済のためにあることをもう一度認識してもらいたい」
預金者を弄んだ先に金融再生の道など拓けはしない。