速水日銀総裁が「国有資産売却」を提言−会見から今後の政策を読む東京 10月16日(ブルームバーグ)

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投稿者 sanetomi 日時 2001 年 10 月 16 日 23:31:40:

   日本銀行の速水優総裁は16日午後の定例記者会見で、「国債を増発すれば、次世代に負担を残すことになる。それよりは国の資産の売却で歳出を埋めていく考え方もあるし、やるとすれば今ではないか」と述べ、これまでより踏み込んだ政策提言を行った。インフレターゲットや当座預金残高など、この日の総裁発言から、残された選択肢を検証した。

  「テロ事件後の潤沢な資金供給は、資金決済の円滑さと金融市場の安定性を確保して、金融緩和効果の途切れない浸透を図るうえで、大きな役割を果たしていると思っている。しかし、欧米の金融市場と違って、日本では10月に入ってもなお不安定な情勢が続いているように思える。そういうもとでは特定の目標を設けず、流動性需要の変動を踏まえて柔軟かつ潤沢に続けていくことが適当であると判断している」

  「金融機関が資金仲介機能を果たしてないなかで、また、非金融部門でも資金分配が機能していないなかで、わたオどもだけがいくらカネを増やしても、流動性が出るだけだ。構造改革なり、財政面の税制や構造改革関連の補正とかいったことが機動力になって民間が動き出して初めて、緩和の効果が出てくる」

  「それ(流動性供給)だけをやれやれと言われても、そうですかといって動くわけにはいかない。モノの方の動きが動き始めれば、情勢をみて、新しい資金の供給もあり得ると思うが、今の段階では、もう少しみていくのが良いのではないかというのが、先日の決定会合の多数決の判断だ」

      量的緩和の枠組みはひとまず“棚上げ”に

  日銀は3月、当座預金残高を金融調節方針のターゲットとする量的緩和に踏み切ったが、8月の追加緩和の効果も踏まえ、量的緩和の効果には極めて否定的な見方に傾きつつある。何より、効果が全くないとみられる政策を続けることで、市場の信認を失うことを日銀は強く恐れている。

  テロ事件をきっかけとした資金需要の高まりに対応するため、下限を設定した事実上のゼロ金利政策に移行したことで、当座預金残高ターゲットはひとまず“棚上げ”されたとみるべきだろう。今後、景気が一段と悪化しても、3月に導入した枠組みのもとで、当預残高目標の下限を引き上げるという選択肢が今後、自動的に発動される公算は小さい。

    短期的に非伝統的な手段に踏み切る可能性は極めて限定的

  「インフレターゲットについてのわれわれの考え方は変わっていない。インフレ率を高めるために、さまざまなリスクや副作用に目をつむって、あらゆる政策手段を導入するつもりは全くない。戦前のスウェーデンの例を引く人もいるが、あれは、そういう方向を打ち出そうとしているときに金解禁になり、そういうことはやらないで、為替の方で動いていった。デフレ下で採用したときの帰結は、さらに流動性が増えるかもしれないが、物価上昇につながっていくかどうかは極めて疑問だ」

  日銀にとってインフレターゲットへのハードルは、今年3月に量的緩和に踏み切ったときより遥かに高い。短期の名目金利がゼロ%のとき、デフレ下でインフレターゲットを達成するには、1)国債の大規模な買い入れ、2)社債や株式など長期民間債務の買い入れ、3)外貨建て債券の買い入れ−−といった非伝統的な手段しか残されてない。しかも、これらを実施してもターゲットが達成できる保証はない。

  「量的緩和を一層拡大して『何でもあり』政策を推進するのも1つの考え方だが、このような政策は突き詰めれば財政政策と変わりない」(モルガン・スタンレー証券の佐藤健裕エコノミスト)。それだけに、日銀だけで行うには限界があるし、政府や国会の関与なしに、独断でやれることではない。短期的にみて、日銀が三木利夫審議委員のいう「不健全な領域」に踏み込む可能性は、今のところ極めて小さいとみるべきだろう。

    崖ふちに追い込まれたことで、捨て身の政策提言に比重

  「民間需要を引き出し、デフレを防止するために、適切な財政支出の果たすべき役割は極めて大きいと思う。構造改革を急ぐ必要があるが、効果が出るまでには財政支出はやはり出ていくものだ。その財源を国債に持っていくとすれば、次世代にさらに大きな負債を残すことになる」

  「そういう方法でなく、英国でサッチャーがやったように、国の資産を売却し、売却代金でこれらを賄う。日本でも国が持っている資産で、不動産や証券、特殊法人で売れるものがあれば売って、歳出を埋めていく。サッチャーがやったのはまさにこれだった。考え方としてはそういう前例もあるし、やろうと思えば今やるべきだと思う」

  「個人的見解」と断ったうえでの発言だが、中央銀行総裁が不動産や証券、特殊法人まで挙げて、財政支出の財源ねん出には、国が保有する資産の売却が望ましいといった見解を表明するのは極めて異例だ。伝統的な政策発動手段をほぼ打ち尽くし、崖ふちに追い込まれたことで、捨て身の政策提言に比重を移しつつあるとみることもできる。

   「モノのほうが動き出せば、新しい資金供給もあり得る」

  「金融機関が資金仲介機能を果たしてないなかで、また、非金融部門でも資金分配が機能していないなかで、わたしどもだけがいくらカネを増やしても、流動性が出るだけだ。構造改革なり、財政面の税制や構造改革関連の補正とかいったことが機動力になって民間が動き出して初めて、緩和効果が出てくる」

  「それ(流動性供給)だけをやれやれと言われても、そうですかといって動くわけには行かない。モノの方の動きが動き始めれば、情勢をみて、新しい資金の供給もあり得ると思うが、今の段階では、もう少しみていくのが良いのではないかというのが、先日の決定会合の多数決の判断だ」

  日銀が非伝統的な手段に踏み込むかどうかは、つまるところ、経済情勢をどう判断するかに行き着く。メリットとデメリットを比較考量したうえで、その経済情勢のもとで、メリットが上回ると判断すれば、実施されることになる。ただ、仮に大規模な国債買い入れ増額を行うとしても、野放図な財政支出が行われている状況では、デメリットの方が大きくなる。

     捨て身の政策提言は非伝統的手段に向けた条件闘争か

  速水総裁はこの日の会見で、整理回収機構(RCC)の機能強化に細かな注文をつけるともに、「日銀はこれまで預金保険機構を通じ、RCCには金を出したことがあるし、今後もそういう形で金を出すことは十分あり得る」と言明。不良債権処理の促進に、自ら関与する姿勢をあらためて鮮明にした。

  ほとんど意味のない一段の量的緩和、強まるインフレターゲット導入の圧力、政策発動余地として残されているのは非伝統的な手段だけ−−。こうした状況のもとで、日銀は残された非伝統的手段の発動に向けて、“条件闘争”に入ったとみるべきかもしれない。

東京 日高 正裕 Masahiro Hidaka  TA


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