〔独自取材 IS”洗脳”の実態〜壮絶体験 子どもが告白〕7月10日、Nクロ現
過激派組織ISの戦闘員として最前線で戦っていた17歳の少年。
「ISのことは とにかく忘れたいんです」
ISは数千人の子どもたちを戦闘員に仕立てた。ISが事実上崩壊した今も子どもたちの”洗脳”は解けていない。
元戦闘員の少年(14歳)「自爆ベルトの付け方を教わったよ」
人を殺した意味も分からないままだ。
少年「”神は偉大なり”と言って銃で頭を撃った」
再び過激な行動へと走ることが懸念されている。
専門家「いま何も手を打たなければ新たなテロ組織が生まれてしまう」
壮絶な体験を語り始めた子どもたち、今も融けない呪縛に苦しむその姿。
ISはどのようにして子どもたちに近づいたのか。
ISが首都としていたラッカ出身の少年(15歳)は、父親を亡くし孤独だった頃、街で声を掛けてきたISの戦闘員に親しみを感じたと言う。
少年「彼は僕を弟のようにかわいがってくれてジョークを言い合ったり、食べ物をくれたりドライブに連れて行ってくれたりした。(僕は)お父さんが死んで悲しくて家にも居場所がなかった。彼らが僕を支えてくれたんだ」
今から4年前、ラッカは突然、ISによって占領された。戦闘員たちと日増しに親密になる少年、心配した兄に連れられ3年前、トルコ渡った。しかし、今も見知らぬ町では友達も自分の居場所も見つけることができない。毎日眺めるのはISの動画や親しかった戦闘員たちの写真。今も連絡を取り合っている。
少年「彼らがまた集まったら僕も戦闘員になりたいよ。ISは僕のすべて、僕の家族みたいなものだ」
ISは独自の思想に基づいたイスラム国家の樹立を掲げ、一時はイラクとシリアにまたがる広大な地域を支配、その後徐々に勢力を弱め、今は壊滅寸前となった。しかしその過激な思想は拡散し、影響を受けたと見られるテロは今も欧米やアジアで繰り返されている。
ISの実態の解明を進めてきたシリア人ジャーナリストは、ISの残した資料を分析する中でISが組織的に支配地域の子どもたちを洗脳していた事実が明らかになってきた。
ジャーナリスト「ISは独自の行政機関を設けたが、教育省はその中でも最大級だ。子どもは将来のISを担う重要な人材で何より洗脳しやすいと考えていた」
ISはまず、それまで学校で使われていた教材をすべて処分した(それを燃やす映像)。代わりに導入したのが独自に作成したこの教科書である。あちこちに武器やISの旗が描かれている。
ジャーナリスト「ISは、算数、理科、アラビア語などあらゆる教科にその思想を忍び込ませ、子どもたちの日常に浸透させたんだ」
宗教の授業では自爆テロを起こせば天国で幸せになれると教え込んだ。
戦闘員を養成する施設も各地に設けた。こうして育てた戦闘員は3000人とも言われているが、正確な数は分かっていない(訓練中の映像)。
戦闘員として人々の命を奪うよう命じられた子供たち。イラク北部の難民キャンプで暮らす元戦闘員の少年(14歳)は、ISによって家族で拉致され3年間訓練を受けた(冒頭の自爆ベルトの発言の少年)。
意味も分からないまま自爆テロの指導を受けたという。今、カウセリングを受けながら少しずつ当時のことを話せるようになってきた。
〔”洗脳”が解けない厳しい現実〕
ISの支配から逃れた人々が暮らす北部の町イラクドホークに今年3月、ISから解放されたサイード(仮名:17歳)がいる。ISが弱体化し監視の目が弱まる中、家族がさまざまな伝手(つて)を頼って連れ戻した。兄弟は皆ISに拉致され兄弟2人はISに殺害され6人は行方不明のままである。
訓練を続けるうち次第に感覚は麻痺していった。戦闘の最前線にも(兄といっしょに)何度も立った。
サイード「最初の5分は怖いけど、戦闘が始まれば怖くない」
しかし、戦場での凄惨な光景は今も脳裏から離れない(話している裡に涙ぐんでくる)。今、学校に行く気にもなれず家にこもり勝ちである。感情の浮き沈みが激しい息子を両親が心配している。
母親「”家に戻って来て後悔している”なんて言うのです。食事も服も生活の何もかもが嫌だと、自分が育てた息子とは思えません。昔は本当にやさしい子だったのに」
ある日、家族のもとに待ち続けてきた知らせが届いた。ISに拘束されていた兄が解放され迎えに行くことになった。4年ぶりの再会である。周囲の歓迎をよそに兄は顔を隠し表情は硬いままだった。
兄「ISを離れる理由は特になかったんだ。ただ組織が弱くなり生活が苦しくなったから抜けてきただけなんだ」
サイード「兄が帰ってきて嬉しいよ。僕にとって兄はISの下で4年間、共に戦った仲間なんだ」
兄との再会で、自分に確かな居場所があったISでの日々が甦った。
父親「息子たちは殺人やテロの中で育ったのです。ISの思想は抜けていません。ISはまだ終わっていないのです」
ISの戦闘員だった子どもたちの社会復帰を目指す取り組みが始まっている(宗教教育や職業訓練等)。