投稿者 倉田佳典 日時 2001 年 3 月 30 日 14:35:35:
回答先: 警察庁非公然専門部隊員によるスパイ工作と、スバイ潜入工作の具体例と摘発した原則的闘いの経験 投稿者 倉田佳典 日時 2001 年 3 月 30 日 11:36:12:
別冊宝島295「裸の警察」 1997年1月14日発行より
公安魂は面識率にある!!
元公安警察のやり手捜査官がすべてを語った、
いまだ共産党をターゲットにずる理由、
盗聴・尾行の実態の数々………
米本和広(ルポライター)
小牧忠雄氏(仮名、六十歳)は、今年(九六年)四月に定年退職した公安職員である。巡査時代から定年まで、人生の大半を公安活動に費やし、警察官の誉れである賞を何度も取ったことのある「やり手」(周囲の評価)の公安であった。
今は関西のとある街で第二の人生をスタートさせ、これまでできなかった趣味にも本格的に取り組もうとしている。その小牧氏を関西に訪ね、公安警察の実態を教えてもらった。
▼公安組織の全貌
−−最初に、公安の組織、指示系統について教えてください。
小牧 公安は県警単位で管理されているように思われているが、実はそうじゃあないんだ。重要な作業はすべて国の警察庁に報告し、許可を受けてから作業が開始される。
先に、組織の全体を説明したほうがわかりやすいやろうな。
日本の公安のトップは警察庁の警備局長だ。今は杉田和博さんがやっている。その下に五つの課がある。各課は組織的には並列だが、公安作業の報告を受け許可を与えるのは「警備企画課」で、この課は警備局長と各課、また全国の公安どのパイプ役、重責といっていい。
組織図でいえは、その横に公安二課から三課まであり、「公安一課」が共産党担当、「公安二課」が右翼担当で、「公安三課」が極左担当となっている。その横に外国人のスパイを扱う外事課が並ぶ。この警察庁の下に、実際に現場で働く各都道府県の警察本部所属の公安組織織がある。当たり前の話だが、所帯がもっとも大きいのは警視庁だ。「公安」と「警備」が独立し、「公安」の看板を掲げているのは警視庁のみだ。あとの道府県は警備と公安が一緒になって「警備課」となっている。
警視庁の課は全部で七つあるが、組織の筆蹟は「公安総務課」だ。
建前は公安全般の総務を取り扱うことになっており、その仕事もしているが、実際は共産党が対象の組織なんや。課長は警察
庁のキャリアが務めることになっている。
「公安一課」は極左。「公安二課」は俺のときには労働運動が担当やったけど、最近聞いた話だと.極左のなかから革マル担当をこの二課に移したそうだ。どちらも事象(事件、出来事)が少ないから、まとめたということなんやろうな。したがって、二課は労働組合と革マル、「公安三課」は右翼で、「公安四課」は資料担当。外事課は二つに分かれ、「外事一課」はアジアを除く外国、「外事二課」はアジア担当となっている。わかりやすくいえは、ロシアのスパイを捕まえるのは「一課」で、北朝鮮は「二課」ということになる。
−−それで、先の指揮系統の話ですが、重要な作業は警察庁の指示を仰ぐというのはどういうことですか? 極左の活動家を尾行することまで許可は必要ないでしょ?
小牧 そりゃあ、そうだ。日常的な活動は職員一人ひとりの裁量に任されている。たとえは……そうやな、公安の基本はあくまで協力者づくりだ。デカでも同じことだが、情報を提供してくれる協力者がいなければ、捜査することは不可能やろ。とくに公安の場合は、治安を乱す可能性のある団体の構成員を知らなければならない。そのため、協力者の存在が絶対的に必要だ。
−−ええ。
小牧 ところが、協力者を獲得するには、時間がかかるし、労力も必要だ。せっかく協力者を得ても、めぼしい情報がなければ無駄になる。また(協力者づくりが)間違った方向にいくのをチェックする必要もある。それで地方の警察署にいる公安職員は「これこれの人を獲得する作業をしてもいいですか?」と県警本部に上げ、OKとなれは警察庁に報告、承認を求めるわけだ。承認されれは作業に取りかかる。
そもそも殺しとか窃盗と違って、国の安全が乱されるのは国家的な問題やろ。だから、公安の仕事は国家的な側面が強く「公安捜査には警察庁の許可がいる」というのは、われわれの常識といってもいい。だから、お金も県費だけでなく、国費も投じられるわけや。
−−公安が過激派の尾行をするとか、右翼の動静を探るというのは一般的には理解されていることですが、いちはんわからないのは共産党の問題です。一説によれは、公安職員の半分が共産党担という話を聞きましたが、ほんとうですか?
小牧 それは間違った情報やな。警視庁だと、極左担当の公安一課が約五百人。あとの課は二百人ずつ,共産党担当の公安総務課も二百人だ。半分だなんて、とんでもない………うーん、ただ、こういうことはいえるやろな,たとえは共産党が地区大会を開く。そんなときは、「面識率」を上げるため、その署の公安職員すべてが動く。そうなりゃ、全部が共産党担当やな。過激派が何かをする。そんなときに、「私は共産党担当だから関係ありません」というわけにはいかん。事象(事件、出来事)によっては全員がその担当になるということはある。
これはふつうに考えれは誰でもわかる話やないかなあ。ロシアのスパイが道を歩いていた,外事一課の職員なら気がつくけど、顔を知らなかったはかりに公安一課は気がつかなかった。そんなことは許されんやろ。
−−「面識率」って?
小牧 構成員の顔をどれだけ覚えるかということだ。公安のもっとも基本で、もっとも重要な作業だ。古手の活動家の顔を覚えておかなければ、新規の活動家を知ることができないやろ。たとえば、古手の活動家が新しく組織に加入した活動家と一緒に歩いている、古手の顔を知らなければ、道で会っても通りすぎるだけや。ところが、知っていれは、一緒に歩いているのは誰か?ってとになるやないか。面識がなければ仕事にならない。「公安魂は面識率にある」といっていい。
−−その話は、あとでもういちどお聞きしますが、先の共産党の話。共産党という組織は「革命を忘れたカナリア」って揶揄されるほど改良政党になわてしまったという人は少なくないでしょ。革命を忘れて『赤旗』ばかり拡大することに嫌気がさして離党する党員もいる。それに、今回の衆議院選挙でも小選挙区の合計で七百万票、比例区で七百二十六万票の支持も集めた。もう公安の対象から外していいと思うのが率直な感想ですが。うがった見方をする人は、対象から外すと予算が削られ、人員も削減される。それで十年一日のごく「監視」ているのだと・・・・。
小牧 (真剣な顔つきになって)共産党の革命に関する情報を収集するのは社会正義である」。おそらく、すへての公安職員はこないに考えているやろ。信念をもっているはずだ。確かに、〃暴力革命〃の語句は共産党の印刷物から姿を消した。しかし、共産党の綱領からは暴力命命をいっさい放棄したとは読み取ることができない。宮本顕治の「日本革命の展望」には敵の出方によっては暴力革命もあり得るという。〃敵の出方〃論の記述がある。暴力革命を結論づけるような昔の文献をも否定したこともない。
確かに、政党として人数も人きく、国民の支持を集めているの
はあんたが言うとおりだ。しかし、警察として注目するのは、三十八万人だったか、党員数の多さだ。過激派なんて、横成員はたかだか数百人程度、正直、それほど怖くはない、しかし、〃鉄の規律〃(民主主義的中央集権制)を重んじる政党の三十八万人がいざ立ち上がったら、どうなるか、監視をやめて、ある日暴力革命をやったなんてことになったら、終わりだ。国の安全を守る警察の責任はどうなるのか、
こんなふうに、公安は考えているんや。
私の現場経験から言えば、予算がどうのこうのだから共産党を監視する、なんて思っている人はいいへん。
▼「協力者つくり」とは?
−−じゃあ、今後もずっと共産党への監視は続くわけですか? しかし、実態からすれば暴力革命は放棄しているし、上が命令しても従わないでしょ……。
小牧 共産党がはっきり「暴力革命は今後いかなることがあってもしません」と綱領に書けはいい。そうすれば、警察にとっても共産党の情報を収集する必要なんかなくなるんとちゃうか。共産党の人は警察に文句を言うが、それなら「暴力を使うことはしません」と綱領を書き改め、宮本顕治の論文も否定すれはいいやないか。警察は、ともかく暴力行為を未然に防ぎ、暴力を取り締まるところやさかいな。監視されて悔しいというなら、暴力革命をきちんと公式に否定しろ、綱領を変えろ、それから文句を言ってこいって言いたいな。ガッハッハ
−−協カ者づくりはどのようにするのですか?
小牧 オウムの捜査で公安調査庁が関係者に情報謝礼を渡したという記事が新聞に載ってっていたが、警察の公安はそんなことはいっさいしない。公安調査庁には予算があっても、警察にはなにしろ、そんな予算なんかないんやから。
−−ずいふん前のことですが、公安警察が共産党の地域幹部をスパイにするため酒を飲ませたとかお金を渡したとかで、抗議を受けたことがあったはずですが……。
小牧 ああ、しかし、協力者つくりの予算項目なんてほんまにないんや。ただし、職員自身がホケットマネーでやる,あるいは署単位で手柄を立てようと、独自の判断で、お金を渡すことはあるかもわからんな。
だけど、俺はそれを邪道やと、若いもんにしきりに言ってきた。ほとんどの公安職員もそう思っているはずや。人の道を外して協力者づくりをしてはあかんのや。功を焦って、道を外す奴も何人かいるやろ。そういう職員がいることは否定しない。そやけど、多くはそんなことはしない。いちはん人切なのは人間関係であり、その関係の「醸成」だ。醸成ってのは警察でよく使われる言葉で、信頼関係を築いて深めるという意味や。
−−公安の犯罪ということでは、神奈川県警による共産党幹部の緒方靖夫さん宅の盗聴事件がありましたが。
小牧 鍵をこじあけ資料を抜き取る、ゴミ箱を漁り重要資料を探す、あるいは盗聴する。こんな事件を起こすのは、協力者づくりがうまくいかん、あるいはいなくなったということで、焦った結果だと俺は思うんや。あんたの言う盗聴はおそらく神奈川県警の一部が組織をあげてやったはずだ。俺に言わせりゃ、神奈川県警さんには悪いが、焦ったんと違うかなあ。
−−でも実際にそういう事件は起きている。
小牧 そうやね。でも、それはごく一部であって、すべての公安職員がそうした違法行為に加担していると思われるのは心外やし、事実やない。
手紙を気づかれずに読むなんて簡単だ。封の部分に湯気をあて、糊をとかして剥がす。おい、何を言わすんや。ハハハ
俺が、言いたいのは、こういうことだ。手紙の封を剥がして中を読むのは簡単だが、そんなことは誰でも物理的にできることだ。そんなことで情報をとっても、(プライドのある公安の仕事として)面白くもなんともない。そんなことをやりたいんだったら、私立探偵でもやりゃあいいやないか。
それに、手紙を開けても、欲しい情報が入っていないことのほうが多い。危険を冒して効果のはっきりしないことをやるのは邪道やって、言いたいのや。あんたが公安の職員だったら、どうする。物理的なことをやるかい?
やはり、協力者と信頼関係を結び、信頼関係の上で情報をもらうのが、公安の王道なんだ。
▼盗聴は邪道か!?
−−協カ者の対象を見つけるのはどうするんですか。組織に不満を持つ人を見つける?
小牧 いや、誰が組織に不満を持っているかなんてわからんな。マニュアルにはそんなこと書いてるが、そのとおりにはいかヘん。趣味の会でたまたま一緒になるとか。
獲得したい協力者がたまたま事件に巻き込まれ、警察に逃げ込んでくるとか。ケースバイケースだ。
−−かつて、共産党の女性都議で万引きでつかまった人がいたけど。ああいった場合には、協力者の対象にするんですか? たとえは、罪を軽くしてやるから、情報を提供せよとか。
小牧 (犯罪を起こすような)タチが悪い人は対象にならんわ。少なくとも俺は協力名作業はせえへん。やはり、優秀で真面目な人でないとな。いい情報は集まらんし、長続きしない。ただし、署や職員のレベルによってはそういう人も対象にするかわからへん。けど、公安の王道は、優秀で真面目な人を協力者にすることやで。
−−個人的なことを話すのは恐縮ですが、最近親しくなった近所の人で、警察官の方がいたんです。それで、今回の取材で警視庁には内緒でこっそり協力してもらおうと思ったんですが、でも何だか近所の関係を利用するようで………。でも利用されたと思われれはせっかくの関係が壊れてしまうのではないかと思って、やめました。趣味の関係で、たまたま協力者の対象者になりそうな人と知り合い、人間関係がそれこそ醸成される。そんななかで協力者の依頼をするっていうのは、勇気がいることではありませんか?
小牧 (含み笑いをしながら)確かに、こちらの身分を明かすときは、(協力者づくりの)分岐点になるやろうな。
そやけど、人間的なつき合いをしよう思って、何回も会っていれは、身分を明かさざるをえないんや。そうやないか。最後の依頼をするまで隠し通せるもんやない。最後まで嘘をつき通したって、相手との信頼関係は生まれない。「どんなお仕事をしていらめしゃるんですか?」って聞かれて、誤魔化せば信用はしてもらえんやろ。やはり正道を歩くのがいちばんや。
−−邪道にこだわって申し訳ないのですが(笑)、共産党の盗聴事件が起きた直後、それとは関係のない取材でたまたま警視庁の公安担当に会ったとき、「神奈川県警の奴がヘマをやらかして。プロじやないな。あいつら」って聞かされたことがある。
▼エース級の公安と一般の公安
小牧 (話したほうがいいかどうかしばらく考える)公安職員はエース級の公安と、その他一般の公安との二つに分かれてるんや。エース級はプロそのものだから自分の仕事のことはいかなることがあっても語らない。一方、その他の公安はしゃべっても全体のことはわからないから、自分が関係したことしか明かすことができない。しゃべっても公安の全体像は見えない。こんな構造になっているんや。
−−ニつは組織的に分かれるんですか?
小牧 いや、警視庁公安一課なら一課で、人物によってエース級とその他に分かれる。活字とか文章になってはいないが、課内なら誰でも「あの人はエース級」と知っている。うちの大阪府警にもいるよ。
−−同じ課内でもそんなに違う?
小牧 ああ、まるっきり違うな。管理もきわめて徹底しておってな、エース級の人のところに、同じ課の「その他」が理由もなく近づくことは禁止されている。接近したのは何の目的だったのか、厳しく追及される。内部のチエックは実に厳しいんや。だから、エース級が何をしているのか、その他の公安職員はまったくわからんようになってる。
あんたにしゃべった警視庁の公安が誰なのかわからんが、(初対面の人間に話すなんて)とてもプロとは思えん。だが、神奈川県警の盗聴作業はエース級が連携し「その他」とは独立してやったのは間違いない。盗聴は実に大変な作業だ。それについては明かすことはできないが、盗聴対象者の自宅の周辺にはどんな人が住んでいるのかもきちんと調べる。事前の調査が実に大変なんや。
正義ぶって、「公安警察は盗聴しない」とは言わんけど、それは邪道なんや。というのは、どこかに拠点を設けて盗聴しても、ワンホイントにすぎん。電話の声は小さくなるし、雑音も出る。器材に障害が起きるから、永久的に盗聴するなんてことはできない。長くやればいつかはバレる。だからタイミングを見計らって、ワンホイントでやるしかない。たまたまタイミングよく、重要な情報が電話でやりとりされればええが、日常的な世間話だけの場合だってある。そんなにうまくいかへん。危険を冒し苦労してやったのにまったく無駄に終わる。盗聴がバレたら、警察組織が認めるわけにはいかんから、やった奴が裁判所に行くしかない。割が合わんやろ。
だいたい、過激派が明日自民党本部を爆破するなんてことを電話でしゃべるかいな。郵便物でもそうやでえ。ハッハッハ。
−−なるほど。
小牧 だから、繰り返しになるけど、神奈川県警が何であんなことをやったのか理解に苦しむし、焦ったとしか思えへん。盗聴は諸刃の剣やさかいな。何度でも言うけどハ人間関係を軸にした協力者からの情報収集が、過激派にしろ右翼にしろ、公安の王道なんや。対象とする組織からすればスバイ工作というだろうが、信頼関係を築いた人から情報をもらうのは違法でもなんでもないんやさかいな。これは公安に限った話やない。刑事の話のほうが理解してもらいやすいかわからんな。ムショ暮らしをしているヤクザの家族を、刑事が面倒を見てやる。それに感激したヤクザがムショを出てから情報を提供してくれる。銃のありかを教えてくれる。銃を取れるのは協力者がいるからなんや。その協力者づくりのために、警察は地道に努力してるんだ。
▼公安魂は面識率だ!?
−−共産党の党員を割り出す場合には、毎朝配られる『赤旗』の配達先でも調査するんですか?
小牧 いや、対象となるのは党員以上や。『赤旗』の読者ではない。
−−では、どうして割り出すのですか?
小牧 先ほど話したように、面識だ。ともかく、顔を覚えること。それが基本。あとは警察署単位でやり方は違うやろが、顔を党え、跡をつけ、拠点を見つけ、そこを張り込むなんてことをしているところもあるだろう。
もう一つは協力者づくり。これは基本中の基本だ。
−−共産党なら組織のどのへんに協カ者がいるんですか?
小牧 地区委員会(地域の幹部)クラスならなんぽでもおるよ。公安をやめたとはいえその上はやっぱり言えへん。ヘヘヘ……。新しい活動家が党員になる。新党員は必ずどこかの組織に顔を出すから、協力者が教えてくれる。共産党の監視は長いやろ。五百人ぐらいのときからやってるんやから、それをずっと追っかけていれば三十八万人のだいたいがわかる。
−−こうした話は共産党に限らず、すべての団体に共通することですか。
小牧 ああ、そうや。外国のスバイを捕まえるのも、みんな同じ。顔を覚え、協力者をつくる。ただ、退職して思うのは、極左については協力者づくりをもっときちんとやらなけれはならんってことだ。過激派は独特やろ。三点セットつまりヘルメット・サングラス・マスクで、構成員を秘匿しとる。東京でもそうやろが、大阪でも同じや。集会所には顔を出すが、秘匿性が非常に強い。
−−秘匿性は高いけど、公然と顔を出す。それを尾行すれば、面は割れるんでは?
小牧 そんな簡単なもんやあらへん,集会が終わると、ワゴン車に乗って、われわれの追及を徹底的に振り切る。彼らはまる一日かけてわれわれの尾行をまくといろ作業を平気でやる。だから、協力者づくりをもっとやらんとあかんのや。
−−先に「公安魂は面識率だ」とおっしゃいましたが、若い公安職員にはなんて説教するんですか?
小牧 人それぞれに特技があって、尾行が得意な人、協力者の獲得がうまい人、事件に強い人、いろいろいる。それぞれに言うことは異なるやろな。必要なのは総合力。(ニヤリと笑って)俺は総合力、バランスカがあった。総合力を説くわけにはいかんかった。ガッハッハ。
−−(つられて)ワツハッハ。
小牧 公安の職員は実に孤独だよ。尾行は本人の責任やろ。警察組織をバックにして尾行するわけにはいかん。過激派を尾行し
て、見つかって「あんた誰ですか?」と言われたとき、警察手帳を見せるわけにはいかんからな。
−−どうして?
小牧 どうしてって? 犯罪を犯していない人を尾行することは、適正な執行とは言え人し、人権の侵害にもなる。社会的にも通用しない。
−−じやあ、尾行に気づかれ、質問されようとしたときにはどうする人ですか?
小牧 ひたすら逃げる。ハハハ。そして自分の技量のなさを責める。警察組織に助けを求めるわけにはいか人からな。
−−確かに、孤独な作業ですね。でも、オウムの信者なら、社会的に許されるでしょ?
小牧 それはオウムの事件が起きたから言えることであって、事件前に尾行していたら、信教の自由を侵すということで、大騒ぎになったやろうな。
−−オウムと言えば、警視庁の公安が警察庁に報告しなかったことを、最近の『週刊文春』(11月14日号の「警官自供を命じた警視庁『陰の公安』の記事)ではキャリアとノンキャリアとの軋轢が背景にあると報道していましたが。
小牧 あれは、後輩に電話をして確かめもしたが、まったくの誤報だよ。警視庁を例に出したほうがわかやすいだろうな。警察庁から来るキャリアは、警視庁公安七課を束ねる公安部長、その下にいる参事官、公安総務課の課長、外事二・課の課長、外事一課の管理官の五人だよ。キャリア、・ノンキャリアの問題は公安関係ではまったくなく、スムーズにいってる。
▼検事たちはほんとうの社会を知らない
−−ところで、長く公安をやってこられたわけですが、最初から公安を希望したのですか?
小牧 最初はデカ志望やった。ところが、警察学校の成績が上位一〇%は自動的に「警務公安講習」を受けるようになる人や。断ることもできる。でも、成績がいい者
は公安に行くという雰囲気があった。今でも変わりない。エリート意識をくすぐられるわけだ。それで、公安をやることになった。そやけど、問題やと思う。成績がよくても、公安は度胸、応用力、人間性が必要なんや。最近は勉強ができて左翼理論は分析できるが、協力者一人ようつくれんという奴が多くなった。公安警察が頭でっかちになってどないするんやって言いたいな。俺も公安やったけど、勉強ができる奴は会っていても楽しくない。俺が楽しくないのに、協力者の対象になる人が楽しいわけない。だから、現場ができんのや。ハハハ。
−−なるほど。でもそれはどの世界でも同じことかもしれませんよ。
小牧 そうやろうな。
−−もう辞められたのだから、何か言いたいことがあれば話してください。そのまま何でも書きますから。
小牧 宝島社で本を出した島袋さん(P63詳述)には文句を言いたい人や。実名で出したのはえらい。でも、あの本を読めば、公安のすべてが謀略で陰謀のような印象を受ける。何だか謀略組織が命令して、それでしかたなく島袋さ人が動いたというような感じだ。それで俺たち現場は、(あの本が出て)えらい苦労した。そんなに俺たちの仕事に謀略、陰謀が多いとは思えへん。同じ公安のメシを食った者なら誰でもわかるはずだが、重要な作業は別にすれば一人ひとりが自分の裁量で孤独な気持ちで動くのが公安職員だ。すべてが命令ではない。
島袋さんに言いたいのは、自分の判断で何をして、その責任についてどう思うのかを書くべきだということや。もちろん、俺も今は匿名でいろいろしやべっている。そういう意味では卑怯かわからん。でも、組織でどう動き、自分で何をしたのかを整理整頓でき、責任はどうあるべきなのかを考えることができるようになったら、公安警察で経験をしたことを広く知ってもらううえでも、実名でしやべるなり、原稿にするなりするつもりだ。
−−この際だから、何でもしやべってください。
小牧 そうか。じゃあ、最後に地検特捜部の兄ちやん方に。
地検特捜部はカッコいいし、花形だ。扱う事件は大きい。でも、よく考えてほしいのは、捕まえる人はこれまで一度も警察にもムショにもお世話になったことのなかった地位の高い善良な人たちだ。捕まえて取調室に人れば、震え上がって、何でもしやべってしまうような人たちといってもいい。そ人な取り調べなんか、警察署の現場の警察官だったら誰でもできる。
生いたちが恵まれてなくて、少年時代から非行を重ね、警察官の取り調べなんか屁でもないという奴が窃盗をやる。その取り調べたるや、大変なもんや。地検の持捜部の兄ちゃん検事なんかとても太刀打ちできんやろ。俺は新米のころ、留置場担当になって、何人もの犯罪者と接する機会があった。あの経験は人きい。犯罪者は必ず過去に辛い体験をしている。地検の検事たちには、ほんとうの社会がわからへんやろうなあ。
あんた、東京から来たかわからへんけど、このぐらいでもういいやろ。女房が侍ってるんや。現役時代はなんもしてやらんかっ
たさかい、連日デイトをせがまれてんのや。ガッハッハ。