投稿者 sanetomi 日時 2001 年 10 月 26 日 17:08:42:
回答先: 第3回「『大手30社』は過小資本銀行のリトマス試験紙」 (KPMGフィナンシャル社長 木村 剛氏) 投稿者 sanetomi 日時 2001 年 10 月 26 日 16:58:06:
最近「大手30社問題」にかこつけて、「問題企業30社のリスト」と言われるものが、私自身が作成したというふれ込みで出回っているらしい。誤解に満ちた記事もいくつか書かれ始めた。本人に意図を確認もせずに、様々な憶測をもとにもっともらしい記事をねつ造するあたり、日本のジャーナリズムというものの素性がうかがい知れる。金融界向けのネタかもしれないが、興味を持っているビジネスマンも多いし、誤解がまん延してもいけないので、真実を明らかにしておきたい。
まず、私が「大手30社問題」を指摘した背景については、第1回におおむね解説したとおりだが、確認の意味で核心部分をおさらいしておく。それは、「破たん懸念先以下を直接償却する」という現在の金融当局の方針では中小企業がつぶれるというだけで、「正常先」「要注意先」の問題企業に手が付かないということだ。問題の核心を避けて、その周辺を漂白するだけでは問題は治癒されない。おそらくこのままでは、中小企業の悲鳴に怖じ気付いて、不
良債権処理そのものを先送りするということになるだろう。だからこそ、今その方向を変えるための議論が必要なのである。「大手30社問題」は、議論の方向を変えるためのキャッチフレーズといってよい。
私が主張する「大手30社問題」は、「何らかの特定30社のリストを作り、その30社に対する引き当てさえすれば問題は解決する」ということを意味しているわけではない。「大手30社問題」とは、各々の銀行が抱えるそれぞれの 問題企業グループ、20〜30グループに対する引き当てが不足しているとい点が、不良債権問題の核心であるということを意味している。したがって、
(1)「30社」は、各銀行によって、銘柄が相当異なっている。特に問題となり得る関連ノンバンクや「飛ばし」用の特殊会社については、各銀行によって銘柄が異なっている。このため、各銀行の「30社」を持ち寄り重複を整理して足しあげれば、主要行だけでも数十社以上になると予想される。また、
(2)銀行によっては、「30社」ではなく「10社」かもしれないし、「50社」かもしれない。いずれにしても、自己資本に対して相当のインパクトを持つ、引き当て不足といえる問題企業グループの数の象徴として「30社」と指摘しているだけである。銀行によって、その対象となる企業数は大きく異なり得る。ただし、経験則的には、「30社(グループ)」程度を網羅すれば、通常、問題の大部分は捕そくされることは知られている。
私がいうところの「大手30社問題」は、上記に示したとおり、各銀行によって数と銘柄が変わる性質のものである。したがって、理論上、「大手30社リスト」は銀行の数だけあるということになることに留意していただきたい。
現在、「木村リスト」としてもっともらしく流れている表は、3ヶ月以上も前の6月12日に、自民党経済産業部会において、「緊急経済対策と不良債権問題」と題して、マーケットの見方を紹介した資料の一部である。そこで用いられている一覧表は、マーケットが問題視している企業の中で、債務者区分(評価)が異なるケースがあることを示すために作成したものだ。このため、マーケットの意見として、当時入手可能であった、(1)メリルリンチレポート、(2)週刊ダイヤモンド、(3)週刊文春――を選んだ。6月当時、週刊文春(5月24日号)の記事が銀行ごとの資産査定の違いを指摘して、話題を呼んでいたことを覚えている読者も多いだろう。
その表は、それらの中で重複しているものと「正常先」を含むものを選択し整理するよう、スタッフに指示して作成させたものだ。他の資料との重複があるものと、「正常先」と「要注意先」の差異があるもののうち重複感のないものということで選択した結果にすぎない。極めて単純な作業であり、その3つの資料を付き合わせれば、だれでも作成できるものである。この表は「大手30社リスト」を作るための資料ではなく、銀行ごとに債務者区分が異なり得るということを示した資料であり、その対象企業自身にさしたる意味はない。「異なっている」という事実が重要なのであり、そのため名前を伏して、アルファベットで表記してある。
たまたま「30社」に近い数になっているが、今をときめく「大手30社リスト」ではないし、「順次破たんしていくリスト」などでもない。もし、そうであるとすれば、その事実について、メリルリンチ、週刊ダイヤモンド、週刊文春の方々にお聞きするしかない。
ちなみに、いいかげんな一部のマスコミでは、「9月18日、小泉首相と樋口広太郎氏の内閣特別顧問の勉強会で披露された」などというねつ造記事も見受けられるが、小泉首相へのプレゼン資料は、3ヶ月以上も前の6月12日
に用いた「緊急経済対策と不良債権問題」の資料とは違う。中身の詳細は現時点でディスクローズできないが、プレゼンの目的が違えば、資料が違うのは当たり前。したがって、もっともらしくマーケットで流れている「大手30社リスト」は小泉首相の前で披露されていないし、手渡されてもいない。
私自身は、「大手30社リスト」を作っていないし、将来にわたって作るつもりもなかった。それは、各銀行と金融庁が果たすべき役割であると思ってきた。彼らが適切に不良債権問題に対処していれば、私が「大手30社問題」などと言い出す必要もなかったのだ。関係者による今後の果断かつ真摯(しんし)な対応に期待したい。