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回答先: 有名トンデモ本から死海文書関連 投稿者 SP' 日時 2000 年 3 月 20 日 13:32:02:
以下『新世紀エヴァンゲリオン完全攻略読本』(新世紀福音協会、三一書房)より。
冬月「ゼーレもあわてて行動表を修正しているだろう」
碇 「死海文書にない事件も起こる。老人にはいい薬だよ」
一体、この会話の何が決定的かというと、これは“反則技”かもしれないが、脚本集『EVANGELION ORIGINALII』(富士見書房)では、当初、この冬月の「ゼーレも」が「エッセネも」と書かれており、フィルムの段階で改められているのだ。つまり、『エヴァ』史観では「ゼーレ」イコール「エッセネ」なのである。
ということは、何のことはない。そもそも秘密結社ゼーレとは、死海文書を記した当の本人であるエッセネ派組織クムラン宗団の末裔のことなのだ。そして、このように結論づけると、すべてが一本の線で結ばれるのである。
まず、『エヴァ』のオープニングに出現するユダヤ密教「カバラ」の概念「生命の樹」。そして、ネルフ総司令官公務室の天井に大きく描かれている、同じく「生命の樹」の模様。そして、秘密結社ゼーレのシンボルマークである「7つの目」。またエッセネ派に源流を置くとされ、カバラを教義とする(と言われている)「フリーメーソン」。そしてフリーメーソンのシンボルマークである「神のすべてを見通す目」。フランス人権宣言の公布書やドル紙幣にも印刷されている「目」。別名、「ヤハウェの目」とも「ルシファーの目」とも言われている、その目……。
つまり、真相はこうであろう。かつて、たくさんの預言者を有して「死海文書」を記し、ローマ軍の侵攻とともに歴史の闇の彼方に忽然と消え去った、謎の組織「クムラン宗団」。その組織は、莫大な隠し財宝とともに、ヨーロッパのどこかに逃れて命脈を保ち、中世から近世にかけてその富を背景にフリーメーソンとして勃興。やがて西欧で一大組織として成長した後、建国間もないアメリカ合衆国に食いこみ(いや彼らがアメリカを建国したと言うべきか)、世界的結社へと勢力を拡大。そして20世紀に入り、おそらく末頃になって、さらに「ゼーレ」へと進化。彼らの教典である死海文書が預言するところの「約束の日」に備えて、着々と計画をすすめてきた――。
歴史的な真実はともかく、『エヴァ』史観では、このような設定になっているのではないだろうか? まさしく、このゼーレこそ、世界を影で動かしている存在なのだ。
かつて冬月は、ネルフに所属する以前に、セカンドインパクトの原因を大質量隕石の落下によるものと国連が公式発表したことに対し、次のような回想をしている。
「私の目から見れば、その結果はあからさまに情報操作されたものだった。その裏にはゼーレ、そしてキールという人物が見え隠れしていた」(第弐拾壱話)。
この話からすると、国連はすでにゼーレの支配下にあることがわかる(いや国連はゼーレが作ったというべきか)。
だいたい、エヴァ計画一つとっても、天文学的予算が必要であり、全世界の国々から金を引き出さないと、とても一国では賄えない。20世紀末まで国家間の単なる友邦組織にすぎなかった国連が、セカンドインパクトを通じて、一気に国家の上位組織にまで拡大したのは、偶然とは思えない。セカンドインパクトは、全世界を国連の配下に結集させるための、ゼーレの陰謀だった可能性も否定できない。
いずれにせよ、全世界の有力国家の軍隊までが、「UN」の名のもとに結集されているくらいだから、その国連を支配しているゼーレこそが、世界の実質上の支配者と考えてもいいだろう。(p33-36)
…彼らゼーレは、しきりに「約束の日」または「時」という言葉を繰り返す。
宗教学的に言えば、これは世界最終戦争の後、唯一神ヤハウェの忠実なる下僕であるユダヤ人たちが、神によって永遠に救済され、祝福される日のことを意味する。一方、キリスト教徒の場合だと、救世主イエスが再臨し、未来永劫に続く神の王国に導かれる日という意味になる。
しかし、ゼーレのメンバーたちは、「我々に具象化された神は不要」だなどと発言しているのである(第弐拾壱話)。実際、「神に救済される」などという甘い夢を見ているような連中ではない。むしろゼーレの言う「約束の日」とは、12体のエヴァという超兵器を背景に、自らが神の位に就き、全人類を掌握することではないのか? つまり、世俗的な意味で、自分たちが神と同等の権威と力を手に入れるということではないのか?(p37-38)
…「人類補完計画」とは、一体、何なのだろうか?
ゲンドウは、この計画を「かつて誰もが成し得なかった神への道」と称している。実際、字の意味からすると、「不充分なところを補って完全なものとする計画」ということになる。完全なもの、といえば、それは「神」しかない! そう、「人類補完計画」とは、人類が「神」になることを言うにちがいないのだ! ただし、誤解のないように言っておくが、ゼーレだけが「神」で、逆に他の人類は「支配される家畜」の地位に堕とされてしまう可能性も、ある。(家畜のルビはゴイム。p63)
シンジはこう言う。「自分の体の形が消えていくような……。気持ちいい……自分が大きく、広がっていくみたいだ……どこまでも」。この感触が補完の始まりである。ゲンドウは「すべての心が一つとなり、永遠の安らぎを得る」という。人はひとつになってお互いの心を補填しあう。
これはトランスパーソナル心理学がめざす感覚とよく似ている。トランスパーソナル心理学は一言でいうと、西洋心理学(科学)と神秘主義とを融合させたものである。1969年にトランスパーソナル心理学会がアメリカで設立されている。60年代のアメリカには禅やチベット密教、イスラム神秘主義などの東洋宗教が流れこみ、またアメリカ原住民の呪術や西洋神秘主義の再評価がおこなわれ、LSDなどのドラッグが流行していた。これらはいずれも瞑想やサイケデリック物質を使って意識を変性させ、宇宙的なものと合一するという超越体験を誰にも可能なテクニックとして一般に解放したものだった。こういう神秘主義を心理学にとりこんだのがトランスパーソナル心理学である。神秘主義は西洋にも東洋にもみられるが、基本的に霊肉二元論で、精神によって神や宇宙意識など超越的なものとの合一をめざし、霊的世界を重視し現世に否定的である。
トランスパーソナルとは超個的という意味である。人間の身体は皮膚によって他者と外界から区切られているが、意識は個人としてバラバラに存在しているのではなく、無限に開かれており、個人の境界を超えて、他者や他の生物、地球や宇宙と一体になるような意識の持ち方が人間にとって本質的で価値ある体験だという。従来は病理的にみなされていた体験を、「異常というよりは超正常」(岡野守也)と位置づける。トランスパーソナルは、バラバラになった諸個人が相剋する市民社会的なアトミズム、つまり近代的個人主義の乗り越えの思想なのである。
こうしてみてくると、「体の形が消えていく」とか「すべての心が一つに」なるとかいう人類補完計画がやはりトランスパーソナル的な
ものをめざしていることがわかる。ただトランスパーソナルが心理学にもとづくいろいろなセラピーとしてそれを行なっているのに対し、補完計画は超科学による物理的手段をもってして強引に行なおうとしているようだ。たとえばミサトは、使徒を殲滅した後エヴァを何に使うつもりなのかといぶかる。おそらく量産したエヴァで人類を滅ぼし、エヴァやマギに応用されている人格移植と共通な方法(古代遺跡から発掘された装置あるいは智恵)によって、死ぬ瞬間に全人類の肉体と精神を分離させ、精神のみ一つに再統合させるのであろう。一見関係なさそうなE計画と補完計画はこういうところで結びついているのである。
補完の前には肉体の死がある。補完は「全てを虚無へと還す」ことから始まる。「人々の補完が始まった」ときに、ミサトとリツコの死体が映されるのはそれを暗示している。「すべての心が一つとなり、永遠の安らぎを得る」というが、肉体の死によってもたらされる魂の安寧は、現世における救済ではなく、彼岸における救いである。
補完は「虚無へ還るわけではない。全てを始まりに戻すにすぎない。この世界に失われている母へと還るだけだ」とゲンドウは言う。なるほど、それは個人にとっては死だが、人類全体にとっては再生となろう。ミサトは反論する。人の心を「他人が勝手に。よけいなお世話だわ」。まことに、頼みもしない勝手な「善き行ない」は、まるでオウムの大乗的な救済と同じである。このときサリンの役目をはたすのがエヴァンゲリオンというわけだ。
船井幸雄的なるもの
ここで、アニメから現実社会の方へしばらく目を転じてみよう。実は人類補完計画とはいわぬまでも、それに近いようなことを説く御仁がいらっしゃるのである。そのお方は次のように言う。神の意志により、人類は間もなくいまだかつてない大変革をむかえ、地球は新たな段階にはいる。称して惑星エヴァ! その準備のために人類はエゴに満ちた心を入れ替えないと滅亡してしまうという。
こんなオカルティックなことをいうのは、経営コンサルタントとして有名な船井幸雄氏である。氏はここ20年ほど、トランスパーソナルなどを拝借して独自な奇説を展開してきた。そんな船井氏は最近、建築家でありチャネラーである足立育朗氏からエヴァという言葉を教えられ、それを自分の体系にとりいれて、地球をエヴァへ進化させようとお題目のように唱え始めた。船井イズムにあふれた「エヴァ」という雑誌も創刊された。
船井氏のいうエヴァとは、地球進化のプロセスにおける第4レベルの惑星のことである(地球は5段階に進化する)。第4レベルとは、人間がエゴ(利己心)をなくし利他的な心に満ちた共生社会へと進化した地球である。足立氏は人間の本質は魂であり、肉体は借り物にすぎず、魂の進化は宇宙意識と一体となったところで完了するという。エヴァはその進化の過程の一段階である。エヴァへの道は、船井流人類補完計画といってもいいものである。ただ、楽観主義の船井氏はそれは自発的な意識の進化によってもたらされるというのだが、庵野監督というかゲンドウは悲観的で、陰謀論的に誰かが意図的にむりやり変えてやらなくてはならないと思っているという違いはある。船井氏も、資本主義が崩壊したあとにエヴァ社会よ来いといっているわけだし、監督というかゲンドウも新社会が到来する前にあれだけ破壊を行なっているわけだから両者は案外近いのだろう。
他にも『エヴァンゲリオン』と船井氏の類似はある。氏がプロデュースして大ヒットした『脳内革命』でも有名になったA10神経が、『エヴァンゲリオン』ではエヴァとパイロットをつなぐ重要な役割をはたしている。また船井氏は占星術による予定どおりに人類は非常時をむかえ大変化が起きるといっているが、『エヴァンゲリオン』では「死海文書」が預言の書の役割をはたしている。人類はある決まったプログラム(神の意図)をたどっていると考える点でも両者は共通している。
庵野監督が船井信者だとは思えないが(たとえばA10神経についてはNHKの番組から仕入れたらしい)、両者が向いている方向は同じであり、ものの見方や感じ方も似ているといえる。庵野作品で育った視聴者が「エヴァ」という語を橋渡しに、将来、社会に出たときに容易に船井ワールドへと吸収されてゆくことは想像に難くない。(p190-195)