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別冊宝島483『これから起きる原発事故』
徹底検証レポート 裸の原子炉が出現した!?
バケツで「臨界」は起こったか?
臨界事故を起こしたJCO転換試験棟の許認可上の作業工程は、人間の手作業の
入る余地のないものだが、JCOの手順書つまり〃裏マニュアル〃ではバケツを
使っていいようになっていた(工程図)。そこから「時代錯誤なずさん作業」の
イメージが生まれ、果ては「バケツの中でも臨界は起こりうる」などと言う人ま
でいたりして、〃バケツ作業〃ばかり問題にされる傾向がある。
一方、「ずさんと思うと、事故の本質を見誤る。裏マニュアルはよく見ると実に
緻密で理にかなっている。彼らは確信があった。たぶん、ものすごく頭のいい誰
かが考えたんだ」と、「反原子力茨城共同行動」の根本は首をひねる。根本が言
うように、効率という面から見ると、本来のマニュアルがまったく使い物になら
なかったということもできるが、〃バケツ〃が致命的な欠陥ではなかった。
「絶対これよりほかに考えようがない原因は、沈殿槽の形状」と指摘するのは、
京大原子炉実験所の小出裕章助手だ。臨界が起こった沈殿槽は直径五〇センチ、
高さ七○センチと大きく、ずんぐり丸い形状をしている(写真)。事故が報道さ
れるなかで、小出は、その〃形〃を知ったとき〈うそだろ!?〉と思ったという。
と同時に、起こりえない事故が起こった原因もはっきりと理解することができ
た。あの形の装置に濃縮度一八%の濃縮ウラン溶液を入れれば、臨界を起こさな
いほうがどうかしているというのである。
問題は、まず容量だ。通常、濃縮度約二〇%のウラン溶液(固形ではない!)で
は、最適条件における最小臨界量は五・五キロとされる。許認可上は安全を考慮
してさらに量を少なくし、二・四キロまでとなっていた。臨界を起こしたときの
投入量は一六キロ。制限値の七倍も人れたわけだ。それをバケツで入れるずさん
さばかりが問題視されるが、容量同体が人きい以上、むしろポンプで自動注入す
る場合のほうが、もっとひどい事故になっていたかもしれないのだ。
もう一つの重大な致命的欠陥は、沈殿槽の形状が「ずんぐり丸い」ことだ。実は
この形そのものが「非常に臨界になりやすい」(小出)。理由はこうだ。臨界と
は、核分裂反応で生まれる中性子が、失われる中性子を上回り、核分裂が持続す
ることをいう。逆に言えば、沈殿槽の外に中性子が逃げるなどして失われる中性
子が多ければ、臨海は起こらない。その中性子が逃げる割合だが、丸い球面の構
造体は、同じ体積のほかの立体に比べ表面積が一番小さく、中性子が最も逃げに
くい形状なのである。すなわち、臨界を起こしやすい。JCOの沈殿槽は、まさ
しく臨界向きの〃形〃をしているということができるのだ。
では、どういう〃形〃であればよかったのかといえば、「表面積の大きい、細く
て長い棒状の沈殿槽にすればよかった。そして、まったく奇妙なことだが、
JCO転換試験棟では、沈殿槽以外の貯塔や抽出塔などは長細い棒状になってい
る。臨界はそこでは起こらず、ずんぐり丸い沈殿槽で起こったのだ。
なぜ、そんなでたらめな〃シロモノ〃が設置されていたのか?
「要するに、作業上の効率だけの問題でしょう。それだけの理由でこんな沈殿槽
を設計した人間がいた。そしてそれに『オーケー』のハンコをついた科学技術庁
の安全委員会の担当者がいたということ。今回の事故のいちばんの犯罪者は安全
委員会といえる」と、小出は憮然としていった。
さて、冒頭の「バケツで臨界が起こるのかどうか?」という疑問の答えだが、
「バケツは七リットル程度だから、二〇%濃縮ウランでは起こらない」(小出)
という。
しかし「もっと高濃縮ならバケツ一杯でも臨界になる。だから『バケツ使用は問
題ない』というのは間違い」とこっそり言うのは、ほかならぬJCOの発注元、
核燃料サイクル開発機構のある職員だ。
さらに見逃せないことは、二十年前に造られた転換試験棟の設置許認可申請に
は、濃縮度五〇%まで扱えるように書かれているという。やはり、バケツで臨界
を起こす可能性のある施設だったわけだ。