Re: コンピュータ・プログラムとPL法(その3)


[ フォローアップ ] [ フォローアップを投稿 ] [ ★阿修羅♪ Ψ空耳の丘Ψ1999 ] [ FAQ ]

 
投稿者 たけしくん 日時 1999 年 2 月 17 日 18:02:07:

回答先: Re: コンピュータ・プログラムとPL法(その2) 投稿者 たけしくん 日時 1999 年 2 月 17 日 18:01:23:

西暦2000年問題メーリングリストより転載
http://www.y2kjapan.com/jp/docs/ml/index.asp


第12回 コンピュータ・プログラムとPL法(その3)
日野法律特許事務所 http://hino.wepro.com/
弁護士・弁理士 日野修男 nobuo.hino@nifty.ne.jp
要約
 前回は、日本PL法がいかに貧弱な内容しか持たないかについてご説明致しまし
た。今回は、この日本PL法をどのように活用することができるか、日本PL法の適
用がない場合にはどのように対処していけばいいかについてご説明致します。


27 日本PL法の活用法

 24でも述べましたが、日本PL法との内容の貧弱さを反映してかPL法施行以
来、日本においてPL法に基づく訴訟件数は年間2、3件しかありません。困難な訴
訟類型とされる特許訴訟などの知的財産権訴訟も年間数百件のオーダーで提起されて
いることと比較しても、この数字は異常なほど小さいものです。この理由としては、
被害を受けた消費者などを救済する方策・手段が法律上整備されていないことがあげ
られます。特許訴訟などでは損害賠償額について推定規定やみなし規定が立法化され
ており、取締役の責任追及の局面では弁護士の報酬が立法化されています。PL訴訟
の困難さを考えると、死亡事故など損害賠償額が多額になるケース以外ではPL訴訟
を提起しても経済的に採算とれず、訴訟提起する実益がほとんどないのが実状です。
逆説的な言い方ですが、消費者対製造業者でとらえた場合に日本PL法は製造業者側
を保護する法律であるとも言えるのです。

 しかしながら、日本PL法は製造物から直接の被害を受けた被害者にだけ適用され
るものではありません。現代の製造業の過程は、原材料から部品の製造、半完成品の
製造、部品や半完成品のアセンブリによる完成品の製造と、上流から下流へ向けて製
造物の流通が行われています。その各段階において「製造物」が製造されます。上流
の企業から下流の企業が不良品などの供給を受け、そのため製造ラインが停止し、そ
れから損害が生じる場合にも日本PL法の適用はあります。このような場合には、不
良品の提供を受けた企業の損害は往々にして大きなものとなり、日本PL法による請
求を行っても採算がとれることになります。

 日本PL法の本来の目的は、製造物の欠陥が原因で被害を被った消費者や利用者を
保護するところにあったはずです。この面においては未だ制度的に不十分であり活用
されるといえる段階にはありません。しかし、上流・下流の企業間における欠陥部品
や欠陥材料の供給から生じる紛争においては、下流側の企業を保護する法制度として
十分機能するものであり、既に交渉などの場面で活用されていると言えましょう。今
回、報じられたコンピュータ・プログラムとPL訴訟も、下流側の企業から上流の企
業に対する提訴です。コンピュータ・プログラムが日本PL法の対象となるかは別と
しても、本件のように他社から製品の供給を受ける企業にとっては、自社の権利を防
衛する手段として日本PL法を活用することができます。

28 日本PL法の適用がない場合の対処

 26で述べたとおり、コンピュータ・プログラムそのものについては日本PL法を
適用することはまず困難と考えられます。しかし、なんら悲観することはありませ
ん。

 コンピュータ・プログラムの欠陥について争われたケースは、昭和50年代を皮切
りにいくつかの判決が出ています。その中で設計上の欠陥を認めたケースもありま
す。日本PL法制定の前からコンピュータ・プログラムの欠陥にまつわる裁判は提起
されていました。

28−1 開発委託契約に基づく責任

 コンピュータ・プログラムをソフトハウスなどに開発委託し制作してもらった場合
について考えてみましょう。この場合、ユーザは開発委託契約に基づき、ソフトハウ
スなどにプログラムの欠陥から生じた損害を賠償することが可能です。また、開発委
託契約は民法の請負契約にあたりますので、プログラムの欠陥を瑕疵修補請求したり
(民法634条)、損害賠償請求や契約解除することができます。

 しかし、プログラムの開発委託契約には開発者側の責任を一定限度に限定する規定
が盛り込まれる場合が多いでしょう。このような責任制限条項は一般的には有効と考
えられますが、開発者側が意図的に欠陥プログラムを作成した場合やこれと同視でき
るような場合にまで責任制限条項がカバーするとは考えられません。したがって、そ
のような場合には責任制限条項の適用がないと反論する余地があります。

28−2 売買契約類似の責任

 一般消費者を対象としたアプリケーション・プログラムの多くは、プログラムを記
録したCD−ROMや取扱説明書がパッケージにおさめられて販売されています。売
買契約そのものは消費者と販売ショップとの間で成立しますが、販売される商品の特
質から考えて、アプリケーション・プログラムの販売者(開発者が販売も行う場合が
多いと思われる)と一般ユーザとの間に、売買契約類似の法律関係が成立すると考え
られる余地もあります。この場合には、一般ユーザは民法の売買契約に準じた瑕疵担
保責任や損害賠償請求、契約解除などを主張することができるものと考えられます。

 ユーザがプログラムを利用するにあたっては、プログラムの権利者との間でライセ
ンス契約が締結されます。その際の契約の方式は多くの場合、「包装紙を破れば契約
が成立したものとみなす」といういわゆるシュリンクラップ契約です。プログラムラ
イセンス契約は多くの法的問題を含む契約ですが、シュリンクラップ契約の方式も問
題なしとは断言できません。このようなプログラムライセンス契約の有効性を前提に
すると、免責条項あるいは責任制限条項が規定されている場合がほとんどです。した
がって、これらの条項については前述の28−1と同様となります。

28−3 不法行為責任

 プログラムの開発者や販売者がユーザと直接の契約関係に立たない場合には、契約
責任を契約に基づく責任を追及することは困難です。そうすると契約当事者にない関
係を規律する不法行為責任を追及することになります。不法行為の典型例が交通事故
から発生する損害賠償責任です。日本PL法は不法行為責任の特則ですので、たとえ
日本PL法の適用がない場合であっても、民法の不法行為責任は追及することはでき
ます。民法の不法行為の要件は、@損害の発生、A故意または過失、B因果関係、C
違法性であり、日本PL法はこの うち、Aが「製造物の欠陥」に置き換わっただけで
す。また、製造物に欠陥があることが証明されれば、製造者の故意または過失は認定
されることが多く、ほとんど要件は変わりません。

 なによりも、民法の不法行為には「製造物」という要件がありませんから、日本P
L法の「製造物」にあたらなくとも、民法の不法行為責任を追及することは可能で
す。このように、コンピュータ・プログラムの欠陥から生じた被害を救済する方法は
いくらでもあります。コンピュータ・プログラムについて日本PL法の適用が困難だ
からといって、泣き寝入りすることはありません。

 被害者だけが加害者に対して賠償を求める権利と資格を有します。泣き寝入りしな
いで、自らの権利を行使することが、加害者に対して制裁を課すことであるとともに
第二の被害の発生を防ぐことができるのです。

 今回は「コンピュータ・プログラムとPL法」の話題についてご説明致すところで
したが、最後はPL法の話題からいささかずれてしまいました。コンピュータ・プロ
グラムを巡る法的諸問題については、機会を改めてご説明致したいと思います。


☆本記事はセキュリティ専門メールマガジン"Scan"よりの転載記事です。
http://www.nifty.ne.jp/mguide/SCAN_sam.htm (NIFTY SERVE会員)
http://www.so-net.ne.jp/scan/ (一般)


この連載は、毎日コミュニケーションズの
〓〓〓〓〓《PC WORK! HOT MAIL》〓〓〓〓〓
でも購読できます(無料)。
○配信のお申し込み・停止・バックナンバー閲覧等は
毎日コミュニケーションズのホームページでお願いします
http://www.pc.mycom.co.jp/pcwork/



フォローアップ:



  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。