Tweet |
生理用品にダイオキシン?
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/akahori/kankyou/tampon.html
(より全文引用)
1 アメリカ下院で
2 10人に1人は子宮内膜症?
3 中毒ショック症
4 議会や市民の対応
5 塩素漂白が問題
6 美しい無漂白の代替品
7 おわりに
このページの文責は 別処珠樹
● アメリカ下院で
1992年6月10日、アメリカ下院の小委員会がダイオキシン問題のヒアリング
を開いていた時、 委員長のテッド・ウェイス議員はファイルの中に次のよう
な一文があるのに気付いた。
「タンポンからダイオキシンを取り込む危険性は極めて高い」
何だ、これは? 生理用品がダイオキシンを含んでいるのか。ウェイス委員
長はFDA (連邦食品医薬品局)の文字が印刷されたメモの続きを読んだ。
「危険を避けるのにいちばん効果的なのは、タンポンや、できれば 生理用ナ
プキンがダイオキシンを含まないようにすることだろう」(89年3月27日)
彼は早速FDAの本部に駆けつけて、関連のありそうなファイルを調べ始め
た。 見つかったのは次のような報告である。
「タンポン・生理ナプキン・おむつ・その他の医療用具のダイオキシン濃度を
測定することが、十分な危険性評価のために絶対必要である。FDAには、
このレベルのものを測定する能力がある」(87年8月8日)
うーん。何でこんな問題が5年間もお蔵入りしていたんだ! ファイルの山
をかき回すうちに、さらに色々なメモが出てきた。
(生理用品の製造会社である)「プレイテックス社が、 自社のパルプ工場で
実際にダイオキシンを検出していた」(89年3月31日)
また89年8月2日のメモには、プロクター・アンド・ギャンブル社の代表が
FDAの本部を訪れ、タンポン・ナプキン・(下着の内側に取りつける)パン
ティライナーの 3製品がダイオキシンを含んでいると報告した、とあった。ウ
ェイス委員長は妻の顔を思い浮かべた。
その後、彼のスタッフが詳しく調べたところ、ダイオキシンと医療用具に関
する 最終報告書から次の一文をFDAが削除していたことも分かった。
「最大のリスクは、タンポン製品から生ずるものかもしれない」[1]
● 10人に1人は子宮内膜症?
アメリカなどの成人女性は10%〜20%が子宮内膜症だと推定されている。 タ
ンポン中のダイオキシンがこの病気と関係しているのだろうと、 コロンビア
大学のベス・フィリアーノがインターネット上の論文 「ダイオキシンと女性
の健康」 で指摘している。[3]
「ヒトではダイオキシンと子宮内膜症の関係に間接的な証拠があるだけだが、
アカゲザルではダイオキシンのレベルと症状の重さの間に強い相関がある。
[4] これを考えてみると、ヒトでも両者の間に結びつきがあると結論するのが
妥当だろう。 タンポンを使ってダイオキシンを取り込むのは、不要なリスク
であるばかりでなく回避できることだ。 ダイオキシンを生殖系に直接取り込
むのは、たいへん愚かしい行為だと思う」
子宮内膜症にかかると、子宮内膜の細胞が子宮以外の場所、たとえば卵巣・
膀胱・ 腹膜などに転移して増殖する。原因はよく分かっていない。もともと
子宮の細胞なので、 子宮以外の場所でも卵胞ホルモンによって増殖し、定期
的に出血する。 激しい生理痛などが現れる。不妊症の主な原因の一つは子宮
内膜症である。
● 中毒ショック症(TSS)
もう一つの問題がタンポンにはある。中毒ショック症(TSS)と呼ぶ急性
症状をを引き起こすことだ。 1980年にタンポンが原因と思われる症状で38人
の女性が亡くなった。 これに関してタンパックス社などを相手取って集団訴
訟が提起された。 TSS患者の99%はタンポンを使っている。
タンポンの吸収効率をよくするため、メーカーは以前からレイヨン繊維を使
ってきた。 水分を吸収すると繊維がほぐれて、細かい繊維が膣壁にささる。
すると傷ついた場所で、 いつもはおとなしくしているブドウ状球菌(スタフ
ィロコックス・アウレウス菌)が増える。 菌の毒で高熱が出て血圧が下が
り、嘔吐・下痢・筋肉痛などが生じる。死亡することもある。 アメリカで年
間216人(93年)から244人(94年)が発症している。 とくに生理中のティー
ンエージャーに多く見られる。ただ統計に現れるのは患者の一割ほどで、 大
半の人はインフルエンザと思って気づかないらしい。
● 塩素漂白が問題
タンポンがダイオキシンを含むのは塩素漂白に原因があるだろう。材料の綿
も、 レーヨンの原料になるパルプも塩素で漂白しているからだ。いま世界各
地で製紙業の 塩素漂白を見直す動きがある。日本の大手の製紙メーカーは大
半が酸素漂白に 早くから切り替えているし、ドイツでも半数以上が切り替え
ている。スウェーデンは 2000年までに排出する有機塩素の量を削減すること
を決めた。カナダのオンタリオ州 ・ブリティッシュコロンビア州でも同様の
法律が成立している。
消化管と同じように膣の内部は吸収の働きが非常に強いから、そんなところ
に ダイオキシンを含んだものを使うと、どうなるか。
ナプキンや紙おむつも安心できない。メーカーによって構造は違うが、ナプ
キンの装着面は メッシュ状のもの。その下が紙や綿。さらにその下に吸収
材。一番下は漏れないように ビニール状のもので出来ている。原料パルプな
どにダイオキシンを含む可能性がある。
ただし皮膚からの場合は、ダイオキシンを吸収しても多くが角質の部分にと
どまり、 取り込み率が低いとされている。しかし経口の取り込みが大きいか
ら、 合計量を考える必要がある。また残留性が高いから、そのつどの濃度で
はなく、 積算量で効果が現れることも考慮しなければならない。ナプキンか
らの量が小さくても安全とはいえない。 またナプキンやおむつからどれだけ
の量を取り込んでいるのか、何のデータもない。 マロニー議員の法案にある
ように、ダイオキシンをどれだけふくむのか、危険性はどの程度なのか、 ま
ず調べることが必要だ。赤ちゃんのおむつについては成人よりずっと影響を受
けやすい ことも考慮しなければならない。母親から胎児の受けるリスクも高
い。
どんどん使い捨てるのも感心できない。ある計算では、 ひとりの女性が一
生に使う生理用品は1万個以上になる。
下水処理場で生理用品を一つ一つ取り
除いている人のことも考えてみたい。
● 議会や市民の対応
FDAはメーカーの出してきたデータをうのみにして、タンポン問題を公表
しなかった。 現在の時点でもアメリカやカナダの政府は明確な方針を打ち出
していない。 これに対して女性たちはどう対応してきたか。
89年、経緯の詳細は不明ながらイギリスでは女性からの手紙が5万通も議会
に殺到したため、 六週間で塩素漂白から過酸化水素を使った酸素漂白に切り
替えている。
92年、ウェイス議員が調べたことをウォールストリート・ジャーナルが報道
しているが、 記事が目立たず大きな問題にならなかった。しかし気づいた女
性たちは 「テラフェム」などの団体を組織して活動を始めている。
95年のカリフォルニア州議会でリズ・フィゲロア議員が、生理用品には ダ
イオキシンによる危険性があると表示を付けよ、という法案を出した。これは
否決されている。
続いて昨年7月、キャロライン・マロニー下院議員が「女性の健康とダイオ
キシンに関する法律」 案を提出した。現行法を改正して、
「タンポン中のダイオキシンは女性の健康にどの程度の危険を及ぼしているの
か、 子宮頸ガンの危険性を含めてその程度を確定するための調査を、 国立衛
生研究所長は実施するか、調査を助成しなければならない」
という条項を付け加えることを求めている。この法案は、いま継続審議とな
っている。 またカナダでも同様の法案を準備中だ。
● 美しい無漂白の代替品
議会をめぐる動きだけでなく、市民も多くの運動を繰り広げている。大学生
を中心に タンポン不買(バイコット=コットンを買おう)運動をしている
し、 女性団体が政府機関や企業に働きかけたり、無漂白の代替製品を作って
頒布したりしている。 運動体以外の女性たちからも多くの反応があって、自
分はTSSではないんだろうか、 私は皮膚が弱く普通の生理用品はだめなの
で無漂白の製品に変えたなど、色々の発言がある。
カナダ・オーストラリアでも同様の運動が組織されているし、 北欧でも無
漂白のタンポンやナプキンが頒布され成功している。 カナダ・アメリカ・イ
ギリスには代替の無漂白タンポンなどを作って頒布している団体がいくつもあ
る。 「ダイオキシンと女性の健康」の論文を載せている 「テラフェム」(地
球の女たち、という意味か)のほか、 「ウーマンカインド」、「メニームー
ン」(何か月も使えるという意味)、「ナテュラケア」など。 まだ他にもあ
る。キューバでもこの問題に取り組んでいる女性たちがいる。
無漂白のタンポン以外に、布製パッドも作られた。下着に留めるタイプのほ
か、 ひもで腰に留めるタイプのものもある。これは昔あったような実用本位
のものではなく、 華麗さや楽しさを追求したものになっている。例えばメ
ニームーンのパッドは、 「ワイルド」は豹の模様が入った野性的なもの、
「パステル」は花柄のもの、 「オーガニック」は無漂白の綿布を使った美し
いものだ。水につけておくためのボトルや、 パッドを入れておくケースも開
発されている。
使ったあとは二時間ほど水につけて普通に洗濯したらいい。
● おわりに
アメリカ・カナダのメーカーが危険性を知りながら、塩素漂白をやめようと
しないのは コストの問題が大きいはずだ。やめるとダイオキシンの危険性を
認めたことになってしまう ということもある。代替法は酸素漂白だろうが、
それで問題が解決するかといえば 未解明の点がある。たとえば水道の原水を
処理するのにオゾン処理を使うと、 いろいろ正体の分からない酸化物が発生
する。
日本の製品は安全なのだろうか。アメリカのメーカーがたくさんの製品を売
っているし、 綿の漂白に塩素漂白を使っていないかどうか、タンポン中に
レーヨンを使っていないかどうかなど、 問題は多い。また真っ白に漂白する
必要はないし、使い捨てる量にも問題がある。[5]
京都在住の方が調べられた結果では、日本製のタンポンもレーヨンを使って
いる。 綿は原綿メーカーが塩素漂白したものを使っているようだ。アメリカ
の問題が そのまま日本にも当てはまる。ナプキン・紙おむつの漂白について
はいまのところ(6月末現在) 分かっていない。6月12日付けで厚生省生活安
全対策室に質問を出したが、 これまで何の回答もない。ダイオキシンが問題
化しているいま、回答しないこと自体が何かを 物語っていないだろうか。
昨年春アメリカで、テオ・コルボーンなど科学者三人の共著『奪われし未
来』 (アウア・ストールン・フューチャー)が出版された。ゴア副大統領が
序文を書いていることもあって 大きな話題になった。ダイオキシンや有機塩
素系殺虫剤、PCBといった物質がごく微量で ホルモンと同等の働きをし、
内分泌を攪乱して動物の繁殖力を弱めているというのが、 この本の論点だ。
子宮内膜症の発生メカニズムも自然が描いた「奪われし未来」のシナリオの
一つだろう。[6]
[1] カナダのウェブサイト「テラフェム」中の記事などによって再構成。
[2] 資料の大部分はインターネットを通じて入手。
[3] この論文は原サイトの了解を求めて抄訳してある。
[4] 『朝日新聞』97年1月13日朝刊。
[5] 日本消費者連盟関西グループの調べでは、日本の消費量は九割がナプキン・ 一割がタンポンという割合。こ
れに対して欧米では四割がナプキン・六割がタン ポン。アメリカの統計は七割がタンポンである。国民性の違いだ
という。
[6] ダットン・ブック(ペンギン・ブックス)96年3月刊。翔泳社から97年9月翻訳出版刊行。
このページは、別処珠樹さんから、赤堀由佳が引き継ぎました。
ご意見ご感想等に関しましては、私のほうにお願いいたします。