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回答先: 衛星による地震−電磁気現象の観測の実行可能性研究 投稿者 茄子駄 日時 2000 年 6 月 05 日 17:37:33:
地震国際フロンティア研究(IFREQ)
中間評価報告書
平成12年2月21〜22日
1.序
理化学研究所理事長小林俊一博士の要請に応え、外部評価委員会は理研地震国際
フロンティア研究計画(IFREQ)の評価を行った。 以下は小林博士への委員会報告で
ある。
本委員会は以下の項目に関してIFREQ計画を評価する事を要請された。
1.プロジェクト(平成8年10月〜平成13年9月)の評価
(1)目的
(2)研究活動
(3)主要成果
2.提案計画(平成13年10月〜 )の評価
(1)提案の独創性
(2)学会および社会への期待されるインパクト
(3)提案計画の妥当性
2.委員会構成および現地視察日程
2−1. 評価委員会の構成
委員会参加メンバー
Antony C. Fraser-Smith スタンフォード大学 電気工学および地球物理学、
宇宙、通信および電波科学研究所 教授
福西 浩 東北大学大学院 理学系研究科 地球物理学専攻 教授
理学部付属地磁気観測所長
金森博雄(委員長) カリフォルニア工科大学 地震研究所 教授
久城育夫 東京大学名誉教授
森 俊雄 気象庁 地震火山部長
Gennnadi A. Sobolev ロシア科学アカデミー 地球物理研究所 自然災害および
地震活動部長
文書評価メンバー
大槻義彦 早稲田大学 理工学部 物理学科 教授
2−2. 現地視察日程
2月21日 (月)
午前 自己紹介
IFREQ 研究員による発表
施設見学
午後 IFREQ 研究員による発表
評価委員のみの会合
2月22日 (火)
午前 評価委員のみの会合
IFREQ 研究員による発表
質疑応答
評価委員からのコメント
午後 評価委員長より丸山フロンティア研究システム長への非公
式口答報告
報告書草稿準備(翌2月23日(水)まで延長)
3.IFREQ計画の評価
要約
理研国際地震フロンティア研究計画(IFREQ)は、地震に関連する電磁気的過程の物
理機構を理解し科学的地震予知に役立てる目的で、広い周波数領域での電磁現象を研
究する意欲的計画である。 ギリシャの研究者グループは地電位シグナルと地震との
関係を研究し地震予知の1方法を開発したが、その方法は主として経験的なもので物
理機構は十分明確とはいえない。電磁的手法の物理的基礎の解明、社会的有用性、並
びに本計画開始以来IFREQグループによってなされた重要な進歩からみて、委員会は
本計画の第2期への継続を強く提言する。
3−1.序論
この理研国際地震フロンティア研究計画(IFREQ)評価は、理研IFREQグループの準
備した資料(以下、IFREQ文書と略称)、現地視察、委員会メンバーからの文書レビ
ュー、現地視察中におこなわれた委員会での討論に基づくものである。 IFREQグル
ープによって準備されたIFREQ文書は膨大かつ有益なもので、非常にレビュー作業に
役立った。 委員会は、この文書作成にあたってのIFREQグループの異例の努力を高
く評価し称賛する。
本研究計画は、IFREQプロジェクトチームが地震に関連する電磁気的過程の物理機
構を理解し科学的地震予知に役立てる目的で、広い周波数領域での電磁現象を研究せ
んとする意欲的計画である。すなわち大地震の前に生起するであろう電磁現象(前兆
現象)の物理学を基礎に未来の地震活動を予知せんとするものである。本報告書およ
びIFREQ文書では”前兆現象”、”地震予知”などの言葉はこのような科学的な意味
で用いられている。 この点については、末尾の付録で補足説明する。
3−2.現行計画(平成8年10月〜平成13年9月)の評価
(1)目的
本プロジェクトには二つの目的が提示されている。 第1目的は地震発生をもたら
す物理・化学過程に関わる広い周波数領域での電磁現象、なかんずくDC〜超低周波
領域での電磁現象の理解である。この過程は現在まだよく理解されていない。 最近
ギリシャの研究グループ(VAN)はギリシャでの地震を予知するのに電気的方法を
用いている。VAN法の予知は、彼らの観測と経験(すなわち経験則)に基づいてお
り、真剣な科学的研究に値する興味深いものである。 しかし、その方法については
論争があり、IFREQの採り上げる研究対象が必然的にVAN法と密接に関わることか
ら、IFREQそのものに批判的態度をもつ研究者もいる。 この論争はVAN法による
予知の成功が大多数の研究者にとって明白になるか、現象の物理機構が解明されてこ
の方法の成否がしかるべき厳密な物理学・化学の枠組みで説明されるようになるまで
続くであろう。 IFREQ計画はその枠組みの樹立を目指しているがゆえに重要なので
ある。
地震関連の電磁現象については数多くの機構が示唆されている。たとえば、ある種
の電気的シグナルは地殻内での流体の運動の現れであると信じられている。少なくと
もある場合には、地殻内での流体運動は地殻の強度減少の原因となり地震を発生させ
るであろう。 電磁シグナルは地震発生をもたらすストレス変化の結果であるかも知
れない。 観測されるシグナルの真の原因を理解することは関係学界にとってきわめ
て重要である。
本プロジェクトの第2の目的は電磁シグナルを地震の科学的予知に利用する事であ
る。地震の発生場所、発生時、およびマグニチュードの科学的予知は地震学の重要目
標である。この意味でIFREQプロジェクトは明瞭な社会的意義をもつ。 しかし、電
磁気的前兆現象の検出が直ちに実用的短期地震予知をもたらすというのは尚早である。
電磁信号を観測し理解することと地震を正確に予知することとは同義ではない。
地震発生は単一の原因にではなく、多くの相互に絡み合った原因に支配されると広く
信ぜられている。 したがって、電磁シグナルの物理が完全に理解されたとしても、
正確な地震予知は困難であろう。にもかかわらず、
もしその機構が十分理解され、連
続観測が行われれば、破壊が差し迫っているかという見地からの地殻の状態を推定す
ることは可能であろう。 今後の日本における地震災害軽減計画がこのような広域的
情報を利用しようとするならば、本プロジェクトは地震災害軽減のための有用な方法
論を提供する潜在能力を持っている。この意味で本プロジェクトには社会的重要性が
ある。
現在、この主題についてIFREQ計画の規模で研究プロジェクトを進めている国は他
にはない。地震災害軽減のための潜在的重要性、人的資源、インフラストラクチャー
の存在を考えるならば、日本がこの種の先端的研究を行うのは当を得ている。 もし、
日本がこの研究を行わなければ、世界のどこでも行われないだろう。 日本は高度
の地震危険度で知られ、多くの原子力発電所や化学工場の存在は、巨大地震ではなく
ても重大なエコロジカル危機をともなうきわめて危険なものとなるだろう。本研究を
日本で行うことの利点は、全国的に高い地震活動度のゆえに統計的に有意な成果が短
時日に得られるであろうことである。 高い人工ノイズレベルにもかかわらず、日本
で有意な成果が得られれば、その技術は諸外国に移転され、さらに研究が進むだろう。
(2)研究活動
本計画のための施設は質的に十分高度のものであると思われ、研究に従事するスタ
ッフの旺盛な研究意欲はきわめて印象的である。上田誠也教授、長尾年恭教授、服部
克巳博士のリーダーシップのもとでのIFREQグループは本研究を遂行する能力がある
と認められる。 この旺盛な研究意欲と知的活性を維持することが重要である。
IFREQスタッフはこの意欲的なプロジェクトに取り組むにあたってきわめて積極的
であり、本研究の科学的、技術的作業遂行のための広汎な経験を獲得している。 彼
らの研究上の一つの重要な問題点はノイズ、特に日本での人工ノイズ、の除去である。
ニューラルネットワーク技術は電磁シグナルに含まれる人工ノイズの軽減に効果的で
ある。IFREQ文書では人工ノイズ除去に関して詳しく論じられているが、IFREQグ
ループはギリシャで開発された方法を採用したり、離島に観測点を設置するなどして、
問題の困難さは依然残るとはいえ、着実な進歩をなしてきた。IFREQプロジェクト
はこの方面に興味を有する研究者の間では国際的にも広く知られている。
IFREQスタッフが地球科学の他の分野、たとえば地質学、地震学など、の国内、国
外の研究者、研究グループとの交流を持続することは重要である。かかる交流は電磁
気的異常と地震活動、地殻変動、地下水位、地球化学特性などとの関係を明らかにす
るのに有効であろう。
既に設置された広汎な観測ネットワークおよびスタッフの旺盛な研究意欲をもって
すれば、本プロジェクトが地震破壊に関連する電磁シグナルの発生の鍵をにぎるメカ
ニズムを明らかにする可能性は高い。
IFREQグループはすでにマグニチュード4.5以上の数個の地震前に一時的な電磁
シグナルを観測している。 ほとんどすべての場合、シグナルは短基線、長基線のい
ずれにも同時に記録され、電極近傍の影響である可能性は相当程度最小化されている。
要約すれば、委員会は
(1)観測点を良好な状態に維持し、(2)ノイズ除去の有効手段を開発し、(3)
地震と電磁シグナルの相関の観測事例を蓄積し、同時並行して(4)地震関連電磁気
過程の物理についての活発な理論的研究を続行する、という研究戦略はIFREQ計画の
当初の目標を達成するのに十分有効であると確信するものである。
(3)主要成果
IFREQグループは42点の観測点を設置し、効果的かつ高信頼度のテレメーターネ
ットワークを作り上げた。 ディジタル方式によるデータの記録、センターへの転送
を行うこのシステムは有効であり、すでに多量の電磁データが蓄積されている。 プ
ロジェクト開始以来の時日が比較的短かいこと、および広い地域に観測点を設置する
ことの困難さを考えるならば、これは注目すべき成果であると委員会は評価する。
彼らはまた、多くの日本および諸外国の研究グループとの広汎な共同研究プロジェク
トを確立し、多数のDCおよび超低周波(ULF:5ヘルツ以下)データの解析を行
った。
本プロジェクトの成果については40篇以上の学術論文が国際査読誌に発表されて
いる。これらの論文は本プロジェクトの現状を反映するもので、その中のいくつかは
画期的重要論文である。特にそれらの論文ではマグニチュード4.5以上の多くの地
震前に電磁シグナルが出現したことを報じている。
この種のプロジェクトでは、真のブレークスルーを達成するには観測点近傍での多
数の中程度ないし大規模地震発生に遭遇することが必須であるが、本プロジェクト期
間中にはまだそのような大地震は発生していない。 この点は自然現象を対象とする
実験に特徴的な事実であり、この種のプロジェクトの進展を評価にあたって留意すべ
きである。必要な観測結果を蓄積するには時間を必要とするのである。
3−3. 提案計画(平成13年〜)の評価
(1)提案の独創性
提示されたマスタープランは明確かつ首尾一貫している。 プロジェクトの主な焦
点はDC/ULFシグナルの物理機構の解明である。 電気的手法はすでにギリシャ
のグループによって大々的に研究されてきているが(VAN法)、その方法は広く受
け入れられてはいない。 それは、彼らの発表手続きに問題点があるのに加えて、物
理機構が不明確だからである。 VANグループが得てきた結果の大部分は経験的な
ものである。 これはプロジェクトの初段階ではやむを得ないことだが、経験的手法
だけでは明らかに多数のメカニズムの関与する過程の理解を得るには不十分である。
IFREQ計画の独創性は広い周波数領域にわたる有望な電磁気的方法を広く取り扱い、
その成果を信頼度の高い方式で提示し、われわれが電磁気的方法が地震の科学的予知
に有効であるかを判断できるようにせんとする意図にある。IFREQグループは測定装
置の設置、データ解析、国際協力の面で野心的計画をもっている。 沈み込み帯での
巨大地震の予想震源近傍海底での極度に人工ノイズの低い環境における観測計画は特
に独創性が高い。 電磁シグナルの到来方向決定のための信頼性の高い技術の開発も
また独創的要素である。
多くの研究者によって激しく論議されてきた主題についての研究をすすめるという
点でもこのプロジェクトはユニークである。 多数の研究者がこの問題に関心を示し
たが、研究費獲得の困難のためIFREQプロジェクトの規模での研究をしているものは
他に例をみない。
委員会はこの野心的ではあるが、論争のまととなっているプロジェクトをサポート
する資金援助当局の独創性にも感銘を受けるものである。
(2)学界および社会への期待されるインパクト
もし地震過程での電磁シグナル発生機構が解明され、電磁シグナルが真に地震破壊
への過程(たとえば流体による弱化)と関連するものならば、その成果は地殻がどの
程度破壊に近い状態にあるかを診断する上での重要な手段を提供することになろう。
究極的に地震予知の科学的方法の基礎となるのは、その診断なのである。
学問的には、それは破壊過程の基本、地殻内のストレス状態を理解する上で大きな
インパクトをもたらすだろう。 後者は他の多くの地球物理関連問題にも広汎な関わ
りを持つ。
このプロジェクトで取得されたすべてのデータが日本および外国の研究者、学生の
利用のためにに管理・保管されれば、前兆現象研究のためにさらに有効となるだろう。
マグニチュード6以上の地震に関する高質の電磁データは少ないので、それらを詳しく
研究すれば科学的地震予知の研究はさらに進むであろう。
IFREQプロジェクトが地震関連電磁気現象の物理学解明に多大の進歩を成し遂げる
ということが本質的に重要である。もし第2期の終了時にIFREQ研究の成果が依然と
して本質的に経験的にとどまるならば、このプロジェクトのインパクトはごく限られ
たものとなろう。
(3)提案計画の妥当性
IFREQ文書に示された計画は研究目的に対して妥当なものである。 物理機構解明
の重要性という見地からは高精度の能動的地殻電磁探査を強調することが大切である。
これを実現するために、委員会はIFREQグループがCA(Conductivity Anomaly)グ
ループ、ACROSS (Accurately Controlled Routinely Operated Signal system)グル
ープと緊密に連携することを推奨する。時間および周波数ドメイン探査、並びに自然
電場を用いる諸手法はこの目的のために有用であろう。
IFREQグループ自身がIFREQ文書の末尾で述べているとおり、この計画が第2期の終
了時に”実用的地震予知”に到達すると期待するのは早計である。地震のような自然
現象を研究するには長期的研究が特に必要である。しかしながら、長期的研究がなさ
れるならば、多くの研究者(IFREQ研究者を含む)によってすでに得られている有望
な成果からみて、地震活動を種々の時間スケール(短期、中期、長期など)で科学的
に予知する方法が開発されるという可能性について、本委員会は楽観的である。
3−4 委員会提言
一般的提言
委員会はIFREQ プロジェクト第2期への資金援助を強く提言する。 本プロジェク
トが、ネットワーク内で少なくとも数個の中程度大地震もしくは大地震が記録され、
良好な観測事例が達成さえるまで継続されることが最も重要である。 もし、プロジ
ェクトがその前に中止されれば、すでに本プロジェクトに投入されたすべての努力と
資金は無駄となるであろう。
上田誠也教授のリーダーシップのもと、若い熱心な研究者達は活発にこのプロジェ
クトのために働いている。 彼らの大部分は地震学以外の種々の分野からこのプロジ
ェクトに参加したものだが、現在では地震関係科学研究に十分の経験を持っている。
委員会は本プロジェクトの第2期での研究は、基本的には現在とおなじ研究チーム
によって遂行されるのが最上策であると信ずるものである。
当然なすべきことはまず現存の観測点を良好な状態に維持することである。 現在
まで、IFREQチームは観測ネットワークの設立に優れた働きをなしてきた。 しかし、データ解析、シミュレーション、および理論的
研究においては、今まで以上に地質
学者、地震学者、超高層物理学者、物理学者、化学者などとの協力を進めることを強
く奨励する。 また、人工衛星データのような既存データの解析も重要であろう。
多くの研究(IFREQプロジェクトを含む)から明らかにされた諸過程の複雑さを理
解するためには、強力な理論的背景や広汎な地球物理学上の経験をもつ創造性豊かな
研究者をスタッフに加えることはIFREQプロジェクトにとって有用であろう。
純粋に科学的側面に加えて、IFREQプロジェクトの目標の一つは地震災害軽減にお
ける役割を探ることである。 したがって、この研究の成果(その不確かさを含めて)
をいかにして社会的目的に役立てることができるかという問題に取り組むことも重
要である。そのような研究なしには、このプロジェクトの成果は地震災害軽減には有
効に利用されないだろう。
具体的項目に関する提言
委員会は以下の通り具体的項目について提言する。 ただし、実行にあたってはIF
REQグループの規模から、間口の広さと焦点の絞り方との間の適切なバランスが図ら
れるべきであろう。どの項目が実行されるべきかの判断はプロジェクトリーダーの判
断にゆだねられよう。
(1)定式化されたシグナル/ノイズ判別法のアルゴリズムおよびプログラムの開発
(2)ΔV/Lテストに加えての、背景ノイズと異常シグナル判別基準の定式化
(3)電磁測定に及ぼす雷の影響に関する研究
(4)電気的シグナル発生における流体の役割に関する総合的研究
(5)電気伝導度異常分布の決定
(6)物理過程全体の完全理解のための、少数地点での種々の地球物理学的パラメータ(た
とえば地震波、地下ガス、ひずみ、地下水など)を測るための多種機器による観測
(7)大地震を捉える確率増大のための、海洋地域、特に地震活動の高い地域(たと
えば硫黄島)および国外へのネットワークの拡大
(8)電極設置地域の岩石の組成、物理的性質の決定
(9)VAN法における選択規則を理解するための、人工制御源からの電気的、磁気
的、力学的シグナルに対する諸観測点の感度の調査・研究
4.付録
“予知”という用語は二つの異なる事柄を意味する。 一般的用法では“地震予知”
は高い信頼度をもって公的に発表される短期予知を意味し、それに基づいて危機対
策(たとえば警報、住民避難 など)がとられる。 このタイプの予知にどの程度の
信頼度が要求されるかは、正確には関係する地域の社会的・経済的条件に依存する。
これに対して、科学的用法では、”予知”とはある物理システムの将来の動静につ
いての言明である
。 その信頼度は関係する過程についての我々の理解のレベルに依
存する。 地震の基本的物理過程はかなりよく理解されているので、観測されたなに
がしかの地球物理量およびその解釈に基づいてある地域の将来の地震活動に関して何
らかの予知をすることは可能であろう。それは予知ではあるが、前述の一般的用法で
の予知とは区別されねばならない。 なぜならこのタイプの予知には特定の信頼度が
設定される必要がないからである。 このタイプの予知を我々は”科学的予知”と呼
ぶ、良き科学的予知は有用な実用的予知のために必要な前提条件である。
“前兆現象”という用語もまた二つの異なる事柄を意味する。 限定された用法で
は“前兆現象”は地震の前に常に発生する何らかの異常現象を意味する。 地震の短
期予知のためには、このタイプの前兆現象を発見することが望まれる。 我々の知る
限り、万人の認める前兆現象はまだ見つかってはいない。
これに対して、“前兆現象”は大地震の前に起こるかもしれない異常現象という
第2の意味でもしばしば使われる。 地震には破壊前の非線形準備過程が関わるのだ
から、このタイプの前兆現象を期待するのは合理的である。 しかし、それは個々の
地震の前に必ず発生するとは限らず、またそれが起こっても必ず大地震が起こるとは
限らない。 したがって、この場合には、その前兆現象は決定論的な地震予知に使う
ことはできない。 にもかかわらず、それは科学的研究に値する興味深い物理現象で
あり、科学的予知を進歩させるのに役立てることはできる。
研究者仲間での現在のコンセンサスは、個々の地震すべてに必ず出現する前兆現象
はまだ発見されておらず、したがって高信頼度の予知法はまだ開発されてはいない。
現時点では、“前兆現象”といい”予知”といい、第1の意味でのものは依然とし
て研究段階であるというのが妥当であろう。 現段階での目標はどのタイプの前兆現
象が認定され、どのタイプの予知が可能であるかを研究することである。 本報告で
は、我々は“前兆現象”および “予知”を第2の意味、すなわち科学的な意味に限
定して使用している。