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「死の灰」長期的に…専門家警告
チェルノブイリ級の重大事態
「臨界状態は終息」と発表された東海村の放射能事故だが、専門家の間では「問題はこれからだ」と指摘する声が相次いでいる。
「今後の被害はさらに広がるだろう」と推測するのは、京都大学原子炉実験所助手の小出裕章氏(原子核工学)。
「ウランが核分裂すると必ず生成物が生まれる。つまり死の灰です。これが周辺に漏れたということ。チェルノブイリ(原発事故)級の重大な事態です。空気中の(放射能の)濃度がどれくらいで、土壌がどの程度汚染されているかを調べなくてはならないが、周辺に住む住民は今後、長期的な危機にさらされるでしょう」と話す。
現場となったジェー・シー・オー(JCO)東海事業所を中心とした半径10キロメートルには約31万人が居住している。放射能は目に見えないため被ばくする実感がわかないが、「10年、15年という長い目で見た場合、知らず知らずのうちに放射能を浴びたり、吸い込んだりして、がんや白血病、奇形児などの遺伝障害が起きる可能性がある」と警告している。
物理学者で技術評論家の桜井淳氏も口をそろえ、こう話す。
「(事態は)非常に厳しい。ウランの半減期は相当長く、これが住民たちの庭や田畑など生活空間に飛び散ったわけです。危険と隣り合わせのようなもの。しかも、事故当日の夕方に雨が降った。かなり深いところまで汚染物質が浸透したと考えていい。チェルノブイリのときはかなり深く土を削って、すべて捨てる作業を行った。(汚染地域についても)そのようなことをしなければ、安全な日常生活を取り戻せない。もちろん、かなりの時間がかかるでしょうし、金も必要でしょう」
首都圏への影響は爆発事故でないため、少ないとみられているが、小出氏は「東京まで約100キロ離れ、空気中で汚染物質が拡散されるため可能性は薄いが、届かないという保証はない」という。
「いつかは起きると思っていたがこんな簡単に…」。両氏とも今後の行方に危機感を一層募らせている。
◆国内最悪の「レベル4」◆
茨城県東海村の核燃料製造会社での放射能漏れ事故の程度について、科学技術庁は1日、国際評価尺度(INES)の暫定値で「レベル4」に当たると発表した。レベル4以上の事故は世界的でも8件しか起きておらず、わが国では過去最悪の事態となった。
今回の評価について、科技庁は放射線医学総合研究所に入院した作業員が極めて多量の被ばくをしていることや、付近の住民に一定以上の被ばくの恐れがあることを重視した。INESは原子力施設で発生した事故の大きさについて、国際原子力機関(IAEA)などが導入した尺度。放射性物質の漏えい量などを基準に、レベル0から7までの8段階で判定される。
史上最悪とされる旧ソ連チェルノブイリ発電所事故(1986年)は、発電所外に放射性物質の重大な放出があったため、「レベル7」に分類。米スリーマイル島事故は発電所内で炉心の重大な損傷で発生したが、放射性物質の外部放出も確認されたため、「レベル5」に分類されている。
日本では、平成9年に東海村の動燃東海事業所で起きた火災爆発事故で、外部放出された放射性物質が極めて少量だったため、「重大な異常事象」のレベル3に分類されたのが最大の放射能漏れ事故だった。平成3年に起きた美浜原子炉事故は「異常事象」のレベル2に分類されている。
原子力事故の国際評価尺度と主な事故
レベル7 深刻な事故
旧ソ連チェルノブイリ原発事故(1986)
レベル6 大事故
レベル5 施設外へのリスクを伴う事故
米スリーマイルアイランド原発事故(1979)
レベル4 施設外への大きなリスクを伴わない事故
東海村・核燃料加工施設での放射能事故(1999)
レベル3 重大な異常事象
旧動燃東海再処理工場火災・爆発事故(1997)
レベル2 異常事象
美浜原子炉事故(1991)
レベル1 逸脱
旧動燃・高速増殖炉原型炉「もんじゅ」ナトリウム火災(1995)
レベル0 安全上重要ではない事象