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臨界事故で死亡した大内久さんの主治医として共同通信とのインタビューに応じた前川和彦東大教授の一言一言は、原発立地県に住む私たちの心にグサッと突き刺さってきた
医師団は「医学の教科書にないことに毎日のように遭遇した」という。大量の放射線を浴びた患者を前に、初めてのことばかりで面食らったことをつぶさに語っている。勢い外国の専門家の経験を参考にしながら治療をすすめたそうだ。被ばくに無防備な日本の現実にぞっとさせられる
大内さんの皮膚の状態を見て「中性子による熱傷だ」と的確な指摘をしたのはフランスの専門家だったという。チェルノブイリ事故の時は、二百人を超える患者が一カ所の病院に集められ、治療などできなかったことを例にあげ、チェルノブイリの二の舞になってはならないと指摘した
今後の被ばく医療に必要なものとして「条件を備えた病院の整備とネットワーク化」をあげている。金大などを含めて地域の医療機関も整備に本腰を入れる時だ。知識と経験のある人材を多く育てるのは、一国では限界がある。国際的に連携を組むことも必要だろう
大内さんの尊い死は、一筋の希望と家族愛の素晴らしさも教えてくれた。困難な治療のなかから、細胞をもう一度再生できるような技術があれば、助かる可能性のあることが分かった。家族も奇跡を信じて、あきらめの言葉を出さなかったが、最後は「静かに見守りたい」と蘇生措置を見送った。精一杯のことをして、本人のことを一番思いやる気持ちが痛いほど伝わってくる
前川教授は原子力の安全対策に「一番重要なのは人命尊重の視点だ」と強調している。行政はこの言葉を真剣に受け止めて欲しい。