「マンション購入は資産構築にはならない」住宅ジャーナリストの榊氏が警告
2019/03/08
中西 享 (経済ジャーナリスト)
(siraanamwong/Gettyimages)
「あなたの家は、『一生モノ』ではありません。『買えば安心』は大間違い」
と、マンションに住んでいる人やこれから購入しようとする人への警告ともとれる新刊書『すべてのマンションは廃墟になる』(イースト新書)が発売された。著者は、これまでもマンション不動産市場について価格の暴落を予言するなど辛口のコメントをしてきた住宅ジャーナリストの榊淳司氏。著者にインタビューして今年の不動産市場についても聞いた。
「誤ったイメージ」
『すべてのマンションは廃墟になる』(イースト新書)
いまや、多くのサラリーマンは就職して結婚すれば家を買う、大都市の場合、多くが分譲マンションの購入するのが当たり前となっている中で榊氏は、
「多くの人は分譲マンションに対してかなり誤ったイメージを抱いている。幻想と言っていいだろう。それは、『マンションを購入すると自動的に幸せになれる』というものだ。
あるいは、『マンションを買うことは資産を築くこと』という感覚で購入を決断している場合も多く見かける。こういったイメージや感覚は部分的、短期的には正しい場合も多い。
しかし、全体的あるいは中長期的には誤っていると断言していい。最終的には所有しているマンションが廃墟化してしまう可能性も高い。廃墟化の危機を迎えるのは、地方や遠隔郊外のマンションだけではない。現在、日本に存在するマンションのほとんどが、廃墟化への時限爆弾を抱えている」
と、空恐ろしい指摘をする。
「持ち家信仰」はもう古い
「東京や大阪に住む人が『自宅を所有したい』と熱望するのは、敗戦後の住宅難の時代に萌芽し、現代まで受け継がれている偏った価値観だと考える」と持論を展開、「そもそも、持ち家でないといけない、という価値観を見直すべきだ」
と、訴える。その理由として、少子高齢化、人口減少を指摘する。
「このままだと、昔のような住宅難の時代は来そうにない。それどころか、この国がいまだに経験したことがない住宅の大余剰時代がやってくる。というか、地方ではすでにそうなっている。そのことに気づけば、マンションを購入する、というのは大きなリスクであることが見えている」
欠陥だらけの区分所有法
その最大の元凶がマンションの所有形態である区分所有制度であると主張する。
「区分所有について定められた区分所有法という法律には、決定的な欠陥があるのだ。1962年に制定された同法は、基本的に性善説に基づいているとしか思えない構造になっている。また、500戸や1000戸大規模マンションの登場を想定していない。さらに言えば、マンションの老朽化さえも想定外ではないか。これを改めない限りにおいて、すべてのマンションは廃墟化へのレールを突き進むことになる」
榊氏は、
「日本のマンションにおける区分所有権とうのは、過剰に保護されていると言えないだろうか。せめて、管理費や修繕積立金を長期にわたって滞納している住戸に対しては、もう少し厳しい制度を設けてもよいと思う。国土交通省もその必要性は気付いているはずで、その方向で見直しをしてほしい」
と述べ、管理費の滞納が5年分に達した場合、所有権がマンションの管理組合に移転するようにしてはと、具体的な提言をする。
区分所有法では、共用施設の変更には区分所有者の4分の3以上の賛成が必要な特別決議が必要になる。建て替えとなると法的には5分の4の賛成が必要だ。数十戸の小規模のマンションなら住民も顔見知りのため、合意形成も得やすいが、1000戸規模となると、外国人や賃貸契約で入居している人もいて、合意形成は煩雑で難しくなる。
「『4分の3』、『5分の4』の合意はハードルが高すぎるので、最大で『3分の2』あたりまで緩和すべきではなかろうか。マンションのような何十、何百もの世帯が生活を営む集合住宅は、たとえ所有者が個人であっても、ある程度は公共的な存在であるべきだ。
公共物であるかぎり、私人が好き勝手に扱っていいはずがない。そこでは公共物なりの常識的なルールを守り、一定の秩序が保たれるべきであろう。また必要とあれば、行政がある程度介入すべきではないだろうか。
特に廃墟化が迫っているマンションについては、区分所有者だけの力だけではどうにもならない場合が多い。そこには当然の如く行政の介入があってしかるべきであると私は考える」
性悪説で見直しを
榊氏は自身がコンサルティングしたケースで、マンションの管理組合の悪徳理事長が跋扈した例を取り上げている。
この組合では理事長が管理規約を好き勝手に変更して、自分への露骨な利益誘導を図っていたという。こういったことをするためには、管理組合の特別決議が必要になる。
85%もの賛成投票の結果に疑念を感じて、議決権行使書と議長一任の委任状の開示を求めても、区分所有法とマンションの管理規約にはそのような規定はないので開示はできないとなった。
「つまり、悪徳理事長が委任状や議決権行使書を偽造していたとしても誰にも暴けないのである。そもそも区分所有者法は、委任状や議決権行使書を偽造してまで自分に有利な決議を可決させようと企むような悪徳理事長の登場を想定していない。いまやマンションの管理組合は利権となり、悪意の人物が私腹を肥やすことが常態化している組織なのである」
と話し、区分所有法は性悪説に基づいて見直すべきだと強調する。
現実に管理組合の抱える問題点として、都内マンションの実態調査を見ると、役員のなり手がいない問題はいつもトップにランクされることが多い。
理事長の多選を禁止している管理組合はほとんどなく、結果的に理事長が何度も再選されて、気が付いたら理事長がマンション管理費を流用していたというケースは、いくつもあるという。
新たなバブル崩壊リスク
今年のマンション市場については、
「新築マンションは価格が高くなり過ぎて在庫が積みあがってきている。中古は2020年の東京オリンピック後には下がるのではないかという期待感から模様眺めになっている。さらに今年10月から消費税が上がれば、景気を冷やすことになる。価格が上がる要素は何もない」
と、価格の下振れ傾向が強まると予想する。
不動産市場は昨年に表面化したスルガ銀行の不正融資、レオパレス21の施工不良問題などネガティブニュースが度重なっている。
榊氏が特に心配するのは、
「今年は投資用アパート、マンションが過剰になり暴落する恐れがある。すでに投資用不動産の価格がかなり下落してきている」点で、
新たなバブル崩壊のリスクがあるとみている。この数年、節税や遺産相続対策になるとして、富裕層が1棟建てのアパートやマンションに積極的に投資してきた。金融機関も2年ほど前までは建設資金を融資し、借りる側も低金利が続いているため担保を提供して必要資金を割と簡単に借りることができていた。
当初はアパートやマンションに入居者が入り、期待通りの賃料が得られていたが、似たようなアパートやマンションが急増したことから、空き家が増えてきており、期待したほどの賃料が得られなくなってきているという。
仮に賃料が大幅に落ち込んだりすると、資金計画の目算が狂うことになり、場合によってはアパートやマンションを手離さなければならなくなる。これが引き金となって、新たなバブルが破裂する恐れがあるという。
金融機関はスルガ銀行の不正融資が露見してからは住宅関連融資の蛇口を閉めており、お金を借りてアパートを建てるのは難しくなっている。今年の不動産市場は要注意だ。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15548
http://www.asyura2.com/19/hasan131/msg/427.html