UFOが私の機と編隊飛行を!

 ★阿修羅♪

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投稿者 SP' 日時 2001 年 6 月 07 日 07:04:56:

『空の上の超常現象』(M・ケイディン著、野田昌宏訳、PHP研究所)第13章。


 いつも思う事なのだが、UFOの識別をどうしてあぁも難しく考えるのか私には理解出来ない。
 UFO─未確認飛行物体。
 まさにその通り、UFOとは文字通りのものである。同じカテゴリーに、なんの謎も不思議もないIFOがある。これも簡単。確認済み飛行物体である。その正体が何だか判り切っていて説明の必要もないものだ。それを絶対的な存在と呼んでもよい(さもなければ“確認済み”とはいえないではないか)。
 そこで、残る疑問は、何が“未確認”かという事だ。論議される物体が機械工作物の特性を色々と示していて、同時に、かつて我々が作った事もない形状、現実とは思えぬ飛行特性を示し、それが紛れもなくある種の機械みたいなもので、我々の理解を超え、常識では受け入れられぬものだった場合……。
 ここに問題がある。ここではUFOが現実の存在であるかどうかの議論をする気はない。何故ならUFOは現実の存在だからだ。誰かが、何かのグループが、どこかの組織が、我々の知らぬ大量のより明確なデータを持ち込んだり、実物まで持ち込んで来るまで、我々は知らぬまま、お決まりの謎と怪奇として残されているのだ。我々は眼視とレーダートラッキングによる目撃例を持っており、写真・ビデオ・フィルムまで持っている。
 我々は、満足のいく答え以外ならすべてを持っている。従って我々はここで結論を出す気はない。あまりにも多くの有能なプロフェッショナル、ベテラン・パイロットや搭乗員が、説明しようのない物体に遭遇しているが、こんな場合につきまとう論議が面倒で紳士的に騎士的にそれを無視しているだけなのだ。
 これが本書の冒頭から貫いてきた姿勢であるが、ここで今、豊富な体験を持ち、極めて有能で知的なパイロットであるレーン・C・モロウが飛行中に未確認飛行物体と遭遇したいきさつを本人の語りで紹介したいと思う。潤色は一切ない、彼の体験である。
 ミスター・モロウの話へ入る前にひとつだけ言っておきたい事がある。私がブルーの空軍の軍服を着ていた頃、私はA-2(幕僚第2部 情報担当)のメンバーとしてUFO目撃報告の調査をやっていた事がある。我々はうんざりする程の数の調査をこなしたものだった。調査結果の九五パーセントはすぐに問題外として切り捨てる事が出来、その残りを詳しく調査した。私は爆撃機からジェット戦闘機まであらゆる機体で、飛行中に目撃したという異常な飛行物体を追跡調査した。大部分は納得のいく説明もつくが、その中には本当にピカいちという代物もあり、僅かだが“なんとか俺も正体を突き止めたい”カテゴリーのままに残されたものもある。そして私自身の飛行中の体験と、こんな調査の体験から、ここに紹介するレーン・C・モロウのレポートはパイロット諸氏や一般読者に是非読んで欲しいと思う次第である。
 彼はこうレポートしている。判断は貴方にお任せする。

 オーストラリア、ニュー・サウス・ウェールズ、シドニー。一九七二年九月七日、午後九時頃……。私はマスコット空港で、北西二百マイルほどにあるニュー・サウス・ウェールズのクータムンドラ行き最終便に乗客を乗せ終った所だった。
 そのとき、アンセット航空の乗客係がひとグループの日本人乗客を丁寧に押し込みながら機内へ乗り込んで来た。乗客は礼儀正しいが結構がやがややっていた。
 乗客係はコックピットにやって来たが、その表情と口調から何か問題が起きたなとすぐに思った。そのビジネス・スーツの日本人乗客達はクータムンドラに行きたくないのかと思ったが、目的地はクータで、向こうに彼等のビジネスの面倒を見る通訳が待っているという。だからよろしく。
 いいとも。
 そんな状況だった。そんな訳で私は東京から直行して来たという日本人乗客を乗せてシドニー空港から離陸した。機内の座席が足りなかったので、その日本人乗客の一人を私の隣の副操縦席へ座らせる事にした。これは完全に合法的なもので、政府は我々の会社に対し、離陸重量が超過しない限りパイロット一人で飛行する事を認可していたのだ。
 快適な夜だった。天候に問題はなかった。事実、有効視界は抜群で巡航高度八千フィートで飛ぶ操縦席の風防越しに百マイルも離れた都市や町の灯火が実によく見えた。無線を空港管制所からシドニー飛行情報区の管制所に切り替えると、毎晩、我々と同じ時間に離陸するニュー・サウス・ウェールズ航空のフォッカーF-27のパイロットが交信していた。ニュー・サウス・ウェールズのワッガ・ワッガ行旅客便である。彼等の飛行高度は一万八千フィート、同じ航空路上を我々より一万フィート高く飛んでいる。数分で向こうはワッガ・ワッガの方へ転針する筈である。
 すべて順調だった。そんな状態で三十分も飛んだ頃、左側から眩しい光がほぼ我々と同じ高度でこちらへ向かって来るのに気がついた。
 飛行は自動操縦である。なんの問題もなく安定して飛んでいる。だからいつもと違い、向かい風を避けたりするのに指定された高度より高くか低く飛んで航空交通管制所から文句をつけられるかも知れないなどとは考えもしなかった。計器の表示はすべて正規、乗客は落ち着いているので私はその眩しい光に注意を集中出来た。
 数分が経過し、眩しい光に対する私の関心は高まった。それはずっと見えていて、眩しさが一段と強まったように感じられた。まるで電気溶接のアークを思わせた。驚いたのは、そんな強烈な明るさなのに眼はちっとも痛くない事だった。そして相手が何であれ、その動きはこちらの機体と編隊を組んでいるようにしか思えないのである。ただ、相互の距離がどれくらいあるのかは判らない。
 ゆっくりとだが確実に向こうは距離をつめて来ていた。そしてその白い光の上下に赤と緑のストロボ標識灯の閃光が見えて来た。私はほっと安堵の溜息を洩らした。とにかくなんらかの飛行機であることがはっきりした訳だ。
 しかし、同時に別の警戒感が心の中に盛り上がった。何かおかしい。赤と緑の閃光が同時に見えるということは、主翼の両端を同時に見ている訳で、ということは、向うの機体が危険な程深いバンクをかけてこちらへ向かって来ることを意味する。気がつくと私は操縦席から腰を浮かせていた。もしもあの機体が旋回中にも加速出来る性能を持っていたら……。
 私はもう態勢を整えていた。自動操縦を解除して操縦を私の手に取り戻し、足は方向舵ペダルに掛け、向こうの動きに対応して何時でもとっさに対応出来る姿勢をとった。相手の正体がなんであれ衝突する訳にはいかない。
 数秒間、私はその赤と緑の閃光に挟まれた明るいその光を見詰めたままだった。それは依然として左舷、高度も速度もこちらへぴたり合わせているとしか思えない。そして大きくこちらへ向かって転針しつつある。私はどうなるのかと心配になった。
 とっさの判断では、向うの予測針路はこちらともろ に衝突するコースだった。それが不思議なことにそうはならなかったのである。
 その頃になって気がついたのだが、私は、いま起きかけている現実に対する自分の認識がとんでもない間違いであることを納得しかけていて、となれば、少なくとも私はパイロットとして、これまで長年積み重ねて来た経験を最大限に発揮し、事態に即応して操縦するしかないと心を決めた。簡単に言えば、何物だか知らないが来るなら来い、何とか回避してやるぞ……という訳である。
 もう一度、私はその強い光を放つ物体を確認して見た(正体は判らないが)。それはまぎれもなく実体であり、私の機体や、雲や、異常な気象現象が作る幻像・錯覚の類いでない事は明らかだった。夜空は素晴らしく澄んでおり、飛行のコンディションとしてこれ以上は望めぬ状況なのだ。その光は依然としてこちらへ向かって曲がり込んで来る。間違いない。正体不明の物体の動きは何者かに制御されており、その事が私をひどく戸惑わせた。
 その物体は、再びこちらとの相対位置を変えた。私は本当に信じられぬ思いだった。というのも、その物体は上下左右前後と動いており、その速度たるや理解をはるかに越えるものだったからだ。私が眼の錯覚に引ッ掛かっていないとすれば、正直言って私が見ている物体は毎時数千マイルというレベルの速度で移動しているのだ。それもあらゆる方向に向かって自由に加速減速を繰り返しながら……!
 私は自分が正気なのかどうかを自問し始めていた。計器の指示は、私の機体が教科書どおりに正しく飛んでいることを示している。そこで、私は隣の副操縦席に座っている日本人の乗客をつついてからその光を指差した。「あれが見えますか?」私は聞いた。「あそこで眩しく光っているものが貴方にも見えますか?」
 私が質問を繰り返せば繰り返すほど、相手は焦り、にっこり笑いながら頭を何度も下げてただ言うのである。「アァ、ソウ、アァ、ソウ……」
 やれやれ……。彼は私の言葉が判らず、私は彼の言葉が理解出来ない。それで私は客席に向かって叫んだ。「お客さんの中にちょっとでもいいから英語の判る人はいませんか?」
 ところが座席に着いている彼等が一斉に「アァ、ソウ、アァ、ソウ……」なのだ。
「窓から外を見て下さい! あれが見えますか? あれはとンでもない宇宙船です! あなた方は地球外からやって来た“何か”を見ているのです! 貴方がたにあの“空飛ぶ円盤”が見えているかどうか教えて下さい! 早く! いますぐ!」
 私の隣の日本人は酷く傷ついた表情を浮かべ、シートベルトを外して立ち上がると私に向かって深々と頭を下げ、くるりと振り返って客席の方へ行ってしまった。やれやれ……。
 よし、落ち着け。私は自分にそう言い聞かせ、いま、この惑星上でこの私だけが観察しているその“空飛ぶ円盤”を出来るだけ正しく把握する事にした。
 それから二十分間、私はこちらと編隊を組んだまま飛び続けるそいつをあらん限りの慎重さで観察し続けた。その結果として言える事は、夜なので困難だったが双方の間隔は半マイル(八百メートル)という所だった。しかし、どうして半マイルと判断したのかよく判らない。もし私が考えている大きさの二倍あったとすれば間隔は一マイル(千六百メートル)という事になる。逆にそれが実際には半分の大きさしかなければ、その物体はずっと近くにいた事になる。馬鹿なことに、私はそんな事を考えていて、このままだと頭痛が起きる破目になると思いついた。そこで私は決断した。こちらから距離を詰めてみよう。
 私は再び自動操縦に戻した。二十分間にわたり、私は見事な編隊飛行を続けてきた。そして自動操縦系統のパネルの旋回制御ノブを使って慎重に左旋回へダイヤルした。機体はゆっくりと左バンクを始め、私はその物体に注意を集中した。おっとっと! 私はそのまま飛び続けるべきだったのかも知れない。物体は信じられぬような速度で突然前へ飛び出したかと思うとそのまま上に移動した。飛行中の経験からして、それは時速数千マイルというレベルだった。僅か数秒で、私が危うく見逃しそうになるほどの移動なのである。
 それで、その物体は飛んで行ってしまった。姿を消してしまったと私は思った。厄介払いをした! 私は安堵の思いが湧いてくるのを感じた。そして混乱が襲った。どうしてこんなに私はその物体へ夢中になれたのだろう? よく見ようと接近まで図ったりして……。しかも、見えなくなった途端に今度は安堵しているとは……。
 しかし、それどころではなかった。そいつはまた現れた。信じられぬ速度で現れ突然減速した。そして以前と同じ位置でぴたりとこちらに平行した。前と同じく左舷半マイル(私の推理が正しければ)、しかし今度はこちらよりも五百フィートほど高い。
 オーケイ、現実の世界にコンタクトすべき時だ。私は操縦桿に組み込まれている無線の送信ボタンを押した。
「シドニー管制所、こちらマイク・ウィスキー・ホテル(機体略号MWHを聞き違い防止の為こんな呼びかたをする)」
 すぐに向うは応答して来た。“マイク・ウィスキー・ホテル、こちらシドニー、どうぞ”
「あぁ、当機の飛行空域に飛行中の他機はありますか?」
“ありません、貴機の飛行空域に他機の飛行の通報はありません”
「オーケイ、あぁ、それで、そちらのレーダーはまだ当機を捉えていますか?」
“捉えていません。二分ばかり前に当レーダーの監視空域から消えました”
「こちらマイク・ウィスキー・ホテル、有難う、お休み」
“マイク・ウィスキー・ホテル、貴機が安全に飛行中を確認しました”
「あぁ、その……了解しました、シドニー。有難う、お休み」
“マイク・ウィスキー・ホテル、クータムンドラ空域に進入したらワッガ飛行情報区管制所にコンタクトして下さい。グッドナイト・サー”
 クソッ! 時間を空費しただけでなく、危うく私はシドニー航空管制所に当機が安全になんか飛行していない事を確認させる所だったではないか。そうとも、私はトラブルに引ッ掛かっているとは考えていなかった。
 再び静けさが破られた。ニュー・サウス・ウェールズ航空のフォッカーF-27のパイロットの声だった。“シドニー管制所、こちらフォックストロット・ノヴェンバー・ジュリエット(機体識別記号FNJ)です。ワッガに向け降下開始のため指定高度180(一万八千フィート)から離脱を開始します”
“フォックストロット、ノヴェンバー、ジュリエット、こちらシドニー管制所です。高度180(一万八千フィート)からの離脱開始了解。飛行情報区管制所にコンタクトして下さい。グッドナイト・サー”
 そうだ! もしあの宇宙船がまだどこかこの近くにいるのなら、他人に確認してもらう手がある訳だ……。
 私はワッガとの交信波長に切り替え、フォッカーF-27のパイロットがワッガと交信しているのを傍受した。ワッガは管制承認を与え、八千フィートを切ったらもう一度連絡し、さらに飛行場まで十カイリに接近したら再度連絡するよう指示した。私 は素早く計算してみて、向うは八千フィートを切った時点で飛行場まで十カイリの位置に来る事を確認した。そしてその時点で私の機とは二十マイルという距離になる。お互いの機体の状態を視認するには遠過ぎるが、こちらの機体に強烈な光の塊がまとわりついていればちゃんと見える筈である。そこで私は待った。
 フォッカーF-27は再び沈黙を破った。そして私の計算の正しかった事がはっきりした。
“ワッガ管制所、こちらフォックストロット・ノヴェンバー・ジュリエットです。当機は、タカン(無線航法システム)測距で滑走路まで十カイリ地点を高度八千で通過”
“フォックストロット・ノヴェンバー・ジュリエット、こちらワッガ管制所です。了解しました。場周経路に進入したら連絡して下さい”
“ノヴェンバー・ジュリエット了解しました”
 ここでこちらの出番だ。「フォックストロット・ノヴェンバー・ジュリエット、こちらマイク・ウィスキー・ホテル」
“ホテルどうぞ、こちらジュリエット”
「折り入って頼みがあるんだ。済まんが俺の方をちょっと見てくれ。未通報の機体が飛んでいないかどうか、確認して欲しいんだ」“いいとも。ちょっと待ってくれ”
 ちょっと沈黙があって、“おい、ホテル、残念だが何にも見えん”
「オーケイ、ジュリエット、お世話さま、お休み」
 クソッ! これでは追い詰められたもいいところではないか。いや、ちょっと待てよ。俺は気が狂ったのかもしれない。罰当たりの宇宙船を巡るこの混乱はすべて私の妄想かもしれない。それも時速数千マイルだなんぞと! ついに私も“空飛ぶ円盤”を口にして、皆に馬鹿にされる破目となるのか……。この広い宇宙の中には人間の他にも別の形の知的生命が存在している事を私も信じてはいる。しかしそれは別の話である。他の知的生命がいたとしても、それはとんでもなく遠い場所であり、数千光年というレベルの話であり、特殊な交信の手段でもない限りとても考えられない。
 さて、そろそろ私がクータムンドラ飛行場に向かって降下を開始する時期だった。そしてそのとき、ひょっとしたら私につきまとっている奴を確認してもらうチャンスがあるかもしれないという事に気がついた。まだこちらにカードは残っていた。
「クータムンドラ管制所、こちらマイク・ウィスキー・ホテル、降下進入中、どうぞ」
 私は無線で呼びかけた。
“了解、マイク・ウィスキー・ホテル。クータムンドラ空域に飛行中の他機はありません。視界は無限、風はほとんどありません”
「オーケイ、有難う。済みませんがちょっと頼みがあるんですがね。外に出てこちらの機体を見てくれませんか?
 どうも左エンジンからスパークが出ているような気がするんで、ちょっと確認して欲しいんですよ」
“いいとも”
 こちらが降下を開始すると、そいつも降下をはじめた。私は降下手順のチェックリスト読みを手早く進めながらそいつから眼を離さなかった。機は飛行場の空域に進入した。そして場周経路に従い、滑走路沿いに風下へ向かうダウン・ウィンド・レグへ入るため大きく旋回に入った。その間、短時間だが“お供”の姿は見えなくなるだろうと思った。ところが見えなくならなかった。というのは、向こうがいきなり増速し、おそらく時速四千マイルを越えると思われるスピードで、旋回する私の機の外側を大きく同じ方向に回り込んで場周経路へ乗ったのだ。そしてダウン・ウィンド・レグへ乗って降下を続けながら滑走路にかかるベースレグに入るとき、そいつはそのまま飛行場を横断し、滑走路から半マイルほど離れた小高い丘へさしかかった。その途端、丘の頂上付近の樹々や茂みが、午後十時半だというのにまるで真っ昼間の午前十時半みたいに明るく照らし出されたのだ!
 私はそれから眼を離さぬよう努めながらベースレグを飛び、滑走路に向う最終旋回に入った。もう地面が近いので眼をそちらへ向けている訳にはいかず、着陸操作へ専念しなければならなかった。滑走路は胴体の下を走り過ぎ、客を揺すらぬ範囲で出来るだけ早く着地させた。そして、滑走している機体の窓から素早くその丘の方へ眼をやった。ちょうどその物体が浮きはじめた所で、見ているうちにそいつは速度を上げ、あっという間に飛行場を横切って我々が飛んで来た方向に見えなくなってしまった。ごく大雑把な計算でその速度は時速五〜六千マイルはあったと思う!
 それで私の機体は……。
 ターミナルへ向かって滑走して行くと、地元の通訳と貨物係が一人、建物から飛行機の方へやって来た。私は、さっき無線で話した管制所の男の姿を捜した。彼は燃料ポンプの傍に、五十フィートばかり離れて立っていた。両手を脇へ垂らしたまま、こちらをじっと見ている。そして私と目が合った途端、彼は指先を自分の胸に向け、すぐに話したいという意思を伝えてきた。
 そこで私は掌を立て、客を降ろすまでちょっとの間待ってくれと合図をした。客が降り、エンジン停止手順のチェックリストを実行してからコックピットをロックし、機体のドアに施錠して燃料補給位置へと歩いて行くと、男はそこに立ったまま苛立たしげに私を待っていた。
 彼は口ごもるように言った。「おい、見たか? おぉ、あんたも“あれ”を見たんだな?」
 しばらくとぼけなければならない。「何を見たと言うんだ?」私はわざとぶっきら棒に聞いた。
 相手の男は顔を歪め、感情を抑えようとして掌を握ったり開いたりしている。そして彼は、着陸進入時に目撃したそのままを詳しく説明しはじめた。もちろん彼の視点からだし、管制所のある建物から外へ出て私の着陸を見始めてからの事であるが、それは私の見たものとまったく同じだった。彼は、眩しい光を放つ物体が時速五〜六千マイルで移動したのを見たと言った。私はその言葉が気になった。この男は通信士でパイロットではない。時速七十〜八十マイル以上の目測がこの男にどこまで正確に出来るのか私には判らなかった。
 そこで私も飛行中に目撃し体験した事をすべて話した。その奇妙な物体はシドニーからクータムンドラまでの半分もの距離をくっついて来たと説明した。彼の顔は再び歪んだ。そして突然、深い安堵感が彼を包み込んだように見えた。それは、まるで自分は発狂していない事が確認出来たという表情だった。私は、彼が自分の目撃した事をすべて話し終るまでこちらは何も話さなかった理由を説明した。彼は頷いた。「あんたがそうした理由はよく判っているとも」
 しかし、彼はちょっとリラックスしたようには思えたが、再び恐怖と不安の入り交じった表情を浮かべ激しく動揺しはじめた。彼はこの事がまだ信じられなくて、誰かに話をしたくて焦っていた。誰に言えばいいのか判らなかったが、とにかく、然るべき正式の立場の人間に話さなければと焦っていたのだ。彼は、その“あり得ないものを見た”事を然るべき筋にまだ報告していないことでパニック寸前になっていた。しかし、逆に私はこの男の正直な目撃報告を受けた世間の反応が不安になり始めていた。彼と私の目撃が一致していることからしても、間違い ないという確証はあるのだが、それでも絶対の信頼性を主張する訳にはいかなかった。私は彼の胸のネームプレートに目をやった。「とにかく今夜は眠るとしようぜ、ルス。あす、乗務が全部終ったあとでシドニーから電話をするから、その時に話をしよう、いいだろう?」
 彼は躊躇したがやっと頷いた。しかし、私には相手の心を読みきれなかったのだ。私とは関係なしに、彼は一人でも“この世とは思えぬ光景”の目撃について独自の行動をとり、つまり“信じられぬ空の出来事を目撃”したと報告して精神病院送りの候補者にもなれる事を……。
 次の朝、私は早起きして気象チェックを済ませ、ワッガ・ワッガの飛行情報区管制所にフライト・プランを電話で入れ、機体の飛行前チェックを済ませ、乗客を乗せて午前六時四十五分、予定通りにクータムンドラを離陸した。
 私にとってこの日のスケジュールは楽なものだった。クータからシドニーへ、そしてすぐにウィリアムズタウンに飛び、シドニーへ戻り、再びウィリアムズタウンへ、それからスコーンを回ってシドニーへ。航路上の天候は文句なし、機体の調子は最高、航路にも混乱はなく、乗客はよく訓練された兵隊人形みたいに規律正しく列を作って搭乗し降りていった。何も問題はなかった。
 昼頃、自分のアパートに戻る頃、私は心を決めていた。沈黙を守ろう。私は持ち帰った下着類を洗濯袋へ突っ込み、制服を脱いでハンガーに掛け、ショーツとTシャツに着替え、ラム・コリンズを作り、座り馴れた安楽椅子に腰を降ろしてからクータムンドラに電話をかけた。
「ルスかい? レーン・モロウだ。こんちは、昨日は失礼。それで、その昨日の事だがね、あれは全部忘れてしまったほうがいいと俺は決めたんだ。オーケイ?」
 ところが相手から鋭い答えが戻って来た。「ノー」相手はこちらの申し入れを拒否した。彼はまだ昨夜の出来事のショックから立ち直っていなかった。彼は早口で、これから自分の見たものを、私が出会ったものをUFO協会にレポートするつもりで、それに際して私の協力が是非とも必要だと言うのだ。それだけではなく、彼は、パイロットである私からじかに聞いた一部始終を私の実名を挙げて報告すると言うのである。
 私は焦った。それはしてもらいたくない。しかしすでに事は私の手を離れて動き出しており、いま、この男の感情を刺激したくなかった。「君は自分の考え通りにすればいいよ、ルス。しかし俺は君が重大なミスをしでかしたと思うぜ」私は彼の心を変えさせる事は出来ず、言えば言うほど頑固になっていくので、ついに私はさようならを言い電話を切った。
 そして突然、私があの目撃をレポートしない理由が迫ってきた。恐怖だった。単純な恐怖である。ルスも恐怖を抱いている。恐怖を抱いているから彼は沈黙を守っていられない。彼は、その恐怖で自分が発狂するのではないかと怯えている。私には彼の感じているものが理解出来た。昨夜、私が抱いていたものとまったく同じだった。
 しかし、今の私が抱いている恐怖は別物だった。今私は、この体験を公にすることで自分が信用を失い、乗客を運ぶという大きな責任を担うエアライン・パイロットの職を失い、人生そのものを失ってしまう事に対する恐怖であった。貴方でも自分の信用に何か起きれば影響なしでは済まないだろう。友人は依然として友人だろう。しかしそれ以来、彼等の微笑には微妙な影が走るに違いない。それは“保護してやる……”という影である。そして私が受けるのは、定期旅客便パイロットとしての信頼性の崩壊である。これはまことに不快なものである。
 そして不快といえば、もしもこの種のレポート、つまり瞬間的に加速・減速し、時速数千マイルで移動する奇怪な光を見たという私のレポートが新聞などに載ったが最後、私はAクラスの阿呆と見なされるというさらに不快な目に遭う破目となる。会社は私を首にする候補として扱い始めるだろう。
 さらに悪いのは、新聞が興味本位に事実をへし曲げセンセーショナルに書き立てた途端、それが噂となり、光なみのスピードで全オーストラリア民間航空業界を駆け巡ることである。そしてひとたび私がエアラインを首になったら、もうオーストラリア内で空を飛ぶ職につく事は難しい。そして完璧といいたいこれまでのトップ級の経歴もたちまち問題外の扱いになってしまう。それは汚名として一人歩きを始めてしまうのだ。
 それでも、もし私がパイロットを続けたいとすればオーストラリアから去るしかない。その時点でそこまで考えていた訳ではなかったが、とにかく、ルスがUFO協会、あるいは彼の上司、あるいはとにかく誰かに話そうという動きを封じ込める手を考えてみた。しかしそれは脅迫ないしそれに準ずるナンセンスに通じ、これは私自身の生きていくルールに反するものだ。そこで腹をくくり、とにかく成り行きに任せ、それに応じて動く事にした。
 一週間が経過した。その朝は乗務のスケジュールになっていたので、アンセット・ターミナル・ビルの中に、うちの会社がシドニー・マスコット空港の離発着便の運行管理と離着指揮所として借りているフロアに行った。そして自分の郵便受けを覗いてみて、中に入っていた一通の手紙に私はちょっと戸惑ってしまった。何の変哲もない封筒だがこれはUFO協会からのものだと直観的に思った。
 私はその封筒を開かぬまま、努めてさり気なく紙屑籠の中へ放り込んだ。しかしトニー・マスリングの注意を逸らすほどさり気なくは出来なかった。トニーは運行・発着マネージャーを勤めていて、会社の連絡票や速報、それにパイロットのちょっとした身の回り品までまとめて入れる習慣になっているメイルボックスの私の箱に、今朝早くその封筒を入れたのは彼なのだ。
 いまもトニー・マスリングと私はよい友達である。彼は私が勤めている航空会社の創立者であるJ・A・ジャック・マスリングの息子だった。友人同士の気遣いで彼は好奇心を表に出さないだけだった。
 さらに一週間が過ぎた。私は午後から夕方の飛行スケジュールを確認するためにアンセット・ターミナルに行った。するとトニーは私を脇へ呼んで言った。「君に話したいといって誰か電話をして来たぞ」
 私は名前を聞いたがトニーは知らなかった。そして紙切れを一枚渡してくれた。「名前は言わなかったがこの番号にいつでも電話をしてくれと言っていた。昼でも夜でもいいそうだ」
 私は頷いてその紙を受けとった。「有難う、トニー」私はその紙切れをポケットに突ッ込み心の中から追い払った。正体不明の人間からの電話など気にしてはいられない。
 さらに一週間が経過し、今度は彼も明らかに関心を示し始めていた。「おい、先週、妙な奴が電話して来たと言ったのを覚えているか?」トニーが聞いた。
「番号を書いた紙を君に渡しただろう? 奴が尻を持ち込んで来た。奴は運行指令所に乗り込んで来て君からまだなんの連絡も受けていない。君はちゃんと伝えたのかと俺に向かって抜かしやがって、君の自宅の電話番号と住所を教えろと言うんだ」
 トニーが何も教えていないのは判っていた。我々はお互いのプラ イバシーを大切にしていた。「それで何か起きたのか?」
「そいつを追い返した。それが起きた事さ」トニーは当然という表情でそれだけ言った。
「しかしな、レーン、この問題はちょっと俺の手にあまりかけている。だから話してくれないか? そいつは一体何者なんだ? なぜ、君はその野郎を避けようとするのかね?」
 トニーは私を責めているのではなかった。トラブルがあるのならいつでも俺が始末してやるぞと言ってくれているのだ。となれば私がすべき事は彼に助けを求める事だろう。
 そこで私はこの親友に嘘をついた。「ちょっと小うるさい奴でね。君も経験があると思うがたちの悪いセールスマンなんだ。クイーンズランドのサーファーズ・パラダイスの物件を売りつけようとしているのさ」
 トニーは笑い出した。オーストラリアでクイーンズランドのサーファーズ・パラダイスの物件といえば、カリフォルニアの荒野の只中の廃鉱を売りつけるも同然の怪しい話だったのだ。「判ったよ、レーン、もう二度と君を邪魔させないようにするよ。奴は“ミスター・謎”を気取ってやって来るんだ。ちゃんと追い払ってやるよ」
 それきりUFO協会からの接触はなかった。
 いまこの出来事を考えてみて、私はある種の引ッ掛かる気持ちを抱かずにはいられない。私はパイロットとして、とっさにひとつの行動を選択したらその後何が起きても当初の判断をひたすらまもるという態度に固執すべきではなかった。
 一般的に、これは極めて危険な態度である。例外的なケース、たとえば飛行中に他機と衝突する危険があるととっさに判断して行動を起こしたら、その危険が去るまで絶対にその行動を中断してはならない。
 しかし爆発が起きかけている……となれば別である。状況を調べ、事態の進行に応じ、時間の経過に応じて細かい手を次々と打ち、最良の方へと事態を持っていかなければならない。
 しかし、私はひとつの肉体で二つの人格になり得る。この点で、私は“一人”ではない。エアラインのパイロットは、多数の“ミスター・冷静”達を運んでいる。しかしこの人達は、ひとたび非常事態に追い込まれると手のつけられぬ山猫の集団と化し、敏感に反応して事態の主導権を取ろうとする。そして沈静化した一瞬後には、まるで屋根の上で昼寝する猫みたいにおとなしくなる。従って、私は飛行機のコックピットで、その二つのルールの組み合わせで行動する事にしている。そして厳しく敏速で緻密なプロフェッショナルとして、最大限の安全と能率のためにベストを尽くす……というものである。コックピットを出たら、違った帽子を被って別のルールで、いささかルーズな生活を送る。それが効率のよい私の人生を保証してくれているように思えるのだ。
 この観点から、私が、電話をして来て会いにまで来た未知の人を頑なに拒否したのは、非常に面白い展開になったかも知れぬ状況へ背を向ける結果を招いたことになったが、そのことに気がついたのはかなり後の事であった。私はオーストラリアUFO協会が極めて思慮深く慎重な組織である事を認識すべきだったのだ。彼等が私と連絡を取ろうとした時も詳しい事を第三者であるトニーへ話さなかったのも、そんな慎重さからきたものだったのである。私は彼等に協力すべきだった。間違いなく彼等は私のプライバシーをちゃんと護ってくれただろうに……。
 今も私は、あの時もその後も彼等とコンタクトしなかった事を残念に思っている。
 私がやった事はただひとつ、あの信じられぬ出来事に遭遇した夜の飛行日誌に私は「!」というマークを入れただけなのである。

 そこで後書きなど……。
 私の生活はそれから大きく変化した。その翌年に私はオーストラリアを離れる事になった。一人でではない。オーストラリア娘のシェリルと結婚する事になったのだ。
 そして突然、あの遠い土地での出来事の記憶が呼び覚まされる事になったのは一年ほど後の事である。ニュー・サウス・ウェールズの、ちょうどあの空域を飛んでいた練習パイロットが半狂乱になってシドニー空域航空交通管制所に連絡して来たというニュースを聞いたのだ。パイロットは恐怖のためにもう手のつけられぬヒステリー状態に陥っていた。彼が無線で絶叫して来た内容は、突然現れた目の眩むような光の塊が機体と編隊を組むようにすれすれで併航し、その光のために目が見えないほどだと言うのだ。
 シドニー空域の航空交通管制所は、パイロットがその奇怪な光から逃れようとあらゆる努力を試みたと判断した。しかしすべての試みは効果がなく、ますます光は距離を詰めて来るという悲鳴とともに無線は切れた。すぐに救難隊が出動し、その空域全体に大規模な捜索活動が展開された。彼が離陸前に提出していた飛行計画から燃料の残量を割り出し、捜索空域を広げて近くを飛んでいた数十機の飛行機も捜索に参加した。
 そして三日後、捜索活動は打ち切られた。彼等はそれこそ虱潰しにその空域と地上を捜し回ったが、パイロットはもちろん、ついに破片ひとつ発見出来なかった。そして、その後も何の消息もない。

 ひょっとしたら、私もそんな事になっていたのかもしれない。




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