アップルもアマゾンも過去最高益なのに「米株価急落」一体なぜ? 世界の巨大企業にも「死角」があった
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2018.02.06 町田 徹 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
「リーマンショック以来」の株価下落
2017年10〜12月期決算で、「GAFA(Google、 Apple、 Facebook、 Amazon)」と呼ばれる米国のプラットフォーマー(基盤提供者)4社がそろって、事前の懸念をあざ笑うかのように過去最高の売上高を叩き出した。最終損益も税制改正の影響で最終赤字になったグーグル以外は、アップルとアマゾンが過去最高益を、フェイスブックが2割増益をそれぞれ計上し、依然として高い成長力を維持していることを見せつけたのだ。
GAFAは、パソコン時代の「Wintel」(MicrosoftとIntelの2社)に代わり、「第4次産業革命」の主要な担い手として注目されてきた。各社の競争力、市場支配力、影響力は強大過ぎるほどで、経済産業省が一昨年秋にまとめたレポートの中で、暴走を抑える特別な制度が必要だと訴えたことは記憶に新しい。
今四半期決算が注目されたのは、事前に、iPhoneを含むスマートフォンの販売不振を伝える観測記事が続出したほか、フェイクニュースや詐欺広告をめぐる問題でGAFAの信頼が揺らいでいるとされたからだ。しかし、ふたを開けると決算は好調そのもので、暗雲を払しょくしたかに見えた。
ところが、どんでん返しが待っていた。発表が出そろって丸1日経過したニューヨーク市場で、あのリーマンショック以来という株式相場の大幅下落が発生。相場の足を引っ張った悪役として、米金利の上昇ペースの加速懸念と並んで、GAFAの成長力が取り沙汰されたのである。
本当のところ、GAFAの地力は現在どの程度なのか。高成長を持続するための条件や、それを阻む障壁について、ポイントを整理しておきたい。
アップルもグーグルも売上は過去最高だが…
今回、GAFAの動向を象徴する存在として注目されたのは、アップルだ。
同社は昨年11月、主力製品であるiPhoneの発売10周年を記念して「iPhoneX」を市場に投入した。当初の品薄状況に続いて、新たな懸念材料として噂されたのが、今年1〜3月期の生産計画の縮小観測である。情報の発信源は、どうやら日本、韓国、台湾などの部品メーカーの一部だったらしい。そうした企業の個別分野の不振が拡大解釈され、iPhoneの販売不振として伝えられたようだ。
結果を見ると、アップルが2月1日に発表した2017年10〜12月期決算は、売上高が前年同期比13%増の882億9300万ドル(約9兆6503億円)と四半期ベースの過去最高を記録した。同期間中のiPhoneの販売台数は、前年同期比1%減の7731万6000台程度とほぼ横ばい。が、日本でも販売価格が10万円を超えることで話題になったiPhoneXの売れ行きが好調で、「私達の期待を上回った」(ティム・クックCEO)ことから、収益がふくらんだ。
アップルのティム・クックCEO(中央) photo by gettyimages
そんな好決算にもかかわらず、アップル株は翌2日に反落して前日比7.28ドル安の160.50ドルで取引を終えた。下落率はマイナス4.3%に達し、ダウ平均の下落率(マイナス2.5%)を大きく上回った。アナリストのあいだでは、期待が大きかっただけに、iPhone全体の販売鈍化が問題視されて、今後の投資判断や目標株価の引き下げが相次いだため、株価の下げ要因になったと分析する向きが多かった。
こうした傾向は、アップルと同じ1日に決算発表した、グーグルの持ち株会社であるアルファベットにもみられる。ネット広告やクラウドの事業が好調で、売上高は24%増と大幅な増収。アップルと同様に、過去最大の売上高を記録した。
しかし、研究開発費の増加という重荷があり、1株当たりの利益が事前の市場予想を下回り、2日の株価は5.3%安となった。今期はしのいだものの、持続的な成長性という疑問符を打ち消すには至らなかったと断じてよいだろう。
経済産業省も「ビッグデータ寡占」を問題視
ユーザー企業から顧客の個人情報を吸い上げ、巨大なビッグデータを持つ桁違いのサイズのプラットフォーマーとして、GAFAはこれまでも各国の独禁当局から厳しい視線を向けられてきた。
経済産業省が2016年9月にまとめた「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会」報告書も、そうした視線の現れだ。グーグルとアップルの2社がスマホのOS市場を寡占しているだけでなく、アプリをそれぞれが運営するアプリストアからしか入手できないようにしたうえで、両社を経由しない決済手段を禁じたり、アプリ価格の自由な設定を禁じたり、顧客からのクレーム情報のフィードバックを制約していることを問題だと指摘した。
また、 IoTとAIを使ったビッグデータの収集や蓄積・解析が、あらゆる産業のビジネスモデルを再構築するカギとなる「第四次産業革命」の本格的な到来が予想されるなかだけに、GAFAがスマホなどを通じて収集してクラウドに蓄積しているビッグデータを囲い込んで自社だけで活用している現状が大きな問題であり、クラウドのユーザーなど他企業も同条件で機動的に活用できる環境を整える必要があると論じている。
GAFAに対する警戒、監視の視線は、今後も厳しさを増すだろう。スマホや検索機能、SNS、ネット通販を通じて情報を収集・分析し、顧客の属性・し好に応じた内容の広告を提供することで、GAFAの収益の大黒柱となっている広告ビジネスのあり方も、そうした潮流と無縁ではない。ここへきて、ファイクニュースやネット詐欺といった問題が一段とクローズアップされているからだ。
フェイスブックとアマゾンの「懸念」
他の3社より1日早い1月31日に、2017年10〜12月期決算を発表したフェイスブックも、売上高が前年同期比47%増の129億7200万ドルと、他社と同様に四半期ベースで過去最高の決算を記録した。
しかし、その一方で、フェイクニュースの拡散を助長してトランプ大統領の当選を手助けしたとの批判に対し、以前は「馬鹿げている」と無視を決め込んでいたマーク・ザッカーバーグCEOは、その姿勢の転換を余儀なくされてきた。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO photo by gettyimages
まず昨年9月、前言を「後悔している」と修正したのに続き、同11月にはフェイクニュース対策として審査スタッフの増強を打ち出した。今年1月には報道機関に独自の格付けをして、格付けの高い機関のニュースの掲載を優先する方針を表明。さらに、詐欺的行為が多いとされる仮想通貨を使った資金調達(ICO)の広告については、内容が違法か合法かを問わず全面的な掲載禁止措置を掲げる事態に至っている。
ところが、一連の対応と合わせて、やらせや公衆の閲覧にそぐわないコンテンツが掲載されがちな動画の表示を減らした結果、北米の17年末のユーザー数が3か月前に比べて70万人も減少したという。フェイスブックは「一時的な現象に過ぎない」と強気の見通しを示しているが、利用者の減少は初めてのこと。今後、恒常化しかねないとの見方もあるという。
また、EC(電子商取引)界の巨人アマゾン・ドット・コムも、2017年10〜12月期決算で、前年同期比38%増の604億5300万ドルの売上高を確保、過去最高を更新した。だが、アマゾン・ジャパンは、配達を依頼した荷物の急増が一因で、宅配大手のヤマト運輸が巨額の残業代不払いを引き起こしたため、ヤマトの手数料引き上げに応じざるを得なかった。
最近、アマゾン・ジャパンのサイト上では、従来通り売り物の「即日配達」を謳いながら、実際に発注すると即日配達されないケースが目立っているとの指摘もある。コストの押し上げ要因として、世界各地でヤマトのようなケースが多発してもおかしくないだろう。
アマゾンが銀行業を「支配」する
変化の波に乗り遅れてスマホ向けのOSやCPUでPC向けのような高いシェアを獲得できずに勢いを失ったマイクロソフトやインテルと違い、GAFAはスマホに続くビジネス分野の開拓に貪欲で、いままでのところ、新たな陣取り合戦を有利に進めているように見える。
たとえば、アップル、グーグル、アマゾンは、AI分野のパイロット商品と言える高性能のスマート・スピーカーで競っている。グーグルは130年ぶりの大変革期に入った自動車分野に進出、自動運転のOS作りの先頭ランナーの一角としても、存在感を誇示している。
今年完成したアマゾンのワークスペース「スフィア」を案内するジェフ・ベゾスCEO photo by gettyimages
また、アマゾンはネット通販の枠を超えて、ユーザー企業がインターネットを介して独自にビッグデータをサーバーに蓄積、解析して活用するのを手助けするクラウド事業の育成に余念がない。日本でも昨年1月、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、情報系の社内システムについてアマゾンのクラウド方式に切り替える契約を結んだ。
この分野をドル箱にしてきた日本のITベンダー各社に激震が走った。決め手は、コストを大幅に削減できることだった。そのからくりは、アマゾンを介して、すでにクラウドを利用している地方銀行などとのあいだで基幹システムの開発、維持費用をシェアすることに他ならない。
将来、銀行各行がアマゾンのEC網上で金融サービスを提供し始めたら、そしてその際にネット広告でクラウド顧客である銀行のサービス広告を絡め始めたら、大きな転機が訪れるのではないだろうか。
値引きやサービス改善に関するアマゾンの要求に応えられないと、その銀行の広告がほとんど利用者の目に触れることがなくなる可能性もある。
そうなれば、アマゾンは単なるクラウド上のシステムを提供する事業者から、広告を使ってクラウドのユーザーである銀行各行を支配する特別な存在になりかねない。アマゾンのEC上でモノを販売した経験のある多くの消費財メーカーがすでに経験したことである。
ビッグデータの「囲い込み」がカギ
裏返せば、ウーバーがクルマのライドシェア・システムで一般のドライバーまで囲い込み、結果的にタクシー業界全般を支配する力を持つようになったのと同じような形で、GAFAがさまざまな分野で第四次産業革命を起こせるか否かが、GAFAの企業としてのライフサイクルを左右することになるだろう。
GAFAがそれぞれの分野で引き続き消費者に魅力ある製品やサービスを提供できるかどうかは、NY株相場の急落が示すように、喫緊の課題である。たとえば、成長性に陰りが出てきたときに、スマホに代わるウェアラブル端末のようなものを投入して、その市場で現在のような支配的な地位を確保する動きがそれに当たる。
そして、紆余曲折はあっても、GAFAは数多の課題を克服し、そうした製品を提供していく力を備えているとみて間違いない。
高い成長性を維持できるかどうかは、スマホベースでこれまでも行ってきたように、ユーザー企業から十分なビッグデータの提供を受けて蓄積し、囲い込み、独自の経営・営業情報として解析して利用し続けられるかどうかにかかってくる。そして、GAFAが引き続き、新たな市場で、競争力、支配力、影響力を維持できるかどうかも、そこにかかっている。
クルマひとつを例にとってみても、トヨタ自動車のように、プラットフォーマーの座を狙う企業は非常に多いし、そうした企業は強い力も持っている。それらの企業がやすやすとGAFAによるビッグデータの収集、蓄積、解析に応じるとは考えにくい。
GAFAが今後、長期間にわたって第四次産業革命の盟主として君臨していけるかどうかは、その一点を突き破れるかどうかにかかっていると思われる。