「原発再稼働」をいつまでタブーにするつもりなのか
北海道ブラックアウトでも「原発再稼働」を口にしない政府の異常性
2018.11.5(月) 石川 和男
川内原発再稼働、「原発ゼロ」状態に幕
九州電力が公開した、川内 (せんだい) 原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉容器内に入れられる燃料棒(2015年7月7日撮影)。(c)AFP/KYUSHU ELECTRIC POWER 〔AFPBB News〕
福島第一原子力発電所の事故発生から7年半が過ぎた。以来、日本のエネルギー政策は大幅な見直しが迫られるようになった。しかし再生可能エネルギーだけで国内の電力需要を満たせるわけはなく、日本は日々莫大なコストをかけ、化石燃料を燃やして電気を賄っている。この状態を続けることはわれわれにとって得策なのだろうか──。過度な原発アレルギーに陥り、真っ当な議論ができなくなっている現状に、『原発の正しい「やめさせ方」』の著書がある政策アナリストの石川和男氏(NPO法人社会保障経済研究所代表)が警鐘を鳴らす。(JBpress)
胆振東部地震でピタリと止んだ「脱石炭」の声
そろそろわれわれは、電力問題についてリアルに考えなければならないのではないか。
北海道胆振東部地震で、道内最大の石炭火力発電所・苫東厚真発電所が止まってしまい、北海道全域がブラックアウトに陥った。国内電力史上、最大規模の大停電は復旧にも時間を要し、北海道の人々は苦しい生活を強いられた。
先ほど、苫東厚真発電所をあえて「石炭火力発電所」と紹介したのは、この発電所が石油でも天然ガスでもなく、石炭を燃焼させ発電している施設であることを思い起こしてほしいからだ。
この数年、世界的に「脱石炭」の大きな流れがきている。「地球環境のことを考えるならば、環境負荷が大きい石炭火力はやめるべきだ」という意見が勢いを持つようになり、フランスは2021年までに石炭火力発電を全廃することを決め、ドイツも脱石炭火力に向けた委員会を立ち上げ、2018年末までに廃止時期を含んだ最終案をまとめるという。ひところ大気汚染が深刻だった中国も、石炭燃料の使用量削減などで大気の状態はかなり改善している。
民間企業の側からも「脱石炭」の動きは強まっていた。アップルやフェイスブックは、自社で使うエネルギーを100%再生可能エネルギーにすると表明している。日本国内でも、日本生命や明治安田生命が石炭火力への投融資から撤退するとしている。日本の世論ももちろん「脱石炭」だった。そう、胆振東部地震の前日までは、だ。
胆振の地震で大規模なブラックアウトが起きると、少なくとも日本国内で「脱石炭」を煽るような報道はなくなった。一刻も早く苫東厚真の石炭火力発電所が再稼働し、以前のように発電できるように、と願うようになった。
私は、そのこと自体を批判するつもりはさらさらない。
ただ不審に思っていることがある。北海道には現在停止中の泊原子力発電所がある。私は、むしろこの泊原発の早期再稼働に向けた準備を今すぐにでも行わせるべきだと思っている。少なくとも、北海道における安価かつ安定的な電力供給のための1つの選択肢ではあるはずだ。
ところが、北海道全域を襲った非常事態を前にしても、泊原発の活用についての話が、政治の側からも役所の側からもほとんど出てこなかった。これは異常な事態と言わざるを得ない。なぜなら、多くの政治家や官僚は、原発再稼働こそが電力危機を回避する唯一の現実的方法だということを重々理解してはずだからだ。
しかし実際には、政府からは菅義偉官房長官が会見の中で、「現在、原子力規制委員会で新規制基準に基づく安全審査中であり、直ちに再稼働をすることはあり得ない」と述べたのが、唯一「泊原発再稼働」に触れた発言だった。
私は政策アナリストという仕事柄、政治家、とくに政権与党の国会議員と顔を合わせる機会が多いが、みな私的な場では「泊原発を再稼働すれば北海道の電力問題も解決するんだからやればいい」と言う。しかし、公の場でそれを口にする人はほとんどいない。例外的に「再稼働」を堂々と主張しているのは自民党の青山繁晴参議院議員くらいではないだろうか。
もちろん霞が関にも声を上げる者はいないし、泊原発を新規制基準に基づいて審査している原子力規制委員会の更田豊志委員長も、「今回の地震で審査が影響を受けることはない。急ぐこともない」と従来の方針を変えようともしない。
では、マスコミはどうか。原発再稼働を正面から主張しているのは主要紙では産経新聞のみで、後は再稼働反対の論陣を張っている。
まるで、日本全体が「原発再稼働」について、強烈な言論統制下にあるかのようだ。もちろん誰も統制してはいない。批判を恐れて、自ら口を閉ざしてしまっているとしか思えない。
これではあたかも世の中全体で、「電力については、北海道電力がなんとかするまで、道民はじっと耐えよ」と言っているのと同じだ。
「触らぬ神に祟りなし」で口閉ざす
規制委員会の新基準に基づく審査の下では、泊原発の再稼働はいつになるかは全く予想できない。しかし旧基準に照らし合わせるならば、その気になれば、2週間もあれば再稼働ができてしまう。実は、法的にも問題はない。
あとは地元の知事が同意すればいい。この知事同意にも法的な根拠はないのだが、地元自治体と電力会社との間の協定に基づいて、電力会社は知事と議会から了解をもらうことが一般化しているにすぎない。つまり、その気になれば泊原発の再稼働は今すぐにでも可能なのだ。
だが、政治家も官僚もマスコミもあえてそれに触れようとはしない。批判を恐れて、「触らぬ神に祟りなし」を決め込んでいる。
結局、北海道の電力供給事情は今もいっぱいいっぱいの状態だ。苫東厚真に大きなトラブルが起きれば、一気に需給はひっ迫する。その一方で、泊原発がまったく稼働せず管理費ばかりを食い続けている状態なので、肝心の北海道電力の経営が日に日に厳しくなっている。北海道の電力事情は、今も非常事態下にあると言ってよい。
私は機会があるごとに「泊原発は再稼働させるべき」と発言してきたし、自分のツイッターでもたびたびそう主張してきた。それに対して、一部の人からは賛同のつぶやきが返されてくるのだが、多くは「福島の二の舞になる」とか「直下型地震が起きたらどうする」といった批判だ。
だが、もしも直下型地震がやってきたとしても、それで原子炉が壊れることはない。放射能が漏れるわけでもない。今回の胆振東部地震でも、泊原発は一時、外部電源が失われたが、非常用ディーゼル発電機がきちんと稼働し、事故は起こらなかった。活断層が多少ずれたところで福島第一原発のような大事故が起こるわけではないのだ。
実は政治家や官僚、電力や原子力の専門家もそのことはよく分かっている。それなのに、ごく一部の専門家らを除き、「原発再稼働」については一切口を閉ざしてしまっている。世間の「原発アレルギー」を極度に恐れてしまっているのだ。
今回もJBpressでこういう主張を展開すれば、ネット上には、きっと反対の意見が溢れることだろう。自分と違う意見が来るのは、全くおかしなことではない。だがやってくるのはたいがい、根拠のない誹謗中傷ばかりで、政策的非難はそう多くはない。
例えば、「太陽光、風力をもっと生かせ。再生可能エネルギーにシフトせよ」という意見も、私はおかしな意見だとは思わない。だが、再エネは電力供給のメインストリームにはなりえない。
北海道胆振東部地震の後、北海道の冬を迎えるにあたり、太陽光や風力発電を火力発電に取って代わらせるべき、といったような意見は全く聞かれない。個人の住宅で自分のところの電気の一部を太陽光発電で賄うということは可能だが、太陽光は夜には発電しないし、社会のインフラを支えるほどの出力も安定性も望めない。胆振東部地震で、そのことがよりはっきりと認知されたのではないだろうか。
加えて、この間、九州電力が初めて、太陽光発電の出力制御を実施した。需要の減少が見込まれている時間帯に太陽光発電施設から多量の電気が供給されると、大規模な停電を引き起こす可能性があるからだ。
私はずいぶん前からツイッターで、「九州では太陽光発電を制御する事態がありえる。そうなったときに、一部の新聞は『玄海原発が再稼働したから太陽光を制御することになる』と書くはずだ」と予言していた。
実際、出力制御が発表されると、新聞やテレビの中には、「玄海原発が稼働したので電力供給量が増え、再エネ事業者が割りを食わされた」的な報じ方をした新聞社が多数あった。
だが事実はそうではない。原発が動いているから太陽光を抑制したのではない。調整する役割は、普段は火力発電所が担っている。それでも調整しきれなかったから太陽光を抑制したのだ。
なにより太陽光の電気はFITという固定価格買い取り制度の下で再エネ事業者から買い取っているのでコストはべらぼうに高くつく。そのツケは、われわれ一般消費者の電気料金に回されているのだが、そのことはマスコミも積極的に報じようとしない。
放射性廃棄物の管理コストは高くない
私が原子力を推しているのは、コスト面で莫大なメリットが国民にも国家にもあるからだ。何と言っても既設原発は発電コストが安い。実際、大飯、高浜の原発を再稼働させた関西電力は電気料金を引き下げた。九州電力もそのうち値下げ原資が出てくるはずだ。
コストはインフラにとって極めて大切な概念だ。だが、世の中の世論の大勢は「安全性をないがしろにしてまでコストを優先する必要はない」という。さらに、「原発は低コストと言っても、放射性廃棄物の処理や最終的な廃炉コストも含めると高くつく」という意見もある。
しかしそれも正確ではない。
仮に国内の既存原発をフル稼働させたとして、そこから出てくる使用済み核燃料を管理するコストは、年間10億円にも満たない。再処理した後の高レベル放射性廃棄物は、熱を冷ますために地中で50年ほど保管しなければならないが、そのコストは年90億円ほどだ。
一方、福島第一原発の事故後、全ての原発を停止させていた時期に、火力発電用の化石燃料を日本は大量に輸入していた。そのコストは、最大で、2013年当時の為替レートでみると、1日100億円以上だ。単純計算で年間3兆6000億円にもなる。
それに比べたら、使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物の管理コストはずっと安くつくのだ。
それを政治家や霞が関の役人は知っている。ならば、電力供給体制が脆弱化している北海道においては、せめて泊原発の再稼働を推し進めるべきではないのか。
もうじき、厳しい冬が到来する。
安全性やコストについての正確な情報も提示せず、ただただ世論の反発を恐れて、「規制委員会のお墨付きが出るまでは我関せず」の態度を取り続けるのは、将来に禍根を残すことになりかねない。
一部の反発を恐れるあまり、環境には多大な負荷をかけ、電力会社には化石燃料の購入に膨大なコストをかけさせ、国民にも余分な電気料金を負担させ続けている。このような異常事態はそろそろ終わりにするべきではないだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54563
北海道地震の大停電にかこつけホリエモンらが「泊原発を再稼働させろ」の大合唱! でも泊原発下には活断層の指摘も
2018.09.07
6日午前3時8分ごろ、北海道胆振地方中東部を震源とし、厚真町で最大震度7を観測する地震が発生した。地震の影響で北海道全域の約295万戸が停電。北海道電力や政府によれば、停電は震源に近い苫東厚真火力発電所の緊急停止により、道全域の「電力需給バランス」が崩れたためだという。簡単にいえば、苫東厚真発電所の停止によって、各発電システムにおいて一定に保たねばならない電気の周波数が乱れたことで、故障を防止するために道内の火力発電所が自動停止したのだ。
北海道における最大震度7の地震、全域に渡る大停電は異例の事態であり、政府には被災者の救助や支援、インフラの復旧に最大の努力をしてもらいたいが、そんななか、Twitterでは「原発が再稼働していれば停電は防げた」なる主張がでてきている。大停電にかこつけて、2012年から1〜3号の全機が停止中の泊原発の再稼働を進めようとする動きが相次いでいるのだ。
実際、原発再稼働派の評論家・池田信夫氏は〈大停電の再発を防ぐには、泊原発の再稼動が不可欠だ〉と主張し、ホリエモンこと堀江貴文氏も〈これはひどい。。そして停電がやばい。泊原発再稼働させんと。。。〉〈原発再稼働してなかったのは痛い〉などと連投。ほかにも、Twitter上ではこんなツイートが続々と飛びだしている。
〈安全地帯にあった泊原発が動いていれば全停電なんて起きなかった〉
〈泊原発が動いていれば、北海道全域が停電することはなかったのに。原発再稼働反対を叫んでいたお花畑左翼達のせいで、北海道は孤島になってしまった〉
〈北海道の停電は原発再稼働反対派による人災と言ってもいいのでは?〉
ネットだけではない。全国紙も同じような論調だ。たとえば日本経済新聞が昨日出した「北海道地震、なぜ全域停電 復旧少なくとも1週間」という記事では、〈道内の泊原子力発電所(泊村)も運転を停止中で供給力に余裕はない。今回の大規模停電は、一カ所の大規模火力発電所に依存することの脆弱さが浮き彫りになった形だ〉と締められている。停電を引き起こした北電の脆弱性はそのとおりだが、わざわざ泊原発の運転停止にかこつける意図は見え見えだろう。
他紙でもこの日経記事によく似た記事が見られる。おそらく、北電・政府側のブリーフィングをもとに書いたのではないか。原発再稼働に躍起となっている安倍政権と原子力ムラが、この大停電を利用して、今後、泊原発再稼働に向けたキャンペーンを次々にぶってくることは容易に想像がつく。
しかし、冷静に考えてみてほしい。話はむしろ逆だろう。「泊原発が稼働していたらよかった」というのは、明らかに倒錯している。
地震による停電で泊原発は外部電源を喪失したが、非常用電源による冷却が使用済みの核燃料だけで済んだのは、言うまでもなく、運転停止中の原子炉内に核燃料がなかったためだ。その意味では、いまのところ泊原発で事故が確認されていないのは“不幸中の幸い”と言うべきだろう。
いや、それ以前に、泊原発が「安全地帯にある」という前提のほうこそ「お花畑」と断じるしかない。そもそも、今回の地震ではたまたま泊原発付近は震度2で済んだが、事実として、大規模地震が原発を直撃しない保証はどこにもないのだ。
泊原発再稼働に原子力規制委員長は否定的だったが…
実際、科学者も泊原発の下に地震を起こす可能性がある活断層の存在を指摘している。今年4月には、道内の科学者らでつくる「行動する市民科学者の会・北海道」が、泊原発1号機直下の断層は動いていないと証明できるのは約1万〜3万年前までであって、これは活断層に当たるとする見解を発表した(4月19日付毎日新聞北海道版)。原子力規制委員会による新規制基準では、12万〜13万年前よりも新しい時代に活動したことを否定できない断層を活断層と定義している。
一方、北電はこれまで「敷地内の断層の活動時期は120万年前であり、活断層ではない」などと主張。規制委は断層の活動時期を推定する調査方法に疑義を呈し、北電に再調査を求めるなどしてきた。
原子力規制委の更田豊志委員長は今年5月、泊原発を就任後初めて視察した際、年内の新規制基準合格の可能性について「あまりに楽観的だと思う」と記者団に語って否定したが、その後、地層の年代に関する規制委側の指摘を北電が受け入れるかたちで修正するなど、両者が歩み寄って再稼働に傾き始めている。
北海道新聞による世論調査では、泊原発をどうすべきかについて「3基とも再稼働せず、速やかに原発ゼロにする」が29%で最多だった。にもかかわらず、北電は活断層の危険性をうやむやにしたまま、押し切ろうとしているのだ。
もっとも、大停電については徹底的に検証をして再発を防止せねばならないが、一足飛びに泊原発再稼働へ結びつける言説は極めて乱暴であり、それこそ人々の生命と生活を軽視しているとしか言いようがない。
(編集部)
https://lite-ra.com/2018/09/post-4235.html
原発最前線】とっくに再稼働していたはず… 審査難航の北海道電力泊原発、通称は「最後のP」
2018.9.26 07:00
地震で外部電源が一時喪失した運転停止中の北海道電力泊原発=6日午後0時51分、北海道泊村
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再稼働に向けた安全審査が5年過ぎても終わらず、9月6日に北海道を襲った地震による全域停電(ブラックアウト)の非常事態を救えなかった北海道電力泊原発。平成27年暮れには最大のハードルとされる耐震設計の目安「基準地震動」がおおむね了承されており、合格、再稼働を果たしていてもおかしくなかった。その流れを止めたのは、規制委の「現地視察」と「火山灰」だった。
(社会部編集委員 鵜野光博)
視察でちゃぶ台返し
「審査の経緯を踏まえると、今回の原子力規制委員会のご判断は誠に残念であると申し上げざるを得ません」
北電の公式サイトにこのコメントが載ったのは、29年3月13日。規制委が3日前の審査会合で、積丹(しゃこたん)半島西岸の海岸地形について「地震性隆起であることを否定するのは難しい。今後は活断層を仮定する方向で審議したい」としたことへの“抗議”だった。
泊原発の審査申請は25年7月で、全国の原発で一番早いグループに属している。審査で難関となるのは、敷地内外での地震を引き起こす活断層の有無や、津波の高さの想定だ。泊原発では27年8月、規制委で地震津波の審査を担当する石渡明委員が、津波対策の目安となる「基準津波」について「おおむね理解した」とコメントし、同年12月には活断層の影響を考慮した基準地震動についても「一応、おおむね妥当な検討がなされていると評価する」と述べた。ここまでは、比較的順調だった。
それを“ちゃぶ台返し”したのは、規制委が28年7月に行った現地視察だった。
建屋建設で火山灰が…
視察は基準地震動を確定する最終的な手続きとみられていたが、規制委は「聞いていた説明と若干一致しない事実がいくつかある」と指摘。特に北電が「波の浸食によるもので、地震性隆起ではない」としてきた積丹半島西岸について、視察翌月の28年8月の審査会合で石渡委員は「西津軽の大戸瀬(青森県)の地形とうり二つといっていいぐらいよく似ている。大戸瀬は200年ちょっと前に地震が実際に記録されていて、隆起したという記録も残っている」と再検討を促した。
北電はその後、地震性隆起ではないことを立証しようとしたが、規制委を納得させることはできず、翌年3月の「誠に残念」とするコメントに至った。結局、北電は同年8月、積丹半島沖合に活断層があると仮定して地震動を算出する方針に転換した。
審査をスローダウンさせているもう一つの要因が、「消えた火山灰」だ。
新規制基準では、12万〜13万年前以降に動いた可能性が否定できない断層を活断層と定義し、原発の重要施設の直下にあれば運転は認められず、近くにあっても基準地震動が引き上げられる。北電は敷地内の断層の上に堆積している火山灰の層が約20万年前のものとする年代測定を根拠に、活断層であることを否定していた。しかし、有識者から「北電の断層評価は甘い」と指摘があり、同年3月の審査会合で規制委は、再度立証することを指示。北電は以前使った火山灰を探したが、結論は「1・2号機、3号機の建設などにより消失」。つまり建設時にすべて取り去ってしまったため、活断層ではないことを示せない事態に陥った。
再度の現地視察へ
火山灰以外での立証を求められた北電は試行錯誤を繰り返し、その説明が規制委からようやく評価されたのは、今年8月31日の審査会合だった。石渡氏は「今回出していただいたデータは従来と比べるとだいぶん見通しが良くなり、全体が分かるようになってきた」と述べ、「もう少しまとめ直してもらった上で、野外で実際に見せてもらうことが評価するのに必要だ」と、再度の現地視察を要望した。
北海道でブラックアウトが起きたのは、この6日後のことだった。
泊原発と同時期に審査申請した関西電力大飯原発、高浜原発、四国電力伊方原発、九州電力玄海原発、川内原発は、いずれも再稼働を果たしている。これらはすべて加圧水型(PWR)で、泊原発は業界で「最後のP」という皮肉な称号を与えられている。
泊原発が再稼働していれば、ブラックアウトは防げたのか。北電は「再稼働後の発電量などの仮定が多すぎて、答えられない」という。ただ、苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所に道内の電力供給の過半を頼る“一本足打法”の状況が、大きく違っていたことは間違いないだろう。
規制委の更田(ふけた)豊志委員長は、地震発生後の9月12日の定例会見で、「今回の地震を受けて、泊発電所の許可を急がなければならないとは毛頭考えていない」と述べた。当面は規制委が「雪が降る前にやりたい」とする現地視察が審査のヤマになる。前回はちゃぶ台返しがあったが、今度はどうか。ブラックアウトを経験した道民の目が注がれている。
◇
北海道電力泊原発 北海道泊村にある加圧水型軽水炉(PWR)。1号機(57万9000キロワット)は平成元年6月、2号機(同)は3年4月、3号機(91万2000キロワット)は21年12月に営業運転を開始した。1〜3号機とも25年7月、原子力規制委員会に安全審査を申請し、現在は3号機が優先的に審査されている。
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https://www.sankei.com/affairs/news/180926/afr1809260001-n3.html
http://www.asyura2.com/18/genpatu50/msg/511.html