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「悪魔に愛された女」
ISBN:4880861014
マリ・エメリ−著・林陽訳
成甲書房
発売2000年4月30日
20cm 244p
NDC:361.65
\1,800
【以下まえがきより転載】
◎この本を手にした読者の方へ
事実は小説よりも奇なりと言うが、本書ほどこの言葉がよく当てはまる本もなかろう。この本は、フリーメーソソよりもさらに謎に包まれた秘密結社、イルミナティの最高幹部が書いた同組織を告発する日記なのである。しかも著者は女性だ。
時代は十九世紀後半。ちょうど日本が明治推新に突入した時代である。舞台ほトルコ、イタリア、フランス、ドイツ、ロシア、アメリカへと広がるが、特にパリのグランドロッジが中心になっている。
著者のクロチルド・ベルソソは、イタリア貴族の家に生まれた。母は篤信のカトリック教徒だったが、父はカトリックの宿敵フリーメーソソに入り、クロチルドがまだ三歳のときに二人は離別、娘は寄宿学校に預けられる。彼女は勉学にいそしみ、十七歳で数ヶ国語をマスターし、特待生となるほどの優れた頭脳を表わした。だが、悪魔的な秘密結社は、彼女の妖精のような美貌とその優れた頭脳に、すでに白羽の矢を立てていたのである。
彼女は、計画的に莫大な借財をロッヂに負わされた父に呼び出され、卑劣な手段によって、メーソソの究極組織イルミナティに入団させられる。そして、彼らが神と仰ぐ魔神ルシファーの巫女、「夜の妖精」となるべく宿命づけられてしまうのだ。
その百年前に、音楽を通してメーソソの秘密を暴露したモーッアルト(1791年没)は、問題作「魔笛」のなかで、「夜の女王」という存在を登場させている。その解釈は様々あるが、当時からイルミナティにこのような女性がいたようである。クロチルドは「三人目」だった。
ここで彼女は、殺人儀礼に基づくさまざまなイニシュエーションを通して階段をのぼりつめ、最終的にルシファーの託宣を純粋に受け取る媒体に育てあげられる。
だが、最高幹部にのばりつめた暁に、自分の人生を破戒した者たちと、この悪魔的秘密結社に復讐するというのが、彼女の当初からの目的だったのである。「聖霊の花嫁」(ルシファーの妻のこと)となって最高権力を掌握してから、クロチルドは復讐を次々と遂げていく。そして、ついに組織を決死の思いで脱出、修道院に避難所を求め、重大極まりない告白書をしたためたのだった。著者名のシスター・マリ・エメリーはここでの洗礼名である。
本書の元原稿ほ各国で出版されるべく数ヶ国語で育で執筆され、当時、ローマと数箇所の修道院に極秘に保管されたが、教会組織にとっても汚点となりかねない重大な内容を持っていること、重要人物がまだ生存していることなどの理由から、長いこと出版が見送られた。出版されたのは、ようやく世紀が改まってからのことだ。
一九二八年、フランスのイエズス会神父、アヲル・リシャールが、クロチルドの原稿を修道院で発見した。これがきっかけとなり、カトリック司祭のパウル・プリンが「レ・エリレ・ド・ドラゴー(龍の選民)」のタイトルでパリで出版するや、この本は大反響を呼んだ。国際的な有力誌「レヴィ」の編集長が大々的に取り上げたために、当時の反フリーメーソン運動に非常に大きな影響を与えたと言われている。
この流れに乗って、二年後にはドイツのワルドサッセンで、アルベルト・アンゲラーによりドイツ語版が出されたが、ナチス政権下で発禁処分に遭い、大戦の激動のなかで散逸、久しく闇に葬り去られていた幻の奇書なのである。
一九八五年、メキシコのフランシスコ会系修道院指導司祭を務めるヨナス・ガッツェ神父がローマでこの本を発見、その内容に衝撃を受けた。当時、ヨハネ・パウロ一世の謎めいた死(一九七八年)をめぐり、メーソソによる謀殺説が広く囁かれていたからだ。神父は闘病生活をおしてまで命懸けで英訳を進め、仕事の完了とともに息を引き取った。神父にとって実にこれが絶筆となった。
神父は亡くなる前に、見舞いに訪れたアメリカ人フランシスコ会士、プラザー・ビンセソトに原稿を託し、出版を依頼した。ビンセントは独自のコメントと他の関連情報とともに、この原稿を本にした。本書は、そのなかからクロチルドの日記原稿だけを抽出して翻訳したものであり、訳注は、訳者が独自に添付した。
訳者は数年前から、精神世界あるいはニューエイジと呼はれる現代のイルミニズムに深い疑問を覚えるようになり、この問題を批判的立場から研究するようになった。そのときに、各国の研究者に接触し多数の文献を集め始め、この書に出会った。
それまで、イルミナティという超極秘組織の名称は知っていたし、各国の研究者の説にもそれなりに目を通していたが、どれも元になっている文献が同じものと見え、類似の情報に食傷気味になっていた。ところが、この本だけは違ったのだ。それは、他人の研究の孫引きでもなければ、裏づけをする労を取らずにただ憶測で書いたものでもない、組織の人間にしか書けない生の報告だったからであり、これまでに読んできたどんな本にも書かれていない、詳細な内部情報に満ちていたからである。
王人形、教皇人形に縫い込んだ犠牲者を刺し殺すイニシエーショソの現場描写などは、どんなミステリー小説も及ばないほどのすさまじい迫力がある。ちょうど一連のオウム事件が起こった時期だったため、現実感はいっそう増した。イルミナティは名称こそ違え、今なお健在なのであろうとさえ思えた。
その頃、オウム信者か幹部が書いた一通の書簡をテレビ画面に見た。そこに、イルミナティの創設者、アダム・ヴアイスハウプトを絶賛する言葉が書かれていたのを今も思い出す。この極秘組織は、本書の告発から百年を経た現在も、破壊活動家の心のなかに確実に生き続けているのだ。
本書を翻訳し終えたときに、訳者は高熱を出して、一週間仕事に支障をきたした。それほどこの本は恐るべき内容をもっている。しかも、すべて真実の出来事なのだ。
読者は、ぜひともこの本を一読し、世界的陰謀の「証拠」を、陰謀に手を染めた人間の生の言葉から、直接つかんでいただきたいと思う。
訳者
【以下あとがきより転載】
秘密結社イルミナティの存在については、これまでにも様々に取り沙汰されてきた。それは、神秘の学校、見えざる大学、白色同胞団、ブラザーフッド、インナーサークルなど数々の名前を持つ、謎の世界的秘密組織である。この分野の研究者によれば、イルミナティはその実体がつかめないようにするために、多岐にわたる看板組織を通して、世界情勢を背後から操作しているという。外交問題評議会(CFR)、ビルダーバーグ、ローマ・クラブ、三極委員会、シェライナーズ、フェビアン協会、神智学、薔薇十字、そして国連など、一万を超す看板組織が存在すると言われている。
その存在はあまりに謎めいていて、部外者には、本当のことがまったく分からない。ことの真実を知るのは内部に生きる人間だけだが、その秘密が漏れることは少なかった。会員は死の誓約とともに、秘密厳守
の誓いをさせられるからである。
「イルミナティ」とは、「光明を伝授された者」「啓発された者」の意味である。この名称が頻繁に使われるようになったのは、フリーメーソンの大統合が行なわれた一七一七年以降のことだ。驚くかもしれないが、スウェーデンの千里眼能力者として知られるインマヌエル・スエデンボルグの教義を機軸とする「スエデンポルグ儀礼メーソソ」は、別名をストックホルム・イルミナティと呼ばれていた。設立は一七二一年だ。
それはフランスに流れ込み、一七六〇年にアヴィニョン・イルミナティをパリに創始、催眠学の創始者であるマルキ・ド・ピゥイセギュー、マルキ・ド・テーム、動物磁気療法の開発者フランツ・アソトン・メスメル、魔術的詐欺師で有名なカリオストロが中心になって、スエデンボルグ教義の「正しい」解釈と実践を目標に、活動を展開し始めた。このカリオストロは、後述するバイエルン・イルミナティの会員でもあり、のちに逮捕され、極刑を逃れようとイルミナティの悪魔的内情を裁判で暴露した人物である。彼の告白は、その後のイルミナティの批判研究に役立っている。
本書に直接かかわってくるイルミナティは、この一連の流れを受けて一七七六年に結成された「政治」結社だが、前述のオカルト系イルミナチィとも密接にリンクしていた。この結社の研究の先駆者、イギリス・エジンバラ大学自然哲学教授、ジョン・ロビソンの本から簡単にまとめてみる。バイエルン・イルミナティは、ドイツのバイエルン、インゴシュタット大学教会法教授のアダム・ヴアイスハウプトが一七七六年五月一日に結成したものである。結社は六年後の一七八二年に、ヴィルヘルムスパートで開催された世界フリーメーソン大会議で、メーソンとの合同本部をフランクフルトに置き、世界財閥のロスチャイルド家とその配下のユダヤ資本を動員して、とてつもない力を生み出しつつあった。組織は、表向きはイルミニズム(超人創造のための高度な知恵を伝授するの意)の仮面を被り、「自由・博愛・平等」の世界建設という大目標を掲げたため、政界はもとより、多くの文化人、芸術家、知識人が加入した。文豪ゲーテとへルダーは、一七八二年の大合同の際にこの会員になった。
だが、内輪組織の真の目標は世界征服にあったのである。この結社は、諸国家の破壊、諸宗教、特にカトリックの撲滅、教育や家族の破壊等の「カオス」を通して、「統一世界政府」という名の新しい世界秩序を推進するという、きわめて過激な世界革命思想を眼目に据えて、極秘活動を展開し始めた。「オルド・アブ・カオ(混沌から秩序)」がその合言葉であった。そのテストケースに選はれたのが、カトリック信仰のもっとも篤いフランスである。
ところが、何とも不思議な出来事が起きて、この極秘計画が露見してしまうのである。一七八五年に、ランツという名のイルミナティ工作員が、悪天候のなかをフランクフルトからパリに向けて馬を走らせていた。バイエルンにさしかかった頃、突如落雷が彼を襲い、ランツは一瞬のうちに息絶えた。発見された彼の遺体から、ドイツのイルミナティ大ロッジから、パリ大ロッジのロベスピエールヘ宛てた極秘書簡が見つかった。そこにほ何と、まだ起きてもいないフランス革命(一七八九〜九九年)、王政および諸宗教(ユダヤ教は含まれていなかったそうだ)撤廃の大計画が書かれていたのである。
事の重大さに驚いたバイエルン警察は、イルミナティ本部を急襲、ヴアイスハウプトの文書を没収して、イルミナティが事実、世界支配を白論んでいることの証拠を握った。
ある文書にはこう書かれていた。「社会にとって致命傷となるべき世界革命を行なうことがわれわれの目的である。この革命が秘密結社の仕事になるであろう。われわれの大いなる奥義≠ヘここにある」
《つづく》