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◎無罪、送還の可能性も 元赤軍派田中被告に判決
1970年のよど号乗っ取り事件で朝鮮民主主義人民共和国(北
朝鮮)に渡った元赤軍派メンバーで、96年に偽米ドル札を使った
としてタイで起訴された田中義三被告(50)=国外移送目的略取
容疑などで国際手配=の判決が23日に言い渡される。警視庁公安
部などは無罪となり、数カ月以内に送還される可能性もあるとみて
逮捕を準備。なぞに包まれた活動歴の解明を目指している。
▽よど号決着させる
タイの公判では検察側の物証が乏しく、田中被告を「主犯」と名
指しした共犯被告(56)も「無理やり調書にサインさせられた」
と証言を覆したため、無罪の可能性が高まっているという。
無罪で検察側が控訴しない場合、通常1、2カ月の移送審理を経
て釈放される。有罪でも懲役3年以下なら拘置期間が3年を超えて
いるため収監されない。タイの外務省は既に「法的手続き終了後、
身柄引き渡し法に基づき、日本に渡す」と言明している。
「偽米ドル事件は米国による反北朝鮮キャンペーン。自主的に日
本に帰り、裁判でよど号事件も決着させたい」
田中被告は手記などで強制的な移送には反対するものの、日本で
の裁判には積極的な姿勢を示してきた。
▽妻子は北朝鮮に
よど号を乗っ取った赤軍派9人は「われわれは“あしたのジョー”
だ」と当時の人気漫画のヒーローに自分たちをなぞらえ、北朝鮮に
渡った。
9人は軍事訓練を受け、半年で帰国するつもりでいたが、平壌で
待っていたのは北朝鮮独特の主体思想の強制だった。関係者の話で
は、メンバーのうち2人は80年代に死亡した。1人は主体思想の
解釈をめぐって他のメンバーと対立。もう1人は朝鮮労働党からス
パイ容疑をかけられたという。
その後、日本に潜入したメンバー1人が逮捕され、95年にはリ
ーダーの田宮高麿元幹部も死亡。残ったメンバー4人は自分たちの
家族ら二十数人と生活している。その中には田中被告の妻子もいる。
▽最も優秀な社員
偽米ドル札事件で逮捕、起訴されるまで、田中被告は北朝鮮を訪
れた支援者の前にも姿を現さない「なぞ」の存在だった。
よど号問題に詳しいジャーナリスト高沢皓司さんは「80年代か
ら欧州各地に出没していた。忠実な主体思想の信奉者で、よど号グ
ループという労働党の子会社から本社の労働党に最も優秀な社員が
出向し、工作員として欧州に派遣されたと考えればいい」と解説す
る。
田中被告の逮捕を主導した米国財務省のシークレットサービスも
「北朝鮮の実体を話せば、米国の公民権を保証する」と持ち掛けた
という。
しかし、裁判になると米国の影はなくなり、関係者は「米国は田
中(被告)逮捕を北朝鮮との何らかの取引に使い、用済みになった
から手を引いたのでは」と推測する。
元赤軍派の一人は「田中(被告)は警視庁に逮捕されても、妻子
が人質に取られているし、北朝鮮や欧州でのことは話さないだろう。
“工作者”の顔は封印されてしまうのでは」と話している。(了)
[共同 6月15日] ( 1999-06-15-16:22 )