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▼宮崎、韓国、モンゴル「口蹄疫」同時期発生、家畜のウィルス性伝染病
今年三月に宮崎県で国内では九十二年ぶりにウシやヒツジなど偶てい類のウイルス性伝染病である「口蹄疫(こうていえき)」が発生したが、その原因がいまだになぞにつつまれている。口蹄疫は一般的にはヒトには感染しないが、強力な伝染力をもっていることから、専門家はバイオ(生物)テロに転用される可能性を指摘している。ほぼ同時期に韓国でも発生しているほか、モンゴルでも四月末から発生していることが明らかになり、防衛庁は、人為的なウイルス混入の可能性があったのかどうかに関心を寄せている。
◎「なぞの感染源」防衛庁も関心
宮崎県は三月二十五日、宮崎市富吉の肉牛農家で飼育する肉牛十頭が口蹄疫に感染した疑いがあると発表。四月三日には、富吉地区の西約八キロの宮崎県高岡町大字五町の農家で九頭のウシが口蹄疫にかかった疑いのあることが判明し、同九日には、富吉地区の南西約三キロの高岡町大字下倉永の農家で十六頭のウシが口蹄疫に感染した疑いがあることが明らかになった。
これまでに、口蹄疫に感染したか、感染した疑いのあるウシ三十五頭が処分された。その後、ウシに対する検査なども進んだことから、「事態は沈静化に向かっている」(関係者)とされ、家畜の移動制限も解除された。
一方、農水省によ驍ニ、韓国では三月二十七日、京畿道坡州で乳牛十五頭が口蹄疫に感染した疑いがあることが公表されたのをはじめ、京畿道、忠清南道など三道六市郡の十五農場で肉牛六十二頭、乳牛十九頭が口蹄疫に感染した。拡大を防ぐためにウシなど二千二百二十三頭を処分、発生場所に近い農場の家畜に対するワクチン接種も行った。
農水省は日韓両国のウイルスが異なることを指摘、両国における感染を関連付けて考えることには否定的だが、感染経路はいずれも判明していない。
宮崎県は「(ほこり、くしゃみなど)空気伝染は考えにくく、人、車、飼料、家畜の出入りなどを介した伝播(でんぱ)の可能性を含め調査中」と発表したが、結論は得られていない。当初は、風で日本に運ばれた中国北西部の黄砂が感染源−との見方もあったが、国内での感染が宮崎県内の三カ所にとどまっていることから、「黄砂によるものであればもっと広い範囲に及ぶはずだ」(宮崎県)としている。
また、周辺諸国から輸入した飼料用のわらが感染源との見方もあるが、はっきりしていない。
生物兵器によるバイオテロを研究している専門家の間では「わらなど飼料の流通過程で人為的にウイルスを混入した疑いも否定できない」との見方がある。「ヒトにも被害を及ぼす本格的なバイオテロのために、口蹄疫を使って行政サイドなどの対応をみていると考えることもできる」(防衛庁筋)との指摘もある。
「一般的に行政サイドのバイオテロに対する認識は低い」(防衛庁筋)こともあり、防衛庁では五月下旬に防衛庁長官の私的懇談会として部外有識者八人程度で構成する「生物兵器対処懇談会」(仮称)を発足させ、意識の喚起を図っていくことを検討。平成十三年度からの「中期防衛力整備計画」(次期防)の柱の一つになるNBC(核・生物・化学兵器)対策の確立を急ぐ方針だ。
■口蹄疫
口蹄疫(こうていえき) ウシ、ヒツジ、ブタなど偶てい類のウイルス性急性伝染病。発熱や流涎(よだれ)に始まり、口や鼻などに水泡が発生する。発育障害が残り、死に至る場合もあり、畜産業への影響が極めて大きい。予防法はなく、感染したウシなどの迅速な焼却処分が頼り。一般的にはヒトには感染せず、口蹄疫にかかった家畜の肉を食べても人体への影響はない。農水省によると、最後に国内で発生したのは明治四十一年。明治三十三年から四十一年にかけて、東京都を含む首都圏、石川、岐阜、兵庫、福島各県などで、約四千頭のウシなどが感染した。一九九七年には台湾でブタの間に大流行し、ウイルスが潜在しているとされる中国から密輸された家畜が原因との見方もあったが、感染経路は判明していない。