ロシアだけでなく友好国に存亡の機を招くような攻撃があれば反撃するという警告に無頓着なアメリカの好戦派
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2018.03.05 櫻井ジャーナル
ウクライナはネオ・ナチの影響下にあるクーデター政権と東部ドンバス(ドネツク、ルガンスク、ドネプロペトロフスク)の反クーデター勢力の対立が続く中、ソ連時代の射撃場でアメリカやカナダの教官がウクライナの兵士を訓練しているとスイスのル・トン紙が伝えている。
とりあえず休戦状態だが、イスラエルやアメリカを後ろ盾とするミハイル・サーカシビリ元ジョージア大統領が暗躍するなど不穏な空気は漂い、NATOは相変わらずロシアに対する軍事的な挑発を継続中だ。
1990年に東西ドイツが統一される際、アメリカのジェームズ・ベイカー国務長官はソ連のエドゥアルド・シュワルナゼ外務大臣に対し、統一後もドイツはNATOにとどまるが、東へNATOを拡大することはないと約束したことが記録に残っている。この約束を信じたミハイル・ゴルバチョフ大統領はドイツ統一で譲歩したのだが、約束は守られなかった。アメリカ政府の約束を本能にゴルバチョフとシェワルナゼが信じたとするならば、救いがたい愚か者だ。
NATOは1949年4月に創設された軍事同盟で、最初の加盟国はアメリカとカナダの北米2カ国に加え、イギリス、フランス、イタリア、ポルトガル、デンマーク、ノルウェー、アイスランド、ベルギー、オランダ、そしてルクセンブルクの欧州10カ国である。
ソ連に対抗することが目的だとされたが、その当時のソ連には西ヨーロッパに攻め込む余裕があったとは思えない。何しろ、ドイツ軍との死闘でソ連の国民は2000万人以上が殺され、工業地帯の3分の2を含む全国土の3分の1が破壊され、惨憺たる状態だったのである。軍にも西ヨーロッパへ侵攻する余力は残されていなかった
それに対し、アメリカやイギリスはドイツが降伏する前からソ連との戦争を始めている。いや、ドイツ軍が1941年6月に東へ向かった進撃を始めた際にアドルフ・ヒトラーはドイツ軍首脳の意見を無視して310万人を投入、西部戦線に残ったドイツ軍は90万人にすぎなかったことから、ヒトラーはイギリス軍が攻めてこないことを知っていたのではないかと推測する人もいる。
アメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領が急死した翌月、ドイツが降伏した直後にイギリスのウィンストン・チャーチル首相はJPS(合同作戦本部)に対してソ連へ軍事侵攻するための作戦を立案するように命令、「アンシンカブル作戦」が作成された。7月1日に米英軍数十師団とドイツの10師団がソ連を奇襲攻撃、「第3次世界大戦」を始める想定になっていた。この作戦が実行されなかったのは、参謀本部が5月31日拒否したからである。
イギリスがソ連を攻撃しようとした理由をイデオロギーに求めることはできない。遅くとも1904年の段階でロシアを制圧しようという戦略があったのだ。その年、地政学の父と呼ばれているハルフォード・マッキンダーが発表した戦略は、ロシア(ハートランド)を制圧すればイギリスが世界の覇者になるというもの。イギリスがなぜ長州と薩摩のクーデターを支援し、日本の軍事力強化に協力したかを理解するためにはイギリスの戦略を知る必要がある。アメリカ人、例えばズビグネフ・ブレジンスキーもこの戦略に基づき、自身の戦略を作り上げている。ネオコンも同じだ。
ロシアを再独立させたウラジミル・プーチンはアメリカとの核戦争を避けるために外交や経済政策を駆使してきたが、アメリカ支配層の実態を知る人々は危ないと警告していた。ロシアが優位になったところで話し合いを始めても、アメリカ支配層は時間稼ぎに使うだけだとも指摘されていた。実際、その通りになっている。
フォーリン・アフェアーズ誌の2006年3/4月号に掲載された論文の中でキール・リーバーとダリル・プレスはロシアと中国の長距離核兵器をアメリカの先制第1撃で破壊できると主張している。
核戦争になってもアメリカは生き残れると考えているわけだが、これはアメリカ支配層の基本的な考え方だろう。日本の「リベラル派」にも似たことを言う人がいる。ポール・ウォルフォウィッツは湾岸戦争の後、1991年にアメリカが軍事力を行使してもソ連は出てこないと口にしていた。ソ連消滅後に残ったロシアも同じだと考えただろう。
その判断は2008年にジョージア軍が南オセチアを奇襲攻撃した際に間違いだということが判明、シリアでもロシア軍は軍事介入し、その戦闘能力の高さを見せている。プーチン政権はアメリカをはじめとする西側に警告してきたのだが、アメリカの好戦派は軍事的な圧力を高めるという反応を示した。核戦争で脅せばロシアは屈服するだろうということだが、それに対する回答を3月1日にロシア連邦議会でプーチン大統領は示した。
アメリカとその同盟国がロシアやその友好国に対して存亡の機を招くような攻撃を受けた場合、原子力推進の低空で飛行するステルス・ミサイル、海底1万メートルを時速185キロメートルで航行、射程距離は1万キロに達する遠隔操作が可能な魚雷、マッハ20で飛行する大陸間ミサイルRS-26ルビエシュを含む兵器で反撃すると宣言したのだ。アメリカ本土も安全ではないことを示した。
しかし、アメリカやイギリスの好戦派は戦略を変更する意思を見せていない。ル・トン紙の報道が事実で、それがドンバスへの攻撃準備だとするならば、ロシア軍から反撃があると考えなければならない。