http://tanakanews.com/200125china.htm
1月15日、米国と中国が第1弾の貿易協定を締結した。中国が米国から大量の
穀物を輸入することなどが盛り込まれている。トランプ大統領はこれを大成功と
自慢した。米国などの株価が最高値を更新したのも米中貿易協定の締結を好感し
たものとマスコミが喧伝している。しかし実のところ、今回の貿易協定の主要な
部分である中国の米国からの穀物の輸入増加の約束は、おそらく達成されない。
中国が約束通りの輸入増をする確率はほぼゼロだ。
http://www.zerohedge.com/commodities/phase-one-trade-deal-doomed-start-skepticism-mounts-about-purchases
Phase One Trade Deal "Doomed From The Start" As Skepticism Mounts About Purchases
http://www.washingtonpost.com/opinions/be-skeptical-of-trumps-new-trade-deal-with-china/2019/12/14/3456e464-1d0f-11ea-b4c1-fd0d91b60d9e_story.html
Be skeptical of Trump’s new trade deal with China
中国は今回の協定で、大豆、小麦、豚肉、綿花などの米国からの輸入を急増させ
ると約束した。だが、たとえば大豆の輸入は、主な用途の一つである養豚の飼料
の需要が急減している。アフリカ豚コレラの発生による中国の養豚の頭数が減っ
たためだ。しかも中国はブラジルと大豆の輸入で合意しており、これを契約違反
して大幅に削減しない限り、米国からの大豆輸入を増やせない。中国にとってブ
ラジルは、中国の世界戦略の一つであるBRICSの結束に必要な重要国だ。
http://www.eastasiaforum.org/2020/01/19/us-china-trade-deal-disappoints/
USChina trade deal disappoints
http://www.zerohedge.com/geopolitical/lighthizer-confirms-china-pledged-40bn-ag-buys-next-year-there-just-one-problem
Lighthizer Confirms China Pledged $40BN In Ag Buys Next Year, There Is Just One Problem...
中国は今回の協定で、米国からの天然ガス輸入の増加も約束した。だが天然ガス
の輸入体制を作るには長い年月がかかる。天然ガスなどエネルギー輸入は、重要
な国家安全保障政策の一つであり、中国が、自国を敵視する傾向を強めている米
国から天然ガスの輸入を増やすことは得策でない。中国は、イランなど非米諸国
で天然ガス田の開発を手がけている。中国は今後長期的に、米国でなくイランな
ど非米諸国からのエネルギー輸入を増やしたいはずだ。中国が米国から天然ガス
の輸入を増やすと言っているのは口だけだ。このように、この協定には履行不能
な部分が多い。協定の条文自体が非公開になっており、不透明さが大きい。
http://edition.cnn.com/2020/01/16/business/us-china-phase-1-trade-deal-details/index.html
China just agreed to buy $200 billion worth of US products
http://www.zerohedge.com/markets/art-secret-deal-terms-phase-1-deal-will-never-be-made-public
The Farce Of The Deal: Terms Of 'Phase One' Trade Deal Will "Never Be Made Public"; There Will Be No Signing Ceremony
今回の協定では、米国が中国にかけている懲罰関税の一部しか解除されていない。
米国が中国企業のファーウェイ(華為)を敵視してきた問題や、米国が中国の
「中国製造2025」を不当な政府補助金政策だと非難している問題も解決され
ておらず、今後の課題として残っている。全体的に今回の協定は、米国の株の高
値を保持し、トランプは良くやっているという評判を維持して秋の大統領選挙で
の再選につなげるための、短期的な目くらましの策だ。米財界の多くは、今回の
協定に満足していない。株の高値の真の原因は、米中協定でなく、米連銀がレポ
市場への介入という実質的なQE4の資金注入を拡大していることだ。
http://www.bbc.com/news/business-51130434
US-China trade deal: Five things that aren't in it
http://www.cnbc.com/2020/01/16/business-leaders-dont-see-partial-china-trade-deal-as-a-huge-win-yet.html
US business leaders don’t see the ‘phase one’ China trade deal as a huge breakthrough
http://www.zerohedge.com/economics/goldman-displeased-tariff-reduction-only-half-what-we-expected
Goldman Is Displeased: "The Tariff Reduction Is Only Half What We Expected"
今回の米中協定は、今年11月の米大統領選挙後まで「うまくいきそう」な感じ
を醸成してトランプの再選に貢献しそうだが、その後は「中国が約束を守ってな
い」という話になり、来年初めにトランプの2期目が始まった後ぐらいに再び米
中の経済対立が激しくなるのでないか。トランプの本心は、中国と貿易協定を結
んで米中対立を恒久的に解消することでなく、逆方向の、米中貿易戦争を未解決
のまま放置することであるように見える。
http://tanakanews.com/190307china.php
トランプは隠れ親中国
http://www.ft.com/content/f23d8854-11fa-11ea-a225-db2f231cfeae
Consciously decoupling the US economy
トランプが18年春に中国の対米貿易黒字を問題にして中国から米国への輸出品
に懲罰関税をかけるまで、米中間は何も貿易協定がない状態でうまく回っていた。
中国は、対米貿易黒字の資金で米国債を買って米国に貢献していた。米中間の貿
易決済はドル建てで、そのことがドルの基軸通貨の地位を支えていた。中国は、
ドル建て決済や貿易黒字資金での米国債購入などによって、米国の覇権体制を
中国が支えることを了承していた。中国共産党は、自国が米国の覇権体制の下に
居続けることでかまわないと考えていた。米中間には暗黙の合意があった。中国
が米国覇権の傘下にいる従来の状態・暗黙の合意を壊したのはトランプだ。
http://www.xinhuanet.com/english/2019-12/08/c_138613984.htm
Experts say U.S.-China economic decoupling to leave U.S. decoupled from world
http://tanakanews.com/190524china.php
習近平を強める米中新冷戦
http://tanakanews.com/180304tariff.php
トランプの貿易戦争は覇権放棄
大統領になったトランプは、中国の対米貿易黒字を理由に、中国から米国への輸
出品に懲罰関税をかけた。同時にトランプは、中国と親しくしているロシアやイ
ランへの敵視を強め、露イランなどが貿易をドルで決済することを制限した。こ
れらのトランプの動きを見て中国は、米国覇権の傘下に居続けることに対する懸
念を強めるようになっている。習近平は2013年の権力への就任時から、対米
自立した中国中心の非米的・多極型の経済システムである「一帯一路」の構想を
掲げ、米国の経済システム(巨大市場である米国への輸出や、ドル決済など)に
依存しない姿勢をとっていた。
http://tanakanews.com/191107multipol.htm
中国が好む多極・多重型覇権
http://www.scmp.com/news/china/diplomacy/article/3040668/former-us-envoy-says-chinese-officials-anticipate-partial
Former US envoy says Chinese officials anticipate ‘partial decoupling’ of the nations’ economies
トランプは、中国に懲罰関税をかけて対米輸出を妨害することで、習近平が一帯
一路など非米的な国家戦略への傾注を強めることに拍車をかけている。トランプ
が中国に貿易戦争を吹っ掛けるほど、中国はロシアなどの協力を得つつ、非米型
の国際経済システムを作るようになり、世界経済は従来の米国傘下のシステムと、
中国が作る非米型・多極型の新システムとに分離する「デカップリング」の傾向
を強めている。トランプは、米中のデカップリングをこっそり推進している。
http://tanakanews.com/191204china.php
キッシンジャーが米中均衡を宣言
http://nationalinterest.org/print/feature/us-china-relationship-crossroads-114041
The U.S.-China Relationship Is At a Crossroads
1970年代以降、世界の製造業の中心は、米国から離れ、日本、韓国そして中
国へと移転してきた。米国は、日韓中国などの製造業諸国からの製品を旺盛に輸
入する巨大市場として機能する代わりに、日韓中などが対米貿易黒字の資金で米
国債などドル建ての金融商品を買い支え、ドルが低利の覇権通貨(備蓄・決済通
貨)として機能し続けることを助けてきた。今の世界の製造業の中心である中国
が米国からデカップルしていくと、この機能が喪失し、ドルの覇権が失われ、最
終的には米国の債券金利も上がってしまい、米国の覇権が破綻する。それはすで
にいつ起きても不思議でないが、08年のリーマン危機後、米連銀など中央銀行
が自分の信用を切り売りしてドルを造幣して債券を買い支えるQEをやって延命
させている。QEが行き詰まって中銀群の信用が落ちるまで、米覇権の破綻は表
面化しない。だが、すでにドル建ての債券金融システムは、中銀群からの支援金
がないと破綻する末期状態だ。
http://www.eastasiaforum.org/2019/12/14/deconstructing-us-china-decoupling/
Deconstructing USChina decoupling
http://www.ft.com/content/9f50fe40-12a5-11ea-a7e6-62bf4f9e548a
Worlds apart: how decoupling became the new buzzword
米国の覇権運営を担当している軍産(諜報界)や財界、マスコミ、エリート層
(総称して「軍産側」)は、トランプが容認・隠然推進している米中のデカップル
をいやがっている。軍産側からの圧力をかわすため、トランプはいったん起こし
た米中貿易戦争を一時停戦する米中貿易協定を結んだ。しかし、協定はいかにも
怪しい感じのもので、トランプはいつでも中国との貿易戦争を再開できる状態で、
貿易面の米中対立は解消されていない。米国に対する中国の不信は払拭されてい
ないので、米中デカップルは水面下でどんどん進んでいる。
http://tanakanews.com/190708eurasia.htm
ユーラシアの非米化
http://www.zerohedge.com/geopolitical/us-must-pursue-targeted-decoupling-chinas-economy-says-former-us-ambassador
US Must "Pursue Targeted Decoupling" From China's Economy, Says Former US Ambassador
中国は最近、5年前から開発してきた、米国主導のGPSに対抗する衛星測位シ
ステムである「北斗」(Beidou)が完成し、今年6月から本格稼働させると発表
した。中国など非米反米諸国が米国主導のGPSを使うと米軍に監視されてしま
うので、それを防ぐための非米的なシステムとして北斗が作られた。これは米中
デカップリングの象徴だ。GPSは人工衛星が30機だが、北斗は35機。北斗
は、カバーする領域もGPSより17%広い。中国を中心に、東南アジア、南ア
ジア、アフリカ、東欧までをカバーする。北斗は一帯一路の測位システムだ。東
京の上空もGPSより北斗の方が衛星が多い。独自のスマホOSを開発している
ファーウェイをトランプが敵視したため、コンピューターや電話のOSやSNS
も、米国製と中国製が世界を二分するデカップル状態が進んでいる。
http://www.zerohedge.com/geopolitical/china-verge-decoupling-us-gps-network
China On Verge Of Decoupling From US GPS Network
http://www.wsj.com/articles/the-great-u-s-china-tech-divide-11579542441
The Great U.S.-China Tech Divide
http://www.zerohedge.com/technology/china-no-longer-needs-us-parts-its-phones
China No Longer Needs US Parts In Its Phones
中国共産党はトウ小平から江沢民を経て胡錦涛の時代まで(1978−2013
年)、米国の覇権下で経済発展する対米依存的な国家戦略だった。だが、胡錦涛
の後に出てきた習近平は、先輩たちの戦略を捨て、対米自立的な一帯一路を推進
している。米国の軍産側は、習近平政権になってから、中国を敵視する傾向を強
めた。軍産系のマスコミは、胡錦涛までの集団指導体制を破壊して個人独裁を強
化した習近平を非難し続けている。だが、本質はそこでない。本当のところ軍産
は、習近平が対米自立を進め、世界を米国側と非米側に二分化・多極化しようと
しているので敵視している。二分化・多極化を扇動するトランプも軍産マスコミ
に敵視されているが、トランプは軍産との戦いに勝っている。
http://www.ft.com/content/cecbc5c8-3ab5-11ea-b232-000f4477fbca
How I became a China sceptic 軍産系中国非難の典型。FTに金払うの無駄
http://tanakanews.com/190510china.htm
世界経済を米中に2分し中国側を勝たせる
トランプが二分化・多極化を推進する理由は、私が見るところ、軍産が米国覇権
の維持に固執するあまり、天安門事件を引き起こしたり中国包囲網を形成したり
して、中国の経済発展を阻害することをやり続けているからだ。これは産業革命
以来の、英米の覇権運営の担当者たちの内部の、世界経済の発展を優先せする
「資本」側と、英米が覇権を持ち続けることを優先する「帝国」側との暗闘であ
る。トランプや習近平、プーチンらは「資本」側の代理人たちだ。米民主党や、
欧州の対米自立をやりたがらないドイツのメルケルなどは「帝国」側の代理人だ。
米国などの資本家(財界人)の多くは、資本側でなく帝国側である。
http://tanakanews.com/080228capital.htm
資本の論理と帝国の論理
http://tanakanews.com/191004china.php
米国の多極側に引っ張り上げられた中共の70年
資本の側は、世界経済を米中に分割することで、米国側の軍産が中国側(非米側)
に対して諜報的に介入できないようにした上で、軍産から隔離された中国・非米
側が製造業主導で経済発展し続けられるようにしたいのでないか。軍産から隔離
された中国主導の非米的な経済システム(一帯一路など)は、軍産系のマスコミ
に報じられず、目立たないように結束と発展を続けている。米欧日の軍産マスコ
ミは「一帯一路は成功するはずがない。中国はバブル崩壊して潰れる」と喧伝し
続けているが、これらはフェイクニュースだ。
http://nationalinterest.org/print/blog/middle-east-watch/america-needs-eurasia-capital-market-access-116576
America Needs Eurasia Capital Market Access 今さらジロー
http://www.wsj.com/articles/china-pulls-out-of-giant-iranian-gas-project-11570372087
China Pulls Out of Giant Iranian Gas Project 多分フェイク
http://oilprice.com/Energy/Energy-General/China-Quietly-Ramps-Up-Oil-Production-In-Iran.html
China Quietly Ramps Up Oil Production In Iran 多分こっちが事実
中国は、国内の金融バブルを意図的・予防的に潰しており、最終的に金融が全崩
壊するのは中国でなく、残念ながら、中銀群がQEをやっている米国や日本の方
だ。米中を分割・デカップルしてしばらく置いておくと、そのうち米側が金融バ
ブルの大崩壊を起こして多極化が進む。悲しいけど日本は負け組だ。QE中毒が
ひどく、もう離脱や軟着陸は不可能だ。中国の優勢と日本の劣勢、米覇権の崩壊
がひどくなる。5−10年かけて顕在化していく。日本の自滅話など読みたくな
いだろうが、これが事実だ。せめて私を中傷して憂さ晴らししてください(M)。
http://www.tanakanews.com/180801boj.php
最期までQEを続ける日本
この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/200125china.htm
●最近の田中宇プラス(購読料は半年3000円)
◆プーチンの新世界秩序
http://tanakanews.com/200122putin.php
【2020年1月22日】スレイマニ殺害によって中東の覇権がロシアのものになっ
ていく傾向が加速した直後に、プーチンが憲法を改定して24年以降もロシア
の権力を握り続けることを決めた。このタイミングの一致はイスラエルの視点
に立つと理解できる。プーチンが失脚したら中東は混乱し、イスラエルの存続
もおぼつかなくなる。イスラエルに支持されている以上、プーチンが権力を長
期化しても国際マスコミや軍産は非難・妨害しにくくなる。
◆中央銀行の弾切れ
http://tanakanews.com/200114banks.php
【2020年1月14日】米欧の中央銀行家たちの間から「中央銀行群は、次に金融
危機(バブル崩壊)が起きたとき、危機を十分に緩和できるだけの金融資源を
持っていない」という「弾切れ」宣言が出されている。カーニー英中銀総裁は、
きたるべきバブル大崩壊との戦いに中銀群が自力で勝てないことを認めて白旗
を掲げ、政府群に救援を要請した。だがカーニーの警告は、バーナンキ米連銀
元議長のバブリーな主張と相殺され、静かに無視されている。
◆イランを健闘させたトランプ
http://tanakanews.com/200109iran.php
【2020年1月9日】イラン上層部が勇気を出してやってみた米軍への報復攻撃は、
トランプに黙認され、大成功に終わった。イラン政府は事前にイラク政府経由
で、米政府にどこを攻撃するか伝えてきていたので、米軍はイランから飛んで
くるミサイルを迎撃できたはずだ。しかし迎撃も行われていない。トランプが
迎撃を命じなかったため、イランのミサイルは米軍基地の格納庫などの標的に
うまく命中し、イランの強さを中東全域に知らしめることになった。「力こそ
正義」と思われる傾向がある中東において、このイランの成功は非常に重要だ。
トランプがイランの健闘を引き起こし、イランに力をもたせた。
http://www.asyura2.com/19/china13/msg/150.html