Tweet |
回答先: 『青の炎』超ダイジェスト版2 投稿者 一刀斎 日時 2000 年 1 月 17 日 01:04:00:
翌、六月六日の日曜日。秀一は、深夜勤あけの眠気を堪えて、午前中の間に藤沢
市内のホームセンターに行き、必要な材料を買い集めてきた。
昼食を取ってから、一時間ほど仮眠した。目覚まし時計が鳴る寸前に、ベルを止
めて、ガレージに入る。
作業机の上には、数種類の木の板や丸棒、金具やネジなどの細々とした素材が置
かれていた。
作業にかかる前に、まずは、頭をすっきりさせることにした。ホームセンターへ
行ったついでに、コーヒ豆も買ってきてあった。久しぶりにちゃんと豆を挽く
と、それだけで、ガレージの中には、芳しい香りが漂った。マグカツプの上にト
リッパーを載せ、上から、少しずつ熱湯を注ぐ。
砂糖と粉末クリームを入れて掻き回し、コーヒーを一口飲んでから、いつもの隠
し場所から、ガーバーのマークIIを取り出す。
鞘から引き抜いて、ティッシュで黒いゴムの滓を拭うと、もう一度、しげしげと
観察してみた。
『スティンガー』には、二本のナイフが必要だった。実際に拓也を刺殺する凶器
となるナイフと、ダミーのナイフである。
凶器は、すでにここにある。致命的な毒牙を備えた、ブラックマンバのようなナ
イフが。あとは、ダミーナイフだけだったが、こちらは、簡単なようで、けっこ
う難問かもしれないと思い始めていた。
本来なら、同じナイフをもう一本入手して、一方をダミーとするのが、最も望ま
しい。それなら、二本を見分けられる可能性は、まずないからだ。いくら硬いナ
イフでも、手持ちのグラインダーにダイヤモンド砥石を付けて研磨すれば、完全
に刃を落とすことができるだろう。握りしめても、頬ずりしても平気な、タマゴ
ヘビのように無害なダミーナイフができあがるはずである。
だが、これから、マークIIをもう一本入手するのは、かなりの冒険と言わざるを
得ない。背広を着て大手の刃物店に行けば、たぶん、身分証を見せろとは言われ
ないだろう。だが、それほど頻繁に売れる品物ではないだろうし、購入するとき
に、顔を覚えられる可能性がある。
さらに、首尾よくマークIIを入手し、グラインダーで刃を落とせたとしても、問
題は、まだ残っている。たとえ刃がなくても、これほど薄く硬い金属板は、激し
いアクションの最中では、依然として、相当危険な代物となる。下手をすると、
大怪我をする可能性があるのだ。
さらに、ブレードの両側に、完全に刃が消えるまでグラインダーをかけた場合、
かなり幅が細くなるし、セレーションの部分も、まったく消えてしまうことにな
る。それでは、凶器にそっくりという、ダミーナイフの前提条件が怪しくなって
しまう。
加えて、『処理』する段階では、225グラムというマークIIの重量が、ネック
になることも考えられた。
以上のようなことを考え併せて、秀一は、外見がマークIIにそっくりなダミーナ
イフを、自作しようと決心していた。
もちろん、少しばかり工作が得意でも、肉眼で見て見分けがつかないほど、精巧
なものを作る自信はなかった。だが、コンビニ備え付けのCCTVカメラは、一
般に、きわめて貧弱な解像度しか持たない。安物のレンズを使っている上に、ビ
デオテープを何度も使い回しているからである。その結果、せっかく録画した映
像でも、自分の家族の顔すら確認できないのが普通である。『ハート・トゥー・
ハート』鵠沼店も、もちろん、その例に漏れなかった。
とはいえ、最終的には、警察が映像をコンピューター処理して、見やすくするこ
とまで考えられる。できる限り、真に迫ったダミーを作らなくてはならない。