世界70カ国で蔓延する政治家・政党による「ネット世論操作」。それらを支援する企業の存在
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2019.10.19 一田和樹 ハーバー・ビジネス・オンライン
S. Hermann & F. Richter via Pixabay
国政選挙におけるネット世論操作はもはや珍しくない!
世界各国の国政を左右する選挙でネット世論操作が行われるのは当たり前になった。
HBOLのこのシリーズでは、アメリカ、日本、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アフリカ、インドなどの事例を紹介した。昨年刊行した拙著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(2018年11月10日、角川新書)では東南アジアとヨーロッパを中心に紹介した。
ネット世論操作で圧倒的に多いのは自国内に向けてのものである。候補者が選挙に勝つためにネット世論操作を行う。ロシアや中国といった第三国からの干渉もあるが、全体からするとその割合は少ない。
世界のネット世論操作を網羅的に調査したレポート『The Global Disinformation Order: 2019 Global Inventory of Orgazised Social Media Manipulation』(Samantha Bradshaw & Philip N. Howard, Working Paper 2019.3. Oxford, UK: Project on Computational Propaganda. comprop.oii.ox.ac.uk. 23 pp.)では、70カ国でネット世論操作が確認されており、その全てでの政府もしくは政治家、政党による自国民に対しての活動が確認されている。
今回は産業として見た時のネット世論操作を整理してみたい。なお、文中に引用元の記載がないものはHBOLに掲載された記事である。
ネット世論操作産業の種類
ネット世論操作という言葉には明確な定義はない。もしかしたら、この言葉を主に使っているのは私くらいかもしれないが。世論操作を行うために行うネット上の活動を指す広義の言葉であり、フェイクニュースやヘイト、監視、検閲、シャットダウンなど広い範囲を指す。ここではネット世論操作を大きく3つに分類した。
ネット世論操作の主たる標的は選挙であり、政府や政治家、政党から予算が私企業や市民やインフルエンサーに流れている。
政府主導である以上、防御=監視、検閲、抑制、ネットのシャットダウンは発注者自身の権限と組織(司法、行政)で行うことができるので、防御に関しては私企業への発注は監視ツールやシステムの構築などの導入が中心となる。
攻撃=敵対者への攻撃と政府支援を拡散すること、あるいはそれらを含めた総合的なマイクロターゲッティング作戦などになり、外部発注が多くなる。請け負うのはケンブリッジアナリティカのような企業から個人のインフルエンサーまでさまざまである。『世論操作は数十セントから可能だった。NATO関連機関が暴いたネット世論操作産業の実態』で紹介したNATO関連機関のレポートにあるように、ネットで検索すれば見つかり、料金も数十セントからというお手軽な業者まで現れている。アカウントやボットの販売についてはいくつか他にもレポートがあるので参照されたい。
さてそうしたネット世論操作企業が何を行うかと言うと、3つの業務が挙げられる。
1:攻撃、支援 フェイクニュースなど誤情報や偏った情報、特定の意見のサポートや攻撃、ヘイトの拡散
SNSやウェブサイト、ブログなどを使って誤情報や偏った情報、特定の意見のサポートや反対、ヘイトを拡散する。ボット、サイボーグ、トロールなどを駆使する。
2:抑制、防御 発言、投稿の監視、検閲、抑制、ネットのシャットダウン
対象の活動の監視、投稿の検閲、抑制などを行う。多くの場合は、監視システムやアプリをベースにしている。インターネットそのものあるいは特定のサービスを遮断して言論を封殺することも含まれる。政権が反対勢力を抑えるために用いることもある。
3:関連分野 上記に関連する活動
広告の出稿、ネットショップの運営、ホームグロウンへの支援など。企業によっては社会信用システムの構築と運用を請け負うこともある。
ネット世論操作ではこれらを総合的に行うわけだが、「2」に関しては政権を握っている政党や政治家や政府機関などの権限を持つ立場にある者が圧倒的に有利である。これらを実現するための外注先がネット世論操作企業ということになる。前回のアメリカ大統領選で有名になったケンブリッジアナリティカなどがそうだし、最近ではイスラエルのアルキメデスグループが注目されている。
これらを大きくふたつのビジネスに分類し、3つ目として社会信用システムを加えた。ただし、社会信用システムは監視ビジネスの延長線上にあるものと位置づけられる。
図1 社会のインフラとしてのネット世論操作産業
ネット世論操作産業の提供する「サービス」
さらに、前掲の「3つの業務」について、どのようなサービスを提供するかを説明しよう。
1 拡散ビジネス=拡散、支援、関連するツール、サービスの提供
アカウント販売、ボット、トロール、サイボーグ運用、ホームグロウンリクルーティング&育成、サイト運用(メッセージを発信するサイトからローカルニュースサイト、ネットショップなど一見無関係のサイト運用までさまざま)、広告出稿(フェイスブック、グーグルなどに広告を出稿する)などの活動を行う。なお、ホームグロウンとは、ネット世論操作を仕掛ける相手の地元あるいは組織に所属する人間を指し、それらを感化、洗脳し、手先として使う作戦が行われている。この産業については、すでにいくつかレポートが公開されてじょじょにわかってきている。
前出の『The Global Disinformation Order: 2019 Global Inventory of Organized Social Media Manipulation』によるとメッセージの発信、拡散を受託している私企業および個人や団体が存在する国の数は39カ国(私企業27カ国+市民とインフルエンサー20カ国、そこから重複を除いた)で、その企業および個人の数は53以上である。このレポートがカバーしているのは拡散ビジネスなので、少なくとも世界39カ国で拡散ビジネスを展開している企業がのべ53以上存在すると言える。
参入企業の事例の一部(この表では主に世界を対象に市場展開している企業)は次の表のような感じになる。字が細かくて申し訳ないが、これでも氷山の一角であり、全てをあげるとキリがないほど参入数が多いことを認識していただければ幸いである。
個人用から国家用まで多岐にわたる「監視ツール」
2 監視ビジネス=発言、投稿の監視、検閲、抑制、ネットのシャットダウン、ツールの提供
ツール提供、監視システム提供、SNS分析システム提供、監視&検閲代行、スパイウェアの販売、スパイウェアの配布&運用などが上げられる。
監視ツールは個人でも購入可能な手軽なものから政府が導入するような大規模運用可能なものまでさまざまなものが存在し、その数は増えている。大規模な運用が可能なものでは情報漏洩事件で有名になったGammaグループやHacking Teamなどが有名である(参照:『犯罪「事前」捜査』角川新書)。近年はイスラエルのテック企業「NSOグループ」のスパイウェアが、人権侵害を行う複数の政府によって利用されていることが暴かれた(参照:カナダのトロント大学にある学際機関「Citizen Lab」のレポート『Reckless 』シリーズ、最新は2019年3月20日)。
個人向けの監視ツールも広く世に出回っており、これらが社会の監視に用いられることもある。
『Smartphones Are Used To Stalk, Control Domestic Abuse Victim』(Aati Shahani, 2014年9月15日, NPR)よると、アメリカの団体が国内72の家庭内暴力シェルターを調査したところ、85%の被害者がGPSで追跡されていた。また、『Spying Inc.』(DanielleKeats Citron, 2015,Washington and Lee L Rev)によれば、アメリカの家庭内暴力センターは加害者が被害者のコンピュータ利用を監視しており、54%はスマホにスパイウェアをインストールしていた。
これらの監視ツールは家庭内暴力だけではなく、さまざまな用途に用いることが可能で、テロリストが攻撃対象を監視するために用いることもできる。これらのアプリと産業については、Citizenlabの『The Predator in Your Pocket A Multidisciplinary Assessment of the Stalkerware Application Industry』(2019年6月12日)にくわしい。
こうした個人向けアプリ(FlexiSpy)に手を加えたものを監視ツールベンダが使っていることをHacking Teamの元従業員が暴露している。なお、FlexiSpyのメーカーは2012年からOEM販売を開始している。Hacking TeamもFlexiSpyやmSpyといった安価な個人向けアプリを購入して研究していたことも明かされている。政府が使用する監視ソフトも個人が利用するスパイウェアもシームレスにつながっている(参照:『犯罪「事前」捜査』角川新書)
さらに細かい内訳もある。国連人権高等弁務官事務所の『Report of the Special Rapporteur to the Human Rights Council on surveillance and human rights』では監視ツールをスパイウェア(Gammaグループなど)、モバイルハッキング(NSOグループなど)、ソーシャルエンジニアリング、ネットワーク監視(ロシアの監視システム提供企業Proteiなど)、顔認識(HUAWEIなど)、IMSIキャッチャー(Stingrayなど)、Deep Packet Inspectionの7つの分野に分けている。
次回は、これらの市場をリードするZTEとHUAWEI、2つの中国企業について焦点を当ててみたい。
◆シリーズ連載/ネット世論操作と民主主義
<文/一田和樹>
一田和樹
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている
日本も警戒するだけでなく活用する事を考えなくては。これは戦争だと思う。
— けいご (@keigo_g_ocean) 2019年10月19日
世界70カ国で蔓延する政治家・政党による「ネット世論操作」。それらを支援する企業の存在(HARBOR BUSINESS Online) https://t.co/gUwZuWync1
自民党もやっている。Twitterどころか、自民党なんて世論調査まで操作しているぞ!
— なる ひこ (@miharajiro) 2019年10月19日
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