投稿者 付箋 日時 2001 年 11 月 17 日 21:07:16:
回答先: 次の記事は? 投稿者 付箋 日時 2001 年 11 月 15 日 22:23:19:
「週刊DIAS」 2001/11/26
肥料、飼料に使われて大丈夫なのか?
『危険な肉骨粉』の行方を追う!
「流通停止」に「焼却」と、方針だけは決まった肉骨粉の処分だが、焼却も保管もままならぬ”危険な”現状を、政府は理解しているのか。
郡司和夫(ジャーナリスト)
保管料の補償はしない。焼却先は自分で探せ・・・
関東圏内の、ある肉骨粉を製造するレンダリング工場(化製場)。30代前半の若い経営者が、作業を終えて工場から出て来る。工場敷地内の開け放たれた倉庫内には、行き場のなくなった大量の肉骨粉が溢れている。若い経営者は、苦渋と怒りに満ちた表情で語る。
「昨日(11月6日)、農水省生産局畜産部と、私どもが所属している日本畜産副産物協会とで、補償についての話し合いが持たれたんですが、問題点が続出しました。10月1日にすべての肉骨粉の流通停止と焼却処分が決定し、ーカ月以上経過しましたが、どこの業者も倉庫がいっぱいになり、知り合いのツテを頼って保管庫などを借りている状態です。しかし、農水省はそれらの保管料の補償もしないというのです。
うちの場合、肉骨粉の原料は食肉処理場からの牛が半分くらいで、あとは豚や鶏です。今は一日2トンほどの肉骨粉を作っている零細企業ですが、それでも見てのとおり、在庫がたまる一方です。毎日、食肉処理場から肉骨粉の原料が入ってきて、処理しているのですから当然です」
この若手経営者は、やるせない表情で、さらに次のように語った。
「この騒ぎの前は平均9トン、最盛期は12トンの肉骨粉を作っていました。単価は1キロ60円だったのが、今は40円、袋に詰めて44円で、もう本当に採算ラインぎりぎりです。この一連の騒動前から、肉骨粉の国内需要は低迷していまして、正直、中国への輸出も考えていたのですが、それも難しくなりました」
狂牛病(牛海綿状脳症=BSE)の感染源として疑われている肉骨粉には、国内の牛、豚、鶏などから作る「国産」と「輸入物」がある。2000年度の肉骨粉の国内生産量は約40万トン、輸入物は約18万トンで、計60万トン近い肉骨粉が流通していた。肉骨粉は牛や豚、鶏などを解体し、食用になる枝肉を除いた骨や臓器などを原料にして作られる。これらをレンダリング工場と呼ぱれる専門工場に持ち込んで、加熱処理し、油脂を搾り、粉砕すれば肉骨粉はできる。国内には95社、141ヵ所のレンダリング工場がある。
問題なのは次の点だ。
「ほとんどのレンダリング工場が牛、豚、鶏を一緒に処理しています。ラインを分けているところは2社しかないはずです」(前出・若手経営者)
つまり、ラインが一緒のため、ほとんどすべての肉骨粉に、牛由来の原料が混ざっている可能性が高いわけだ。
そこで農水省は、現在ある在庫の肉骨粉を全部焼却処分する方針を取った。
だが、その焼却すら困難なのが実情なのだ。
「私の所ではようやく市の焼却炉で1日1〜2トンの肉骨粉を焼却処理してもらえることになりました。でも、基本的にはどこの自治体も焼却炉が傷むなどの理由で焼却を拒否していまして、全国で2〜3カ所しか焼却先は決まってない状態です。国の補償というのは、肉骨粉を買い上げるのではなく、焼却処理した伝票に沿って補償するというやり方で、焼却先は自分たちで探してくれということなんです。焼却先がないんですから、これでは、肉骨粉の在庫はたまる一方ですよ」(前出・若手経営者)
では、在庫となっている肉骨粉はどうなっているのか・・・
肉骨粉製造の実態も把握していないのに、肥料にGOサイン
『野菜が糖尿病をひきおこす!?』の著者として知られ、食品機器の開発やコンサルタントを行っている椛Vの代表取締役である河野武平さんは、北海道と並ぶ日本の畜産王国・九州の畜産現場を、10月下旬から1週間ほど見て回った。南の畜産王国の現状を、河野さんは次のように語る。
「九州は大変なことになっています。あの地域は肉骨粉を使ってないところはないくらいなんですよ。私は7年前から肉骨粉の危険性を指摘していましたが、ここまで多く使っているとは思わなかった。特に、大手畜産会社はみんな使っている。なにしろ安いから。
あの地域には、10年ほど前に大手食肉メーカーが共同出資して、大きな食肉処理場を造ったのですが、それ以降、肉骨粉の使用がさらに推し進められたんです。最近は肉骨粉の売り先がないので、ハマチ、ウナギの養殖場に大量に流れていますよ。また、中国に輸出しようという動きも出てます。関係者は、『中国にはずいぶんウナギの養殖場があるので、引き取ってくれるのではないか』と真剣に言ってます」(河野氏)
河野氏が見た状況はほんの一例だが、いずれにせよ、農水省が食肉処理の過程で生じる「くず肉」「骨」「内蔵」などを、いったん肉骨粉にしたうえで焼却すると決めたにもかかわらず、各地で肉骨粉の在庫がたまる一方なのは間違いない。処理できない山積みのくず肉にカラスが集まり、住民の苦情が出ているところもある。
ところが農水省は、11月1日に肉骨粉の肥料用とぺットフード用と飼料の一部への使用を解禁したのである。
「高温高圧で蒸して作った蒸製骨粉でOIE(国際獣疫事務局)の基準より厳しい条件で処理したものにつきましては、今ある在庫分で、複合肥料、化学肥料などを混ぜた形で製造・出荷するものに限って、一時停止の要請を解除しています」(農水省生産局生産資材課)
OIEの国際基準は133℃、3気圧以上で20分処理すれば、プリオンは不活性化するというものだ。
では、この基準をクリアした肉骨粉を製造しているレンダリング工場は何ヵ所あり、クリアしている肉骨粉の在庫量は今、どのくらいあるというのだろうか。
「国内で基準をクリアしている工場がどのくらいあるか、すべて確認しているわけではありませんが、蒸製骨粉というのは150℃、5気圧で90分くらいかけて作りますから、異常プリオンは不活性化しているので問題ありません。在庫量はちょっと調査中でして、分かりません。今回の解除にあたって国産と輸入の区別はありませんが、一般的には輸入のほうが(基準をクリアしたものは)多いといわれています」(同・資材課)
国際基準を満たしている工場の実態も在庫量も把握していないのだ。では、安全といわれる蒸製骨粉と通常の肉骨粉の確認は誰が行うというのだろう。
「確認は肥料の製造メーカーのほうで、それぞれ蒸製骨粉を製造しているメーカーに確認をしてもらっています」(同・資材課)
という。
本当に安全確認などできるのだろうか。
肉骨粉の使用を促すきっかけになった出来事
「'96年以降、牛の飼料に肉骨粉は使っていない」
と、大手の飼料メーカーは一様に口を揃える。'96年というのはその年4月16日に農水省畜産局から「牛など反芻動物が原料の肉骨粉を反芻動物の飼料に使うことを自粛するよう求める」通達が出た年だ。使用自粛という曖昧な通達で済ませた農水省の危機意識のなさが、今回の狂牛病パニックの第一の原因であることは言うまでもない。
「'96年以降、使ってない」という飼・肥料メーカーを100パーセント信用できるのだろうか。使っていないとすれば、現在の肉骨粉の在庫や、これまでの肉骨粉の生産実績は、いったいどう説明できるのか。
なぜ、日本では肉骨粉を使うようになったのか。東京都町田市の酪農家の北島一夫氏は、10月25日に行われたシンポジウム「狂牛病と飼料の問題点」(主催・日本消費者連盟ほか)でこう語った。
「東京の酪農家は一切使ってないが、肉骨粉はそのほとんどが乳牛に使われています。そのきっかけとなったのが'87年に乳業メーカーと酪農家との牛乳の乳糖の取引基準が3.2パーセントから3.5パーセントに引き上げられたことです。600キログラムの牛に1日の餌の目安である"体重の10分の1"の牧草60キログラムを与えても、3.5パーセントの濃度は出ないんです。それで、肉骨粉を配合飼料にどっと混ぜだしたんです。それを推奨したのは飼料メーカーです」
肉骨粉のたんぱく質含有率は50パーセント。同じ動物性飼料である魚粉(54〜65パーセント)より低いが、9パーセント台のトウモロコシ、コウリャンと比べて大きく上回る。価格も魚粉の半分以下。99年の輸入実績では、魚粉が1トン当たり10万円に対し、肉骨粉は約4万円とはるかに格安なことも、飼料メーカーが肉骨粉を大量に輸入した理由でもある。「日本有機農業研究会」の魚住道郎理事が、こう農水省を批判する。
「一時、暫定的に肉骨粉の全面禁止をしていたわけですね。狂牛病対策に関しては、肥料にも飼料にも使用しないというのがいちばんいい状態なわけです。狂牛病を広げないという観点からはそれしかないと思う。イギリスでは、十何万頭かが狂牛病にかかり、その事態を重く見て、今でも肉骨粉は全面的に禁止しています」
さらに、肉骨粉が飼料や肥料に使われることの危険性を、次のように説明する。
「蒸製骨粉だから安全だなんておかしな話です。プリオンのことは何も分かってないですし、他の肉骨粉と混ざる可能性も非常に高い。分子量が大きいので、植物に吸収されることは考えにくいが、畑に肉骨粉入りの肥料を撒けば、土壌が汚染されたり地下水が汚染されたりするわけです。また、作物に付着した異常プリオンを牛や豚が食べることにもなります。牛や豚は土も一緒に食べてしまいます。さらに、農家の人が直接吸い込む可能性もある。ひとたび肥料として畑に撒かれてしまえば、回収は絶対にできない。『予防原則』にのっとって、肥料への解禁は絶対にすべきではありません。もちろんペットフードもです」
イギリスでは'96年に肉骨粉の使用を全面禁止した。その理由は、もし豚、鶏に使用が認められていれば誤用される可能性があるからだ。
「今、イギリスで狂牛病が滅ってきているのは、鶏、豚にも肉骨粉の使用を認めていないからです。それを日本は豚、鶏には認めようというのですからおかしいですよ」(前出・魚住理事)
9月13日付「ガーディアン」紙(英)は、「'96年の肉骨粉使用禁止後に、狂牛病に感染していた牛の排泄物による牧場の土壌汚染によって、新たに6頭の牛の感染が確認された」と報道している。それだけ、狂牛病の根絶は難しいのだ。
「この際、疑わしきは使わずという徹底した『予防原則』に立ち、肉骨粉の全面的禁止と、すべて焼却処分にするということを断行しないといけません」(前出・魚住理事)
ところが日本では、'75年の国内の肉骨粉使用量7万7千883トンに対し、'95年が23万1千963トンと、肉骨粉の使用量は20年間で3倍に増えているのだ。
輸入先も、以前はアルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランドが上位3ヵ国だったが、2000年にはオーストラリア、ニュージーランド、イタリア、デンマークの順となっている。なぜ、狂牛病発生地のヨーロッパ諸国からの輸入が急激に増えたのか、理解に苦しむところだ。
国民の不信感と牛肉への不安を取り除くためにも、行政側はさらに徹底して狂牛病対策を講じなければならないはずだ。
フランスが採った厳しい対策事例を農水省も見習え!
「安全な食と環境を考えるネットワーク」の伊庭みか子代表はこう言う。「イギリスやEUでは肉骨粉を焼却した後の灰も国の倉庫に保管しています。核廃棄物並みの扱いです。しかし、日本の扱いを見ていると、まるで、死の灰をトラックでばらまいているような感じです」
農業情報研究所(WAPIC)の北林寿信所長は、
「日本はフランスが昨年11月14日に採った狂牛病の緊急対策事例を、今すぐに採用すべきだ」と提言する。
「フランスでは向こう4ヵ月で廃棄されるべき肉骨粉が25万トン追加されるのに、焼却能力は13万トンしかなかった。したがって日々発生する肉骨粉は、とりあえず倉庫に貯蔵するしかありませんでした。そのために、直ちに新たな倉庫探しが始まりました。その最終的リストが昨年の12月28日に公表され、肉骨粉を扱うに当たっての厳しい条件も定められました。日本も現在、フランス同様の状況なわけですから、この緊急対策事例を参考にすべきなのです」
フランスの対策の主な内容は、次のようなものである。肉骨粉が大気・土壌・水の汚染を引き起こすことのないように、倉庫と肉骨粉の扱いに対して驚くほど細かく、そして厳しく条件が定められているのである。
◆倉庫が立つ土地は平坦でなければならない。内壁や屋根は、肉骨粉の湿度が15パーセント未満に保たれるように、防水性を持たねばならない。
◆肉骨粉が雨水等の水に触れてはならない。空気の侵入や流通からも遮断されねばならない。積み上げた肉骨粉の頂は、熱を吸収しないように平らにならされなければならない。湿度の異なる肉骨粉は、温度上昇の危険を避けるために隔離貯蔵されねばならない。
◆閉鎖された、またはシートで覆われた車両で輸送する。荷降ろしは肉骨粉が空中に飛散しないように行う。貯蔵区域では火気禁止。肉骨粉の温度は、少なくとも毎週コントロール。肉骨粉の山の上で作業する者は、適切な防具、特に防塵マスクを着用のこと。
◆温度上昇の際の介入においてはアンモニア発生のリスクを最小限にすること。最低1カ月ごとに昆虫と、げっ歯動物の増殖防止措置を取ること。貯蔵建物には他の可燃物・支燃物・引火性の物を含まないこと。
ここに挙げたのは、ほんの一例だが、ここまで徹底した対策をとらなければ、国民の不安は解消しないとフランス政府は考えたわけだ。農水省は、このことを肝に銘じるべきだろう。
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